●coffeeshop シール
アムステルダム市は、容認したコーヒーショップがソフトドラッグ販売の税金を払うと窓に貼る認可シールを発行することに決めた。ノー・税金、ノー・許可。このシステムの導入に際して、当時のアムステルダム市長パティジンはこのシールを「パティジン認定」と冗談をいっていた。
市は、市議会がカナビスの販売を認めた約350軒に白と緑地に文字で「coffeeshop」と書かれたステッカーを発行した。コーヒーとアップルパイだけを売っている本来のコーヒーショップのオーナーたちは名前を変えることを望んでいたが、コーヒーショップという名前はそのまま残った。ソフトショップやカナビストロという代替名も検討されたが、カナビストロという名前はすでにグラス店のオーナー、サイモン・ウイットマンが商標登録していた。1996年に彼が急死したために市はこの名前を使うことに同意を得ることが出来なかった。
ステッカーは小さな前進ではあったが、銀行や保険会社から認知されるのには余り役に立たなかった。コーヒーショップは相変わらず銀行口座の開設やビジネス保険は拒否されていた。
あるコーヒーショップ・オーナーが大手保険会社のナショナル・ネーデルランドに受け入れを拒否されたときの説明は 「金銭的なリスクではなく道徳的リスク」 だった。オランダをカナビジネスが始まってから25年経っていたが、今だコーヒーショップの経営は楽にはほど遠かった。業界はまた次の機会を待つしかなかった。またこの年は、ビジネスを始めて25年目のワーナードのポジトロニクスが破産した悲しい年でもあった。
●オランダ・コーヒーショップの見えざるバックドア
バックドアは今日でさえグレーエリアのままだ。コーヒーショップのオーナーは三つの異なったモードで行動しなければならない。サプライヤーから数キロのハシシを買う1分間は犯罪モード、次の瞬間には役人に対しては職務モード、キッズフェースの客が入ってきたときは年齢確認でIDをチェックするモード、という具合。お客が若すぎるときには警備員にもならなければならない。良質のカナビスの入手先としてふさわしくない路上で買わざるを得ない若者に対して憎まれ役を買って出なければならない。
賢いコーヒーショップの経営者は、店の望む方法で上質の商品を恒常的に確保するために長年にわたり特定の栽培者と安定した関係を築いている。コーヒーショップはシンセミラ・メニューの種類を指定し、栽培者は注文された種類を注文された方法で育てる。栽培者は収穫の時期を指定されて2週間後に収穫物を届けに店に顔を出す。買主とジョイントを吸い、お金を集めていく。西オランダの種類は東オランダの店のものとは違っているので、遠く離れたコーヒーショップが仲間同士で種類を時々スワップすることもある。「ローカル」 な種類を交換しあうことでメニューを豊富にして常連を喜ばせるためだ。
こうした実態はカナビスショップにとって 「バックドア」 がさほど深刻な問題ではないことを示している。小中規模の栽培者はたいてい一人でやっているし、警察にしてもわずかばかりの植物を押収して時間を取られたくないのでわざわざ追跡しないからだ。
ただし、強烈な香りを発散するホワイトウイドウ・シンセミラなどで周囲を困らせたり、培養液を漏らして水で迷惑をかけたりしたときだけは警察も乗り出してくる。
カナビスのサプライ・チェーンを見てみれば、バックドアは栽培者と政府の間の問題でもある。法律によればクローンを作っている人たちも犯罪活動に荷担していることになり、逮捕されればトラブルに巻き込まれる。カナビス植物がどんなに小さくてもその植物はソフトドラッグをつくることを目的としているとみなされるからだ。カナビス栽培の処罰システムは次のようになっている。
1カ所で99本までは犯罪としては逮捕されない。しかし手入れを受けた場合は1本あたり35ユーロの罰金が科せられ、再び繰り返さないという宣誓を警察でしなけれなならない。繰り返すと罰金が上がる。99本以上の場合は一本当たり60ユーロで最大11000ユーロの罰金になる。当然、警察で供述書もとられる。
しかし、栽培者が電気料金を払っていないなどの問題がなければ、警察と栽培書の双方にとって大事にまで発展することはない。警察は本業に戻るだけだし、栽培者は押収された代替装置をグローショップに買いに行ってまた始めるだけだ。もっとも栽培者すら分からないこともある。ある時など、警察は工場跡地に3万本もの大栽培施設に遭遇したことがあったが、所有会社がその場所で計上も支払いも行われていない大規模な電力漏洩に気が付いたからだった。カナビスの植物と同様、カナビス栽培者を絶滅することはできない。
