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第7章 順番表示機のあるコーヒーショップ、チェックポイント
●国境地帯のコーヒーショップ
前にも述べたようにオランダのコーヒーショップには地域的な違いがあり、大都市のコーヒーショップ、田舎のコーヒーショップ、そして国境地帯のコーヒーショップの三つのグループに大別できる。
ドイツとベルギー国境のコーヒーショップについて前の章でも若干触れたが、アーネムやナイメーヘン、フェンローはドイツ人スモーカーに、また、マーストリヒトはドイツ人スモーカーに加えてベルギーやフランスのスモーカーにもカナビスを提供してきた。しかし、最も典型的な国境カナビスショップといえばオランダ南西部ゼーランド州のテルヌーセンの例だろう。ベルギーから数十キロ、フランス北部の都市リールからは車で1時間半しか離れていない。
私は、1997年、カナビスの医療利用のアクショングループを立ち上げるためにゲール・デ・ズワンと一緒にテルヌーセンにあるチェックポイントというコーヒーショップを訪れることになった。われわれがマネージャのパトリック・マホニーにメディウイード・システムに加わってくれるように頼むと、話しを聞きたいと招待してくれたのだった。
テルヌーセン港
●チェックポイント
コーヒーショップ、チェックポイントは1973年、テルヌーセンの街の中心にハードロック・カフェ 「イメージ・クラブ」 として始まった。当初はビールと酒だけしか扱っていなかったが、お客はカナビスを吸いたがっていた。やがて1982年になってイメージ・クラブの一部として 「エンジェル」 を開店し、ゼーランド州の最初の公認ブローカフェになった。
しかし、その後、テルヌーセン市議会がタウンセンターの再開発を決めたのを機にイメージ・クラブとエンジェルは取り壊されることになった。
チェックポイントのスッタフたちは市議会と一緒に代替地を探して歩き、町の中心から離れたスヘルデ川の見える場所で合意した。川はベルギーのアントワープ港への入り口になっていて、道に面して大きな駐車場があった。強制立ち退きだったので市が引っ越しの費用と新しい内装にかかる費用を相応に負担してくれた。
チェックポイントの目と鼻の先には 「マイアミ」 という同業のコーヒーショップもあるが、双方ともヨーロッパ中からたくさんのお客さんがやってくる。カナビスのメニューも豊富で値段も公正だ。彼らはまたカナビス入りでオランダ・スぺシャルタッチのスペース・クッキー 「スペースクラス」 やハイ・ホットチョコレートなども売っている。
評判のハイ・チョコレート
●国境の税関
国境地帯の店の場合、隣国では禁止されていて入手困難でしかも需要が大きいものを扱えばいろいろなアドバンテージがある。
チェックポイントもマイアミもとても繁盛していて、毎日毎週1年365日、グラスやハシシを買うお客さんが列をなしている。
反対に、国境地帯でカナビスを売ることの不利な面は警察や税関などの監視が強く、コーヒーショップは主に外国人客に対しては非常に神経質にならざるを得ないことだ。私は、ジョイントを吸いながらコーヒーを一杯飲んで一休みしていると、早速、税関のバンが外の駐車場の辺りをゆっくりとパトロールしていた。マネージャのパトリックにそれを教えると、ちらっと見て肩をすくめて外国人を牽制する毎日の仕事だと教えてくれた。
アイルランド出身のパトリックによると、税関も心を痛めているが理解できると言いいながらテルヌーセンの状況を説明してくれた。税関はフランスのナンバープレートを記録して、もしフランスの国境警備隊がリールやパリに向かうハイウエイで検問をしていることがわかると、カナビス密輸の犯罪人にされてしまう哀れな犠牲者が増えないように注意しているのだと言う。
しばらくすると税関はもっと過激になって、店の入口の前の歩道にバンを寄せて容疑者を収容するときに使うドアに向き合わせて駐車してきた。職務に忠実な係官は、お客さんを一人ずつバンの中に呼んでポケットを空にさせて、コーヒーショップから買うことのできるリミットの5グラム以上買っていないかチェックし始めた。
係官がお客たちともめているのに気付いたパトリックは階段を下りて行き、権限のないことまでやろうとしていたので出ていくように要求し、警察を呼ぶといってすぐに電話をダイヤルしはじめた。パトリックが警察に係官たちの振る舞いに苦情を言い終わる前に彼らは出ていった。コーヒーショップ政策の遂行は警察の権限なので、彼らには出ていくように要求したのだった。
●500グラムルール
テルヌーセンの警察はコーヒーショップの規制に関して法の維持に極めて厳格だ。とりわけ最高500グラムルールに対して厳しく、チェックポイントのスタッフたちの販売を円滑に行うのを難しくしていた。
チェックポイントでは2人のディーラーが働いていたが、途中一服したりコーヒーを口にする暇もなく、注文を計量器で計り袋に詰めて手渡すことを休みなく一定のペースでこなしていた。大変なプレッシャーだ。なかでも特に大変なのは20種類のハシシやグラスの在庫管理で、トータルで500グラム以下を維持しなければならないことだ。警察は計量器をもってランダムに検査しにくる。
2人のディーラーのほかにも2人が販売に関わっている。彼らは売れたカナビスの種類ごとに補給していた。各種類ごとに25グラムを目安にしていたが、通常のグラスで5人分しかなくたえず追加していなければならない。お客さんたちはフロントドアからカウンターまで行列をつくって待っているし、ときには2階でも待たなければならない。これが、補給されるのを待つお客さんを相手にする管理スタッフの大変なストレスになっていた。
