カナビスは肺癌を引き起こす


神話
カナビスの煙はベンゾピレンなどの発癌性物質をタバコの煙より50%以上も多く含んでいる。カナビスを吸う人は煙を深く吸い込んで息を止め、長く煙を肺の中に留めることでTHCを体内に多く取り込もうとするので、タバコ1本と比較すると、カナビス1本の煙のタール量は4倍になり、肺に残るタールは40%も多くなる。気道に与えるダメージは、1日にジョイント3本吸っているのとタバコ20本分と同等になる。


事実
アメリカでは、タール云々とかではなく、タバコのパッケージには 「喫煙は肺癌、心臓病、肺気腫の原因になり、妊娠を困難にする恐れがある」 といったような直接的な警告表示が義務づけられているが、これに対して、この神話の注目すべき点は、カナビスが 「肺癌や肺気腫の原因になる」 と警告するのではなく、タバコよりもタールが多いとしか言っていないところにある。

カナビス禁止論者の目的は、カナビスが健康に重大な悪影響があるという印象を人々に植え付けることにあるので、カナビスでは肺癌や気腫にはならないという本当の現実を知らせるわけにはいかないからだ。実際には、カナビスの喫煙で肺癌や気腫が増えないことがさまざまな大規模研究で明らかになっている。

この神話は、2002年11月にイギリス肺財団(British Lung Foundation)が発表した内部レポート A Smoking Gun? The impact of cannabis smoking on respiratory health がもとになっている。しかし、このレポートでは実際に新しい実験をしているわけではなく、1987年にアメリカで行われた研究などを引用して話を展開している。また、カナビスの煙には発癌性物質やタールがタバコより多く含まれていることを根拠に、タバコと同様に肺癌や気腫などの危険性があるはずだという憶測から警告が書かれている。


●根拠として引用された実験の行われたアメリカでは、カナビスを使った研究をする際には、政府が独占的にミシシッピーで栽培したカナビスを使うことが義務づけられているが、このカナビスは品質が悪く、茎や種子などが多くのゴミが含まれていることが知られている。


アメリカ政府(NIDA)のカナビス

当然のことながら、こうした繊維質の多いカナビスを燃やせばタールがたくさん排出する。実際、別の実験 では、THCの濃度の高いカナビスのほうがタールが少ないことが示されており(THC3.95%では1.77%よりも25%以上タールが少ない)、現在の種や茎の入っていない20%近い高濃度THCのシンセミラでは全然違った結果が出てくるだろう。

●また、カナビスとタバコのタール量の測定とすれば、ジョイント3本のタール量がタバコ1パック相当という、2006年3月に発表された フランスの報告 もある。しかし、この 実験 では、マルボロ1本0.8g、カナビス0.8gのピュアジョイント、ハシシとタバコそれぞれ0.4gづつのハシシジョイント0.8g、と言うようにすべて0.8gの場合で比較しており、普通のジョイント1本分とすれば量が多過ぎて過大評価になっている。

●2007年12月にはカナダの研究チームが、カナビスとタバコの煙の成分を比較して、カナビスの方がアンモニアが20倍、シアン化水素と窒素酸化物、芳香性アミンが3〜5倍多いという 報告 を発表している。まずこの実験で不思議なのは、カナビスの煙の中に僅かながらニコチンを検出していることで、実験手法そのものにも根本的な問題を抱えている可能性もある。また、実験に使われたカナビスそのものにも疑問が持たれている。

この実験に使われたカナビスは、カナダ保健省の依頼でプレイリー・プランツ・システムが水耕栽培したもので、水に溶け易い化学肥料には窒素成分として硝酸エステルやアンモニア性窒素が使われている。このことから、アンモニアや窒素が多くても特に不思議とは言えない。また、芳香性アミンが多いのもカナビスが芳香剤の原料に使われことがあることを考えれば驚くことではない。問題は、燃焼に伴って生成されて、癌や不妊の原因になる多環芳香族炭化水素だが、この実験ではタバコのほうが多く生成されることが示されている。

