ダッチ・エクスペリエンス

オランダ・コーヒーショップの30年
ノル・ファン・シャイク著

●オランダのコーヒーショップといえばアムステルダムを思い浮かべる人が多いだろう。200軒ものコーヒーショップがあるといわれどこにいっても目に入ってくる。だが観光客相手に派手さを競って営業しているところも多く地道な感じは余りしない。確かにカナビス文化の華なのだが、それだけにかえってオランダ社会の本当の姿を知ることは難しい。

しかし、アムステルダムからたった西へ16キロ行ったところには全く別の世界が息づいている。ハーレムというこの街は、都市人口ではオランダでは13番目でコーヒーショップも16軒しかないというから決して大きいわけでもなくローカルとも言ってもよいくらいなのだが、こここそ別名ヘンプ・シティとも称されオランダ・コーヒーショップ文化のモデルとされているところなのだ。

ハーレムでは、カナビスをどのように地域社会に受け入れたらよいのか、市議会、警察、コーヒーショップ・オーナーが三位一体で協議を繰り返し、すべての関係者が受け入れ可能なシステムを作り上げてきた。コーヒーショップ・オーナーたちは、AHOJG基準といわれるカナビスの販売制限を受け容れ、ひきかえに当局側はショップ運営の制限を緩和した。


●こうした妥協が可能だったのは、あえて言えば観光客が少なく観光収入源に惑わされることなく地域の運営システムだけに集中できたからでもあった。このために、観光客で溢れることなどない大半に地方都市や町では大都市のやり方は模範にならなくても、このハーレムのモデルならほとんどどこにでも適用可能なのだ。ハーレム・モデルこそオランダが自身の経験から得たコーヒーショップの模範なのだ。 ちなみに、AHOJG基準とは次の頭文字をとったものだ。
A:ソフトドラッグ販売の広告禁止。
H:店でのハードドラッグ(アルコールも含む)の禁止。販売も個人使用も禁止。
O:迷惑禁止。NO暴力。NO武器。NO盗品。
J:JはYの意味で、18才未満の入場禁止。
G:多量販売の禁止。1日1人5グラムまで。
この規制に違反すると一回ごとにイエロー・カードが発行され、3枚で店は閉鎖されることになっている。実際には、コーヒーショップでは酒場のような暴力沙汰などなくほとんど発行されることはないという。またマフィアの入り込む余地ができないように、このシステムの運営の前提として店の出店密度は人口1万人に1軒という目安が設けられている。

●ハーレム・モデルの作成にコーヒーショップ側から最も積極的に発言してきたのが、ハーレムに3軒のコーヒーショップを持つウイリー・ウォーテル・グループのノル・ファン・シャイクだ。彼の活動は非常に啓蒙的で新しい挑戦に満ちている。2001年には、イギリスの活動家コリン・デビスとともにイギリスで最初のコーヒーショップをマンチェスターのストックポートに開いたり、将来のコーヒーショップ起業家向けのビジネス講習会を開設したりしている。

また、オランダでコーヒーショップが誕生してからの歴史をまとめた『ダッチ・エクスペリエンス』という本を書いている。この本は他に類例なないほど多くのことを教えてくれる。ハーレム・モデルがどのようにして出来上がってきたかはもちろんのこと、シンセミラ栽培がオランダに広まったいきさつ、医療マリファナ、メディウイードの取組み、イギリス出店の展開からカナビジネス講習会など様々なオランダの経験が語られている。

さらに、HempCity というウェッブ・サイトでは、店の紹介の他にも、新聞記事の論評や旅行記、イベントの記録などを膨大な写真とビデオを駆使していろいろなことを掲載している。『ダッチ・エクスペリエンス』と合わせると、コーヒーショップの真実の実態をいっそう深く実感することができる。