医療カナビスは嗜好目的の口実



神話

カナビスの医療使用の合法化を求める運動の隠された真の目的は、嗜好用途の合法化であって、病気の人たちに対する同情心を装ってそれを利用しているに過ぎない。


事実

この神話の特徴は、カナビス反対派の人たちが実際にはカナビスに医療効果のあることを認めているところにある。

カナビス禁止論者たちは、いまだに 「カナビスには医療効果などない」 と盛んに主張しているが、もし本当にその通りならば、それを示す科学的な証拠を上げて医療カナビスに反対すれば済むはずで、わざわざ全面合法化の口実だなどと言う必要性は出てこない。

「カナビスが害のある中毒性のドラッグであることを示した科学研究は1万件以上もあるが、カナビスに医療価値があることを示した信頼しうる研究は1つもない。」
Say It Straight: The Medical Myths of Marijuana  アメリカ司法省, 1999
DRCNet Response to the Drug Enforcement Administration.  (DRCNetの反論)

また、現在アメリカ司法省連邦麻薬局(DEA)のウエブサイトに掲載されている 「Exposing the Myth of Smoked Medical Marijuana」 は、一般にカナビスに対するアメリカ政府の公式見解として扱われており、カナビス反対派の拠り所になっている。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話に反駁  (DPEGの反論、2002)

ところが、21世紀に入って 医療カナビスの研究 が一気に進んでカナビスの医療効果が一般に知られるようになった現在では、医療カナビスに対する 世論の支持が70% に達して、医療効果などないという主張は通用しなくなった。そのかわりに、合法化の口実という主張がますます繰り返して声高に叫ばれるようになった。

このあたりの事情は、ゲートウエイ理論 とよく似ている。ゲートウエイ理論は、カナビス自体には害の少ないことが明らかになってきたことが背景になって、カナビスを危険にしておく必要性ために後からこじつけられたもので、ヘロインなどのハード・ドラッグと結びつけてペアにすることで危険だと言うようになった。

こうしたやり方は、医療カナビスでも同様で、カナビスの医療効果が明らかになってくるに従って、医療価値がないという主張が通じなくなり、カナビスの嗜好使用の危険性と結びつけるようになった。確かに、実状を知らない人や選挙民には一般受けするのでますます盛んに 「口実理論」 が繰り返されているのだろうが、実際のカナビスの合法運動の実態とは全くかけ離れている。

医療カナビスの合法化がドラッグの全面合法化の隠れ蓑になっているという主張の拠り所になっているのが、上でも指摘したDEAの ウエブサイト で、その根拠として、2000年1月のニューヨークタイムズに掲載されたドラッグ・ポリシー・アライアンスのエサン・ネルドマンの発言を取り上げている。

しかし、DEAの引用は極めて恣意的で、カナビスを合法化してどんどん使えるようにしようといったニュアンスに曲解して書いている。ネルドマンの発言の趣旨は、害削減という観点から禁止法よりも合法化のほうが全体の害が少なくなるという意味で文脈がまったく違う。

War On Marijuana Victims
子供への戦争に変質するアメリカ政府の医療カナビス戦争  (2007.9.25)
アメリカ共和党大統領候補者たちが医療カナビスに反対する本当の理由  (2007.10.10)
ペイン・マン  Mark Fiore's "Pain Man" cartoon



存在しない口実を口実にするカナビス禁止論者

そもそもこの主張は、嗜好カナビスは危険なので禁止しなけれないという前提の上に成り立っているが、NORMLなどは医療カナビスが話題となるはるか以前(1970年)から、その前提自体が間違っているとして嗜好目的のカナビスの合法化を主張している。

また、アメリカ各州の医療カナビス法の成立に特に熱心に取り組んでいるマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)は、嗜好カナビスの合法化にも勢力的に取り組んでおり、2006年11月に行われた中間選挙では、ネバダ州のカナビス住民投票条例案「クエスチョン7」の活動で中心的な役割を果している。

逆に、2005年にデンバー市でカナビス合法化を果たし、2006年11月にはコロラド州の合法化住民投票に挑み否決されたものの41%の賛成を獲得した SAFER は、特に医療カナビスについては何も言及していない。

このように、合法化運動は実際には医療カナビスを 「口実」 に嗜好カナビスの合法化を主張してきたわけではなく、カナビスの恩恵はまず弱者から優先的に受けられるようにすべきだという認識から率先して医療カナビスの合法化にも取り組むようになったのが実態で、当然のことながら、その前提には嗜好カナビスは禁止しなければならないほど危険ではないという認識と主張がある。

