カナビス喫煙が

医薬品として認証される可能性はない



神話

1999年に全米医学研究所(IOM)は、カナビスとその成分であるカナビノイドの医療価値の可能性を評価した包括的な研究報告書を発表しているが、その中で、カナビス喫煙はいかなる疾患の治療にも推奨できず、カナビス喫煙が将来的に医薬品として認可される可能性はほとんどないと結論付けている。さらに、現在ではもっと効果的な医薬品が利用できるようになっている。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話 2-1

医薬品の安全性と有効性の決定に関しては、アメリカは世界でも最も高い基準と最も洗練された研究施設を持っており、われわれの医療システムは、一般の意見ではなく科学的な証明にもとづいている。科学的な研究のデータでは天然の植物の喫煙が安全で効果があると決定づけるものはない。
ホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)プレス・リリース 2006年4月21日)


事実

アメリカ政府はこれらの神話で、あたかもカナビスの摂取が喫煙によるしかないように思わせ、タバコ喫煙の害を連想させることによって、カナビスが医薬品として認められることはないと印象づけようとしている。

しかし、カナビスは必ずしも喫煙でなくても摂取できるばかりではなく、たとえ喫煙であってもタバコのような 肺癌・気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの深刻的な疾患を引き起こさない ことが示されている。

また、IOM報告 では喫煙による問題点に触れた後で、「癌の末期患者の場合は全く別で、喫煙による害はほとんと問題にならない。さまざまな医薬品を試しても痛みや吐き気が治まらずに衰弱していくような状態では、カナビスの喫煙によって得られる医療利益のほうが害よりも大きい場合もある……標準的な制吐剤の効かずに嘔吐で衰弱してしまう患者に対しては、短期間であればカナビス喫煙による制吐効果のほうが害に上回ると判断される場合もある」 と書いている。

つまり、患者の状態を考慮して喫煙によるリスクと恩恵を比較することが重要で、単純に、喫煙のリスクだけを強調してカナビスが医療的に使えないと主張しているわけではない。

さらに突き詰めて言えば、例えばアメリカの州が医療カナビスの合法化を求めているのは、カナビスを医薬品として認証さることが目的なのではなく、逮捕されずに使えるようにすることが目的になっている。漢方の多くの薬草(ハーブ)は、医薬品としての認証がなくても逮捕されることなしに多くの人たちが薬として毎日使っているが、カナビスがそれと同じようにできないことが最大の問題で、認証されるかどうかが問題になっているわけではない。


●カナビス喫煙による一般的なネガティブな面とポジティブな面としては、次のようなものを上げることができる。

ネガティブな面
  • カナビスの煙にはタバコと同様に多くの発癌性物質が含まれている。
  • 中でもベンゾピレンや一部の多環芳香性炭化水素(PAH)の濃度が高い。
  • 煙の中には一酸化炭素のようなガス化された燃焼毒が多く含まれている。
  • 煙の熱で喉を痛める。

ポジティブな面
  • 効果の発現が早い。
  • 吸いながら効果を確認できるので必要な摂取量を患者が簡単に自己調整できる。
  • 喫煙では摂取時間よりも発現時間のほうが早いので過剰摂取リスクが小さい。
  • 日常生活のペースに合わせて、1回に吸う量と使う間隔を簡単に調整できる。
  • 吐き気や嘔吐などで苦しんでいる場合は、ピルは飲み込むのが困難で発現に時間がかかるが、カナビス喫煙は吸引も容易で効果も迅速に発現する。
  • 不活性の成分が加熱によって活性成分に変化する。(例えば、THCA → THC)


●確かに、「カナビス・ジョイント1本当たりのタール量はタバコ4本分」 という主張は、医療カナビスに反対する科学的根拠としては最も説得力があった。誰れもが、タバコで肺癌になるのだから、タールのもっと多いカナビスではもとリスクが高いはずだと思っても不思議はなかった。

だが、IOM報告 でも、「現在までのところ、タバコのように、カナビスが癌を引き起こすという確固たる証拠は見つかっていない」と書いているように、実際にはカナビスの喫煙で肺癌などのリスクが増加しないことが、大規模な疫学研究で何度も示されている。

そうした研究で最も有名なのは、2006年に発表されたロスアンゼルスの研究 で、生涯にカナビス・ジョイントを22000本以上吸った人でさえ癌のリスクが増加しないことが示されている。この研究は、1980年代からカナビスの煙の素性を調べてカナビス1本の煙のタール量はタバコの4倍と最初に指摘したUCLAのロナルド・タシュキン教授のチームが政府の資金支援を受けて行ったもので、予想外の結果 に、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)の当局者は、「ノーコメント」 としか答えなかった。

