世界初のカナビス経口スプレー
サティベックスの効果を試す
期待外れの面も
Source: St. Pertersburg Times, Florida
Pub date: August 1st, 2005
Subj: Marijuana Medicine Tests Pot's Potential
Autor: SUSAN TAYLOR MARTIN, Times Senior Correspondent
http://www.themarijuanamission.com/inthenews.htm
アリソン・ミュルデンさん(41、元矯正指導員)は、13年前に多発性硬化症と診断されて以来、顔に電気が走るような強い痛みに苦しんできた。
彼女は苦痛を軽減するために、長い間、強力なダイラウディン(ハイドロ・モルヒネ)などを含む何十もの処方医薬品を毎日使ってきたが、最近新たな武器として、サティベックスと名付けられたカナビスをベースにした世界初の治療薬が加わった。
「よく効いてくれることを期待しています。」 小さなスプレイ容器からサティベックを口の中に一噴きしながら、「カナビスにはずっと厳しい態度を取ってきた政府が、カナビスから作られた薬を認めたのですから本当に興奮してしまいます」 と言う。
注目を集める医療カナビス議論
この4月、カナダはサティベックを承認した世界で始めての国になった。サティベックスは多発性硬化症向けの処方医薬品で、天然のカナビス・サティバから抽出したTHCや他の活性成分で作られている。
サティベックスは6月にカナダの市場で販売が始まったが、折しもアメリカではその1週間後に天然の医療カナビスをめぐる連邦最高裁の裁判で医療カナビスは手痛い敗北を喫して明暗を分けた。
サティベックはまだ出始めたばかりであることや高価であることから実際に使っているカナダ人はまだ僅かしかいないが、このデビューのタイミングに合わせて、カナビスの治療効果についての議論が大きな注目を集めることになった。
「サティベックスは医療にとって重要な一歩ですが、その動きがアメリカではなく、カナダとイギリスで起こったのには理由があります。アメリカではそうした科学的な研究が抑圧されているからなのです」 とカリフォルニアのサラソータを本拠にカナビスの医療効果の研究を支援しているサイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)のリック・ドブリン代表は語っている。
これに対して、カナビスを危険なドラッグだとみなすブッシュ政権のホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)は、盛んにカナビスの医療効果を言い立てている人たちの多くが、本当のところでは嗜好用途の合法化を画策していると批判している。
「もちろん、われわれも安全で効果の証明されている医薬品ならどんなものでも注目しますが、医療カナビス問題については、何年にもわたって多くの人が誇大に言い立ててきただけに過ぎません」 とトム・リレイ広報官は言う。
サティベックスは医療カナビスとは別物
サティベックスは、医療カナビスとは一線を画すために開発された。開発元は、GW製薬という小さなイギリス会社で、アメリカやヨーロッパで認証を取り付けて儲かる商品にすることを目指している。
「いわゆる医療カナビスと当社のサティベックの間には明確な違いがあります。医療カナビスはジョイントで吸われたり、ケークにして食べたりしていますが、この商品は多発性硬化症向けの処方医薬品なのです」 とGW製薬のマーク・ロジャーソン広報官は説明している。
多発性硬化症は、脳や精髄や視神経などの中枢神経系の慢性疾患で、予測できない症状を伴う。ある患者では筋肉が動かなくなることで痙縮を引き起こし、ミュルデンさんのような別の患者では震えや耐えがたいほどの痛みが起こる。
GW製薬は、イギリスでは、痙縮の治療に焦点を絞ってサティベックスの認証を求めている。だが、今までのところ、イギリス政府は、認可するには効果を示すさらなるエビデンスが必要だとして認証を拒否している。
しかしながら、カナダでは、多発性効果症の別の共通症状である神経障害性疼痛の治療に使う医薬品として認証を受けている。
天然のカナビスより安価でも効果的でもない
カナダで5万人といわれる多発性硬化症患者のひとりであるミュルデンさんは、確かにサティベックスは痛みの緩和の役に立ってくれるが、天然のカナビスに比べて安くもなく、効きめも弱いと言う。
彼女がこれまで使ってきた処方薬と違ってサティベックスは、まだカナダの医療保険の対象にはなっていない。サティベックスはボトル1本で51回スプレーできるが、ミュルデンさんが十分な効果を持続的に得るには2日で1本必要で125ドルもかかってしまう。
「サティベックスが広く使われるようになるには、費用と効果が見合ったものでなければ無理です。1ヵ月で1000ドルもかかってしまいますから、私のように政府の障害者補助と母とパートナーの助けをかりて生きている人間には続けられません。」