●家庭内栽培
ワーナードが金儲け栽培と言ってる大規模栽培の生産物はコーヒーショップを相手にしているわけではなく、供給が需要に追いつかない周辺の国々にトラックや乗用車で運ばれる。だが、ワーナードがかつて予測したように、そうした国でもやがて自給システムが整えられる日が来るだろう。彼にはカナビスの自由をミッションとするヒッピーの先見性がある。
オランダの屋根裏栽培室
現在ではあきらかに家庭内栽培のシンセミラが市場の大半を占めるようになっている。輸入ハシシですらオランダのカナビスと競争できるだけの品質を求められるようになってきている。栽培者の技術も向上し、装置も改良されている。コンピュータで制御されている栽培室もある。何か問題だ起こったときには電話回線を通じて栽培者に知らせてくれるので、その時に問題解決に出向く。
巨大栽培場に対する大がかりな家宅捜査もたびたびあるが、通り全体が手入れされたこともある。すべての住民がシンセミラを育てていたのだ。赤外線装置を積んだヘリコプターに察知されたのだが、新聞の写真にはホット・スポットの2本のラインが写っていた。
別の栽培室。自動溶液システムを使い、石綿のテーブルに「クローン」並べられている
●品薄シーズン
コーヒーショップは供給不足に悩まされるようなことはもうないが、毎年夏の終わりの時期にちょっとした危機が訪れる。その理由の一つは、ほとんどの栽培者が収穫を済ませて休暇にいって栽培を中断してしまうからだ。これで次の収穫はその分だけ先延ばしになる。8月中旬から品薄になり、ホリデーシーズンが終わる9週間後まで続く。
もう一つの理由は、オランダでは家庭栽培の大半が屋根下のロフトで行われているからだ。オランダの夏は3ヶ月ほどだが、ロフト内の気温を下げておくのが難しい。カナビスは室温が摂氏27度以上になると生育しにくくなり、品質が悪く軽量のものしか収穫できないのでコーヒーショップに売るには商品価値が低下してしまう。
さらなる最大の理由は、オランダを訪れる外国のカナビスファンが急増することだ。彼らはあたかも二度と吸えなくなるといった調子で吸いまくる。また好きなライフスタイルを少しでも長く続けようとして可能な限り多くカナビスを持ち帰ろうとする。このようにしてその時期のシンセミラの値段は急騰し1-2ヶ月後にはふたたび元に戻ることになる。
こうした3つの要因が重なって毎年8月中旬から9月の終わりまで品薄になる。コーヒーショップの常連のオランダ人たちは休暇から戻ると再び自由に吸えるようになって目一杯吸いたくなり、さらに外人カナツーリストの存在が品薄に拍車をかける。経験豊富なコーヒーショップのオーナーはこのことをすべて心得ている。必要量を確保するために3月から6月にかけて備蓄して8月末に干上がらないように備える。当然これにはリスクが伴うので、コーヒーショップは注意深く別の場所に隠す。友達などに頼み、タダの喫煙といくらかの金と引き替えに保管してもらったりする。
●カナビスの自給体制の確立
ワーナードとオールド・エドがオランダでシンセミラを育てて売り始めてから市場はゆっくりだが確実に変化してきた。小さなビニールハウスから始まって今ではオランダの家内産業といえるまでにビジネスは拡大した。オランダは他のヨーロッパ諸国にもこの流れを引き起こし、規制の有無に関わらずオーナーの決断で育成装置を売る店があちこちに出現した。機材は合法で課税されたもので、商品をうまく組み合わせればどれもシンセミラの栽培が可能だ。
カナビスは世界中で人気を獲得しつつある。今のオランダでは育成機器などには何のインパクトもないが、始まったばかりの国ではやはり大きな出来事に違いない。生産に伴って需要も増えていくのでそれを満たすためには何年もかかる。オランダで育成装置が拡大したことで最も賞賛すべきことは、コーヒーショップの主役がハシシやグラスから国産のネダーウイードに代わったことだ。
オランダで人気のハイブリッド、パワープラントと手入れの行き届いた畑
●シンセミラ発進。組織犯罪を駆逐
コーヒーショップはシンセミラの生産と取引が始まる以前は、100%近く輸入に依存していた。需要あれば供給ありで、数百にもなると犯罪組織にとってはコーヒーショップが最大のビジネスになっていた。今日ではオランダのカナビスショップ販売のおよそ75%が国内で生産された多様な種類のグラスになっている。残りは依然と輸入が続いているがもはや巨大な量ではなくなっている。