最終的には、政府はこの研究を価値のあるものだと認めず、NIDAの出版物のリストにも掲載されていない

結局、この研究を認めれば、喫煙カナビスは危険なので医療でも使えないという政府の主張が根底から崩壊してしまうので、科学ではなく政治的イデオロギーが優先されたことになる。


●さらに決定的なのは、現在では、カナビスを燃焼させずに蒸気にして吸引する医療バポライザーが開発され、喫煙による煙の害を全くと言ってよいほど避けることができるようになっている。

1999年にIOM報告書が発表された当時は、医療的に十分な性能を備えたバポライザーはまだ開発されていなかった。報告書では、カナビスの医療効果を認めながらも喫煙による弊害を度々取り上げ、「煙を出さずに迅速な発現を実現するカナビノイド搬送システム」 の必要性を指摘している。だが、その直後の2000年11月にドイツの会社からボルケーノ・バポライザーが発売されて状況は一変した。

現在では、ボルケーノ・バポライザー の安全性と性能についてはいろいろな 研究 で確かめられている。

この装置は、いったん蒸気をバルーンに貯めてから切り離して吸引するという画期的なアイデアをもとに開発されたもので、蒸気の生成工程と吸引を完全に分離した点に大きな特徴がある。従って、別室でバルーンを充填してから患者に提供することも可能で、吸引力のない患者や体の不自由な人でもベッドに寝ながらゆっくりと蒸気を吸引することができる。

また、バルーン内の蒸気はすぐに冷えて室温と同じになるので煙のような熱による害も発生しない。蒸気にはわずかに芳香性があるが、吐き出して他の人の迷惑になるようなこともない。さらに、また、ボルケーノ・バポライザーでは、送り込む空気量が一定に設定されているために、バルーンのサイズとカナビスの種類と量を調整することで、いつもTHCがほぼ一定濃度の蒸気をつくり出すことができるという特徴も備わっている。

THCの吸入率 に関しても平均で50%を越えており、ジョイントや水パイプの場合の20%程度よりもはるかに高く、使用するカナビスの量が少なく経済性にも優れている。

このように、バポライザーを利用すれば喫煙によるネガティブな面をほとんで避けることができるので、リスクと恩恵のバランスは喫煙に比較して劇的に改善されることになる。


●バポライザーの出現で、もはや医療カナビスに反対する最大の理由が完全に説得力を持たなくなっている。

しかし、バポラーザーに開発はまだ十分とは言えず、実際に医療的な性能を備えているものはボルケーノ・バポライザー以外にないと言っても過言ではない。中には性能が非常に劣っているものも少なくないが、これは、特にアメリカでドラッグの吸引装置の開発や販売が強く規制されていることも大きく影響している。

IOM報告 や アメリカ医師会の見解 でも政府が積極的に安全なカナビノイド搬送システム開発を支援することように提唱しているが、政府当局はバポライザーに対する研究を 「科学的な知識の本質にほとんど貢献しない」 として、オランダ政府公認の医療カナビスを研究用に10グラム輸入することすら 拒絶 している。

ここでも、バポライザーを認めてしまえば、喫煙カナビスは危険なので医療でも使えないという政府の主張が根底から崩壊してしまうので、科学ではなく政治的イデオロギーが優先されてしまっている。


●結局のところ、喫煙による摂取は医療的には認証されるはずがないという考え方が政府当局の最後の砦になっている。最近では、タバコの喫煙による害がますます声高に叫ばれるようになって、肺から吸収させるものはカナビスも含めてすべて良くないという風潮も強いが、しかしこの考え方は、タバコによる喫煙の害がトラウマになり過ぎているきらいがある。

当然、錠剤やカプセルにして飲むという方法が必ずしも安全なわけでもなく、一度に多量に摂取しやすいために過剰摂取による死亡事故も多数発生している。現在では、合法医薬品による死亡事故数は 違法ドラッグの合計を上回っている。つまり、どのような摂取法にしてもリスクがあり、ことさら摂取方法だけを取り上げて問題にしてもあまり意味はない。


