サティベックス

カナビス栽培から臨床応用まで

GW製薬ゲオフェリー・ガイ社長インタビュー


Geoffrey W. Guy

Source: Anderson Valley Advertiser
Pub date: July 24, 2003
Subj: An Update From Geoffrey Guy
Author: Fred Gardner
http://cannabisnews.com/news/16/thread16944.shtml

サティベックスの製造元であるイギリスのGW製薬のジオフェリー・ガイ社長に対するこのインタビューは、2003年5月にドイツのバイエル社と販売提携を結んで株価が最高値をつけ直後に開催された国際カナビノイド研究学会(ICRS)に合わせて行われたもので、得意満面としたガイ社長の様子がよく表れている。

この時点では、翌年にもイギリスやカナダでサティベックスが医薬品として認証を受けて大々的に発売されると見られていた。しかし、2005年4月にカナダでの認可取得に成功したものの、2ヶ月後にはイギリスで不許可になり、その後、2007年7月にも、ヨーロッパでの認可申請が不調に終わっている。このインタビューから5年経ってもその状況は変わっていない。

このインタビューでは、カナビスの栽培方法やサティベックスの製造方法などが率直に語られているが、その内容には非常に興味深いことがたくさんあり、医療カナビスを考える上でもとても参考になる。また、GW製薬が最初に導入した肝心のカナビスの種子についてはこのインタビューでは何も触れらていないが、オランダの ホルタパーム が提供している。

カナビス医薬品を巡るイギリスの進展とアメリカの停滞  (2004.2.2)
思惑渦巻くカナビス・スプレー・サティベックス  (2007.7.20)


すでにイギリスの製薬起業家として知られていたゲオフェリー・W・ガイ氏(50)は、1998年、新たにカナビス抽出液を医薬品として開発して販売することを目指してGW製薬を設立した。

彼自身はカナビスを体験したことはなかったが、イギリスの多発性硬化症患者たちがカナビスを吸うと痛みや痙攣が緩和すると主張していることに触発されて興味を抱くようになった。

ガイ氏が立案したビジネス・プランは非常にストレートで、環境をコントロールした栽培場で育てたカナビスからTHCやCBDなどの役立ちそうな各種カナビノイドを抽出して、それらをさまざまな比率でブレンドすることで医薬品レベルの均一な液体を作って、臨床試験を実施するというものだった。

GW製薬は現在までに3種類の液体を製造することに成功している。1つはTHCの含有量が高い製品で 「テトラナビネックス」 と名付けられている。もう一つはCBDの含有量が高い 「ナビディオレックス」 で、3番目のものが 「サティベックス」 と呼ばれる製品でTHCとCBDをほぼ半分づつ含んでいる。

この春にはGW製薬は計画どおりにイギリス医薬品庁(Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency)に医薬品の認証を求めた申請書類を提出している。書類には、多発性硬化症と脊髄損傷患者の慢性痛を対象に行った臨床試験の良好な結果を示すデータも含まれている。

またその直後には、ドイツのバイエル社と契約を結んでイギリスでのサティベックスの販売権を譲渡している。バイエル側はオプションとして、ヨーロッパ、ニュージーランド、カナダでの販売権も獲得している。

この契約によりGW製薬は、研究・製造・臨床試験の資金を手にすると同時に、将来の販売網も確保したことになる。一方、バイエル側は、イギリス医薬品庁がサティベックスを認証することに賭けたことになり、たとえ申請にデータに何らかの問題があったとしてもGW側が簡単に対応できる見込んでいる。医薬品庁の決定はこの年末にも行われることが期待されている。

以下のGW製薬ガイ社長へのインタビューは、2003年6月末にカナダのオンタリオで開催された第13回国際カナビノイド医薬品学会(ICRS)の年次カンファレスの後で筆者 (フレッド・ガードナー) が行った。なお、カンファレンスでは、GW製薬はサティベックスの良好な臨床結果を示す2件の論文発表とポスターセッションでの説明を行っている。




GW製薬で働いている人の数はどのくらいでしょうか?