また、これまで実際に医療カナビス運動の先頭に立って合法化を求めてきた人たちの多くは病気で苦しむ病人自身や医療関係者が大多数で、そこには110万人以上の医療専門家で組織されたアメリカ公衆衛生協会や、アメリカ看護師協会、アメリカ予防医学協会、3万6000人の会員を持つ アメリカ精神医学会、12万4000人に会員を持ちアメリカで2番目に大きい医師の団体である アメリカ内科医師会 などの 主要な医療機関 も含まれている。

これらの人や団体は必ずしもカナビスの嗜好用途の合法化を支持しているわけでもなく、そもそも彼らには医療カナビスを 「口実」 にしなければならない理由など始めから存在していない。


オランダの医療カナビス運動

カナビス禁止論者の主張が単なる言いがかりに過ぎないことは、オランダの医療カナビス運動の歴史をみればいっそうはっきりする。

オランダは、医療カナビスよりもコーヒーショップによる一般のカナビスの販売のほうが20年ほど前から始まっている。ワーナード・ブリューニングの 「メローイエロー」 が1973年に初めてカナビスの販売を公認された当時は、医療カナビスという視点は全くなかった。

その後20年を経過して、痛みの緩和などで苦しむ患者にカナビスが役に立つことを知ったワーナードは、1994年に 「メディウイード」 システムを立ち上げて、全国のコーヒーショップに対して患者には格安でカナビスを提供するように呼びかけた。

これに対して、オランダ政府はカナビスの医療効果を認めずさまざまないやがらせを加えてきたが、コーヒーショップ側では、ハーレムのノル・ファン・シャイクが中心となって医療カナビス・アクショングループ(ACM)を組織して医療カナビスの配布を積極的に展開し、医療カナビスの認知が広まっていった。

2002年になると、ついに、それまで医療の有用性に医学的根拠がないとして主張していたオランダ政府も態度を変えて、薬局で医療カナビスの提供を始めると発表。翌年の9月から正式に政府認定のカナビスの販売が開始された。

このように、オランダではそもそも医療カナビスが 「口実」 になってコーヒーショップが始まったわけではなく、実際には、コーヒーショップの患者に対する同情と善意が社会に医療カナビスを根付かせたのだ。それをノル・ファン・シャイクは、カナビス愛好家にとって自分の好きなカナビスが病気の人に役立つことが嬉しいのだと言っている。

ダッチ・エクスペリエンス  第9章 カナビスの医療的側面 メディウイード
アーサー・レッチェス  オランダでの医療カナビス経験



医療目的と嗜好目的は切り離せない

アメリカなどでは、現在、カナビスの医療目的はOKだが嗜好目的はNOと考えている人が多いが、実際には医療目的と嗜好目的を明確に分けることはできないばかりではなく、無理に分離すれば医療カナビスの恩恵を十分に引き出すことはできないという問題もある。

現在の医療カナビス議論が重度の疾患や症状を対象にしているために、それ以下の症状や予防的な医療の恩恵までは議論の対象にされていないが、実際には、カナビスが 恒常性の維持機能 などの役割を果して予防医療にも大きな効果があることが知られており、嗜好と医療利用は 「医食同源」 と同じような意味で明確に区別できるわけでもない。

このことは、医療カナビスだけを合法化しても現実にさまざまな問題が派生していることからも分かる。例えば、カナダやアメリカの10州以上が医療カナビスを合法化しているが、多くは 病気の種類を限定 しているために、それ以外の病気の患者が恩恵を受けられなかったり、一律に量的制限 されたりしているので必要量が不足する患者が出たり、尿テストで 職場を解雇 されたり、栽培しているカナビスを 強奪 されたり、殺害 されるといった問題が起こっている。

これらはすべて、医療用途は認めて嗜好用途は認めないとする前提から派生しているもので、医療用途での恩恵自体を狭める結果をもたらしている。

また、現在の医療カナビス法では、毎年のように医師の診断をうけてIDカードを更新しなければならず多額の費用がかかるという問題もある。こうした負担に耐えられない人たちは、実際には医療目的であっても保護を受けることもできない。経済的な理由で医療の恩恵を受けられない貧しい人たちでもカナビスを利用できるようにするには、広く自家栽培を認めて自分で自分の薬を栽培できるようにする必要がある。