また、この報告で興味深いのは、タバコと同じような吸い方でカナビスを吸った場合にはタール量は変わらず、強く吸い込んだ場合にタール量が2〜2.5倍増えることが見出されている。このことは、高効力のカナビスをタバコのように軽く吸えば、吸い込むタール量が相当少なくなることを示している。


●いずれにせよ、上の実験はカナビスの煙の化学的組成を調べたもので、煙が体内に入ったときに起こる生理反応や薬理作用にまで踏み込んで発癌性のメカニズムを言及したものではない。

確かに、カナビスの煙とタバコの煙は化学的な組成では非常によく似ているが、カナビスの煙にはカナビノイドが含まれ、タバコの煙にはニコチンが含まれているために薬理的な特徴には根本的な違いがある。何故タバコの煙が肺癌を引き起こすのに対して、カナビスの煙は引き起こさないのかについては、次のように 説明 されている。

  • タバコの煙は、呼吸器上皮細胞にあるニコチン・レセプターを活性化することで正常な細胞保護機能の臨界点を越えて発癌性を促進させるが、呼吸器上皮細胞にはカナビノイド・レセプターが存在していないためにカナビスでDNA損傷のチェック機構が破壊されることはなく正常に機能し続ける。

  • 通常、細胞は損傷を受けるとアポトーシスを起こして死亡するが、タバコの煙は抗アポトーシス反応を持っており、傷ついた細胞を生き続けさせて発癌を促してしまう。

  • カナビスには、炎症反応で生成されるフリーラジカルや発癌性物質の活性化酵素を免疫的に抑制する働きがある。

  • ニコチンは腫瘍細胞の血管の新生を促すが、カナビノイドは血管を作らないように抑制して腫瘍の成長を阻むように働く。


●肺癌のリスクが増えることを示した調査はない

また、最終的に最も重要なことは、実際にはカナビスの喫煙で肺癌などのリスクが増加しないことが、大規模研究で何度も示されていることだ。

実証的には、タバコの例を上げるまでもなく、肺癌が起こらないことよりも起こることを示すことのほうがずっと容易で、タバコの喫煙本数が増えるに従って肺癌のリスクも増えていくことは疫学調査でわりあい簡単に示すことができる。

しかしながら、同じような手法を使った疫学調査でも、カナビスが肺癌のリスクを増やすことを明確に示した調査はない。アメリカでカナビスの使用が広がり出した1960年代には、当初はユーザーも若いから目立っていないだけで20年もすれば肺癌患者が続出するはずだとも言われていたが、実際にそうなったことを確認した研究もない。

また、アメリカのドラッグ乱用研究所(NIDA)が資金提供してジョンズホプキンス大学で行われた2000年の研究では、164人の口頭癌患者と526人の対照群を比較した結果、「エビデンスを総合的に見れば……社会で広く使われているカナビスが頭や首や肺の癌の原因になるとする考え方を支持していない」 と 結論 づけている。

1997年の行われた カイザイー・ペーマネンテの後向きコホート研究 でも、カリフォルニア州の男女癌患者6万5171人についてカナビス使用との関連性を調べたところ、タバコによってリスクが増加することが知られている肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、黒色腫などの癌については、カナビスの使用ではリスクが増えないことを見出している。

この研究については調査期間が8.6年で十分長くないという批判もあるが、過去に行われたカナビスとタバコと癌に関する基礎研究のデータを 総合的に検証した2008年の研究 では、「フォローアップ期間は、タバコ喫煙者全体の中でタバコ関連の癌のあるケースは179人もおり、文句なく十分だといえる」 と書いている。

もし、タバコ喫煙者の癌リスクが非喫煙者と同じであれば、計算ではタバコ喫煙者の癌ケースは130件になるに過ぎないが、実際との違いは明白だからだ。一方では、カナビス喫煙者の癌リスクが非喫煙者と同じであれば、カナビス喫煙者では16人がタバコと同じ癌を発症する計算になるが、実際に見つかったのはたった3件に過ぎないとも指摘している。

