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嘘の1000倍偽装
カナビスでラットが凶暴化
神話
正常なら、棒につかまらせるとすぐに離れてしまうが、少量のカナビス成分を与えると、つかまったままで動こうともしなくなる。不自然な格好でもぐったりとして動こうともしない(カタレプシーと言う)。
だが、与える量を増やすと次第に攻撃的になり、互いに威嚇しあうようになる。そして、ついには小さな鼠に襲いかかり噛みつくようになる。
事実
THCが単独で分離されたのは、1964年イスラエルのヘブライ大学の ラファエル・マッカラム博士のチーム によるもので、その後THCがカナビスの主要な活性成分であることが確かめられたが、その過程の中でラットにTHCを注射すると 攻撃的になる ことが報告されるようになってきた。
日本でも早い時期(1970年ころ)から 九州大学で上のような実験 が行われるようになったが、これは、安保条約の延長で日米科学協力プログラムが立ち上がったことによるもので、おそらく注射用のTHCはアメリカから提供されたものだった。実際、当時の日本にはTHCを植物から抽出する技術があったとはとても考えられないからだ。
この流れの研究は2000年以降も続けられており論文も発表されている。しかし、その内容はほとんどが相変わらず二番煎じと言ってもよいものか、限界的な状態を探るようなもので薬学的な意味はあるにしても、人間の通常のカナビス使用とはほとんど関係は持っていない。
ラット実験のTHCの投与量
上のテレビ番組では、THCの投与量について、「少量のカナビス成分を与えると…」、「与える量を増やすと…」 などと(おそらくわざと)曖昧な表現を使っている。
しかし、1971年の新聞には「体重1kgあたり6mgづつ注射」 したと書かれている。また、2001年の研究 では、「THC6mg/kgの投与 では、学習・記憶課題を遂行できるが、空間認識記憶における作業記憶を著しく障害する」 と記載されており、少なくともこれらの実験では、6mg/kgの投与量が一つの基準になっていることは間違いない。
では、この6mg/kgという量は、人間または動物にとって実際にはどれくらいの量なのだろうか?
投与量は通常使用量の1000倍以上
体重1kgあたり6mgという量は単純計算で60kgの人間ならば360mgということになる。人間が精神効果を感じるようになる量は注射で約1mgとされているので、とんでもない量であることがわかる。
だが、実際にはカナビスユーザーが注射で摂取することは絶対にない。最も一般的な喫煙では注射の3倍の量が必要で、さらにバイオアベラビリテイがせいぜい20%なのでその5倍必要になる。つまり、360mg*3*5=5400mgということになる。これだけのTHCを最高のジョイント(0.5g、THC20%)に換算すれば54本になる。
だが、どんなにがんばってもジョイントでは1時間に5本程度しか吸えないので、全部吸うのに11時間もかかてしまう。実際には、吸ってから10分以内に代謝が始まるので効果は累積的には現れず、注射のような効果を得ることは不可能だ。上のラット実験は、自己投与ではなく強制的に大量のTHCを一気に注射した結果引き起こされたもので、それを人間のカナビス・ユーザーにでも起こるかのように一般化することは大嘘と言わねばならない。
また、ラットが凶暴化してマウスを食い殺すようになるとしているが、ラット同士が殺しあったて共食いしているわけでもない(極限状態ではあり得る)ことに注目しなければならない。雑食性で知られるラットがマウスを殺して食べるという行為は、それほど珍しくもない本能的には捕食活動で一種で、今回の場合は、ある条件下でそれが顕在化しただけに過ぎないとも言える。
ラットの実験から分かること
もし、このラット実験から分かることがあるとすれば、それはカナビスの毒性が際だっで少ないということで、合法なニコチンやアルコールあるいはカフェインでさえ通常の1000倍もの量を注射されればどんな動物もすぐに死んでしまう。
また、「30日後には全部のラットがマウスを食い殺すようになった。そして、その後THCの投与をやめてもマウスを食い殺す行為をやめなくなり、中には100日以上もマウスを食い殺すラットがでた…」 ということは、これだけ大量のTHCを投与されても、中断すれば永続的に決定的な損傷を受けるわけではなく、やがてもとに戻ることを示しており、THCの驚異的な安全性を物語っている。
注射の問題点
また、現在では、THCを静脈注射して酔いの状態を探ることには決定的な問題があることが知られている。
2008年3月に、『Should I Smoke Dope?』 というタイトルの BBCドキュメンタリー が放送されたが、番組の終わり近くで、THCのみと、THC+CBD (カナビジオール)をミックスした溶剤を注射する実験が紹介されている。
実験を受けた女性ジャーナリストは、ミックスの場合は気持ちよさそうな笑いを伴った体験をするものの、THCのみでは、恐ろしいパラノイヤに襲われ、「精神をずたずたにされて、もうこりごりだ」 と語っている。
この実験では、どの位の量のTHCを使ったのか、血中濃度変化、チェックリストのスコアなどの詳細については守秘義務があって明らかにされていないが、純粋のTHC注射ではパラナイヤ傾向が顕著に出ることが示されている。
だが、ほとんどの天然のカナビス は、THCばかりではなく、THCの効力を鎮めるCBDなどのさまざまな成分を含んでいるので、THCのみ注射によって求められた結果は当てはまらない。さらに、カナビスを注射で摂取するユーザーなど全くいないという現実も忘れてはならない。
ラット実験ビデオの不可解
この研究が最初に発表された 1970年当時 は、カナビス攻撃の材料としてシャロン・テート事件と並んでラット実験の結果が頻繁に引き合いに出されることが定番になっていた。しかし、当時は実験のビデオ映像はなかった。
今回のカラービデオはずっと後から製作されたものだと思われるが、当時の文字による情報に比べれば、映像は刺激的でそのプロパガンダ効果も桁違いに大きい。しかし不思議なことに、それならば何で当時のようにもっと頻繁に使われないのだろうか?