レスター・グリンスプーン博士は、すでに1993年に、『マリファナ、禁断の薬』 (Marihuana, the Forbidden Medicine, By Lester Grinspoon and James B. Bakalar. 1993)の最後で、カナビスによる医療の恩恵を最大限に引き出すためには、一般の嗜好目的の合法化が欠かせないことを指摘して、次のように書いている。

一般のカナビス使用を刑罰で取締まる政策と、医療カナビスの合法利用を不可能にしている政策は、同じ根元から生まれた2種類の問題であり、同じ方法で解決することができる。

医療カナビスについては、通常の処方医薬品の規制に加えて、精神活性薬物を規制している特別刑法によって2重に網が掛けられている。この2つの規制はお互いに補強し合って、カナビスの医療可能性を徹底的に押し殺すための社会規範を構成している。

いずれにしても、究極的にこの呪縛を解くためには、規制薬物法と刑法の規制を完全に取り除き、アルコールと同様にカナビスのすべての使用を合法化する必要がある。

医療カナビスに反対する人たちは、しばしば、カナビスの擁護者が偽善を装って、嗜好利用の道を切り拓くために医療利用を推進しているだけに過ぎないと言う。

だが、病気で苦しむ病人たちが必死の思いで合法的にカナビスを入手しようと格闘してきた歴史を学んだ者ならば、その言い分が正しくないことを知っている。医療カナビス擁護者に対するこのような偏見は、実際には、政府自身の卑屈さを写し出した鏡像なのだ。

政府は、カナビスが安全で医療的価値があるという事実を認めようとしないが、それは、医療目的を外れて悪用された時に危険だという際限なく誇張された思い込みを頑強に抱き続けていることが大きく影響している。

カナビスを医療的に利用できるようにすることが別目的の使用を招くという主張はにわかに信じ難いが、筆者たちは、アルコールに適応されていると同様の規制でカナビスのあらゆる利用を可能にすることが、カナビスの医療利用の恩恵を最大限に引き出す唯一の方法だと確信している。

前にも述べたように、カナビスが医薬品としての地位を奪われたのは、カナビスの嗜好利用を禁止するために1937年に制定されたマリファナ税法による偶発的な帰結によるものだった。医療の可能性も含めて、この類例にない薬物の持っているあらゆる可能性を現実のものにするためには、2世代も前に作られた禁止法という体制を終結させることによってのみはじめて可能になる。


カナビスの医療利用が、カナビス禁止法を破綻させていく

理由はどうあれ、化学療法に伴う副作用に苦しむの最愛の人が医療カナビスで元気を取り戻したり、多発性硬化症で立てなかった人が歩けるようになったりするのを見れば、それまでカナビスにネガティブなイメージを抱いていた人でも考えが一変する。

「待てよ。一体これまで何を空騒ぎしていたんだ? 医療カナビスは非常にメリットがあるし、完全にまともな治療法じゃないか。それじゃ、他の目的の場合はどうなんだ? 患者の場合は害があるようには全然見えなかったし、やはり害は何も起こらないに違いない。」

医療カナビスが合法化されれば、このような経験を持つ人がますます増えてくる。そして、長年自分が騙されていたことに気付き、やがてそれが圧力に成長して、一気に禁止法までもひっくりかえすことにはならないかもしれないが、医療カナビスを使っている人たちの逮捕をやめさせることになる。人々は、カナビスが実際には、政府によって長年喧伝され続けてきたような悪魔ではないことを医療カナビスを通じて学んでいくことになる。

医療カナビスは、実際には 「嗜好用途の合法化の口実」 になるという程度の小さいものではなく、あらゆる用途への利用に道を開く大きな力をもっている。それは、カナビス合法運動家の主張とは何ら関係なく、もともとはカナビス禁止論者がさんざん嘘をついてきた帰結に過ぎないからだ。

医療カナビスはその嘘をあぶり出すリトマス試験紙でもある。政府やカナビス禁止論者は、何としてでも医療カナビス議論を避けようとして、嗜好用途の合法化の口実という科学とは全く無縁の理屈を展開し、「カナビスには医療価値などない」 と言い張って嘘の上塗りで嘘を隠そうとしている。彼らは、医療カナビスというリトマス試験紙でドラッグ・テストされることを心底恐れている。