1990年以前、あるコーヒーショップのオーナーは密輸業者からハシシのサンプルの提供されてどのくらいの量が欲しいか尋ねられたとき、3000キロのストックを持っていると言われて仰天したこともあった。多くの大量密輸が摘発され、なかにはトンを越えるハシシもあったが、たぶんそれよりも見つからず安全な倉庫に荷が納まってハシシ・オフィスや売人たちに分配されていたもののほうが多かったに違いない。
しかしハシシ販売は減少してきた。それはシンセミラが入手しやすくなたことと関係している。もはやオランダはワーナードやオールド・エドの弟子たちによって多量のハシシ輸入が必要なくなってしまった。これはワーナードのヒッピー思想とオランダでシンセミラを生産しようとした決意がカナビス文化に多大なインパクトをもたらしたことを意味している。彼は膨大な後継者たちを育てオランダ中にシンセミラを拡げたが、いまではさらに地球上に拡大し続けている。
ワーナードの「緑軍」シンセミラ・ゲリラはオランダに家内栽培という文化を生んだが、それはまたドラッグ流通にからんだ犯罪の75%を減少させることにもなった。しかしながら政府はこのことに気付いていないように見える。それとも知らんぷりしているのだろうか。
オランダ政府と役人たちは、ハシシの卸ビジネスから派生する組織犯罪に対して仕事をしないで済むようになったのだから、ワーナードが始めたことを喜ぶべきであり、国中のシンセミラ・ゲリラたちに感謝を示すべきだろう。
にもかかわらず、オランダのカナビス文化がシンセミラの生産を拡大して 「バック・ドア」 問題を解消しているという本来の利益に目を向けようともしない彼らは、今だコーヒーショップは必要悪だと思っている。
初心者用の育成計画ポスターを掲げるオールド・エド
●カナビス政策に関するヨーロッパ都市カンファレンス
外国の指導者の中には自国のドラッグ問題が深刻化していてもオランダのリベラルなドラッグ政策に全く同調しない人もいる。しかしオランダ政府はそのような指導者にも耳を傾けオランダ・モデルの有効性を説得している。いずれにしてもハーグの政治家たちは、カナビス産業や生産者の状況を変えることに対しては何の役割も果たさなかったが、ドラッグの使用と乱用に対するダッチ・アプローチ政策を成功に導く役割は果たしてきたとはいえる。
オランダ司法省は、2001年12月6-8日ユトレヒトでカナビス政策に関するヨーロッパ都市カンファレンスを開催した。
フランスは出席しなかったが、40か国140人の代表が新教会に集まり、カナビスに対するオランダのやり方についてもっと知ろうとダッチ・モデルが議題になった。その様子はオランダの新聞に詳しく報じられた。モデルはうまく機能しているとみられたが、コーヒーショップの謎めいたバックドアについては説明が十分できなかったようだ。
EU諸国はカナビス政策を緩和へ
ヨーロッパ連合の各国のドラッグ政策は、その実施方法を別にすれば、思われているほどの違いはなかった。先週、EU諸国の専門家や当局者たちがオランダの中心都市ユトレヒトで会合し、カナビス政策に関するヨーロッパ都市カンファレンスを開催し意見を交換した。その最大の結論は、どのヨーロッパの都市も同じような問題を抱えているということだった。
誰でも思うように、会議がオランダで行われたのは当然だった。何をおいてもオランダはハシシやマリファナなどのソフトドラッグの非犯罪化をめざす法律を通過させていた。しかしドラッグをこれ以上合法化するというところまでには至っていない。寛容政策にも限界がある。オランダ司法省のドラッグ政策を担当するステバン・フォン・ホーグストラテンは次のように指摘している。
「たとえリスクの詳細は分からなくてもカナビスの使用にはリスクがあります。カナビスはオランダでも違法な物質であることには変わりありません。私たちはこの点について国際条約のなかで責務を負っています。」
コーヒーショップのグレーゾーン
しかしながらオランダではカナビスの使用は許され、厳しい制約のもとでコーヒーショップはソフトドラッグの販売を許可されている。そこには矛盾もある。店はカナビスを販売することは許されていても、一方では、ソフトドラッグの仕入れについては依然非合法のままだ。カナビスの取引や栽培も処罰対象のまま変わっていない。ステバン・フォン・ホーグストラテンも曖昧さがあることを認めている。
