アメリカ連邦麻薬局

DEAの医療カナビス神話に反駁

Source: Drug Policy Education Group, Inc. (DPEG)
Date: Sep, 2002
Subj: Rebuttal to DEA's "Exposing the Myth of Medical Marijuana"
Web: http://www.dpeg.org/DEArebuttal02.pdf

ここで取り上げている神話は、アメリカ連邦麻薬局(DEA)のウエブサイトに掲載されている 「医療カナビスの神話を暴く」 を基にしている。 このサイトは、一般にはカナビスに対するアメリカ政府の公式見解として扱われており、現在でもカナビス反対派の拠り所 になっている。

「医療カナビスの神話を暴く」 が作られたのは、2002年の中間選挙を前にして医療カナビス住民発議を牽制する目的があったとされている。このために、タイトルはカナビス一般ではなく「医療」カナビスになっている。しかし、内容的には嗜好カナビスも同時にターゲットにしている。形式的には、医療カナビスの神話を暴いて事実を知らせるという具合になっているが、実際には、その「事実」自体が事実に基づいたものではなく神話になっている。

ここでは、それを反駁するために2002年9月に作成されたドラッグ政策教育グループ(DPEG)の パンフレット を翻訳している。しかし、その後に、カナビスでは肺癌にならない研究やゲートウエイ理論の否定研究が発表され、バポライザーが一般化してきたことなどもあり、ここではさらに最新の情報を追加してDEAの神話を暴いている。

また、2002年に作成された当初のDEAのサイトのタイトルは 「医療カナビスの神話を暴く(Exposing the Myth of Medical Marijuana)」 だったが、内容には変化がないのに、現在ではタイトルだけが 「喫煙医療カナビスの神話を暴く(Exposing the Myth of Smoked Medical Marijuana)」 と変えられている。これは、ますますカナビスの医療価値を認める研究が相次いだために無視できなくなって、経口スプレーの サティベックス を承認することで、天然の「喫煙」医療カナビスを排除しようとする方針に転換したことを反映しているのかもしれない。

医療カナビス議論では、その歴史的な事情を知らないと理解しにくい部分もあるが、詳しく知りたい読者は、カナビスの医療利用の歴史アメリカの医療カナビス年表 を参考にしてもらいたい。また、DEAを同じ様に反駁している 医学者向けのサイト もある。


連邦麻薬局(DEA)の神話

1.カナビスの使用には健康リスクがありますか?
  [1-1] カナビスは中毒性のドラッグで、著しい健康被害をもたらす
  [1-2] カナビス使用による短期的な悪影響には、記憶喪失、思考の混乱、不安の拡大などがある
  [1-3] カナビスの使用による救急施設への来院が劇的に増加している
  [1-4] カナビスの長期使用には発癌性物質などによる健康への害がある
  [1-5] ジョイント1本にはタバコの4倍のタールが含まれている
  [1-6] カナビス喫煙後1時間以内に心臓発作を起こすリスクは5倍
  [1-7] カナビスの喫煙によって免疫機能が損なわれる
  [1-8] カナビスの乱用と依存性のよる治療施設に入所者が増加している
  [1-9] カナビスで治療を受けるティーンはアルコールよりも多い
  [1-10] 現在のカナビスは10年前よりも効力が強くなっている
2.カナビスには医療的な価値がありますか?
  [2-1] カナビス喫煙が将来的に医薬品として認可される可能性はない
  [2-2] 緑内障はすでにより効果的な医薬品が利用できるようになっている
  [2-3] カナビス喫煙は、癌、呼吸器系障害、脈拍の上昇、運動能力の喪失などを引き起こす
  [2-4] メイヨ・クリニックの報告では、食欲改善には標準的治療法よりTHCのほうが効果が低い
  [2-5] アメリカ医師会はカナビスを規制薬物の第1類のままにしておくことを勧告している
  [2-6] DEAはTHCの安全性と効能を調べる研究を支持している
  [2-7] 喫煙を伴わないマリノールは安全で医療的価値があると認定されている
  [2-8] DEAは天然のカナビスの安全性と効能についても検証している
  [2-9] 医療カナビス運動はドラッグ全面合法化の口実
3.カナビスは、吸っている本人以外にも害を及ぼしますか?
  [3-1] カナビスは、注意力、集中力、協調力、反応時間など安全運転に必要な能力に影響を与える
  [3-2] アルコールを使っていたドライバーと同じく12.5%の人がカナビスで死亡事故を起こしている
  [3-3] 全国で逮捕された成人男子の40%が逮捕時点でカナビスの陽性反応を示している
4.カナビスはゲートウエイ・ドラッグですか?
  [4-1] カナビスの害の中でも最も大きいのは、ヘロインやコカインなどを使うようになってしまうこと
  [4-2] カナビス・ユーザーがコカインを使うようになるリスクは非ユーザーの104倍以上
5.まとめ
  [5-1] カナビスは危険な中毒性のドラッグで、健康に著しい脅威となっている
  [5-2] カナビスには、合法医薬品の効能に匹敵するような医療価値はない
  [5-3] カナビス・ユーザーはコカインやヘロインを使うようになる傾向が非常に高い
  [5-4] ドラッグの合法化を主張する人たちはその実現のために 「医療カナビス」 を口実に使っている



  カナビスの使用には健康リスクがありますか?

[1-1]  カナビスは中毒性のドラッグ[1]で、使用者や他の人にも著しい健康被害をもたらします。カナビスの使用による短期的な害や長期的な問題については多くの文献で取り上げられています。

(1)   どの処方医薬品であっても、中毒を含めて患者に何らかのリスクを持っているので、カナビスの医療使用について健康リスクがあるかどうかという質問自体が不適切でまともとは言えない。

例えば、強い中毒性がありながらも鎮痛薬として一般的に処方されているパーコセット(オキシコドン・アセトアミノフェン)の場合は、心拍数の増大や減少、呼吸困難、顔のむくみ、じんましん、皮膚発疹、そう痒、幻覚、異常行動、著しい混乱、激しい疲労、皮膚や目の黄色化、口の乾き、吐き気、嘔吐、便秘、頭痛、眠気、目眩、衰弱、視野のぼやけ、などの副作用が知られている。

カナビスを利用している患者からは、パーコセットのような強い薬を懸念して、比較的に副作用の穏やかなカナビスを好む声が聞かれる。

もっと適切に質問するならば、特定の疾患や症状の治療に関して、カナビスと処方薬とどちらが健康リスクが高いか低いかを問わなければ意味がない。

(2)  カナビスは中毒性のドラッグだとは考えられていない。確かに、カナビスを使っている人は習慣化することもあるが、典型的な「中毒」といえるような症状は起こさない。

連邦ドラッグ乱用研究所(NIDA)は、「中毒」 について次のように書いている。
中毒とは、たとえネガティブな結果になることが予め分かっていても、制御が効かずに脅迫的な行動を起こす状態をいい、この行動は、快楽的な神経反応によって、さらに拍車がかかり自己報酬的になる。

中毒の主な特徴とすれば、中毒物質の摂取を制限する抑制機能が働かなくなることが上げられる。最も最近の研究では、中毒の切望感においては、得られる報酬そのものよりも報酬を受ける過程のほうが重要な役割を演じていることが示されている。

科学者たちは、さまざまな生化学的な細胞や分子のレベルで中毒について調べているが、その結果、中毒は脳の疾患であることが明らかになっている。

中毒の特徴と度合については、NIDAのジャック・ヘンイングフェールド博士が中毒を次の5項目に分けて、各ドラッグの中毒性を相対的に数値化している。
  • 依存性:  使用を中断する困難さ、つまり再び始めてしまって最終的に精神的に依存するようになる率を表し、その率が高くなるほど自分から対象薬物が必要だと思うようになる。また、実際に害を起こしていると自覚していても使おうとする度合を身体的依存性という。

  • 禁断性:  身体的依存性に関連した対象薬物特有の激しい禁断症状の出現度合。

  • 耐性:  切望感を満足させるために必要とする対象薬物の量で、だんだんと量を増やさなければ満足を得られなくなる度合を表す。身体的依存性に結び付いている。

  • 盲追性:  人間や動物実験で、他の薬物には目もくれないで何度も何度も繰り返し対象薬物を摂取しようとする度合を表す。身体的依存性に結び付いている。

  • 陶酔性:  通常は中毒そのものではないが、陶酔性の度合は中毒に関連している。また、薬物によって起こる酔っ払いは、個人的および社会的な悪影響を増大させる。

ヘニングフィールド博士のランクでは、カナビスの中毒トータル・スコアは、ニコチン、ヘロイン、コカイン、アルコール、カフェインのいずれよりも低くなっている。依存性、禁断性、耐性については、カナビスは他のどのドラッグよりも低く、補強性ではカフェインよりは上になっているが、その他のドラッグよりも低くなっている。カナビスで最も高いスコアは陶酔性で、アルコール、ヘロイン、コカインに次いで4番目にランクされている。

また、2002年6月の中毒ジャーナルに掲載された「人間のカナビス禁断症状について発表された過去論文の検証」(N T Smith, Addiction 2002 Jun: 97 (6):621-32)では、過去の研究を分析した結果、「動物による研究では、禁断に伴う一貫した影響は明確には示されておらず」、文献は「方法論的な弱点も抱えている」と指摘して、「この研究からは、カナビスには、オピエートのような乱用性のドラッグに見られるような明らかな禁断症状は起こらないと結論できる」 と書いている。