従業員はおよそ130人ですが、多くの業務も外注していますから、全体をフルタイム換算すれば140人を上回ります。

昨年は、カナビスの栽培に関しても外注契約しました。スーパーマーケット向けに野菜を育てている超大規模栽培業者ですが、栽培面積にしたらわれわれの栽培場は点にしか見えないほどです。


どのくらいのカナビスを生産しているのですか?

現時点では、生の植物重量で年間50〜60トンです。政府からは100トンまでのライセンスを受けていますから来年はそこまで増やす予定にしていますが、乾燥後のハーバル・カナビスとすれば10トン以上になります。


基本的な栽培サイクルについて教えていただけますか?

苗は種からではなく、カッティングを使って専用の培地で育てています。われわれのカッティング技術では、良好な根を付けるのは全体の95%を上回っています。また、1日で2000本のカッティングを処理することができます。

2週間経過した時点で、有機肥料を堆肥にした培地に移植します。培地は非常に大きなトレーになっていて、通気性が最適になるように工夫してあります。1台のトレーで約200本の植物を育てます。

トレーはレールの上を移動できるようになっています。トレーは毎週移動していきますが、1週間での植物の成長はトレーごとに一定していますから、栽培場に並べられたトレーには1週の違いごとに正確な段差を見ることができます。

栽培場全体では、片側の端がカッティング・ラインで、その反対側が収穫ラインになっています。


収穫時の植物の背丈はどのくらいの高さですか?

だいたい1メートルぐらいです。われわれの目標は、各サイクルで一貫して最大量のカナビノイド原料を生産することで、それにはどのような形態の植物が最適なのか繰り返し何度も研究しました。1サイクルは6週間で、成熟期間が短くて済むように最適化しています。

一般的にTHCの含有量の多い品種の植物は枝が多く、花頭も100〜150になります。これに対してCBDの多い品種は下部の枝がついて、背丈は低くなります。したがって、CBD品種のほうがTHC品種よりも密度を高くして栽培することができます。

もちろん余りに密度を高くし過ぎると、葉には充分な空気が流れずに下部の湿度が高くなってしまいます。また、作業もやり難くなります。また、背丈が高くなり過ぎると他の植物への光が遮られてしまいます。そんな訳で、空気の流れと光が最適になるような密度を求めて試行錯誤を繰り返しました。

カッティングは植物の形状が常に一定になるように行こなっています。先端の単一バッズだけを使って採取していますので、枝が多く成長したり異常な形ちのバッズができたりするようなことはありません。われわれの技術では、形状は非常に均一で収量も一定しています。植物の形状は、カッティングの形状で決まるのです。

生育途中で枝を剪定するようなことはしていません。工程を標準化して誰でも自動的にできるようにしたいからです。わたしたちは、カナビスをどう栽培したらよいかを示したマニュアルを作っていますが、これは、合成医薬品を開発した会社が他の会社でも製造できるようにマニュアルを用意するのと基本的に変わりません。

昨年は、契約栽培者に対してマニュアルを通じて技術移転を行なっています。最初の収穫物から、仕様の範囲内におさまるものが出来上がってきています。僅かな相違もみられましたが、それも、理由を調べてマニュアルを調整することで現在では解決しています。




どのような害虫がいますか? また、どのように処理していますか?

実質的に問題なのは、アザミウマと赤ハダニの2種類だけです。どちらも相手にしやすいので殺虫剤などは使いません。

アザミウマは大きいので手で駆除できますので経済的な問題にまで発展することはまずありませんが、小さいハダニの場合は収穫した植物を他の場所に移すときに大きな問題になりますので、外部から隔離されて検疫室で検査することにしています。

育成中の植物に赤ハダニが見つかった場合には、植物を即刻処分しています。同じ生育サイクルにある植物をすべて取り除くことも躊躇しません。赤ハダニの付いた植物は脆弱であることを示していますので植物全体をコントロールする目安にもなります。

他にももう1種類いますが、竹に付いてくる虫 (Chinese bamboo mite) で、これは竹を支柱に使っているために紛れ込んできたものです。


次のステップが成分の抽出ですか?