「私たちの政策の結果については好ましく評価されています。しかし政府の側から見ると状況は満足できるほど単純ではありません。一方で禁止してもう片方で容認しているのですから。これを説明するのは容易なことではありません。」
オランダが先頭ランナーであることには変わりはないが、他のヨーロッパの国も追い付こうとしている。ベルギーの連邦政府はソフトドラッグを合法化する法案を準備している。
これは北側の隣国のリベラルな政策に間接的な影響を受けたためだ。ベルギーの多くの若者たちはオランダ国境を越えてドラッグを買いに行っているが国では何の問題も起こしていない。
健康問題
フランスはオランダのリベラルなアプローチに対して猛烈に反対してきたが、今では厳格なドラッグの法律を緩和しだしている。近年、フランス政府はドラッグ関連の問題を中毒の防止と治療を重点にした「健康問題」として扱うようになってきた。
ポルトガルはオランダのさらに先を行こうとしている。7月にはソフトドラッグ、ハードドラッグの区別なく少量であればすべてのドラッグの使用を非犯罪化する法案を通過させた。リスボンのヨーロッパ薬物調査センターのダニラ・バロッタはポルトガルの新しい法律について次のように説明している。
「ドラッグの少量所持で捕まった人は犯罪者としは扱われませんが、行政措置を受けます。これはカナビスにもヘロインにも適用され少量であれば処罰は免れます。」
ドラッグ関連問題
EUのメンバー諸国の間には政策に違いがあり、ドラッグの無料配布からカナビス乱用の寛容政策まで多様な措置を生み出しているが、実質的にはどの国も犯罪率の上昇という側面からドラッグ関連の問題を扱っているのは同じだ。合法化を信じていないEU唯一の国がスエーデンだ。ゴセンベルグ市を代表するマルー・リンドルムは次のように説明している。
「1960年代、スエーデンはオランダよりも早く実際にドラッグにリベラルな政策を採用した最初の国です。カナビスだけを対象にしたわけではなく、中毒者にはハードドラッグの処方も認めました。その結果は惨憺たるものでした。大勢の人たちがドラッグを乱用するようになり、中毒者は爆発的に増えてしまったのです。」
スエーデンに従えばドラッグに対する現在の厳しい政策は変えられないことになるが、これがヨーロッパ共通のドラッグ政策の最大の障害になっている。しかし話し合いの余地も大いにある。次回のカンファレンスは2月にブルッセルで予定されている。
ラジオ・オランダ・ワールドモア。2001年12月7日。
●完全合法化に至るステップ
しかしながら、仮りに、オランダ司法省のスポークスマンでカンファレンスの主催側の当事者であるステバン・フォン・ホーグストラテンがオランダ国営テレビで発表した声明を信じるなら、オランダでカナビスを合法的に栽培できる日がくる希望の光はある。フォン・ホーグストラテンは、なぜオランダは最後のステップ、カナビスの完全合法化に踏み込まないのか、というベルギーのレポーターの質問を受けて、コーヒーショップに対し全面的に統制された供給を認めるまで至っていないことについて次のように答えている。
オランダはこれまで国連や多くのヨーロッパ諸国の批判と与えられた制約のなかで最大限にカナビス政策を拡張してきた、と前置きして、
「オランダはこれより先に進むことはできないのです。しかし他の国が同じようになればカナビスの完全合法化に至る次のステップに進むでしょう。」 この説明がこれまででもっとも論理的に聞こえる。これならコーヒショップのオーナー側でも受け入れられる。
フォン・ホーグストラテンは彼のプライドを抑えていた。インタビューに答えているときに、他の多くの国がもはやオランタを「麻薬の国」と考えなくなったという事実とフォローアップ可能なモデルになったことを喜んでいた。
●カナビスは社会の害ではなく社会の一部
いずれにしても、コーヒーショップと供給者はいつものように仕事を続けながら、以前とは少し違ってきたことを実感している。
今日では、供給業者が、ショップの気に入るような上質のハシシをトランクやスーツケース一杯に持って来ても、ショップのオーナーはたいして話込んだりせず、急かせるように「じゃあ、キロか半分でいいよ。いやなら持って帰って」といった調子で済ませてしまう。
オランダの輸入については何十年も非難の対象になってきたが、現在では荷物の流れは反対に周辺の国々に向かっている。もはやオランダは自分でカナビスを育てられるようになった。
オランダ国民はカナビスの使用を受け入れている。社会の害ではなく社会の一部になっている。
カナビスのメニュー。お客は好きなものを買うことができる