一方では、他のドラッグで中毒になった人で、カナビスの使用がそれを克服するために有用なことも示されている。バージニア州立大学のダイアナ・ツィヒェーウィツ博士らは、動物実験でTHCが耐性や禁断症状の上昇を抑えることを見出している(Cichewicz and Welch 2002)。また、NIDAの研究者たちは、THCを注射で自己投与できるようにした猿がTHCを使うのは、強制的にコカイン中毒にした直後しかなかったと報告している[
a]。19世紀には、カナビスが実際にコカインの禁断症状を軽減することが知られていたが(Mattison 1891)、以後この可能性を指摘した研究者は最近までいなかった。

(3)  上でDEAが、カナビスが中毒性ドラッグだとして掲げている参考ソース [1] には、そのことを示す研究や調査結果は実際には含まれていない。

最初にソースされているフォーリン・アフェア・マガジンの1998年9-10月号の記事は、実際には単なる普通の雑誌記事に過ぎない。各国のドラッグ政策について分析をしているが、中心はヘロインなどのドラッグで、スイスの注射針支給政策について言及している。カナビスの中毒性と副作用についても簡単に触れているが、引用ソースが書かれておらず、カナビスが中毒性であるという主張が単に個人的見解によるものなのか、何らかのデータの裏付けがあるものなのかはっきりしない。

第2のソースになっているドラッグ・ウォッチ・インターナショナルの 「NIDAの責任者がカナビスの中毒性を示す研究に言及」 というのは記事については、そのような記事自体が掲載された形跡がない。この理由については、次に引用されている 「カナビスに中毒性のあることが研究で判明」 というワシントン・タイムズの記事の発行日が1995年6月24日となっているが、正しくは1994年6月20日で間違っていることからもDEAのいい加減さが原因になっているのではないか。

また、ワシントン・タイムズの記事のタイトルは確かに 「カナビスに中毒性・・・」 と断定的な表現になっているが、本文では、「カナビスの喫煙は中毒になることもある(can)」 と書かれており、通常は中毒にはならないことを示唆する表現になっている。


[1-2]  カナビス使用による短期的な悪影響には、記憶の喪失、知覚の歪み、思考の混乱、問題解決能力の低下、運動能力の低下、筋力の減少、脈拍の上昇、不安の拡大などがあります。[2]

(1)  カナビス医療使用での短期的な悪影響を問題にするのであれば、同じ症状に使われるマリノールなどの他の医薬品の短期的悪影響と比較すべきだが、DEAは何の比較も行っていない。

(2)  マリノールの短期的な悪影響には、記憶の喪失、知覚の歪み、思考の混乱、問題解決能力の低下、運動能力の低下、筋力の減少、脈拍の上昇、不安の拡大など、カナビスと同じものがすべて含まれている。

マリノールは、カナビスの主要な活性成分であるTHCを化学合成してゴマ油でカプセル化した処方医薬品で、規制薬物の第3類に分類されている。一方では、カナビスは、医療価値がなく最も中毒性が高く危険な薬物とされる第1類に押し込められている。このことを理由にDEAはあちこちで、マリノールがあるのだからカナビスを使う必要はないと喧伝している。

しかし、マリノールの製造元のユニメッド製薬が行った臨床試験では、最も頻繁に現れる副作用として、全身では無力症、心臓血管関係では動悸、頻拍、血管拡張、顔面紅潮、消化器関係では腹痛、吐き気、嘔吐、神経関係では記憶喪失、不安、緊張、運動失調、混乱、離人症、目眩、多幸感、幻覚、パラノイド反応、眠気、思考異常などをあげており、これらの症状の発生率は3〜10%だとしている。

(3)  実際に 
マリノールとカナビスを比較した研究では、患者たちは、マリノールのほうがカナビスよりも不快な精神効果が大きいと苦情を述べている。また、1999年のIOM報告でも、「経口投与によるマリノールは、吸収が遅いためにすぐに効果が感じられず、さらなる投与を繰り返して過剰摂取になりやすいことがよく知られている」 と書かれている。さらに、「喫煙にともなう害を別にすれば、カナビスの副作用は他の医薬品で許容されている副作用の範囲内に収まっている」 とも書かれている。


[1-3]  最近では、カナビスの使用による救急施設への来院が劇的に増加しています。その数は、1993年から2000年の間に3倍以上にもなっています。

(1)  カナビスの使用による救急施設への来院者数は、そのままカナビスの危険性の因果関係を表しているわけではなく、実際はただ多くの人がカナビスを使っていることを示しているに過ぎない。なぜならば、救急施設への来院したすべての人は、カナビスを使ったことがあるかを聞かれることになっているが、それが直前の使用であったのかどうか、あるいはカナビスの使用が原因で来院したのかどうかを問われているわけではないからだ。

(2)  カナビスの使用による救急施設への来院者数については、連邦の薬物乱用&メンタルヘルス局(SAMHSA、www.DrugAbuseStatistics.samhsa.gov)の報告書も発表されているが、それによると、アルコールと他のドラッグの併用による来院者数も1994年から2001年の間に3倍になっている。また、2001年の来院者数について見れば、DEAが問題にしているカナビスの使用が11万512人なのに対して、アルコールと他のドラッグの併用による数は21万8005人になっている。

また興味深いことに、2000年から2001年にかけては、処方および処方外医薬品の非医療使用による来院者数が劇的に増加している。2001年の来院者数の合計は110万人になっているが、その43%がこのケースで、バリウム、ザナックス、鎮静剤、睡眠薬などの精神治療薬が全来院者数の19%を占め、次いで中枢神経系の医薬品が18%になっている。

中でも最も驚かされるのが中枢神経系の医薬品で、1994年に比較して、ヒドロコドンが313%、メタドン230%、モルヒネ関連210%、オキシコドン関係352%、その他の麻酔薬系鎮静剤が288%も増加している。

(3)  このように、1994年以来カナビスの使用による救急施設への来院者数が3倍になっているというDEAの主張は、カナビスの医療利用を禁じている連邦の政策を正当化するために過ぎず、実態的には、中枢神経に作用するカナビスの利用を禁止していることが、中枢神経系の医薬品の乱用をもたらす結果につながっているのではないかという見方もできる。

DEAは、カナビスと製薬会社の製品との間にある乱用危険性を公平に比較しようとはせず、ドラッグ政策と称してカナビス使用を非難するのために不釣合いに多くの予算を注ぎ込んでいるが、このことは実は、DEAの本当の役割が多国籍製薬企業の御先棒担ぎなのではないのかとすら思いたくなる。


[1-4]  カナビスの長期使用による健康への害も指摘されています。国立衛生研究所の研究では、1週間に5本のジョイントを吸っている人は、毎日タバコ1箱を吸っている人と同等の発癌性物質を吸い込んでいることが示されています。

(1)  カナビスの肺への影響を調べた大多数の研究では、カナビスのヘビースモーカーよりもタバコのヘビースモーカーのほうが、慢性的な咳、痰、喘鳴、気管支炎になりやすいと報告している[
b]。また、カイザー・パーマネンテ・ケア・プログラムの研究では、カナビスのデイリーな常用者でタバコを併用していない人の呼吸器系疾患の外来は、非喫煙者に比較してほんの僅かに多いに過ぎず、6年間の調査期間に、風邪、インフルエンザ、気管支炎で治療を受けたのは、カナビスの常用者が36%だったのに対して、非喫煙者は若干低い33%だったと報告している[c]。

(2)  DEAは、カナビスの煙による健康への脅威を理由にカナビスの医療使用の禁止を支持しているが、それならば何故タバコの喫煙の禁止についても支持しないのか? たとえカナビスの喫煙者が「毎日タバコ1箱を吸っている人と同等の発癌性物質を吸い込んで」いたとしても、同等の危険性のあるタバコを吸う場合には逮捕される脅威なしに吸うことができるが、これはダブルスタンダード以外の何者でもない。また、DEAはタバコの禁止を口に出さないばかりではなく、DEAも含めて、合法的タバコにカナビスのような医療効果があることを示した人は誰もいない。

(3)  ここ40年間、多くの研究が行われたが、カナビスが肺癌や気腫を引き起こすことを見出した研究は一つもない。1983年に開始され1997年現在も継続して行われている研究の最新報告では、「タバコの常用者では年齢とともに肺機能の年間低下率が加速していくが、カナビスに関しては現在までのとこる、たとえヘビーな常用者でもそのような傾向は見られず、慢性閉塞性肺疾患に発展する傾向も見られない」 と結論を書いている[d]。

●2006年に発表されたロスアンゼルスの研究では、最もヘビーなユーザーとしては生涯のカナビスのジョイント本数22000本以上、中からヘビーな場合では11000から22000本としているが、そうしたスモーカーでさえガンになるリスクは増加せず、少ししかカナビスを吸っていない、あるいは全く使っていない人たちと比較して何らリスクに違いはなかったと結論を書いている。
カナビス喫煙と肺ガンは無関係、ロスアンジェルスの大規模研究  (2006.5.23)

●2007年7月に発表されたニュージランドの研究では、ジョイント1本分のカナビスが肺の気道にダメージを与えて機能を低下させるリスクは、タバコの2.5本分から5本分になると報告している。しかし、肺ガンや気腫のリスクが考慮されていない上に、カナビスのジョイントを1日に1本以上最低5年間にわたって吸っている人と、タバコを1日に1パック以上を最低1年間吸ってる人を比較しており、対象期間の長さが5年と1年で全く違っている。
神話 カナビスは肺癌を引き起こす