抽出は植物を乾燥してからです。乾燥は植物の品種で分離して行います。抽出はエタノールを使う方法で行っていますが、最初の原液にはワックス分も含まれていますので別のステップで取り除きます。

栽培している品種は高THC品種と高CBD品種の2種類ですから、2種類の違った抽出液が得られることになります。それらを目的の比率で正確に混ぜ合わせれば、さまざまな調合液を作ることができるわけです。

こうした方法は、伝統的な老舗のワインメーカーがやっていることに似ています。彼らは、スタンダードになっている逸品を正確なブレンドで均一化して商品にしています。

しかし、この方法を採用することを決めた時点では、実際に植物がどの程度正確にカナビノイド成分を生成するかについては分かっていませんでした。ですが実際に栽培してみると、同じ品種の植物なら非常に正確な比率でカナビノイドを生成していることが判明してとても驚愕させられました。

こうした心強い結果を得て、いろいろな成分比率の品種を栽培する代わりに、THCの高い品種とCBDの高い品種の2種類だけを栽培して成分を抽出することにしたのです。抽出液の成分を正確に品質コントロールすることで、目的に完全に合致した比率の最終溶液を用意にブレンドしてつくることができるからです。

認可を受けるために医薬品庁へ提出した書類にも、この2種類の抽出液について毒物学と薬理学の面から広範な情報を添えています。製造プロセスや臨床データの説明もそれがベースになっています。




植物中のカナビノイド含有量は何%ぐらいですか?

品種や亜種にもよりますが、最も使いやすく最適に生育させるには12〜15%が好ましい範囲であることが分かっています。若干低いように思われるかもしれませんが、バッズはマニュキュアしていませんので周辺の葉を取り除いていないことも関係しています。

もちろん、もっとカナビノイド含有量を上げることもできますが、良いことばかりではありません。粘り気が強くなって扱い難くなるし、虫も寄ってきますから。

いずれにしても、われわれの場合には成分を抽出して濃縮しますから、原料の%が多少低くても問題になりません。


それぞれの品種のTHCとCBDのカナビノイド中の割合は何%ですか?

高THC品種のTHCの割合は97%、高CBD品種のCBDの割合は約95%です。

CBD品種の他の成分は、THCと一部のマイナーなカナビノイドが含まれていますが、バリエーションは限られています。マイナーなカナビノイドの純度の高いのはカナビノイド生成の中期の段階で、主にTHCやCBDになる前駆化合物として存在しています。特異な立体形状をしていたりもしますが、明確なカナビノイド異性体です。


それぞれのカナビノイド液の純度はどのくらいまで上げることができますか?

初期の段階ではいろいろでしたが、現在では、あらゆる分析装置を使って非常に高い純度を確保しています。内部基準にしているのは99.9%で、THC、CBD、THC-V、CBC、CBD-V、CBG、CBNなどの主要なカナビノイドはすべてそのレベルにまですることができます。

研究者たちは、純粋のTHCでも純粋のCBDやCBCやCBGでも、あるいは2成分を混ぜて純度を98%や97%、95%などと指定することが可能です。用意できるのはどれも液体ですが、最終的には液体の医薬品の開発を目指していますので液体の状態での薬理特性を知りたいためです。

現在のところでは、さらに複数の成分を加えたものを提供できるまでにはなっていませんが、有難いことには、生体外実験を行っている研究室の大半ではまた1種類の特性すら十分なデータが得られていない段階なので現実的な問題にまではなっていません。ですが、できるだけ早くそうした液体も供給できるようになって、中間調の連続結果まで得られるようにしたいと思っています。

われわれにとっては、抽出液体であることにとても興味を抱いています。患者さんはそのまま摂取することができますし、要望に合わせて各成分を混合したものから純粋のものまで自在に提供できるからです。


天然のカナビノイドは水素(H)、酸素(O)、炭素(C)だけで構成されている
他の多くのドラッグと違って窒素(N)を含まずアルカロイドでないという特徴がある



認証を待っている現在も臨床試験を行っているのですか?