●喫煙は、肺を経由して成分を取り込むという意味では肺搬送システムの一つと言うことができる。

従来の医薬品では肺搬送システムを使ったものがほとんどないためにあまり注目されていないが、現在では、肺を通じて ほとんど瞬間的に血液に吸収される鎮痛剤 などが開発されつつある。今までの鎮痛剤は 「すぐに効く」 といっても15分から1時間かかることが当たり前だが、肺搬送システムを使えば数秒で効果が現れると言われている。

肺搬送システム は、胃から吸収する経口摂取や舌の下の粘膜から吸収させる方法とは根本的に異なっている。それは、肺の表面が総面積100平方メートルにも及ぶとされる肺胞群に覆われ、線毛や粘膜の無いおよそ5億個の気嚢を通じて成分が直接血流に送り込まれるようになっているために、効果が迅速に現れることが理由になっている。

この点では、バポライザーはまさに安全な肺搬送システムと言うことができる。今後、肺搬送システムを使った医薬品が出回るようになれば、カナビスだけを別扱いしなければならない理由もなくなる。


現在の医薬品の認証制度 は、1961年のサリドマイド事件が一つの契機になっている。この年には麻薬単一条約や植物特許法が締結され、翌1962年には、バイエル、ヘキスト、BASFなどが中心になって国際商品規格委員会(コーデックス委員会)が発足している。

この時期を特徴づける最も大きなパラダイム・シフトは、医薬品を化学合成して独占する時代からパテントで独占する時代への分水嶺になったことだった。医薬品として認証されるには二重盲検対照研究を基準とする厳格な研究要件を満たすことが求められ、事実上、多額の費用を負担できる大手製薬会社しか医薬品を開発できないようになってしまった。

だが、近代製薬産業の 「進歩」 で医薬品が安全になったといえるかどうかについては疑問もある。ドイツで1899年にアスピリンが誕生した当時のアメリカでは、家庭用鎮痛剤としてはカナビス(チンキ)が最も広く使われていた。1937年のカナビス禁止法の制定に当たってはアメリカ医師会は強く反対したほどだった。

しかし、「進歩」 した医薬品が、カナビスを薬局方から追い出すことになった。現在でも、アプピリンは偏頭痛や関節痛などを始として慢性的な痛みに対する安価な家庭用鎮痛剤として広く使われているが、果たして、年間何百人もの死者が出るアスピリン のほうが、かつては同じ目的で使われ死亡例のないカナビスよりも 「進歩」 して安全になったといえるのかどうかは極めて疑わしい。

実際、最近では、違法ドラッグよりも処方医薬品の乱用のよる死亡事故が急増 している。また、2008年7月に発表されたカリフォルニア大学サンディエゴ校の 研究 では、医薬品による死亡事故はこの20年間で人口10万人当たり0.04%から1.29%まで30倍以上も急増している。

また、思い起こしてみれば、アスピリンであっても二重盲検法でその効果が確かめられて認可されたわけでもない。また、20世紀における最も偉大な発見の一つと言われるペニシリンは たった6人の患者に試されただけで認可 を受けている。

こうした観点からみれば、現在の極度に二重盲検法に頼る医薬品認証制度は、必ずしも医薬品全体の安全性を高めているとは言えないばかりか、特許などの知財の利権や思惑が先行して自由な研究や開発が阻害されて、貧しい患者が高額過ぎる医薬品を入手できなくなるなど、ますます医療の本質から離れて時代遅れになってきているとも言える。


●近代薬学は、例えば、ケシから分泌したアヘンの有効成分を取り出してモルヒネを作りだしたり、ヤナギの樹皮の抽出エキスからサルチル酸を作り、さらに副作用の少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)を化学合成することで発達してきた。

やがて、純度の高い単一成分の医薬品のほうが、扱いやすく効力も優れているという通念が生まれて、植物などから有効成分を取り出すよりも化学合成によって医薬品をつくることが主流となった。

アメリカ政府も、ヤナギの皮をしゃぶっているよりも精製したアスピリンのほうが安定してよく効くのだから、THCを化学合成すれば、天然のカナビスよりも安定して医療効果が高いものができると考えても何ら不思議ではなかった。

FDAは1985年に、ガンの化学療法にともなう吐き気や嘔吐の治療薬としてマリノールを医薬品として認可した。マリノールの開発にはアメリカ政府も多大な財政支援をしているが、そこには、マリノールで医療カナビスに対する要求を潰そうとする明白な意図 があった。