[1-5]  カナビスには400以上の化合物が含まれていますが、その中にはタバコの煙のなかに見つかっている最も害のある物質も含まれています。ジョイント1本の煙を吸えば、フィルター付きのタバコの4倍のタールが肺に吸い込まれます。

(1)  トマトには360種類の化合物が含まれている。自然の植物に多数の化合物が含まれているからといって、それが直ちに危険を意味するわけではない。

(2)  上の[1-4]の(3)でも示した通り、たとえカナビスの煙に発癌物質が含まれていたとしても、今までに肺癌や気腫になることを見出した研究はない。



[1-6]  ハーバード大学の研究では、カナビス喫煙後1時間以内に心臓発作を起こすリスクが通常よりも5倍に増えることが示されています。[3]

(1)  ソースになっている研究 [
e] によると、平均4日前に心臓発作を起こした3882人の患者の中で、カナビス喫煙後1時間以内に心臓発作を起した人が9人で、このことから1時間以内に発作をおこす確率が通常より4.8倍も高くなるとしている。しかし、この人数は全体の0.2%に過ぎず、統計的な意味を持っていない。実際、筆者たちも、「カナビスの喫煙が心臓発作のトリガーになることは滅多にない」 とも書いている。また研究は因果関係を明らかにしたのもではなく単に相関関係を示しているだけで、追認調査で再現されたこともない。

(2)  必ずしもカナビスによる心臓発作の実際のリスクが高いとは言えないが、実際の医療現場においてカナビス喫煙後1時間以内に心臓発作に襲われるリスクを評価するには、患者本人と医師が、カナビス以外の医薬品を使った場合のリスクと比較検討する必要がある。例えば、C型肝炎をと繊維筋痛を合わせ持った患者の場合、C型肝炎で傷んだ肝臓に対して繊維筋痛を緩和する通常の処方医薬品を使うと生命が脅かされるような副作用が出る可能性がある。こうした場合は、カナビスを使えば心臓発作のリスクよりも鎮痛効果のメリットのほうが大きい。

また、患者の病気に対して効果的な医薬品がない場合は、そのために起こる可能性のある害と心臓発作のリスクを比較検討する必要がある。例えば、末期的な癌患者の場合、処方医薬品を飲み込めずに食べたり眠ったりすることができなくなるリスクよりも、心臓発作を起こすリスクをおかしてもカナビスで食欲や睡眠を得るメリットのほうが大きい。

(3)  いずれにしても、与えられた医療条件の中で受け入れ可能なリスクを比較検討して意思決定するのは患者本人と医師であって、政府の刑事裁判関係者が口出しすべきことではない。

●この問題が最初に報道された当時はまだ正式な論文は提出されておらず概要発表だけだったが、周到に設定された記者会見で感想を求められた研究者が派手な警告を発するという不自然なものだった。研究は、国立薬物乱用研究所(NIDA)からの資金提供を受けていたことや、同時期にカナビスの医療効果の発表が相次いでいたことなどから、それを牽制する意図かあったのではないかと当初より内容を疑問視するむきもあった。
神話 カナビスは心臓病のリスクを高める


[1-7]  また、カナビスの喫煙によって免疫システムが弱体化され、肺の感染症リスクが増大します[5]。コロンビア大学で行われた研究では、1日おきのジョイント1本を吸ったグループでは、白血球細胞の数が通常より39%も少ないことが見出されています。このことは、免疫システムがカナビスの喫煙でダメージを受けて、感染症や病気に非常にかかりやすくなることを示しています[6]。

(1)  リン・チンマー、ジョン・モルガン両博士は、『
マリファナの神話、マリファナの事実』 の免疫システムを扱った章で、専門雑誌に掲載された40以上の論文を検証し、「カナビス・ユーザーが、非ユーザーに比較して感染症にかかりやすいというエビデンスはどこにもなかった」 と書いている。「研究者たちの間では、カナビス・ユーザーと非ユーザーではT細胞の形質転換には何の違いもないという結論で一貫している。・・・細胞性免疫を使った他の実験でも、細胞の免疫反応には一貫した違いは何ら見付かっていない。」

(2)  DEAがこの節で引用している資料は、いずれも科学研究をソースにしたものではない。例えば、 6番目の資料 は、ジェームス・ドブソン氏が書いた新聞記事だが、もともと彼は医師ではなく、南カリフォリニア大学で博士号を取得し、14年間児童心理学者として小児科の臨床准教授を務めた後、「フォーカス・オン・ファミリー」という福音主義の保守的なキリスト教団体を設立して代表者になった人物として知られている。カナビスで白血球の数が39%減ったというドブソン氏の主張を裏付ける論文は、この記事には一つも挙げられていない。

(3)  1999年に発表された全米科学アカデミー医学研究所の IOM報告 でも、免疫システムへの影響に言及したこの論文に最初に触れてが、結論では、「培養細胞および動物実験では、免疫調節物質としてのカナビノイドは、一部の免疫反応を増加させる一方で他の免疫反応を減少させることが明らかになっている。反応の変化は、投与量や搬送タイミング、試験している免疫細胞によって異なっている。・・・上に示された影響の多くは、強い精神作用を引き起こすレベルの多量投与で見られたものであって、患者が治療的恩恵を得るのに必要な量を大きく越えている」 と書いている。

(4)  当然のことながら、カナビスの医療利用に当たっては、単に害があるかどうかではなく、他の薬のリスクと比較してどちらに大きな害が見込まれるかを検討しなければ意味はない。

●ドブソン氏のカナビスで免疫力が低下するという主張は、1970年代前半にコロンビア大学のガブリエル・ナハス教授の行った実験のことを指していると思われるが、その後、ナハス教授も含めて多数の科学者グループが同じ方法で追試実験を行ったが誰も結果を再現することはできなかった。コロンビア大学も、ナハス教授の理論に基づいた研究の多くが方法論的に深刻な誤りがあり捏造の疑いがあるとして、1975年に彼のカナビス研究と大学とは無関係だと公式に表明して追放している。
ダッチ・エクスペリエンス、第14章 道化師登場。カナビス禁止論者たち
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[1-8]  カナビス・ユーザーは、カナビスに依存するようになって治療が必要になるまで乱用をやめることができなくなることもあります。1999年には、20万人以上のアメリカ人がカナビスの乱用と依存性が主な原因で薬物乱用治療施設に入所しています。

(1)  カナビスの乱用で治療施設に入所する人が増えたのは、刑務所の過密状態を減らすために州政府が「投獄の代わりに治療を」という方針に切り替えたことが理由になっている。軽微なカナビス事犯で逮捕された違反者は、薬物乱用の治療施設に入所するか、それとも刑務所に入って前科持ちになるか選択させられるが、当然のことながら、圧倒的大多数は治療施設に入所することになる。DEAは統計を使って、カナビス・ユーザーがいかにも治療を求めているかのように見せかけている。

DEAのこのようなデタラメな主張には、カナビスは以前思われていたよりも危険であると世間に信じ込ませたいという意図が隠されている。直接的な表現ではなく間接的な言い回しでカナビスの脅威を臭わせることで以前の常識を覆すことを狙っているが、真実とはかけ離れている。入所者数の増加は、単に、DEAや禁止論者のカナビスに対するヒステリーがますます高まっていることを反映しているに過ぎない。

(2)  医療用医薬品を使って治療施設に入所する人の数も増加している。[1-3]でも見たように、特にザナックスのような抗鬱剤やオキシコンチンのような鎮痛剤が増えている。しかし、アルコールで薬物乱用治療施設に入所する人数は、どれに比較してもはるかに多いことも見逃してはならない。

(3)  自由社会においては、人々が薬物依存症にならないためと称して政府が嘘をつくことは許されない。現在の政府の政策には一貫性がなく、アルコールやタバコの依存を防止することに真剣に取り組まず、その分を補うかのように他のドラッグに強い態度で臨んでいる。しかし実際問題として、もし政府の最終目的が人々を薬物依存にしないことであるならば、現在禁止政策に費している財源を乱用防止プログラムに注ぎ込んだほうがはるかに大きな効果を上げることができる。


[1-9]  カナビスの使用で治療を受けるティーンが、アルコールやその他のドラッグよりも多くなっています。カナビスによる未成年の薬物乱用治療施設への入所者数は、1994年が全入所者の43%だったものが1999年には60%に上昇しています。

(1)  ティーンエイジャーのカナビス乱用が増えているかいないかという問題が、成人のカナビスの医療使用を禁止する理由にはならない。ティーンは、ビール、タバコ、カフェイン、さらに一部の医薬品も乱用しているが、そのような議論はない。また、ティーンのカナビスによる治療施設への入所が増えているかどうかは、患者が医療目的で合法的にカナビスを使うこと認めるかどうかとは全く関係がない。

(2)  連邦政府は、子供のカナビス使用について親に恐怖心を抱かせるようにメディア・キャンペーンを盛んにやっているが、それが、すすんで自分の子供を施設に入所させようとする親の動機をつくり出している。偏屈な禁止政策によって、「禁断の実」という固定観念が何世代にもわたって植え付けられた結果、それを犯して果実を食べようとする若者たちが増え、その結果、逮捕されて治療を強制される若者が増加することになり、さらにまた一段と厳格な禁止政策が正当化されるという恐怖の循環になっている。