これまでの臨床試験は、主に神経障害性の痛みや機能不全の患者さんを対象にしてきましたが、そのほかにも5つ以上の分野でも臨床試験に取り組んできました。

例えば、癌の痛みについては130人〜140人規模の試験を行っています。しかし実際にこの試験を実施しようとすると非常に困難が伴います。それは、対象として許可される患者さんは癌のステージが進んでいる人に限られており、定期的にオピエート治療も受けているからです。また、少なくとも試験を行う2週間は病状が安定していることも必要です。

このように研究の被験者を集めるには常に困難が伴いますが、癌の臨床試験ではイギリスとヨーロッパの数ヶ国で首尾よく患者さんを集めることができて、今年の終わりまでには結果が出てくることになっています。

臨床試験の結果についてはすでに一部が専門の雑誌に発表済みです。臨床試験の結果を得るには臨床前試験よりも長い時間がかかりますから、発表にも時間がかかります。臨床試験の実施と分析では、どのような小さなデータでもチェックすることが要求されますので多くの人員が必要になります。われわれの会社でも専門の部門を設けて45人が担当しています。

たとえ数十人規模の小さな臨床試験であってもチェックすべきことは山のようにあって作業は半端ではありません。データが僅かでも欠落していたり、通常の範囲内におさまっていないような場合には、会社の監視要員が現場まで出向いてデータを確認し、正しくない場合には修正します。

このことは、医薬品の開発に当たって人間を対象とした臨床試験を行う際に求められている基準で、医薬品の臨床試験の実施の基準 (GCP:Good Clinical Practice) と呼ばれています。これによってデータの完全な正確性が確保されることになります。

データはコンピュータのデータベースに入力されますが、入力ミスを防ぐためにダブルエントリー・システムが使われています。データベースは臨床試験毎に独立して作成され、関連情報はすべてそこに収められています。臨床試験の開始段階では収集すべき情報が多くなりますが、最終ステージに近づくに従って特定の項目に絞られてきますから、集めるデータも少なくなってきます。

いずれにしても、臨床研究では安全性が何よりも優先されます。現実問題として、医薬品が認証されるには安全であることが第一で、効能はその次になっています。




安全性の面で赤ランプが点灯したことはありますか?

ありません。これまでのカナビスの論文や治療関係の文献にでも安全性が高いことが指摘されてきましたが、われわれの臨床研究でも同じ結果が出ています。

この印象深い事実は、われわれの製品を説明する際にも重要な部分になっています。


製品のラベルの警告にはどのような副作用が書かれていますか?

製品のラベルに関しては認証を受ける際に問題とされる部分ですので、各患者さんが最適服用量を決める最初の時点で経験する可能性のある一時的な 「軽度の酩酊」 であっても、たぶん触れることになると思っています。

われわれの臨床試験では、患者さん一人一人が自分に最も適した服用量を探ってもらうようにしています。その際に軽い酩酊状態を経験することもありますが、日常の使用で生活に支障が出るというわけではありません。ここで重要なことは、薬の医療恩恵効果だけを引き出して精神効果がでないようにできるということです。

確かに、酩酊を引き起こすレベルまで摂取しないと医療効果が出てこない患者さんもいます。そうした患者さんは日常生活を変えることで対処することができる場合もありますが、いずれはサティベックスとは含有比率の違う溶液と新しい吸入器を提供することで解決できるとも考えています。

2番目の副作用は 「口の渇き」 で、3番目は 「吐き気」 で、薬剤の味の悪さが原因になっています。

また、軽い頭痛、眩暈、失神などの血管迷走神経性の症状も含まれることのなると思います。非常にセンシティブな患者さんの中には、摂取量が多くなり過ぎると脈が早くなって失神してしまう人もいます。しかし、こうした症状はどれも血管迷走神経に関する報告書ではよく知られているものです。

