カナビスの精神障害来院者が急増



神話
イギリスでは、カナビスによる精神や行動障害で病院の治療をうけた患者が過去10年間に85%増加し、特に最近の5年間では急激に上昇して63%増になっている。また、2004年のカナビスのC分類へのダウングレード以降、カナビスの喫煙が原因となって精神障害を起こして治療を受けた子供の数は4倍にも増えている。


事実
85%、63%という数字は、2007年6月に、ロジー・ウインターソン保健相が野党側の質問に答えて発表した カナビス関連の精神科来院者数 がもとになっている。それによると、1997年が510人、1998年506人、1999年625人、2000年600人、2001年581人、2002年674人、2004年890人、2005年869人、2006年が946人になっている。(ドラッグ・スコープの最新情報 によると、2005/06年の946人は、2006/07年には750人に減っている。)

確かに、10年間で85%増えてはいるが、現在のカナビス常用者数200万人、過去1年の体験者が300万人と言われていることを考えると、実数の約1000人以下という数字は非常に少なく、10万人・年あたり2人に満たないほど稀だと言える。(イギリスの人口は約6000万人)。

また、最近5年間で急激に増えている現象は、アルコールに関連する救急病院来院者数の上昇と非常に似ており、カナビスが理由とされているケースの多くがアルコールがらみであることを強く予想させる。イギリスでは、カナビスとアルコールの併用はごく一般的で、さまざまな問題が指摘されている。

いずれにしても、イギリスのアルコールによる来院者数の年間10万人以上と比較すれば、カナビスとの差は歴然としている。また、アルコール関連の死亡者数も毎年5000人を越えているのに対し、これまでカナビスが直接の原因で死んだ人は 知られていない。こうした点からみれば、カナビスの来院者数の増加はそれほど深刻な問題とは言えないことがわかる。


イギリス政府が2007年6月に発表した Safe, Sensible, Sociable のグラフ


●また、ダウングレード以降、カナビスで精神障害を起こして治療を受けた子供の数は4倍も増えているという指摘については、カナビスのダウングレード見直し議論が沸騰した2005年の秋に サンデー・タイムス が報道したもので、有数のドラッグ・チャリティであるアダックションの数字をもとにしている。

それによると、2004年4月から2005年の4月までに、精神病問題を抱えたカナビス・ユーザー1575人を治療し、そのうち181人が15才以下の子供で、昨年度よりも136人増えている。つまり、子供だけに関してみると、1年前は45人だったのに対して2004年のダウングレード後は181人に増加し、4倍になったとしている。

しかし、数字の根拠とされた当のアダックションは、この報道を 「曲解し、事実上間違っている」 と声明を出して否定している。

「カナビスに関連した精神病は大変深刻な問題にはちがいありませんが、先日のサンデー・タイムスに掲載された記事で、われわれアダクションの集計だとして引用された数字は全く根拠がなく・・・われわれが扱ったカナビスを使っていた1575人の若者の多くはアルコールなどの他のドラッグも併用しています。また、カナビスを使用していても、精神病問題の原因がカナビスとは関係があるとは思えない若者のケースも混じっています。」


●カナビスによる救急来院についてみれば、その理由が精神障害によるケースばかりではないことにも注意しなければならない。

イギリス保健省が2008年初めに開示した データ によると、2006-07年度の1年間に、カナビスの使用が原因で病院で治療を受けた成人の数は1万6685人、未成年者9259人で、合計は2万5944人になっている。この数から精神科来院者数の率を求めると、946人÷2万5944人 = 3.6%になる。

この率は、オランダの調査報告 (2005年)で取り上げられているいるアムステルダムの病院の集計結果とほぼ同じになっている。その来院理由の内訳を見ると、気分の悪化と不安が44%、動悸が20%、吐き気が15%、血圧や運動神経の低下による影響で転倒して怪我したケースが14%で、精神病的な症状が認められたのは4%になっている。

実際には、カナビスで来院した人の治療としては大半が落ち着いた場所でゆっくり休ませるか精神安定剤を使う程度で、死亡する可能性のある急性アルコール中毒のようにICU管理下で輸液と利尿しなければならないような深刻な事態にはならない。