(3)  治療プログラム提供側の過激な宣伝が、子供のカナビス使用を施設で直してもらおうと思う親の心を煽っている。

(4)  現在の若者のカナビス使用が、以前の若者のカナビス使用よりもダメージが大きくなっていることを示す証拠は全くない。実際には、親の恐怖感の増大、治療施設の過激な宣伝、公立学校でのドラッグテストの増加やゼロトレランス政策が最も直接的で主要な原因となって、未成年の施設入所を増やしている。

(5)  利用可能なデータでは、カナビスによる施設入所者数は、コカイン、ヘロイン、アルコールの入所者数を下回っている。1999年の州認可の薬物治療施設への入所者総数は158万7510人になっているが、そのうちカナビスが主要な理由となっているのは21万4535人で全体の13.5%になっている。しかもそれらの人たちは、必ずしもDSM基準のカナビスの依存症や乱用を満たしているわけでもない。カナビスに対して、コカインは若干上回る程度の14%だが、最も多いアルコールの場合は44.3%、次いでヘロインが15.9%になっている。

カナビスが主要な理由で入所した患者の大多数(57.1%)は、上で指摘した刑事裁判によるもので、雇用主の命令や従業員支援プログラム(EAP)によるものは1.5%しかない。また、3分の1以上の36.5%が18才以下で、全体では19.3%が刑事裁判システム関連となっている。

さらに詳しい分析によれば、カナビス、アルコール、PCP、LSD、アンフェタミンが主要な理由で入所してきた人は、刑事裁判システムに関連していることが多く、逆に、コカイン、ヘロイン、鎮静・抗鬱系医薬品で入所する人は刑事裁判システムとの関連は少なく、大半が自分から入所している[
f]。

(6)  ティーンのカナビス乱用が増えているとすれば、それは現在の禁止政策が子供を薬物乱用からマモスことに失敗していることを明確に示している。しかし、この事実については、DEAや連邦の政治家、既得権を持った禁止論者は認めることを拒んでいる。

(7)  いずれにしても、DEAは、合法的陶酔物であるアルコールの禁止は口にせず、オピエートの医療使用も禁じていないのに対して、カナビスの医療利用を強行に禁止している。


[1-10]  現在のカナビスは10年前のものよりも効力が強くなっています。ミシシッピー大学の効力監視プロジェクトのデータによれば、ストリートで販売されているカナビスの平均THC含有量は、1985年に3.71%だったものが1998年には5.57%に上昇しています。また、アメリカ産のシンセミラの平均THC含有量は、1977年に3.2%だったものが1997年には12.8%まで増えています[7]。

(1)  DEAは、片方ではカナビスの医療使用を認めない理由としてカナビスの煙の害を指摘しておきながら、もう一方では、カナビスの効力が増えていることを問題にしているが、これらの主張は矛盾している。何故ならば、効力の強いカナビスほど吸い込む煙の量が少なくても済むからだ。効力の強いシンセミラを使えば、患者は4〜6時間ごとに1、2服するだけで血中のTHC濃度レベルが保たれて治療効果が持続する。

(2)  DEAが主張するカナビスの害はどれもが患者の吸い込む煙の量に直接関連している。実際、煙の吸引以外のリスクに関しては、カナビスと合成THCの合法マリノールとでは共通しているので、患者にとっては効力の強いカナビスのほうが好ましいことになる。




  カナビスには医療的な価値がありますか?

[2-1]  いかなる薬であれ、本当に医療価値があるかどうかは、医学専門家によって行われた最良の科学をベースにして決定されなければなりません。1999年に全米医学研究所(IOM)は、カナビスとその成分であるカナビノイドの医療価値の可能性を評価した包括的な研究報告書を発表していますが、その中では、カナビスの喫煙はいかなる疾患の治療にも推奨できないと結論を書いています。さらに、現在では、もっと効果的な医薬品が利用できるようになっているとも指摘しています。このような理由から、医学研究所は、カナビスの喫煙が将来的に医薬品として認可される可能性はほとんどないと結論付けています。[8]

(1)  DEAは、「最良の科学をベースに」と言いながらダブルスタンダードを使い、一方では、全く科学的根拠もなくカナビスを規制薬物の第一類に不当に分類している。実際、1988年には、DEA自身の行政法判事が膨大なあらゆる研究資料を検証した後で、カナビスを処方可能な規制薬物の第2類に分類し直すべきだという判決を下し、カナビスは 「人間に対して最も安全な治療的成分をもった物質」 であると結論づけている[
g]。

(2)  1937年の連邦議会でカナビスが違法化が審議されたときには、医学専門家がカナビスの医療使用については認めるべきだと主張している[h]。

(3)  DEAが取り上げているIOM報告では、喫煙による医薬品の使用に触れた後で、「衰弱症状に陥った患者では、カナビスの喫煙で安堵感が得られる人もいる」 と指摘し、「末期的な病状や衰弱症状にあるような一部の患者では、喫煙による長期的なリスクは大きな問題にはならない」 とも書いている。

(4)  IOM報告では、基本的な結論の中で、医師がカナビスを必要としていると患者と協議してN-of-1 trialすることを提唱しているが、DEAはそれを無視して言及を避けている。

N-of-1 trial というアプローチは、特定の一患者に対していろいろな治療法を適用してどの治療法が一番有効かを判定するもので、医師の厳格な監督と文書管理のもとで、患者にすべての情報を与えて実験新薬や未認証の薬なども投与して実施する方法だが、IOMの提唱後、禁止法を志向する司法省や保険社会福祉省などの政府機関が一緒になって、いかなるN-of-1 trialも認可しないという方針を掲げ、事実上、カナビスのTHCを化学合成したマリノールを広めることを目的にした研究以外は許可しないことにしてしまった。

このIMOの勧告を封じる決定によって、政府の許可の下でカナビスの医療利用を支持するデータを得ようとするあらゆる試みが徹底的に排除されてしまった。

(5)  司法省当局がカナビスの医療使用に対する禁止を継続することに賛同することは役割の範囲を逸脱しており、医療専門家と患者自身だけが各々の医療方針を決定する権利を持っている。

●確かに、カナビスの喫煙議論は、医療カナビスに反対する科学的根拠としては最も説得力があったが、現在ではカナビスを煙ではなく蒸気にして吸引する方法が見出され、喫煙による害を避けることができるようになっている。しかし、バポライザーはヨーロッパを中心に発達してきたこともあって、本論が書かれた2002年当時のアメリカではまだバプライザーは一般的ではなく、どのようなものなのかも知られていなかった。

●実際、1999年にIOM報告書が発表された当時は、医療的に十分な性能を備えたバポライザーはまだ開発されていなかった。報告書では、カナビスの医療効果を認めながらも、喫煙による弊害を度々取り上げ、「煙を出さずに迅速な発現を実現するカナビノイド搬送システム」 の必要性を指摘している。しかしその直後の2000年11月にドイツの会社から ボルケーノ・バポライザー が発売されて状況は一変した。それ以後に行われた数々の研究で、医薬品として「喫煙カナビス」を使うのは危険だという恐怖話がもはや過去の話であることが示された。
バポライザー新研究、医療カナビスに対する最後の反対理由を完全粉砕  (2007.5.2)

●今日の鎮痛剤はどれもが「すぐに効く」ことを謳っているが、誰でも、すぐと言う意味が15分から1時間かかることを当たり前のように思っている。しかし、片頭痛や痛み、パニック、急性興奮などの医薬品を開発しているカリフォルニア州パロアルトを本拠にするアレックサ製薬にとっての 「すぐ」 は、数秒以内を意味している。この会社では、肺を通じてほとんど瞬間的に血液に吸収されるタバコのニコチンのように、「喫煙」することのできる医薬品を開発に取り組んでいる。
迅速効果を約束する「喫煙型」鎮痛薬  (2007.1.31)

●喫煙にしてもバポライザーにしても、肺を経由した搬送システムという点では同じで、胃から吸収する経口摂取や舌の下の粘膜から吸収させる方法とは根本的に異なっている。それは、肺の表面が、総面積100平方メートルにも及ぶとされる肺胞群に覆われ、線毛や粘膜の無いおよそ5億個の気嚢を通じてカナビノイドが直接血流に送り込まれるようになっているために、効果が迅速に表れることが理由になっている。
バポライザーの過去・現在・未来  (2007.5.15)

●医療カナビス・ユーザーの大多数が健康リスクがあるにもかかわらずいまだにハーバル・カナビスを喫煙し続けている。この現実はポジティブな経験がそうさせていると解釈すべきであり、権威ある専門家に対しても問題を前向きに見つめるように促している。従って、たとえ製薬化された製品が多くの専門家の賛同を得たとしても、多くのユーザー満足しているという意味では、ハーバル・カナビスが依然としてゴールド・スタンダードだといえる。
ハーバル・カナビスの将来  (2007.9.2)
最良の医療カナビス摂取法は? 総合評価ではジョイントが一番  (2006.5.5)


[2-2]  医療カナビスを擁護する人たちは緑内障のような病気の治療にカナビスが使えると盛んに言っていますが、緑内障はすでにより効果的な医薬品が利用できるようになっている疾患のよい例です。IOM報告でも、緑内障の進行を遅くしたり眼圧を低下させる治療には6群の医薬品と多重外科手術が利用できると書いています。

