ダッチ
エクスペリエンス
表紙
謝辞
はじめに ジャン・セネマ
献辞
序  オランダとカナビス
1 オランダ寛容政策の幕開け
2 ハシシ25ギルダーください
3 ハシシがビジネスに
4 シンセミラ・ゲリラ
5 コーヒーショップのバックドア
6 田舎のコーヒーショップ
7 国境のコーヒーショップ
8 ハーレム・モデルの誕生と働き
9 医療カナビス・メディウイード
10 ベルギー進出と挫折
11 コリン・デビス対イギリス政府
12 コーヒーショップ・カレッジ
13 アメリカからの眺め
14 道化師登場、禁止論者たち
15 ダッチ・システムは欺瞞か?
16 コーヒーショップ誕生30年
地図
参考資料
インターネット・サイト・アドレス
著者について ピート・ブラディ
訳者あとがき
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第15章 ダッチ・システム、作り話か欺瞞か、事実か統計か?
●メリーゴーランド
これまでカナビス産業の内実をいくつか見てきたが、実際には氷山の一角に過ぎず全体のほんの一部でしかない。オランダの公認コーヒーショップで規制の上で行われている販売は見える部分だが、ソフトドラッグの供給者と生産者はオランダにでも今だ法的には起訴される可能性が残されており、そこは見えない部分になっている。
オランダのカナビスの生産、卸、小売、消費、というサークルは一見して単純でスムーズに動いているように見えるが、実状はメリーゴーランドのようにふらつきながら回っている。多量のハシシやウイードをいくつもの棚や場所に隠して商売をしていた時代が過ぎた今日でも、その実態は何ら変わっていない。
●カナビスは社会的害を起こさない
この本では、社会に対してカナビスが面倒を起こさないように注意しながら、それを育てジョイントを吸えるようにしてきた人たちについて書いてきた。その上であらためてすべての報告や統計に目を通して見ると、この10年間はカナビスに関係する事故や死傷者が全くないという事実には注目せざるを得ない。誰かがカナビスを乱用して死亡したなどという最悪な話だけではなく、車で大事故を起こしたというようなレベルの話ですら起こっていない。
私がとても困惑するのは、アルコールを飲んだりアルコール製造業に従事したりしている人たちが致死性の製品を提供したり持ち運んだりしてもよいというように社会がなっていることなのだ。
私は車で通りを横断しようとするとき週にいつも2度ほど待たされるが、それは何百ものコンテナや箱に入ったアルコール飲料を酒屋に荷下ろしするためなのだ。私のコーヒーショップでは交通を妨げたりしない。荷下ろしや空箱の回収に30分も必要としない。こうしたことも含めて、アルコールを運ぶ運転手は自分の仕事が人々の大多数にとって少しずつ害毒をもたらしているとは思っていない。
そればかりか運転手や彼の雇用主も製造業者も小売店も起訴や罰則を受ける恐れは全然ない。それなのにアルコールに関連する事故が起こればその処理に税金が使われているのは納得できないではないか。
カナビスがアルコールよりも身体的な害が少ないという事実は別にしても、あちこちの酒場で起こっている喧嘩や乱闘の怪我などのような間接的な損害さえカナビスにはない。カナビス使用者は例え吸い過ぎても暴力的になるようなことはなく、反対に、カナビスの使用者たちは平等の雰囲気の中で心を解放し合い防御姿勢を崩してお互いに交流するようになる。
アルコールとカナビスを使用する二大グループ間には、社会的行動様式や影響力に極めて大きなの相違がある。たとえ最も熱狂的なカナビス禁止論者でさえその事実を無視することはむずかしい。それでもあえて無視しようとしているのだが。
●価値ある?研究
問題は、反カナビス・ロビーはインターネットはもとよりあらゆるメディアに際限なく接触できるため、その言い分は万人に伝えられ、例え反カナビスの説教に興味など全然ない視聴者でさえ洗脳されてしまうことなのだ。何百回も見せられていると、この話題に対する一方サイドだけの情報が一般大衆に蓄積するようになる。
話題がカナビスのことになると、明らかに市民たちは禁止論者側から与えられた1つの情報源に頼らざるを得なくなる。市民がカナビス論議を途中で打ち切ろうとするようなことがあれば、それは、禁止論者の吹き込んだ知識、つまり研究者やドラッグ顧問たちが政府に提供した強制的な嘘しか思い出しようがないからなのだ。
禁止論者たちが作り上げた数字や報告書、統計や計画は時間と金の浪費で無駄使いをしているだけなのだ。次に見るように、「価値ある」 と称する彼らの研究や調査の大半が実は何もやっていない。
●ドラッグ使用が急拡大?