カナビスの副作用については違法に使っている人たちからも報告されていますが、当初われわれは、過小申告されていて隠されている症状があるのではないかと考えていました。そこで臨床試験では、薬が原因かどうかには関係なく、指摘された悪い症状はどのようなものでもすべて収集するようにしました。しかし、当初の懸念とは反対に、新しい副作用は何も見つかりませんでしたが。

パニックになった患者さんも何人かいますが、そのような場合には、服用量の調整で少しオーバードーズしたときにそのような感じるようになることがあると告げて、リラックスして座って症状に身をまかせてと戦わないようにしていればやがておさまるとアドバイスすることが最も簡単で良い対処法だということも分かっています。


最適服用量はどのようにして決めるのですか?

最初のころはあまり明確な指針は整っていませんでした。従来の医薬品では治療効果に見られなかった多発性硬化症と脊髄損傷の患者さんを対象にした初期の第2フェーズの臨床試験では、目立って緩和効果が現れて、初日の昼食前にも痛みが消えたという人すらいました。

しかし、われわれもそれに刺激されて大胆になり過ぎてしまいました。やがて非常にセンシブルな患者さんもいることに気付いて、どのようなセンシビリティの場合であっても適応できる方法を導入することにしたのです。つまり、最初の日からさまざまな症状に劇的に効くようなことのないように改めたのです。

現在では、2〜3日の間隔で少しづつ服用量を増やしていくようにしています。いったんこのテスト期間が終了すれば、その後は患者さん自身で最適な量を決めてもらっています。医師が決めるのではなく自分で調整できることは、さまざまな面で非常に有益です。

自己調整を単に服用する薬の量のことだと考えている人たちもいますが、もっと重要なことは血液中のカナビノイド濃度レベルの変化なのです。変化が速く大きくなれば、それだけ好ましくない精神効果が出やすくなるのです。反対に薬をゆっくりと取り入れれば、精神効果なしに多くを摂取することもできます。

このような酩酊症状を無害化する方法があるにもかかわらず、それを無視すれば、血管迷走神経効果に晒されるリスクが増えることになります。しかし、現実として、上手に自己調節することによって酩酊症状を非常にマイルドなものにすることができるのです。

もっとも、ここで言っている 「酩酊」 は非常に低いレベルの話で、リクレーショナル・ユーザーが求めている酩酊のレベルとは全然違いますから注意する必要があります。治療では、患者さんが酩酊の兆候を少しでも感じた時点ですでに十分な治療レベルに達しているのです。この点に関しては、5年前からわれわれが主張し続けてきたことですが、その後の臨床試験でも明らかにそうなっています。

患者さんにとって最も重要なことは、薬のレベルを治療域内に収めることで、やり方のよって服用量を変えることもできます。朝昼晩と1日3回服用するのがいい人もいれば、晩だけがいいという人もいます。また、中には、少量づつ頻繁に服用することで血液レベルを常に一定に保って、ピークや谷をなくすることで状態を安定させている人もいます。


Public Information Report on Sativex Oromucosal Spray  イギリス医薬品庁(MHRA)



サティベックスの味が悪くて続けられなくなった患者さんがいるそうですが?

患者さんたちからは、カナビノイドの味が相当に強烈だと聞かされています。とりわけカナビスを使った経験のない人ほどそう思うようです。 味が悪いことは他の多くの薬についても言えることですが、サティベックスの場合は、特に敏感な舌下にスプレーする仕組みなこともあって問題が大きくなる可能性があります。

中には、刺すような感じがすると訴えて、非常に不快に思う患者さんもいます。そのような場合には、無理に舌下にスプレーするのではなく、口の中ならどこでも大丈夫ですとアドバイスしています。

また、少なくともわれわれの会社が行っている臨床試験では、味の不快さを理由に脱落した人はたった一人だけしかいなかったと記憶しています。


味の改善にはどのように取り組んでいますか?

