無謀運転者の33%がカナビス陽性



神話

アメリカ・テネシー州メンフィスで行われた研究によると、無謀運転者150人を調べたところ、33%はカナビス陽性、12%がカナビスとコカインの双方が陽性であることが示されている。また、カナビスを吸っている人では、標準的な 「酔っ払い運転」 検査で、アルコールを多量に飲んだときと同じような距離感や位置感に認知障害が出ることも示されている。
http://www.nida.nih.gov/MarijBroch/parentpg11-12N.html#Driving


事実

神話で引用されている 研究 は1994年に発表された古いもので、研究デザイン的にも欠陥が多く、実質的にカナビスが無謀運転を引き起こしたことを証明しているとは言えない。

この神話ではいかにも無謀運転者全員の33%がカナビスを使っているように書かれているが、元になった論文を確かめれば全然そうでないことがすぐに分かる。この数字は、母集団をさまざまな理由をつけて絞り込んでから比率を取ったもので恣意的な操作による誇張になっている。また、アルコールによる無謀運転とカナビスによる無謀運転を直接的比較することは意図的に避けている。

アメリカ政府は今だにこの古い研究を引用し続けているが、逆に言えば、この事実は、カナビスと無謀運転の関係を明確に証明した新しい研究が実際にはないことを如実に示している。


●この研究の調査は1993年の夏の午後7時から午前2時までに実施されたもので、信号機付近で検問中に無謀運転で逮捕したドライバーについて調べている。無謀運転の判断は、まず 「アルコールの影響下で運転していると疑われる」 ことで選別されている。

次に、そのグループからアルコールに酔っている人を除外してサブグループを作り、それを母集団としてカナビスとコカインの尿検査を行っている。

アルコールに酔っているかどうかは、息がアルコール臭いこと、直線歩行・片足立ちといった素面テスト、呼気テストで調べている。素面テストでは酔いの程度を、泥酔、中程度の酔い、軽い酔い、酔っていない、の4段階で評価している。

論文の結果によれば、サブグループ対象となったドライバーは全部で175人で、そのうちの68%(119人)が泥酔または中程度、32%(56人)が軽度または酔っていないと判定されている。

尿検査まで受けた人は150人で、そのうちの陽性反応を示したのは59%(88人)で、カナビスは33%(50人)、コカインが13%(20人)、両方12%(18人)だった。また、警察の素面テストで泥酔または中程度の酔いと認定されたドライバーは63%(94人)で、カナビスまたはコカインで陽性になった人の85%もそこに含まれていたとしている。


●しかし、この研究は方法論的に 多くの基本的な欠陥を抱えている

  1. アルコールで無謀運転をしていた人が除かれており、最も基本的なデータである無謀運転者全体の数が書かれていない。

  2. 素面テストでアルコールを飲んでいないと判定された175人のうちの28%は、後で行われた実際の呼気テストでは、法的制限を上回る0.21mg/dlを越えるアルコール陽性反応が出ている。

    これに対して、研究者たちは、他の研究では血中アルコール値が制限を越えていても、3分の1以上の人からはアルコールの匂いが感知されていないことを理由として調査手法を正当化している。つまり、カナビスまたはコカインで酔っ払ったとされる人たちの中には、実際にはそれられ酔っ払っていたのではなく、アルコールで酔っ払っていた人も相当数含まれていることを意味している。

  3. この研究では、まず第一に無謀運転していると警察が判断したドライバーが対象になっているが、運転シュミレーターの実験では、カナビスに酔っている場合は乱暴な運転は避けて、スピードを落として丁寧に運転する傾向のあることが示されており、実際にはカナビスを使っていても検問に引っかからなかった無謀運転をしていないカナビス・ユーザーも少なくなかったと考えられる。

    このことはカナビスとコカインの陽性者数を比べてもわかる。カナビス・ユーザーでコカインを使っている人は少ないが、仮に両方が陽性になった人を全部カナビス・ユーザーとカウントしても陽性者数の比率は(50+18)/20=3.4倍にしかなっていない。しかし、一般的なカナビスのユーザー数はコカイン・ユーザー数の およそ10倍 なので、この比率とは全く違っている。つまり、無謀運転をしていないで検問にかからなかったカナビス・ユーザーが多数いることを示唆している。