これに対して、医療目的でカナビスを供給しているコンパッション・クラブから医療カナビスを購入する場合は月に400ドルで済む。さらに、彼女の場合は自分用の医療用カナビスの栽培も政府から認められている。医療カナビスはタバコの喫煙が認められている場所ならどこでも吸うことができる。
彼女がサティベックスを試して分かったことは、値段が高いにもかかわらず、普通のカナビスよりも効果が弱いことだった。「病気になる前はカナビスなど使ったことは決してなかったのですが、今では、一日に数回吸いますし、オートミールとクッキーにして食べたりもしています。」
カナビスには品種がたくさんあり、それぞれ医療効果が異なると言う。「自分に合った品種なら、吸ってすぐに痛みを抑えることができますし、2時間は効きます。私は断然カナビス派です。私にとっては、カナビスが生活の質を約束してくれる唯一の薬です。」
二重盲検研究では効果がよく分かっていない
カナダ多発性硬化症協会では、サティベックスを病状の治療に利用できる選択肢が一つ加わったに過ぎないと捉えている。
スプレーの形状をしていることや医師の処方箋は必要なことで、「乱用のされる可能性が少ないので少しは安心ですが、主要な原料に喫煙用のカナビスを使っていると分かれば、カナダの大多数の医師は使いたがりません」 と協会のアドバイサーを務めるウイリアム・マクロイ博士は指摘している。
一方、アメリカでは多発性硬化症の苦しむ患者は40万人に上っている。全米多発性硬化症協会は、カナビスが病気の痛みを緩和するのに役立つことを示唆する事例エビデンスは確かにあるが、痛みの軽減の程度を客観的に測定することは難しいと言う。
カナビノイド・ベースの治療について調べたある研究では、プラセボを投与した被験者でも、カナビス・ユーザーが普通に体験する口の乾きや浮遊感を感じている。
「現在までのところ、カナビスの医療効果を調べることを目的に実施された研究では、きちんとした二重盲検法を使って行われたものはありません。二重盲検法でない場合は、被験者たちは何を投与されたのか分かっていますから、プラセボを投与したときとの効果との違いを明確にすることはできません」 と協会で研究を担当するジョン・リッヘルト副代表は語っている。
「サティベックスについても、その効果を証明するような文句の付けようのない科学的研究はまだ行われていません。」
制約で難しいアメリカの医療カナビス研究
GW製薬では、アメリカでもサティベックスの承認を求めて食品医薬品局(FDA)に正式に打診を開始しているが、「まだ始まったばかりです」 と会社のロジャーソン広報官は語っている。「FDAを悪く言うつもりはありませんが、アメリカで承認されるには長い時間がかかると思っています。」
医療カナビスに賛同する人たちは、天然のカナビスの治療効果を科学的に研究しようとする動きをアメリカ政府が邪魔にしていると主張している。研究には連邦の認可が必要なうえに、ミシシッピー州にある政府の農場で栽培されたカナビスを使うことを義務付けられている。
「アメリカで研究しようとすれば、使えるのはアメリカ政府がただ一箇所から供給しているカナビスしかありませんが、品質が非常に悪いことでよく知られています」 とリベラルなドラッグ政策を求めて運動を続けているドラッグ・ポリシー・アライアンス(DPA)のエサン・ネルドマン代表は語っている。
しかも、従来、ミシシッピーのカナビスを利用できるのは、カナビスの悪影響を調べる研究に限られてきた。しかし、連邦の依頼した科学アカデミー医学研究所(IOM)の調査委員会が、カナビスには研究するのに値する医療効果を示す十分なエビデンスがあると認めたことで、他の研究にもカナビスを供給するように変わってきている。
IOMの報告書には、「喫煙の伴う害を別にすれば、カナビスの副作用は他の医薬品で許容されている範囲内にとどまっている」 と書かれている。
天然のカナビスには確実な効用が備わっている
カリフォルニアをはじめ医療カナビスを州法で認めている11の州では、多発性硬化症やガンやエイズなどの病気の何千という人たちが日常的のカナビスを使っている。
しかしながら、6月に出された連邦最高裁では、医療目的でのカナビス対する罰則を取り払った州であっても、連邦政府は依然としてカナビスの所持を禁止できるという判決が下された。ミュルデンさんは、 「全く残念ことです」 と言う。
一方で彼女は、サティベックスを認可し、同時に病人が天然のカナビスを使うことを認めたカナダ政府を称賛しながら、「サティベックスが使えるようになったことには本当に興奮しています。でも、天然のカナビスは、比較的役立つというのではなく、はっきり役立つことを忘れてはなりません」 と語っている。
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アリソン・ミュルデンさんはサティベックスを正式に処方された世界で最初の患者として知られている。
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