(1)  確かにIOM報告にはそう書かれているが、現実には、6群の医薬品や多重外科手術を受けた緑内障患者さんの非常に多くが不満足な結果しか得られていない。しかしながら、一方では、同じ患者さんの非常に多くが、カナビスで緑内障の眼圧コントロールができたと報告している。

(2)  非常に多くの患者さんが、副作用のある薬や失明の恐れのある手術のリスクまで受入れようとまでは思っていない。

(3)  非常に多くの患者さんが、処方医薬品の購入や症状改善のため手術の高額な費用を賄うことができないが、カナビスならば、自宅でトマトを栽培するのと同じで十分に費用を賄うことができる。

●現在、オランダ政府の医療カナビスの生産を受け持っているジェームス・バートンはアメリカ人で、自身が緑内障患者でもある。アメリカでは自分用の医療カナビスを栽培していたが、それが発覚して1年間投獄されオランダに移住してきた。彼の存在は、カナビスが緑内障に有効なことを端的に示している。
オランダ政府、医療カナビス販売開始  (2003.9.1)

●アメリカ政府が特定の病気を持つ患者向けにカナビスを配布していた実験新薬プログラム(IND)で最初の適応患者になった ロバート・ランダルは、緑内障で、政府の要求するあらゆる薬を試し何回となく手術を受けたがすべて失敗し、ついに1976年にアメリカ政府から正式にカナビスを支給されるようになった。彼は2001年6月に亡くなったが、カナビスのおかげで生涯にわたって視力を失うことはなかった。彼は、医療カナビスの普及にも生涯を捧げ 「医療カナビス運動の父」 と呼ばれている。
In Memory: Robert Randall, Father of the Medical Marijuana Movement

●また、実験新薬プログラム(IND)は1992年に打ち切られたが、現在でも生き残ってカナビスの支給を受けている5人の適応患者の一人であるエルビー・ミューシッカは、緑内障であらゆる薬を試し何回となく手術を受けて右目を失明したが、カナビスによって左眼の視力が回復している。「自分の奇跡はカナビスがもたらしてくれた」 「今思えば、緑内障で失明することは決してなかった。失明したのは無知が原因だった」 と語り、今ではカナビスの合法化運動に積極的に取り組んでいる。
Elvy Musikka Federal IND Patient


[2-3]  その他の研究でも、カナビスの喫煙はさまざまな健康問題を引き起こすことが示されています。その中には、癌、呼吸器系障害、脈拍の上昇、運動能力の喪失、などがあります。さらに、カナビスは、免疫シムテムのT細胞の能力を弱めて感染症と闘う力を失わせます。また、すでに免疫システムに問題を抱えている人にはより大きな害をもたらすことも示されています。[9]

(1)  実際にカナビスが癌を引き起こしたとされるケースは今まで一つも報告されていない。

(2)  カナビスが引き起こす呼吸器系の障害は軽微なもので、特に医療価値もない合法のタバコに比較すれば決して大きくはない。実際、現在までのところカナビスが閉塞性肺疾患の原因物質になることは示されていない。
[1-4](3)参照。

(3)  カナビスによる脈拍の上昇や運動能力の喪失は、合法的な合成THCマリノールに比較すれば大きくはない。実際、カナビスとマリノールを比較する研究に参加した人たちは、マリノールではより方向感覚が狂うばかりではなく、医療効果が十分に感じられないことが多く、カナビスの方が好ましいと報告している。[i]

(4)  カナビスがT細胞の機能を低下させることは実際には確認されていない。[1-7]参照。

(5)  カリフォルニア大学サンフランシスコ校のドナルド・アブラム博士は、カナビスのよるHIV/エイズ患者の食欲増進作用について調べる研究を繰り返しDEAに申請しているが、その度に拒否されている。 しかし、研究目的をカナビスによる害の発見と変更した途端に研究の許可が下りた。2000年に発表されたアブラム博士の研究報告では、たとえ免疫システムが極端に損なわれたHIV/エイズ患者であっても、カナビスの使用によるいかなる害も見られず、対照グループに比べ体重が増えたと報告している。

●2007年に発表されたアブラム博士のチームの臨床試験データでは、カナビスがプラセボに比較してHIVの神経因性疼痛を顕著に軽減し、利用にあたっては十分な安全性を持っていることが明らかにされている。この研究は、ここ20年間で、喫煙によるカナビスの効果を評価した臨床実験とすれば、アメリカで初めて行われたもの一つになっている。
カナビスの喫煙でHIVの神経障害疼痛が顕著に軽減  (2007.2.15)


[2-4]   さらに、メイヨ・クリニックで行われた最近研究では、癌患者の食欲改善には標準的な治療法に比較してTHCのほうが効果が劣っていることが示されています。[10]

(1)  実際には、圧倒的多数の研究が、他の治療法よりカナビスのほうが効果の高いことを認めているが、DEAは、メイヨ・クリニックという権威ある研究所の名前を使って、いかにもカナビスに医療効果がないかのような印象を与えようとしている。

(2)  この文の言い回しの狡猾なところはTHCという用語の使い方にある。
2001年にメイヨ・クリニック行われたこの研究 で使われているTHCは、実際には合成THC(マリノール)であって天然のカナビスではない。研究者たちは、標準的な治療法として使っている 酢酸メゲストロール がインポテンツ・高血圧・発熱・不眠、むかつき、高血糖などの強い副作用を引き起こすために、副作用の少ないマリノールに変えようとして実験を行ったもので、結果が期待通りにならなかったと落胆している。

(3)  大多数の研究では、カナビス程の効果は合成THCでは得られないことが示されている。したがって、この研究結果と天然のカナビスの治療効果の間には何ら関係性は示されていない。

●例えば、テネシー医薬品評議会は、癌の化学療法にともなう吐き気や嘔吐の治療で 「THCカプセルを投与した患者グループよりもカナビスを吸引した患者グループのほうが23%も成功率が高い」 ことを見出している。またニューメキシコの研究者たちも 「カナビスを吸引した患者グループでは90.39%に改善が見られたが、THCを経口投与したグループの改善率は59.65%にとどまっている」 と報告している。
マリノール 対 天然のカナビス  (2005.8.11)

●カナビス(THC3.9%)を喫煙した患者では、平均して、4日間で1.1kgの体重増加が見られた。マリノールの経口投与でも同じように体重の増加が見られたが、「現在推奨されている服用量の8倍」 を摂取した場合に限られていた。
エイズ治療研究、カナビス喫煙は 「明らかに医療効果がある」  (2007.6.28)


[2-5]  アメリカ医師会は、カナビスを規制薬物の第1類のままにしておくことを勧告しています。

(1)  アメリカ医師会(AMA)は、1977年にカナビスの使用を刑事罰で扱わないように勧告しており、以後その立場を崩したことはない。

(2)  アメリカ医師会は、現在では、カナビスの医療利用についてさらなる研究を行うことを支持している。

(3)  多くの著名な医療専門家団体がカナビスの医療使用を支持している。110万人以上の医療専門家で組織されたアメリカ公衆衛生協会は、1995年にカナビスの規制管理の管轄を警察から厚生関係部門へ移すことを勧告している。カナビスの医療利用を支持している団体のリストは 
http://www.medicalcannabis.com/PDF/Grouplist.pdf で入手できる。

●実際にアメリカ医師会の 医療カナビスに対する見解 を見てみると、基本的にカナビスに医療価値があることを前提に、カナビスの医療利用についてさらなる適切な対照研究を行うことや、煙によらない摂取デバイスの開発の必要性についても強調している。その上で、研究結果が十分に揃うまではカナビスを規制薬物の第1類のままにしておくことを勧告するという内容になっている。

●しかし、薬学研究団体のサイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)の代表を務めるリック・ドブリン博士は、政府がドラッグ乱用研究所を操って科学研究用としては標準以下の植物を作らせ、研究者に入手しにくくすることで、カナビスの医療研究を妨害していると主張している。
抑圧される医療カナビス研究、真実の発覚を恐れるアメリカ政府  (2004.2.11)
アメリカ連邦政府当局、バポライザー研究の許可申請を拒絶  (2005.9.1)

●アメリカ医師会の下部組織である医学生部会は、2008年6月はじめにシカゴで開催された年次カンファレンスにおいて、カナビスを医療利用できるようにするためにAMAは規制薬物分類の変更を支持すべきだとする決議を満場一致で採択している。また、同年2月には、AMAに次いで大きいアメリカ内科医師会も同じようなポジション・ペーパーを発表している。
アメリカ医師会 医学生部会が決議、将来の医師たちも医療カナビスを支持  (2008.6.27)
アメリカ内科医師会、医療カナビスの禁止緩和を強く要請  (2008.2.15)


[2-6]  DEAは、THC(カナビスの主要精神活性成分)の安全性と効能を調べる研究を支持しています。そのような研究は国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)の認可を受けて現在進行中です。

(1)  合成THCの安全性と効能について行われている研究は、天然のカナビスの医療可能性を示そうとする研究とは何ら関係がない。DEAのこうした言い方自体が、人々を目を真実から逸らしたままにしておきたいと意図していることを示している。

(2)  合成THCの安全と効能に関する研究は、マリノールを規制薬物の第2類として認証する際に行われており、DEAにとは当初から非常に関係の深い関係にある。

(3)  しかし、平均的な読者ではこの文章からは、政府が実際には、天然のカナビスの医療使用の安全性や効能を調べようとする研究を妨害して許可していないという事実まで読み取ることはできない。