  4. この研究では、「酔っ払いの影響下」 についてどのような状態なのかをきちんと定義していない。特にカナビスの場合は、摂取後数週間にわたってTHCの代謝物であるTHC-COOHが体内に残存するが、代謝物を検知する尿テストではその期間は陽性になる可能性がある。しかし、代謝物には精神効果がないので、尿検査で陽性になっても運転時にカナビスに酔っていた証明にはならない。

  5. カナビスとコカイン以外のドラッグや医薬品の影響については調べていない。カナビスとコカインの両方で陽性になっている人が少なくないことを考えれば、他のドラッグや医薬品の影響で酔っていた可能性も十分に考えられる。また、実際の事故原因として最も重要な要素の一つである「疲労」については何も調べていない。

  6. この研究では、カナビス使用のデータや酔いの度合いについてアルコールの酔いのデータとの関連が全く示されておらず、カナビス酔っ払いによる事故のリスクの程度については何も示されていない。少なくとも無謀運転者全体数が明確にされていない限りは、どのような比率を出しても全体の姿を表すものではなく局所的な相対的意味しか持っていない。

  7. 現在では、カナビスとアルコールを併用している場合は、アルコールが僅かであっても双方が影響しあって相乗的にリスクが高まることも示されているが、この研究では全く考慮されていない。


●この神話の元になっている論文は15年も前のもので、研究デザインがずさん過ぎて価値はなく、最新の研究結果からも否定されている。

例えば、スエーデンでは、現在、酔っ払い運転の疑いのあるドライバーはその場で血液検査を強制する最も厳しいゼロトレランス政策を実施しているが、2007年11月に発表された 報告 には、酔っ払い運転の疑いで血液検査を受けた人の使用ドラッグ別の割合が掲載されている。

それによると、血液検査を受けたドライバーでカナビスが検知された人は全体の20%になっている。しかし、その大半は他のドラッグも併用しており、THCのみに陽性となったケースはわずか4%に過ぎなかった。また、すべての規制薬物に陰性だった人の割合は15%で、何らかのドラッグが検出された人は85%になっている。

違法ドラッグで最も多いのがアンフェタミンで全体の60%から検出されている。さらに、アルコールが検出されたドライバーも多く、法定限度を越えていた人は30〜50%となっている。また、医薬品ではベンゾジアゼピン系薬剤が10%で、その他の医薬品でも1〜2%になっている。


●また、現在の研究は、実際の交通事故を起こしたデータを解析するのが当たり前で、酔っ払いの程度も代謝物しか検知できない尿テストではなく、精神活性物質そのものを検知できる血液検査で客観的に調べたものあることが要求される。また、衝突事故に対するカナビスの関与を正確に調べるためには、事故を起こしたドライバーの陽性率と起こしていないドライバーの無作為サンプルの陽性率を比較する必要もある。

問題は、カナビスの酔いによる精神運動機能への悪影響が実際の事故にどの程度関与しているのかという点にある。これまでの調査結果で全体に共通している結論としては、カナビスでリスクが増えることは間違いないが、少なくとも アルコールのリスクに比較するとカナビスのリスクはずっと小さい ことが明らかになっている。


●2008年5月に発表された 運転シュミレータ研究 では、カナビスとアルコールの摂取では、精神運動機能に対して反対に作用することが示されている。

「今回の研究では、低レベルのカナビスとアルコールにおいても反応時間や車線の維持などの面で似たような程度の悪影響が見られたが、いくつかの面で双方に違いのあることも明かになった。特にカナビスを吸ったドライバーは本人自身が運転に支障が出る状態であることを意識しており、速度を落としてそれをカバーしようとするが、アルコールを飲んだドライバーは、素面の時と比較して自信過剰気味になって速度を上げる傾向が見られた。」