同じような映像はフランスでも ジャック・シラク大統領の時代に放送 されたことがある。その仕掛け人は、自らをカナビスの敵と称しているガブリエル・ナハスという人物で、1950年代にアメリカのコロンビア大学でカナビスの悪害を研究していたが、いい加減な研究が明るみに出て1975年に大学を追放された。
彼の研究の一つが、ラットに通常のカナビス喫煙者の摂取量の1200倍相当の純粋のTHCを注射すると脳の損傷を引き起こすというものだった。
彼は大学を追放された後にアメリカ政府に取り入り、WHOのドラッグ委員会の特別顧問にまでなった。しかし、80年代に信用を失ってフランスに戻り、今度はシラクのドラッグ顧問になった。そこで、彼は得意気にラットにTHCを注射して見せて回った。
アメリカではこのプロパガンダ映像は使われていない
しかしながら、調べた限りでは、アメリカではこのプロパガンダ映像は使われた形跡がない。
もちろん、ラット実験の詳細が知られるようになって、投与量の多さや単にTHCだけではなく 様々な環境因子なども影響 していることが明らかになってきたこともあるが、アメリカでは、100%の純粋THCを化学合成したマリノールを医薬品として合法的に販売していることにも関係しているようにも思われる。
マリノールは、ゴマ油に溶解した合成THCをゼラチンのカプセルに封入して作られている。カプセルには2.5mg、5mg、10mgの3種類があり、口から飲んで摂取するが、精神への影響は天然のカナビスよりもマリノールのほうかが大きいだけではなく、眠気、目まい、混乱、不安、気分の不安定、考えがまとまらない、知覚困難、協調性がなくなる、興奮、うつ、といった 副作用 のあることも報告されている。
もしマリノールを使っている患者たちが、ラット実験のビデオを見たとしたら不安になるのではないか? アメリカ政府はそれを恐れてビデオを流さないのではないか? そうだとすれば、日本政府が積極的にこのビデオを使わない理由も納得できる…
カナビスでは攻撃的になったり威嚇しあたりしない
カナビス・カルチャーには、毎年4月20日の午後4時20分にみんなで一緒にカナビスを吸って祝う420イベントという有名な行事がある。2008年の420デー は日曜日と重なったこともあり、かつてないほど盛大に祝われた。
この日は、一年の他のどの日よりもより多くの人が午後4時20分に一斉にカナビスを吸ったわけだが、もしカナビスが本当に危険ならば、その事実が顕在化するまたとない機会になったはずで、病院に担ぎ込まれた人の数、喧嘩の数、自動車事故の件数、どれも少なからぬ数字が並んでいてもおかしくないはずだが……
コロラド大学ボルダー校の420デーのイベント には1万人が参加したが、逮捕者はなく、不幸な出来事も1件も起こらなかった。このことは、警察がカナビスをオープンに吸うことを黙認していただけではなく、参加者全員がカナビスの影響下でも非常に行儀がよかったことを意味している。
喧嘩や盗みや器物損壊など警察が行動を起こさなければならないようなことは何も起こらず、全く組織化もされていないカナビスのイベントの1万人もの参加者の中で問題のある行為を起こした人は誰もいなかった。
それに比べれば、大量のTHCを無理やり注射されたケージ内のラットたちが本当にかわいそうに思えてくる。
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たとえば6匹のラットにTHCを体重1kgあたり6mgづつ注射して集団でマウスの中に置くと15日目以降にマウスをかみ殺すラットが出はじめ、 30日たつとこの症状は4匹まで増えた。6匹を1匹ずつ隔離して注射した場合は、この症状がもっと顕著になり、初日の注射ですでに4匹が、30日後には全部のラットがマウスを食い殺すようになった。そして、その後THCの投与をやめてもマウスを食い殺す行為をやめなくなり、中には100日以上もマウスを食い殺すラットがでた。…… 「日経新聞」(1971年3月3日)