オランダがドラッグ法を緩和してから24年。アムステルダムはポット・スモーカーたちのテーマパークとなった。近郊のハーレムではオランダのヘンプ文化めぐってどう受け入れるべきか議論が続けられてきた。これらの街ではどのようにしてオランダの容認政策の限界を押し拡げてきたのだろうか?
アムステルダム
メキシコシティーのジーゼルの臭い、あるいはボンベイのカレーの芳香のようにビッグ・バッド(大きなつぼみ)ではマリファナの甘い香りがする。電車やトラムに乗り、石畳を通りと広場をさまよい、スキポール空港のメイン・コンコースを歩いているときでさえ感じる。
昨今では、ハイネケンのビール醸造所ツアーよりもコーヒーショップのツアーをする旅行者のほうが多いいようだ。コーヒーショップといってもカフェインのコーヒーではなくマリファナのほうだが。1919年のオランダ阿片法の改正からおよそ四半世紀。ウイードとハシシを販売できるコーヒーショップへの道はひろがってきた。ショップはカナビス販売のかたわら実際にコーヒーも提供しているので、名称は実よりもお上品な看板の役目を果たしている。
1976年の法改正の背景には、ソフトドラッグの普通のユーザーを、ヘロインやコカインやLSDなどのハードドラッグの売人から引き離す目的があった。ポットの所持は処罰の対象から外され使用は軽犯罪と見なされるようになった。法を自由化するに当たって議会が検討しなかった唯一のことは、スキポール空港にジョイントの広告搭を立てなかったことくらいしかない。
オランダの市や町はコーヒーショップを独自に規制することが認められた。一部では完全禁止というところもあったが、とりわけアムステルダムでは飲食店として政策に取り込んだこともあって、現在400軒以上のコーヒーショップがある。
コーヒーショップはコフ(咳)・ショップなどともよばれることもあるが、オランダ中に蔓延している。アムステルダムのは独特の症状をもっていて、ダム広場や赤線地区、ライツェ広場などに集団発生し、地元の人間よりツーリストに好んで感染する。外国から来た訪問者たちは週の休暇に目一杯刺激を求めようとして、ブルドッグやワーモスタート警察の隣りにあるヒル・ストリート・ブルースのような染まった場所でグレイトフル・デッド・ユーのファンたちがざわついているようなムードに浸るのだ。
ダッチ特有の控えめな物言いだったが、アムステルダムの顔役たちでさえ状況は手に余ると認めている。2年前に市のコーヒーショップの半数近くをハードドラッグ販売などの違反で閉鎖した後で、シェルト・パッジン市長はロンドン・サンディー・タイムスに 「ちょっと前進しただけで道は遠い」 と語っている。
ハーレム
だが西へ10マイル、石を投げたら届きそうなところにアムステルダム・サーカスとは違う世界がある。ハーレムだ。多くの人がこここそがコーヒーショップ・システムのモデルだと思っている。1994年、警察と市議会、地方検事それとコーヒーショップ・オーナーたちが類い希な協力で現在のローカル政策を作り上げた。当時のコーヒーショップの数は20軒だった。現在では16軒まで自然減少したが、1万人あたり1軒、つまり15軒を越えないように制限することを目標にしていた。
またコーヒーショップ・オーナーたちは、バーのお客に適用されている国のアルコール販売18禁規則と同様なポット販売量制限を受け容れ、ひきかえに当局側はショップ運営の制限を緩和した。
ハーレム警察部門25年のベテランでコーヒーショップ・オーナー側との主要なパイプ役のゲリット・シルバスは 「かってよりも状況はずっとよくなりました。前は犯罪者だらけだった。」と言う。
「ルールは無きに等しかった。たいていの警官は現状の政策を好むものです。酒場には多くの問題が起きていますが、コーヒーショップにはほとんど何もない。昨年は16軒全体で受け取った苦情は1件だけ。それも17才が店の1つに入っていたというものでした。」
あえて言えば、ツーリストが比較的に少なかったことがハーレムのコーヒーショップに貢献したのだ。アムステルダムの多くの店で見られるような大音響のロックミュージックやパーティー騒ぎ、低品質カナビスといった上わずったシーンと違い、ハーレムはずっと落ち着いている。
いくつかの店はアマチュアそのもの味を出している。ノリータという24才のカップルが始めたカクテルランジ風の店がそうだ。他に、国際感覚が溢れているのが駅のそばにあるフランツ・ハルスだ。大理石のカフェテーブル、歩道に面した大きな窓、カウンターで飲み物をつくる魅力的な女性・・・
かつてのハランツ・ハルス。現ウイリー・ウォーテル・サティバ
ノル・ファン・シャアイク
フランス・ハルスのオーナーは46才のノル・ファン・シャアイクだ。彼はハーレムにさらに2軒のコーヒーショップ(ウイリー・ウォテル・ワークショップ、ダッチ・ジョイント)とグローバル・ヘンプ・ミュージアムのオーナーだ。マリファナ殿堂入り殉教者の中でファン・シャイクはハーレムのドープ王であり、自らを不当行為からの逃亡者と称している。
大工でボディビルダーで密輸業者だったファン・シャイクは1989年にモロッコから200キロのハシシをオランダに持ち帰ろうとしてスペインとフランスの国境で逮捕された。だが、劇的に逃れてハーレムに戻ってくると「ノルに自由を」運動をしていた人たちから祝福された。オランダ政府は後に彼に対する引き渡し要求を拒否している。それ以来かれはフランスのお尋ね者だ。