サティベックスにはペパーミントを加えてありますが、その他にもさまざまな香辛料も試しています。ですが、驚かれるかもしれませんが、味の問題に本格的に取り組めば開発期間が2〜3年も余計にかかって遅れてしまうのです。

また、開発を開始した時点での政治環境を考えれば、甘くて味の魅力的な薬はかえって認証の妨げになるようにも思いました。そんな具合で、味の問題はあまり考慮していません。実際的にも大きな問題になっていませんし……

われわれが最初に製剤設計をしたときに選んだ方針は、ストレートで風変わりではないようにすることでした。特に、われわれが開発しようとしている医薬品は近代製薬産業の規範には属していないカナビスを使ったものなので、当然認証プロセスには多くのハードルが待ち構えているからです。

従って、副次的な問題は可能な限り扱わないようにしたかったのです。エタノールをベースとした調剤を直接摂取するというストレートな設計にしたのもそれが大きな理由です。認証には避けて通れない要求がありますが、薬剤を安定化はその一つです。安定化のためには非常に多くの技術が要求されチャレンジでもありますが、現在はそれも克服しています。

また、当然のことながら、新製品を追加して将来の製品ラインの拡大して行くことや、調剤設計を改善していろいろな問題に対応していくことも当初から視野に入れていますが、現在のイギリスの社会情勢や道徳規範、医学のあり方、さらに政治情勢などを考慮して、最も早く認証を獲得することを何よりも優先しなければならないのです。そのためには、「味が良いか悪いか」 といった贅沢な発想は許されません。将来的には取り組むことになるとは思いますが……

いずれにしても、調剤設計とか応用技術とか言ったことは2次的なことに過ぎません。最も中心的な課題は、ラベルに記載されるような副作用を通常の医薬品でも最も軽い部類にすることです。

慢性的な痛みに苦しむ多発性硬化症患者さんなどのことを考えてもらえばわかりますが、服用は長期にわたりますから、副作用が目立つような薬では肝臓・膵臓・腎臓などに障害を引き起こす可能性があります。また、オピエートのようにオーバードーズして急性呼吸不全に陥って死亡するようなことがあってはなりません。

その点では、われわれの製品の副作用特性は絶対的に優れています。また薬の耐性特性も良好です。カナビスの副作用は、それがどのようなものであれ、患者さんたちが現在使っている医薬品に比較すればマイナーなものに過ぎません。患者さんにとっては、リスクと恩恵の方程式がすべてなのです。


カナダで発売されているサティベックスのパッケージ(4本入り、1本51スプレー分)
カナダでは2005年4月に認可され、6月から販売が開始された



外部の研究機関との協力関係には変化がありましたか?

研究のやり方には、これまでとは違った波が起ころうとしています。われわれは、炎症症状に対するカナビノイドの治療効果について特別の関心を抱いてきたわけですが、カナビノイドを単に従来の非ステロイドのような抗炎症剤として古典的なセンスでとらえているわけではありません。

われわれが興味を持っているのは、特定の病状に対する反応ではなくて、カナビノイドの含有比率を変えるとどのように変化するのかといった作用メカニズムと効果の違いなのです。

例えば、現在、関節リウマチに関して第2フェーズの臨床試験を実施している最中ですが、CBDに大きな緩和効果のあることが非常に明確な形で出てきています。また、カナビノイドには、炎症性腸疾患の鎮痙作用があることが分かっているので将来的には応用できそうですし、栄養失調症や老年性拒食症、睡眠時無呼吸のような空気欠乏症などにも興味があります。

また、癲癇の研究についてはすぐにでも着手したいと思っています。この分野に関してはもっと展開を早めたいのです。ブラジルの研究グループとは、統合失調症と双極性障害について共同で研究をおこなっています。緑内障に関しても小規模な臨床研究を終えたばかりですが、われわれの興味は、カナビノイドが単に眼圧を確実に下げるということではなく、網膜に対する神経防護作用にあります。

カナビノイドには、腫瘍の血管形成を抑制する一方で、傷ついた県警細胞の血管形成を促す働きがあると考えられていますが、カナビノイドは一種のモデレーターなのです。何かのレベルが高くなり過ぎたときにはそのレベルを下げ、逆に下がり過ぎた場合には引き上げるような働きをするのです。