●未成年ルール
一方、テルヌーセンのルールは16-17才の未成年たちには寛大で他の地域とは違っている。
オランダでは、普通、こうした未成年たちはコーヒーショップに入ること自体が禁止され、店もカナビスを売ったりすれば3回の違反で店を閉めなければならなくなる。テルヌーセン、特にチェックポイントではトリキーな中間的な解決策が採られている。私が知る限りでは他にこのようなところはない。
チェックポイントは1階がバー、2階がコーヒーショップになっている。バーといっても、カナビスよりもずっと危険で中毒になるアルコールは扱っていないので16-17才の若者でもここまでは入ることができる。18才以上の誰かが彼らのために2階に上がってグラスを買ってきて下で一緒にカナビスを吸っても法律には違反しない。この例外的なシステムは、路上であらゆるハードドラッグを売っているいかがわしい売人に子供たちを近づけないように機能していることは確かだ。
●順番待表示機
チェックポイントで目に付くもう一つのシステムは順番待表示機だ。誰でも順番が公平に回るように1998年からお目見えした。番号札を持ったお客さんは1階のバーで待っていて、表示機の番号が点灯したら2階へ上がっていく。
チェックポイントで最大かつ時間のかかる難題の一つが近年解決した。チェックポイントでは年間を通じてオランダ、フランス、ベルギーの人々が、夏期にはイギリスやドイツからもゼーランドのキャンプ地めがけて人が押し寄せる。このことでコーヒーショップでは5種類の通貨を扱わなければならず、レートや重量を計算するのはイライラさせられる仕事だった。
だが、単一通貨ユーロが導入されたことで全体を一つの大きな集団として対応できるようになって仕事は大変楽になった。悩みの種としては夏期のイギリス通貨ポンドだけが残っている。
●茶番の500グラム・ルール
1999年のあるときパトリックは、すぐ隣にある仲間の店のマイアミが2週間の閉鎖措置を食らってチェックポイントも今たいへんな混乱状態だ、と電話してきた。
マイアミのオーナーが店の近くに停めた車のトランクから商品を補充しようとしていたら在庫過剰で逮捕されたという。
警察はトランクと店の合計で重量を計算したのだ。おかげでスタッフの一部が過労で休んでしまって、順番を待ちきれない多量のお客さんがいらついて対応できなくなっていると、パトリックは話していた。
500グラム・ルールは茶番だ。とりわけテルヌーセンでは2軒のコーヒーショップだけで一日数キロも売っている。500グラムを売るのに2時間しかからない。その間100人のお客さんを相手にしているのだ。どうみても、手間と時間ばかりかかって無駄のように思える。在庫を増やせればもっと多くのお客さんに対応できるし、市も税金をもっと多く取れるはずだが。
●ソフトドラッグのスーパーストア
以前のチェックポイントのビルは2000年に取り壊されて今の場所に引っ越してきたが、新しい店は12個の大きな海洋コンテナを積み上げてできている。安っぽいと思うかもしれないが、実際にみれば驚くに違いない。
カフェとコーヒーショップは以前と同じように一緒になって残っているが、建物にはユニークな施設が加わっている。屋上には、75席のルーフテラスと透明なガラスで囲って亜熱帯の装飾を施した25席の部屋があって、お客さんは雄大な風景を楽しみながらカナビスを吸えるようになっている。
チェックポイントはいろいろな国籍の人を相手にしたソフトドラッグのスーパーストアだ。メディウイード・システムにも参加し、医療目的でカナビスを使うオランダやベルギーさらにフランスの一部の人たちの役に立っている。バポライザーも利用できるのでもっとも信頼のおける方法でカナビスを吸入することができる
しかし悲しいことに、ここがどんなによくてもチェックポイントはもう一度は引っ越さなければならないことになっている。市側が約束を守って、広い駐車場の反対側にある新しいビルに移るのが最後になって欲しいと願っているが、いづれにしてもチェックポイントは続いていくだろう。テルヌーセンは行政ともいい関係があるので、制約があるとはいえコーヒーショップが日常生活の一部に根付いているのがわかる。
たぶん変わらないのが順番表示器だ。品質さえ守っていれば、チェックポイントはますます人を惹きつけるだろう。誰でも2,3服すれば待っていた行列のことなどすぐに忘れてしまうから苦にもならない。パトラックは2000年にアイルランドに戻った。店を切り盛りする絶え間のないプレッシャーに耐えられなくなって、家族過ごせるもっとゆったりした職業を選んだ。
●国境の渋滞問題
ドイツ国境地帯の町はカナビス・ツーリストのさまざまな問題を抱えている。フェンローのようなところではドイツの「キッファー」たちの絶え間のない通行で一日中渋滞になり住民をイライラさせている。こうした問題を解決するために廃墟になっている国境の検問所をドライブイン・コーヒーショップに使うことが提案されている。こうすればドイツのスモーカーたちは町中を通る必要がなくなる。
私はドイツがこのようなセンスを見せてほしいと思う。カナビスや店には自体には問題はなく、交通量だけが町の問題を引き起こしているのだから実現すればフェンローの人たちも解放される。だが、最も良い解決はドイツもコーヒーショップを認めることだ。そうすればフェンローの町はさらに穏やかになるだろう。
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