ファン・シャイクは一日10本もジョイントを吸っているので長期的無気力状態になっていると思う人もいるかもしれない。しかし彼は精力的だし夢想的ですらある。彼の3軒の店とヘンプ・ミュージアムはオランダのカナビス文化の歴史に貢献し、若者たちにとってもとても親しみやすい。ウイリー・ウォーテルでは手軽なATMを操作する要領でポリ小袋に入ったポットも買うことができる。ローリング・ペイパーやパイプ?ギルダーコインで自動販売機にどうぞ、というわけだ。
ファン・シャイクはウェッブサイトでカナビス国際カナクイズ・コンテストを開催することを計画している。「勝者をハーレムに招待して現場に参加してもらう。一日ディーラーになってもらったり、ポットの栽培法を勉強したり、あるいはただぶらぶらしてもらうんだ。」
ハーレムの運河をボートでのんびりとコーヒーショップ巡りをするポットヘッド・クルーズなどのアイディアも持っている。「ウォーター・バイクを借りてショップからショップへ漕いでもらう」 とにこにこ言う。彼はまたストーンしたサッカー好きのためにチームを応援したりもしている。
ファン・シャイクのビジネス・プランは意外と堅実だ。彼のどの店でも、目を輝かせた美しい女性がコーヒー・バーを切り盛りしている。ディーラー・ブースは入り口のすぐのところにあり、店の手前のスペースにはテーブルがいっぱい並べられ、奧にはピンボールとプールテーブルが置いてある。
ファン・シャイクの店のドープは、ポットの大半がオランダ国内で違法栽培されたもので、ハシシは主に密輸されたものだが供給源が固定されておりマクドナルド流に均一で効率もよく配分も洗練されている。「今は35人を雇用しています。」 少し照れながら言っていた 「ハーレムで経済力が付いてきて4大地域それぞれに店を持てるようになって、どこを通ってもそのうちの店の一つが目に入ります。」
ドープ・ディーリング
ウイリー・ウォーテルのディーラー・ブースでは39才になるハンス・ゴーバスが様々な種類のポットを様々なお客さん相手に販売している。1グラムで2-3本のジョイントが作れるスカンク・ウイードで14ギルダー(約6ドル)、レッド・ヘヤーが12.5ギルダーだ。金が足りなければジョイント1本が5ギルダー(2ドル)以内で手に入る。
「ある人たちはともかく新鮮なものを好み、強いのや甘いのを好む人もいます。好みを教えてくれればどれを買ったらいいかアドバイスしています」 とハンスは言う。彼は15才のときからディーリングを始め21才で自分の店を持った。長い髪をポニーテールにまとめ腕まくりしたカジュアルシャツを着たストーン・ディーラーの趣きがあり、眠たげな人なつっこい表情を顔に宿している。
「人生の大半を違法な取引でやってきました。」 と言う 「でも犯罪だと思ったことはありません。本当に仕事が気に入っているんです。ここのすべてがゆったりしていてフレンドリーです。」
ハンス・ゴーバス。ドープ・ディーリングに生きる
バックドア問題
でも、ディーラーはどうやって商品を仕入れているのだろう? 単純な質問の答えは単純ではなかった。コーヒーショップへの供給側の卸しはとりあえず違法ではある。しかし、力学はうまく働いて黙認されている。「政府はここがグレーエリアで暗い穴であることを知っています。」 ファン・シャイクは言う 「しかしあえて手をつけずにいるんです。」
ハーレム警察のゲリット・シルバスもそれを認めている。「逮捕するだけなら裏口で待っているだけでできます。でも1回限りです。オーナーは別の住所に配達先をかえるだけです。裏口の寛容政策はシステムがうまく動かすためなのです。」
バックドア政策が難問だということは誰でも認めている。非犯罪化されるよりも前の1972年にアムステルダムに最初コーヒーショップ、メロー・イエローを設立し、現在もオランダのヘンプ文化に精力的に関わり続けているワーナード・ブリューニングも 「日常の現実からルールを導き出さねばなりません。歴史はないのです。新しい領域なのです」と語ってる。
まさに新しい領域。警察官ですら地元栽培されたネダーウイード・10ギルダー・パックとスナック、飲み物などを買いにコーヒーショップに立ち寄っている。 「私自身は職業上行くことはありますが、個人的には行きません。」 とシルバスは言う 「でも自分の時間に行く警察官もいます。行くなとは言えませんから。ですが制服でいくのは控えるようには言っています。」
マーセル・デッカー。ウイリー・ウォーテルのマネージャー
政治家はポットの法律を緩和し、警官も一服している。次はどうなる? マリファナ成金がフランチャイズでも始めるのか?
最もありそうなのが、オランダ以外の国々もハーレム・モデルを追随することだ。すでにヨーロッパのいくつかの国ではドラッグの法を緩めだしている。スイスはカナビス販売業者のライセンス制を考えているし、スペインでは少量のマリファナ所持や使用はもはや犯罪ではなくなっている。
コペンハーゲンの北、ヒッピーのユートピア、クリスチャニアではオランダと同様のポット容認政策を採っている。
大西洋のこちら側のバンクーバーは実質的に非犯罪化されコーヒーショップのコミュニティが育ってきている。
「ハーレムのシステムは理想的だ」 ブリューニングは言う 「オランダの別の地域の見本になっている。アムステルダムは大き過ぎて問題ばかりだ。でも、他の町には、コーヒーショップのオーナーと地域行政が皆の幸せを考えて真の民主主義を実行するチャンスがある。」
マーク・オーウエル記者