ここでいくつかの数字を取り上げるが、どの報告や研究を見てもそれぞれ異なった調査や聞取調査を行って異なった結論を出し合って、全体がいかに混乱しているかが分かるだけだ。
では最初にオランダ最大の日刊紙テレグラフで最近表紙に掲載された 「ドラッグ使用が急拡大」 と題する記事から見てみよう。記事ではユトレヒトのトリンボス研究所の調査の数字が掲載されている。報告書は国際保健機構に協力して行った高校生の薬物使用についての調査をもとに作成されている。
報告書の数字ではカナビスの 「つき合い」 使用は15.6%から17%へ上昇している。 また、カナビス使用者数は1997年の326,000から2001年には408,000人に上昇している。調査は12才以上のオランダ国民を対象にしたものでハシシやマリファナを常用している人の数である。 トリンボスはまた、コーヒーショップの数は減少して合計で805件になっていると指摘しているが、この数字は最近のインターバル紙の数字と同じなのでたぶん正しい。
オランダの人口は1600万人に対してトリンボスが見積で17%ということは・・・
16,000,000 : 100 = 160,000 = 1% * 17 = 2,720,000 で、272万人が友達に「つき合」ってカナビス吸っているということか?
しかし、408,000人のカナビス・スモーカーがいるこいうことは・・・
408,000 : 160,000 (1 % 人口) = 2.55% で、オランダ国民の2.55%がカナビスを常用していることになる?
これ以上はやめておくが彼らは完全に間違っている。でも、あえて言えば、とりわけ外国のメディア受けするような数字にはなっている。 乱暴に平均をとって(17%+2.5%)/2=9.75%とすると少しは現実に近いかもしれない。 もっとも、これは私が正しい数字を持っているわけではないが、私ならもっと違った方法で、例えばリズラに電話するなどしてジョイント・ペーパーの販売の動向を聞いて調べるだろう。
●オランダのカナビス使用は13位
別の最近の刊行物としては国連がヨーロッパ23ヶ国のドラッグ使用を調査した 「世界違法薬物傾向便覧2002」 があるが、その中でオランダのカナビス使用率は4.1%だと述べている。
ヨーロッパ・カナビス・スモーカー部門ではアイスランドとイギリスがカナビスの消費率が最も高い。 「この数字にはびっくりしています。イギリスと共にわれわれがドラッグ使用で一番だとは。アルコールに匹敵する大問題です。」 とロビーグループの反薬物ヨーロッパ(Eurad)のグラニー・ケニーは驚いている。
さらに驚くべきことに、ヨーロッパのドラッグ首都といわれるオランダは、カナビス部門では13位(4.1%)、エクスタシー部門5位(0.8%)、ヘロイン部門17位(0.2%)に過ぎない。
同報告書ではまた、世界全体では、カナビスの使用者は1億4700万人、アンフェタミン3300万人、エクスタシー700万人、コカイン1300万人、ヘロイン900万人を含むアヘン系1300万人、となっている。 この中で私が断言できることは、1億4700万の人々は何も悪くはない!