●薬学研究団体のサイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)の代表を務めるリック・ドブリン博士は、政府がドラッグ乱用研究所を操って科学研究用としては標準以下の植物を作らせ、研究者に入手しにくくすることで、カナビスの医療研究を妨害していると主張している。
抑圧される医療カナビス研究、真実の発覚を恐れるアメリカ政府  (2004.2.11)
アメリカ連邦政府当局、バポライザー研究の許可申請を拒絶  (2005.9.1)

●DEAのメリー・エレン・ビッツナー行政法判事は、学術研究目的でのカナビスの自家栽培について、「公共の利益」に合致するものだという判断を示した。この判決は、マサチューセッツ大学アマースト校が連邦食品医薬品局(FDA)の認可した研究に使うためのカナビス栽培を認めるように申請したことに対して、2004年にDEAが拒否したことは不適切だったと認定した。
DEA行政法判事、連邦の研究用カナビス独占供給体制に反対判決  (2007.2.15)


[2-7]   そうした研究の結果、合成THCのマリノールは1985年から処方利用できるようになりました。食品医薬品局(FDA)では、マリノールが安全で効果があり、癌の化学療法にともなう吐き気や嘔吐の治療やエイズ患者の体重減少の治療に医療的価値があると認定しています。それでいて、マリノールは、カナビスの喫煙に関連した健康への害は引き起こしません。

(1)  DEAのこの文では、マリノールがカナビス「喫煙」のような健康への害は引き起こないと述べているが、この言い回しで、読者にマリノールにはメリットだけで何の問題もないと思い込ませようとしている。実際には、マリノールの副作用は、
[1-2] でも指摘したように、喫煙の害を除けばカナビスの害と本質的に変わらない。しかも、カナビスの喫煙による呼吸器系の害といっても、カナビスでは肺癌や気腫を引き起こさないことが研究で示されている。[1-4] 参照。

(2)  また、DEAは、吐き気や嘔吐に苦しむ患者に対してマリノールがカナビスと同等の効果を持っているという印象を読者に与えようととしているが、いくつもの研究で、マリノールがカナビスと同等に効くと報告している患者は全体の約3分の1程度に過ぎないことが示されている。また、カナビスとマリノールの双方に詳しい癌専門医を対象にした1990年の調査では、マリノールが好ましいと感じているのは13%だけで、同等が43%で、残りの44%はカナビスのほうが好ましいという結果が出ている[j]。

(3)  さらに、DEAは、喫煙による治療の優位性については何も触れようとしていない。吐き気や嘔吐などをはじめ体重減少をともなう消化器系の疾患に苦しんでいる多くの患者にとっては、口から摂取する医薬品は、飲み込んだり消化器官に到達させるのに困難をともなう。しかも効果の発現に時間がかかる。この点では、カナビスの煙による吸引は容易で、効果も迅速に発現する。カナビスに備わっているこの2つの特徴は、医療面では決定的に重要でユニークなものになっている。

●患者たちからは、しばしば、天然のカナビスよりもマリノールのほうか精神への影響が大きいという声が聞かれる。マリノールの副作用には、ハイになってしまうことのほかにも、眠気、目まい、混乱、不安、気分の変わりやすさ、考えがまとまらない、知覚困難、協調性がなくなる、興奮、うつ、といった症状が報告されている。一般に、マリノールの処方をうけた患者の3分の1がこのような副作用を一つ以上を経験している。またこうした精神的症状が、マリノール摂取後4〜6時間も持続する。
マリノール 対 天然のカナビス  (2005.8.11)

●高効力のカナビス(3.9%)を喫煙した患者では、平均して、4日間で1.1kgの体重増加が見られた。マリノールの経口投与でも同じように体重の増加が見られたが、「現在推奨されている服用量の8倍」 を摂取した場合に限られていた。被験者たちは、カナビスの喫煙でもマリノールの経口投与でも酔いを感じたと報告しているが、それらの効果は、「ポジティブで問題を感じない状態」 だったとも述べている。
エイズ治療研究、カナビス喫煙は 「明らかに医療効果がある」  (2007.6.28)


[2-8]  さらに、DEAでは最近、衰弱症状の治療に対する天然のカナビスの安全性と効能について検証するために、カリフォルニア大学サンディエゴ校に厳密な科学研究を行うことも認可しています。

(1)  この研究で使われているカナビスは品質が悪くTHC濃度が低いために、治療効果を得るためには不快な煙を多量に吸い込まなければならないように仕向けている。

(2)  すべてのカナビス研究では、DEAが承認したカナビスしか使えないように制限されているが、一方では、連邦で認められた唯一のカナビス栽培場での高THCのシンセミラの生産を認めず、ほかからの入手も禁じている。このようにすることで、研究では、煙による害が最大に現れ、効果が最小になるように意図している。



[2-9]  カナビスの医療使用を求めているキャンペーンには、すべてのドラッグを完全に合法化しようとする運動の戦術的な策略が隠されていることも注意しなければなりません。合法化グループは、深刻な病気に苦しむ人たちへの同情を装ってドラッグの非犯罪化の議論をすり替えています。
実際、2000年1月のニューヨークタイムズのインタビューで、レンデスミス・センターのエサン・ネルドマン代表は、ホワイトハウスドラッグ撲滅対策室(ONDCP)のバリー・マカフェリー長官(当時)の医療カナビス問題はドラッグ合法化の口実になっているという非難を否定せず、「医療カナビスの運動は、カナビスの合法化につながるのでしょうか?」 という記者の質問に対して、「そうなることを望んでいます」 と答えています。

(1)  たとえ医療カナビス法改革支持者が同時にカナビス非犯罪化の支持者だったとしても、医療カナビス問題の本質とは直接関係はない。合法的なカナビスの医療利用を支持する立脚点は、カナビスに医療効果があるからであって、患者や家族に役立つからだ。

(2)  例えば精神安定剤のバリウムのような合法的処方医薬品が利用できるようにしたからといって、すべてのスーパーマーケットの棚に並べて売るための口実になっているわけではない。

(3)  DEAの役割は現行の法律の執行であって、アメリカ市民が起こした法改革運動に介入することではない。DEAが住民発議に口出しすることは法律で禁じられている。

●エサン・ネルドマンが代表を務めるリンデスミス・センター(現 ドラッグ・ポリシー・アライアンス、DPA)は、1994年の設立当初から、国のドラッグ戦争が社会や個人に益よりも多くの害をもたらしているとして、カナビスに限らずすべてのドラッグを合法化して規制管理することを求めている。隠れ蓑に医療カナビスへ取り組んでいるわけではないので、彼の応答はごく自然なもの。それは、DPA のサイトを見ればすぐ分かる。

●「2000年1月のニューヨークタイムズのインタビュー」 というのは 「ドラッグ戦争に小連合グループが強力に反対」 というタイトルの記事で、医療カナビスを主題としたものではない。この記事でネルドマンが主張しているのは、害削減という観点から禁止法よりも合法化のほうが全体の害が少なくなるということで、ドラッグを合法化してどんどんやろうというような趣旨ではない。

しかし、DEAは、いかにもこの記事が医療カナビスを話題にして書かれたように装い、その中でネルドマンがうっかり本音を漏らしたように印象づけようとしている。しかも引用部分ではパラグラフの最後の一行をわざと無視している。

「医療カナビスの運動は、カナビスの合法化につながるのでしょうか?」 という記者の質問に対して、「そうなることを望んでいます」 と答えた。しかし彼は、よりハードなドラッグを支持しているという マカフェリー長官のコメントは文脈を取り違えている とも指摘している。
Small but Forceful Coalition Works to Counter U.S. War on Drugs  By CHRISTOPHER S. WREN Published: January 2, 2000 New York Times

●『医療カナビスに反対する人たちは、しばしば、カナビスの擁護者が偽善を装って、嗜好利用の道を切り拓くために医療利用を推進しているだけに過ぎないと言う。だが、病気で苦しむ病人たちが必死の思いで合法的にカナビスを入手しようと格闘してきた歴史を学んだ者ならば、その言い分が正しくないことを知っている。医療カナビス擁護者に対するこのような偏見は、実際には、政府自身の卑しさを写し出した鏡像なのだ。』(レスター・グリンスプーン)
神話 医療カナビスは嗜好目的の口実

●これまで実際に医療カナビス運動の先頭に立って合法化を求めてきた人たちの多くは病気で苦しむ病人自身や医療関係者が大多数で、そこには110万人以上の医療専門家で組織されたアメリカ公衆衛生協会や、アメリカ看護師協会、アメリカ予防医学協会、3万6000人の会員を持つ アメリカ精神医学会、12万4000人に会員を持ちアメリカで2番目に大きい医師の団体である アメリカ内科医師会 などの 主要な医療機関 も含まれている。これらの人や団体は必ずしもカナビスの嗜好用途の合法化を支持しているわけでもなく、そもそも彼らには医療カナビスを 「口実」 にしなければならない理由など始めから存在していない。

●また、ドラッグ全般の合法化を求めているグループとしては、DPAのほかにも、現在のドラッグ政策が誤っていると考える現役および退役警察官を中心に組織されている LEAP がよく知られている。LEAPの場合は、暴力や警察の腐敗や地下組織の一掃などに焦点を絞っており、医療カナビスへの目立った取り組みは行っていない。このように、ドラッグの合法化を求めるために医療カナビスを隠れ蓑にしなければならない理由などはどこにもない。
医療カナビス運動の取り組みと展望  (2007.7.13)



  カナビスは、吸っている本人以外にも害を及ぼしますか?