さらに、アメリカで最も信頼されている科学アカデミー医薬研究所(IOM)の1999年の 報告書 でも 「現在までのところ、タバコのように、カナビスがガンを引き起こすという確固たる証拠は見つかっていない」 と書いている。


●UCLAの25年の研究でも肺癌のリスクが増えないことが示されている

2006年に発表されたカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)の 大規模研究 では、生涯のカナビスのジョイント本数22000本以上 (60ジョイント年)以上の超ヘビーユーザーでさえあっても、肺癌になるリスクは増加せず、少ししかカナビスを吸っていない、あるいは全く使っていない人たちと比較して何らリスクに違いはなかったと結論を書いている。

実は、この研究を率いたのが、UCLAデビッド・ゲフィン医学部のドナルド・タシュキン教授で、この人こそ1980年代からカナビスの煙の素性を調べて、カナビス1本の煙のタール量はタバコの4倍と最初に指摘した人だった。25年以上の研究の総仕上げとして実施された人間での大規模疫学調査だったが、予想外の結果 になったと語っている。

実際には、「予想外の結果」という意味は、研究当初に掲げた 「カナビスの常用している人では、肺に対してタバコの常用者と同じような影響を受けるはずだという仮説モデル」 を十分に立証できなかったことを意味している。

だが、これは、ある程度予想されたことでもあった。確かに、頻繁にカナビスを吸っている人たちは、長く咳込んだり痰や喘鳴などで呼吸器に悪影響があることを経験しているが、タバコのように慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気腫などの深刻な肺疾患を引き起こすリスクが増えることを示した研究は無かった。


●単純なモデルでは説明できないさまざまな結果

UCLAの研究者たちは、カナビスのみ、タバコのみ、両方の喫煙者、非喫煙者の4つのグループについて肺機能と気管支細胞の特性変化について調査しているが、カナビスで引き起こされた細胞変化の特徴はタバコとは様子が異なり、主に肺の太い気道に限られ、タバコのように周辺の小さな気道には見られなかった。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺気腫は小気道の炎症が原因で起こるので、カナビス喫煙者の場合はそうした疾患に発展しないと考えられる。


Airway Inflammation in Young Marijuana and Tobacco Smokers
Roth, Tashkin et al, Am. J. Respir. Crit. Care Med., Vol 157, Num 3, March 1998, 928-937


しかしその後、UCLAのチームは、1987年のアメリカ呼吸器疾患レビューに掲載された 研究 で、タバコの喫煙者と同じように慢性的な咳、痰の生成、喘鳴などが見られることを報告し、カナビス喫煙グループには慢性気管支炎の症状が多いことを見出している。

また、1998年にアメリカ呼吸器&救命医療ジャーナルに掲載された 研究 では、気道とその内側の細胞を調べた結果、カナビスグループのほうが膨張具合や赤み、分泌液が多くなることを見出している。この結果は、カナビスユーザーがタバコのユーザーと同じ程度に広範囲にわたって粘膜に大きなダメージを受けることを示しており、1本あたりでは、1日の喫煙本数が少ないカナビスのダメージのほうが大きいことも示していた。


●「予想外」でもなかった結果

だが、カナビス喫煙者とタバコ喫煙者とでは、もっと重要な点で違いがあることも見出されていた。2005年のアメリカ疾病対策センターの 統計データ の分析によって、カナビスグループでは、タバコ・グループに見られるような深刻な慢性閉塞性肺疾患(COPD)が起こっていないことが明かになった。アメリカでは毎年16万人が肺癌で亡くなっているが、COPDでも毎年13万人が亡くなっているので、この事実は重要な意味を持っていた。

このように、UCLAのタシュキン教授の研究には、その度に新しい課題が出現し何度も再考を求められることになった。マスコミには 「予想外の結果」 と話してはいるが、科学者としては、当初の仮説モデルが単純過ぎて軽微な部分では成り立っていても、肝心の肺癌やCOPDのような深刻な病気では成り立たないことを認めざるを得ず、いずれかの時点で、カナビスでは肺癌のリスクが増えないという最終結果を予想していたようにも感じられる。