●ゲートウエイ論
もう一つの重要な問題で、禁止論者たちがカナビスとカナビス使用者を攻撃するときに好んで持ち出す 「踏み石論」「ゲートウエイ論」 について簡単に検証してみよう。彼らは、カナビスがハードドラッグ使用の第一歩になり、カナビス・ユーザーたちは徐々に 「問題のあるドラッグ・ユーザー」 つまりジャンキーになっていくと主張する。
もしこの理論が正しければオランダは、ハードドラッグに向かうゲートウエイが30年間大きく開いていたので現在ではジャンキーで溢れ返っていることになる。事実は全く反対で、禁止論の予言者たちの何百万という予測とは似てもに似つかぬ22000人のジャンキーがいるだけだ。
確かにオランダではリンゴ酒やビールは強い酒のゲートウエイに成り得る。若者は16才になれば酒場に出入りし18才にならなくてもワインやビールを注文できる。その2年間の間に他の人がウイスキーなどを飲むのを見ているので、たいていは18才前に始めようとして、大人に取り上げられたりバーテンにID提示を求められたりしている。
イギリスでは幼児をパブに連れていくのは普通のことで、子供たちは小さいときから酔っぱらいに囲まれている。彼らの目や心にはそれがノーマルだと写る。家族と一緒の「安全」な環境のなかで酒飲みの習慣を身につけ、その結果大きなアルコール問題を引き起こしている。
●5.4%が大半?
例え現在オランダでジャンキーとしと登録されている人たちの最初に使い始めたドラッグがカナビスだったとしても、もともとジャンキーの大部分は他のヨーロッパ諸国からやって来た人たちだ。このことは、オランダのカナビス使用者数に比較すれば、生粋のオランダ出身のハードドラッグ・ユーザー数は非常に低いことを示している。
私はそうは思っていないが、仮にトリンボス研究所の数字が正しいとして計算してみよう。 オランダには約408000人のカナビス・ユーザーと22000人のジャンキーがいるわけだから、
408,000 : 100 = 4080 = 1%
22,000 : 4080 = 5.4%
で、カナビス・ユーザーとジャンキーの比率は5.4%になる。 この数字は、カナビス・ユーザーのほとんどがハードドラッグ・ユーザーになるというゲートウエイおとぎ話とは全くかけ離れた 「問題のあるドラッグ・ユーザー」 数でしかない。
●踏み石論・ゲートウエイ論の欺瞞
「ゲートウエイ理論」 も 「踏み石論」 のどちらも、このようなナンセンスを作り上げるために高給を取っている人たちによって作らているので、たとえ間違っていると知っていても自分のローンの支払いと休暇のために看板を下ろすわけにはいかないのだ。
コーヒーショップではカナビスしか販売していないので、「ハード」なものが欲しければユーザーは表に出ていってハードドラッグのディーラーを自分で探さなければならない。確かに、他の国では伝統的に一人の売人があらゆるドラッグを扱っているので、ゲートウエイは常に開かれ引き込む準備が整っている。
売人はヘロインとコカインはたいてい同じポケットに入れていて、LSDやエクスタシー、スピードも別にきちんとストックしているが、カナビスは少ししか持っていない。そうしておいてディーラーは、カナビスは品切れだからクラックやスピードはどう? それとも他を探す? と持ちかけるのだ。ユーザーは他のドラッグに手を出す。かくしてゲートウエイの最初の石に踏み出すことになる。
犯罪にまみれたハードドラッグ市場からソフトドラッグを切り離し、カナビスを規制しながら供給するシステムだけが踏み石を消すことができる。数字のための数字、議論のための議論は人の命の無駄使いだ。
オランダのコーヒーショップ・システムは害を削減するための究極の形態だ。コーヒーショップは社会に害をもたらさない。害のあるハードドラッグに移行することを妨げ、その結果、コーヒーショップ・システムは人々を長い刑務所暮らしという災難に陥らなくてもすむように機能している。
カナビスの栽培と使用を社会が受け入れられて全世界で徐々に合法化されて行くことは必然の流れだ。私は、他の国の政府もドラッグの悪法が社会を害している事実をオランダのように早く気付くことを望んでいる。
世界の指導者たちはTNTのような緊張した心を持つのはよいが、たまには、彼らが無感覚で無気力になると称するTHCで心をリラックスさせてはどうか。
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