[3-1]  ドラッグが本人以外にも害を及ぼすことは、酔っ払い運転によって公共の安全が脅かされることを考えてみれば分かります。カナビスは、注意力、集中力、協調力、反応時間など安全運転に必要なさまざまな能力に影響を与えます。こうした影響は喫煙後24時間も持続することもあります。カナビスを使っていると、距離感の判断、信号への反応、標識の確認が難しくなります。[11]

(1)  極めて多くの医薬品の場合も、使用説明書で、眠気や協調運動の喪失が起こると書いてある。患者は、薬を使っている間は運転や機械の操作は避けるべきであり、カナビスに対して異なった基準を設けなければならない理由は何もない。

(2)  カナビスの代替品としてDEAが推奨しているマリノールでも、少なくともカナビスに劣らない程度の影響を引き起こす。

(3)  カナビスの医療利用を合法化しようとしている支持グループが作成している条項では、カナビスの影響下にある状態で運転することを禁し、違反した者はアルコールや医薬品の影響下での運転を禁じているのと同様の規制で罰せられることを明文化している。



[3-2]  国家運輸安全委員会が1990年に発表した調査報告書では、182件のトラック死亡事故を検証していますが、アルコールを使っていたドライバーと同じく12.5%の人がカナビスを使っていたことを見出しています。

(1)  トラック事故とカナビスの医療使用との間には全く何の関係もない。DEAはこの文で、読者に恐怖感を植え付けようとしている。

(2)  DEAが引き合いに出した1990年の研究から12年後の2002年3月にイギリスの運輸研究所が発表した研究では、カナビスを使っているドライバーは自分の能力が影響を受けていることを自覚しており、その分だけ慎重に運転するようになると報告している。

●ドライバーのドラッグテストでカナビスは頻繁に検出されていると言っても、それは必ずしも交通事故に直接的に関係していることを示しているわけではなく、他の違法ドラッグに比べて、カナビスのほうがはるかに多くの人に使われていることと、ドラッグテストでより検知されやすいという事情を反映しているだけに過ぎない。
カナビス酔払運転の科学・論理的検証

●この神話の注目すべき点は、カナビスが 「交通事故の主要な原因になっている」 とは言わないで、運転に悪影響を与えると言っているところにある。カナビス禁止論者の目的は、カナビス・ユーザーの運転は危険で恐ろしいという印象を人々に植え付けることにあるので、カナビスの事故リスクがアルコールよりもずっと小さいという本当の事実を知らせるわけにはいかないからだ。
神話 カナビスは運転能力を損なう


[3-3]  カナビスを含めたドラッグ使用が犯罪を引き起こしているのも社会に対する害です。犯罪を犯して逮捕された人の非常に多くがカナビスのドラッグテストで陽性になっています。全国では、逮捕された成人男子の40%がその時点でカナビスの陽性反応を示しています。

(1)  カナビスの使用とその人が犯罪を犯しやすいかどうかの間には何の因果関係も見出されていない。疑いなく、成人男子のさらに多くがカフェインで陽性反応を示すに違いないが、DEAはカフェインが犯罪活動の原因になっているなどという滅茶苦茶な結論は出していない。

(2)  カナビスのドラッグテストで陽性反応が出たからといって、その時点でカナビスの影響を受けていたかどうかまでは正確に分からない。カナビスが人間の体内で代謝するには複雑な工程を経なければならず長い時間がかかる。実際、カナビスの酔いは1時間から4時間ぐらいしか続かないが、体内で完全に代謝されるにが1週間から3週間ぐらいかかる。その間は、体内に微量な代謝物が残存しており、ドラッグテストではその代謝物が検知される。

しかしながら、DEAを含めて誰一人として、カナビスの代謝物自体に精神活性があることを示した研究者はいない。したがって、カナビスの尿テストで陽性になっても、それが直ちに、カナビスの影響下で犯罪を犯したことを示しているわけではない。

(3)  ここでDEAが言っている犯罪がどのような種類のものであるか明示されていないことにも問題がある。カナビス関連の逮捕の非常に多くが所持犯であることを考えると、40%と言う数字の大部分が単なる所持犯であることを反映しているだけに過ぎない可能性が大きい。だが、DEAはあえて犯罪の種類には触れずに、犯罪がすべて他者に危害を加えたものだと見せかけることのよって、カナビスを使っている人間は本来的に暴力犯罪を犯しやすいという観念を植え付けて恐怖を煽ろうとしている。

実際、最近の研究では、暴力犯罪を犯した時点で使っていたドラッグとしてはアルコールが群を抜いていることが示されている。コロンビア大学の国立中毒&薬物乱用センター(CASA)の1998年1月の報告書では、「カナビス単独の影響下で暴力犯罪を犯しやすいことを明確に示す統計データはない」 と書いている。暴力犯罪で第一原因になっているドラッグは、アルコールの84%が特別に多く、ついでコカインが12%、ヘロイン4%となっている。

●血液や尿の中に代謝物が存在していることは、それ以前にドラッグを使ったことを示唆してはいるが、代謝物にはどれも精神活性があるわけでもなく、例えば、カナビスの代謝物であるTHC-COOH(11-nor-Δ9-tetrahydrocannabinol-9-carboxylic-acid)は尿中で容易に検知可能だが活性は認められていない。さらに代謝物が検知されたからといって体内にまだ活性ドラッグが残っていることを証明しているわけでもない。
血か尿か、流動問題

●ビクトリア大学中毒研究センターの研究チームは、薬物中毒治療を受けている被験者を対象に、暴力行為を犯す直前の数時間にカコイン、アルコール、カナビスを使っていた頻度を調べた。その結果、「共変量を比較分析したところ、アルコールとコカインの使用は暴力と著しい関連が認められ、その薬理的な効果が暴力行為を引き起こしていることが考えられるが、カナビスの使用頻度については、他の要素と比較しても暴力との著しい関連は認められなかった」 と報告している。
カナビスはアルコールやコカインとは違い、暴力行為を引き起こさない  (2007.8.23)



  カナビスはゲートウエイ・ドラッグですか?

[4-1]  カナビスの害の中でも最も大きなものは、ヘロインやコカインなどの危険な違法ドラッグを使うようになってしまうことです。ドラッグを使っている学生を対象に行われた長期研究の結果では、最初に使い始めたドラッグがカナビス以外のドラッグだった人はほんの僅かしかいないことが示されています。カナビスを使っている人のすべてが他のドラッグを使うようになるわけではありませんが、カナビスを使っているとドラッグ使用に対する抑制心が低下してしまい、他のドラッグを使う環境に馴染やすくなってしまうのです。

(1)  この主張は誤りで、カナビスはゲートウエイ・ドラッグではない。この時代遅れの理論に関しては、1999年に発表されたIOM報告でも明解に論駁されている。
未成年から大人になる過程でのドラッグ使用の発展パターンは極めて一貫している。大半の人々が最初の違法ドラッグとしてカナビスに遭遇するのは、カナビスが最も広く使われているからで、他の違法ドラッグのユーザーがカナビスを最初に使っていたとしても何ら驚くことでもない。実際には、大半のドラッグ・ユーザーが、カナビスを使うより前にアルコールやタバコを使い始めている。それもたいていが法定年齢に達する以前に開始する。

確かに、一般的にカナビスの使用が他のドラッグより先になっているという意味では、カナビスがゲートウエイ・ドラッグになっているとは言えるが、通常ではアルコールやタバコの開始のほうがカナビスよりも早いという意味では、違法ドラッグ使用への最初のゲートウエイとしてカナビスが最も多いとは言えず、むしろ稀だと言わなければならない。

カナビスの薬効が他の違法ドラッグの乱用を招くという因果関係を示すような確定的な証拠は見出されていない。さらに重要な点は、ドラッグの進展に関するデータをどのように揃えても、カナビスの医療目的での使用に当てはめることはできないということで、仮りに処方によってカナビスの医療使用ができるようになった場合、データのパターンと同じように患者のドラッグ使用が進展するなどということは全く考えられない。

(2)  WHOが禁止法の影響について調べた1998年3月の報告書では、「カナビスをブラック・マーケットで購入する際に他のドラッグにも出会うことで、違う違法ドラッグを使う機会が増える」 と書いている[
k]。したがって、合法的なきちんとしたところから入手できるようにすれば、患者が他の違法ドラッグに出会うこともなくなる。

(3)  DEAは、医薬品がゲートウエイになる可能性については比較していないが、実際にはいろいろな可能性が考えられる。医薬品はどの程度 「ドラッグ使用に対する抑制心が低下させて、他のドラッグを使う環境に馴染やすくなってしまう」 のか? 医薬品ユーザーのどのくらいの人が、他の医薬品や合法あるいは違法なドラッグを乱用するようになるのか? そのような医薬品の乱用が禁止法を正当化する理由になるか? どれだけ多くの若者がリタリンを処方されて、その後リタリンを乱用したり、他の精神作用物質を求めるようになるのか?