だが、マリノールがカナビスに置き代わることはなかった。患者の大半がマリノールよりもカナビスそのものを使ったほうが効果の高いことに気づいたからだった。

現在では、一部の患者を除けば、マリノールよりも天然のカナビスのほうが医療効果が高い ことはほとんどの専門家や患者が認めるところとなっている。実際、2008年7月に発表された 神経因性疼痛モデル・ラットを使った動物実験 では、多種類のカナビノイドやテレピン、フラボノイドを含んだ天然のカナビスの抽出液のほうが、単独の成分しか含まないマリノールなどの合成カナビノイよりも抗痛覚過敏効果に優れていることが示されている。

結局、少なくともカナビスの場合は、さまざまな成分のシナジー効果でより高い医療効果が得られるわけで、わざわざ精製しなくてもそれ自体が完成した医薬品として、純粋の化学合成医薬品では真似ることはできない効果を発揮する。


●また、カナビスに含まれる60種類以上のカナビノイドには、成分構成に非常に大きなバラツキがあって標準化できないので、医薬品として失格であるという指摘もある。

しかし、バラツキが大きいのはカナビスの品種の違いによるものであって、同じ品種を同じ環境で同じように栽培すれば、成分構成を高度に標準化することができる。このことは、オランダ政府の医療カナビス や イギリスのGW製薬の例 をみればわかる。

逆に、医療カナビスでは、さまざまな成分構成のものを用意できるので、それぞれの患者は自分の症状に合ったものを選択できるという利点にもなっている。

実際、オランダ政府 は、現在、薬局向けの医療カナビスとして、高THC品種のベドローカン(THC18%)、ベドノビノール(THC11%)、多発性硬化症患者向けにハイになりにくい高CBD品種のベディオール(THC6%、CBD7.5%)の3品種を販売している。また、指定栽培場では、個別の患者に最適な品種を提供するために130品種以上の医療カナビスも栽培している。


オランダではすでに実現している が、今後、バポライザーで摂取することを前提に、成分構成が標準化された各種のカナビスが医薬品扱いのパッケージで薬局で販売されるようになっても何ら不思議ではない。

また、必ずしも処方医薬品として認証されなくても、漢方の多くの薬草のように民間薬として薬局で販売することもできる。


●確かに、喫煙カナビスについては、肺癌や気腫、慢性気管支炎のリスクはないといってもいろいろな問題もある。

しかし、医療カナビス患者の多くが喫煙を好んでいる という現実にも注目しなければならない。多くのユーザーが満足しているというこの現実は、タバコとは違って ポジティブな経験がそうさせていると解釈すべき であり、権威ある専門家に対しても問題を前向きに見つめるように促していると言える。

例えば、医療の提供側の多くの人たちは、単純に、政府が正式に医療カナビスの提供を始めれば、患者の大半がコーヒーショップやストリートでカナビスを買わなくなるはずだと言っていた。だが、2003年9月にオランダで政府の医療カナビスの販売が始まったときには、1万から1万5000人の患者が政府の医療カナビスを利用するようになると見込まれていたが、実際にこのプログラムに参加したのは 1000〜1500人 に過ぎなかった。

また同年秋に医療カナビスの配布が開始された カナダの場合 はもっと悲惨で、保健省の委員会が2002年に発表した研究では医療目的でカナビスを使う人の数を120万人と予想していたが、2007年12月現在、政府から認定を受けている患者数は2329人で、そのうち、政府の提供している医療カナビスを利用している人はたった488人しかいない。

これらの例は、単に品質が安定していてバクテリアや異物混入などの危険のない医療カナビスを提供しただけでは、患者は決して満足しないことを物語っている。


●これは、医療カナビス患者の多くが慢性的な疾患を抱えて日常生活を営んでいる人たちで、カナビスのことをロクに知らない薬局や、電話自動応答システムで注文を受けて宅配便で届けてくるようなカナダ政府の医療カナビスを買うよりも、コーヒーショップやディスペンサリー、あるいは カナビス・ソーシャル・クラブ のようなコミュニティの中でいろいろな人と交わって実践的な情報と知識を得ながら、カナビスで 「喫茶」 するほうが生きていることを実感できるからだ。

患者の医療満足度を考えれば、バポライズ用に認可したカナビスを薬局や専門のディスペンサリーで販売できるようにする一方で、暗黙的に喫煙を容認して、そのネガティブな面を最小限にするために、効力の強いカナビスを使って燃焼量全体を少なくしたり、ジョイントに長めのフィルターを入れて細く巻いたり、あまり深く吸い込まずにタバコのようにふかすようにして吸うことなどをアドバイスすることのほうがより現実的だ。