カナビノイドにこうした効果が起こるのは、レセプターの分布状況や患者さんの健康状態、レセプターの補償システムが補充状態にあるのか余剰状態にあるのかなどに依って働きかたが違ってくるからなのです。

このように、現在では、従来の病状の枠内に囚われた発想ではなく、細胞や分子レベルで作用メカニズムをベースに研究協力していくことが重要になってきています。


レセプターの補償システムについて分かりやすく説明してください

補償システムでは、外部からカナビノイドを取り入れる必要があるときにはカナビノイドを引き入れ、必要がなくなったときには取り入れないようにする一種のフィードバックの仕組みのことです。

例えば、症状の全く同じ患者さんが二人いたとします。でも一人は補償作用が開始状態にあり、もう一人は補償作用によってすでに十分なカナビノイドが供給済みでアイドル状態にあれば、外部からカナビノイドを与えても全く違う反応を示すことになります。

従って、カナビノイドの効果を見るときには、どのような状態が 「カナビノイドがシステムの到達する状態」 なのかについて知っておく必要があるわけです。この点については、生体内のフィードバックを切り離して検証できる生体外実験が役立ちます。


世界で最初にサティベックスの処方を受けた アリソン・ミュルデン さん



会社の計画は順調なようですが、その中でも驚かされたことは何かありますか?

たくさんの人たちが臨床試験を見にきてくれて、カナビス医薬品が本当に効くのだと分かってくれたことです。中には、臨床試験用に場所と医療設備を提供してくれる人さえいました。その他にももっとドラマチックな場面を絶えず見せてもらっています。

カナビス医薬品は、限りないほとの薬理可能性を秘めています。調子を整える万能システムです。その能力はとてもユニークで、例えば、多発性硬化症のようなさまざまな症状を伴う疾患に対してまとめて面倒をみてくれるのです。

従来ならば、一つ一つの症状にそれぞれ一種類以上は薬が処方されますので、その数だけ副作用を心配しなければなりませんが、カナビス医薬品の場合はそれだけで広範囲な症状に対応することができるのです。しかも副作用はきわだって低い。さらに驚愕すべきことに、ある動物実験では、カナビノイドで多発性硬化症の進行すらほとんど止まってしまうことまで示されていたりするのです。

われわれは、本当におもしろい時期に会社を始めたと思っています。今回のカンファレンスでそのことをつくづく感じました。

われわれは5年前に始めてICRSのこのカンファレンスに加わりましたが、当時は、発表者がプレゼンを済ませて席に戻ると、次の人が出てきてプレゼンするだけで相互に意見を交わすなどということもほとんどありませんでした。全体は、カナビスの悪影響や恐ろしさを言い立てなければならないような雰囲気が支配していました。

また、5年前の研究はどれもがカナビスそのものを使ったものではなく、合成カナビノイドを使ったものでした。中には、天然のカナビスには存在しないような合成カナビノイドも使われていましたが、いずれの報告もカナビスの悪い面を言い立てるのが普通でした。でも、今回のカンファレンスではそのような類の研究は姿を消していました。

5年前の会場全体の雰囲気は、カナビスの治療効果には否定的で、治療可能性について言及するスピーカーはよそ者扱いでした。我慢して付き合ってやっているといった感じです。

しかし今年のカンファレンスに参加して、今回初めて、カナビスのさまざまな治療可能性について科学的な面から根本的に取り上げられるようになったと深く実感しました。発表される論文は、治療について科学的に論じたものに変わりましたし、ほとんどの聴衆も興味の対象を医療効果に向けていました。

質問のセッションでは、「文献には、医療効果があるという報告などは見たことがありませんが」 と見当外れな質問をしている人もいましたが、実際には、「その手の人たちが読んでいる文献には含まれていない」 だけのことに過ぎません。すでに優れた文献は多数存在しているのです。この4年半の間にすばらしい進展があったのです。