2002年9月19日にAPがリリースしたレポートには、「5年前に比較して、子供が薬の影響下で過ごす時間は34%も増えている。・・・神経または精神の疾患で処方されるリタリンなどの医薬品は相当な量に達しており、専門家の一部には、そうした医薬品の過剰処方を懸念する人たちも出てきている」 と書いている。

(4)  DEAは、ゲートウエイ理論を証明するようないかなるデータも提示できていない。

●特に神経障害のある医療カナビス患者の大半は、モルヒネを始めとするさまざまな強い薬を使って効かずにやっとカナビスにたどり着いたわけで、そもそもカナビスの方が副作用が少なく効果も高いことを実感して知っている。この事実は、少なくとも医療カナビス患者にとって、カナビスがゲートウエイになるという主張がいかにナンセンスなのかをよく表している。
カナビスはアンチ・ドラッグ、カナビス・ドクターたちの証言  (2006.11.11)

●国は、カナビスを吸っているとハード・ドラッグに手を出すようになるという、いわゆる「ゲートウエイ理論」をカナビス取締の中心に据えてきたが、この最も嘘で固められた亡霊のような政策も最近発表された2つの大規模研究によってついに葬り去られるべき時を向かえた。
ゲートウエイ理論の終焉、最近の大規模2研究が止めの一撃  (2006.12.19)


[4-2]  カナビス・ユーザーがコカインを使うようになるリスクは、非ユーザーの104倍以上になると見積もられています。[12]

(1)  2001年にアメリカ公衆衛生ジャーナルに掲載された研究によると、「非常にヘビーなドラッグ・ユーザーでは、アルコールを使う以前にカナビスを使っている傾向が見られるが、さらに高かいのが、カナビスを使う以前に他の違法ドラッグを使っている傾向で・・・こうしたデータは、かなりの割合のヘビーなドラッグ・ユーザーにとって、カナビスはゲートウエイの役割を果していないことを示している。結局、アルコールやカナビスの使用防止に焦点を当てた政策では、危険なドラッグのリスクをおかそうとする若者に対して限られた効果しか見込めないと結論できる」 と書いている。[
l]

DEAは、いかなるドラッグでもそれを使う人が統計的に増えれば、その他のドラッグを乱用するリスクも上昇すると読者が思うように仕向けているが、この議論はドラッグ自身が本来的に備えている特質を反映しておらず、むしろ、若年時から陶酔物を使うようになって、最終的には1つ以上のドラッグを乱用するようになる比較的少数のグループの特殊な性質を反映したものになっている。

(2)  アメリカでは7200万人がカナビスを経験しているが、コカインの常用者は、カナビス・ユーザーの120人に対して1人の割合にしかなっていない[m]。明らかに、カナビスはハードドラッグの使用を引き起こしておらず、そこにあるのは個人の個別な事情による1対1の相関関係でしかない。

(3)  コロンビア大学の国立中毒&薬物乱用センター(CASA)の研究では、タバコ、アルコール、カナビス、その他のドラッグ使用の間に因果関係があることを示した証拠はないと報告している。一般的な科学臨床研究で因果関係を認めたものは一つもない。[n]

●104倍というDEAの主張の引用元になっているNIDAのサイトには104倍という具体的な数字はなく、「非常に大きい(much greater)」 としか書かれていない。しかも、引用元をさらに辿れば1975年の非常に古い研究がソースになっている。このことは、この結果を追認する新しい研究のないことを示しており、NIDAのサイトでも、「カナビスを使っている多くの若者は他のドラッグをやるようにはならないが、リスクの増大を明確にするためにさらなる研究が必要」 と確定的な研究ではないことを認めている。
神話 カナビス・ユーザーがコカインを使うようになるリスクは104倍
神話 カナビスはゲートウエイ・ドラッグ



  まとめ

[5-1]  カナビスは危険な中毒性のドラッグで、健康に著しい脅威となっています。

[5-2]  カナビスには、合法医薬品の効能に匹敵するような医療価値はありません。

[5-3]  カナビス・ユーザーでは、コカインやヘロインのようなドラッグを使うようになる傾向が非ユーザーに比較してはるかに高くなっています。

[5-4]  ドラッグの合法化を主張する人たちは「医療カナビス」を口実に使って、あらゆるドラッグの合法化を画策しています。

(1)  DEAは、カナビスが中毒性で危険であると主張しながら、それを裏付ける事実を何ら示していない。中でも最も不当なことに、同じ治療目的で現在市販されている医薬品に比べて、カナビスのほうが危険で中毒性があるかどうかについて全く言及していない。

(2)  DEAは、カナビスに医療価値がないと言いながらその証拠を何ら示しておらず、全米アカデミー医学研究所のIOM報告の科学者たちが出した結論とも真向から矛盾している。

(3)  DEAは、カナビスがコカインやヘロインの使用を引き起こすと主張しているが、それを支持する科学的なデータはない。実際、コロンビア大学の国立中毒&薬物乱用センター(CASA)の研究では、タバコ、アルコール、カナビス、その他のドラッグ使用の間に因果関係があることを示した証拠はないと結論付けている。

(4)  DEAは、医療カナビス運動はドラッグ全面合法化の口実だと主張しているが、医療カナビスに反対することを口実にして自分自身の立場を擁護する口実にしている。医療カナビス法改革支持者が同時にカナビス法改革の支持者だったとしても、それは、カナビスを医療目的で合法的使えるようすべきだという主張とは何も矛盾していない。



●DEA参考文献


[1] Herbert Kleber, Mitchell Rosenthal, "Drug Myths from Abroad: Leniency is Dangerous, not Compassionate" Foreign Affairs Magazine, September/October 1998. Drug Watch International "NIDA Director cites Studies that Marijuana is Addictive." "Research Finds Marijuana is Addictive," Washington Times, July 24, 1995.

[2] National Institue of Drug Abuse, Journal of the American Medical Association, Journal of Clinical Phamacology, International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics, Pharmacology Review.

[3] Marijuana and Heart Attacks" Washington Post, March 3, 2000

[4] I. B. Adams and BR Martin, "Cannabis: Pharmacology and Toxicology in Animals and Humans" Addiction 91: 1585-1614. 1996.

[5] National Institute of Drug Abuse, "Smoking Any Substance Raises Risk of Lung Infections" NIDA Notes, Volume 12, Number 1, January/February 1997.

[6] Dr. James Dobson, "Marijuana Can Cause Great Harm" Washington Times, February 23, 1999.

[7] 2000 National Drug Control Strategy Annual Report, page 13.

[8] "Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base," Institute of Medicine, 1999.

[9] See footnotes in response to question 4 regarding marijuana's short and long term health effects.

[10] "Marijuana Appetite Boost Lacking in Cancer Study" The New York Times, May 13, 2001.

[11] Marijuana: Facts Parents Need to Know, National Institute on Drug Abuse, National Institutes of Health.

[12] Marijuana: Facts Parents Need to Know, National Institute on Drug Abuse, National Institutes of Health.



●反論参考文献


[a] Russo, Dr. Ethan, in personal email communication to Denele Campbell Sept 16, 2002. Citations include www.ncbi.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11036260&dopt=Abs and those in text

[b] Tashkin, D.P. et al “Effects of Habitual Use of Marijuana and/or Cocaine on the Lung,” pp. 63-87 in Chaing, N., and Hawkins, R.L. (eds), Research Findings on Smoking of Abused Substances, Rockville, MD: National Institute on Drug Abuse (1990); Sherrill, D.L. et al, “Respiratory Effects of Non-Tobacco Cigarettes: A Longitudinal Study in the General Population,” International Journal of Epidemiology 20: 132-37 (1991).

[c] Polen, M.R., “Health Care Use by Frequent Marijuana Smokers Who Do Not Smoke Tobacco,” Western Journal of Medicine 158: 596-601 (1993).

[d] Tashkin, D.P., “Heavy Habitual Marijuana Smoking Does Not Cause an Accelerated Decline in FEV1 With Age,” American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 155: 141-48 (1997).

[e] Mittleman M.A. et al “Triggering of myocardial infarction by marijuana.” Circulation 2000: 101(6): 713.

[f] David F. Duncan, DrPH, CAS, FAAHB, President, Duncan & Associates; Clinical Associate Professor; Brown University Medical School; email August 25, 2002.

[g] http://www.druglibrary.org/olsen/MEDICAL/YOUNG/young4.html, 58p.

[h] Testimony of American Medical Association representative, U. S. Congress, 1937.

[i] Mattes, R.D. et al, “Bypassing the First-Pass Effect for the Therapeutic Use of Cannabinoids,” Pharmacology Biochemistry and Behavior 44: 745-47 (1993).

[j] R. Doblin and M.A.R. Kleiman, “Marijuana as an Anti-Emitic Medicine: A Survey of Oncologists’ Attitudes and Experiences,” Journal of Clinical Oncology 19: 1275-1290 (1991)

[k] Hall, W., Room, R., & Bondy., WHO Project on Health Implications of Cannabis Use: A Comparative Appraisal of the Health and Psychological Consequences of Alcohol, Cannabis, Nicotine, and Opiate Use, August 28, 1995 (Geneva, Switzerland: World Health Organization, March 1998).

[l] Sexton, Barry, et al New Scientist, United Kingdom. 2002: March 20.

[m] Substance Abuse and Mental Health Services Administration, US Dept of Health and Human Services, National Household Survey on Drug Abuse: Population Estimates 1998 (Washington DC: US Dept of HHS, 1999), pp 19, 25,31

[n] Merrill, J. C. & Fox., K. S., Cigarettes, Alcohol, Marijuana: Gateways to Illicit Drug Use, Introduction (New York, NY: National Center of Addiction and Substance Abuse at Columbia University, October 1994).