●また、最近の研究では肺癌にならないばかりか、THCが肺癌の成長を抑える ことまで示す研究すら発表されている。肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)についてもカナビスの喫煙でリスクが増加しないことが、タシュキン教授の研究 や エール大学の研究 などで示されている。


●確かに肺癌のリスクが増加するという研究もある。例えば、2008年1月に発表された、肺癌患者79人を対照群324人と比較したニュージーランドの研究では、毎日ジョイントを1本10年以上吸っている人の場合は、非喫煙者に比較して肺癌になるリスクが5.7倍になるとしている。

しかし、
新聞の報道 ではなく、実際の論文 を読んでみると、カナビス・ケース群が14人なのに対して対照群はたった4人でしかないことがわかるが、どう考えてもこのような小さなサンプルから引き出した結果を、全体に当てはめて一般化することは妥当ではない。


また、肺癌患者79人の中にタバコを吸っていない人がわずか9人しかおらず、大半のカナビス・ケース群の人がタバコを併用していることになる。いくらタバコを交錯因子として処理したと言っても、実際には、この研究を指導したビアズレー教授自身が加わった 別の研究 でも示されているように、カナビスとタバコの併用による悪影響は相乗的であることも考えられ、交錯因子処理で完全にタバコの影響を除去できるとは思われない。

さらに、対照群ではカナビスのヘビー・ユーザーの割合が非常に少ないのに対して、カナビス・ケース群では逆にライト・ユーザーが極端に少なくなっている。つまり、肺癌患者の中でも特にタバコを併用しているヘビー・ユーザーだけに注目して比較することは、カナビス・ケース群の最も大きい部分を対照群の最も小さな部分で倍率を計算していることになり、最初から数字を大きくする恣意的な意図があったのではないかとさえ感じさせる。

この点については、タシュキン教授も、「彼らの対照群の88%はカナビスを吸ったことさえないのです。これに対して、われわれのロサンゼルスの研究では、カナビスを吸ったことのない対照群は36%に過ぎません。なぜ彼らの対照群ではカナビス経験者が少ないのでしょうか? 何かインチキの匂いがする!」 と 非難 している。実際、WHOの調査では、ニュージランド人のカナビス生涯体験率は42%になっている。

また、もしこの研究の結果が正しいのなら、カナビスの喫煙者が増加し始めてから10年経った1980年頃からカナビスによる肺癌患者が激増しているはずだが、そのような報告は見られない。この研究は、規模が小さいことの他にも根本的な問題があり、結論を一般化するには無理がある。

また、不思議なことにアブストラクトでは触れていないが、実際には論文では、タバコ喫煙者全体のリスクは6.7なのに対して、カナビスを吸った経験のある人 「全体」 のリスクは1.2になっている。しかし、信頼区間は(0.5-2.6)で、ノンユーザーの対照群に比較して統計的有意差のあるリスクにはなっていない。

反カナビス科学報道の嘘と脅し戦術  (2008.3.10)


●いずれにしても、どうしてもタールや燃焼毒が気になる場合は、カナビスを チョコレート やクッキーなどにして食べるか、バポライザー でカナビスを気化して吸引すれば、それらを避けてカナビスを摂取することもできる。バポライザーは、喫煙と同じ迅速さで効果を得られるばかりか、肺の弱い病人でも無理なく安全に使うことができる。



●また、喫煙には火災の出火原因になるという社会的に極めて大きな問題もある。実際、寝タバコによる火災は、放火・てんぷら油などに次いで出火原因の上位にランクされている。

この点でカナビスとタバコを比較すれば、1日に使うジョイントの本数のほうがタバコよりはるかに少ないこと、ジョイントの火は吸い続けていないと消えやすいこと、カナビスを吸う際には意識して煙を吸い込んでホールドするので寝タバコのような吸い方はしないこと、ジョイントは根元まで吸いきるのが一般的であることなどから、タバコよりも出火原因にはなり難い。