産経新聞の誇張と嘘

コーヒーショップの数が激減している

ここで取り上げる神話は、2007年7月に産経新聞のウエブサイトに掲載されたもので、オランダが最近保守化してきてコーヒーショップが激減していると書いている。しかし、この記事の一番のベースになっている最近コーヒーショップが「激減」しているというのは全くの嘘で、この前提自体が根本的に間違っている。

確かに、オランダ政府自身も自分の努力を外国にアピールするために急減していると言ったりしているが、急減したのは10年前のことであって、2002年の保守政権の誕生以降の減りかたは緩やかなものに過ぎない。それは、オランダ政府の調査報告書を確かめれば簡単に分かる。

この記者は何も調べずに、間違った前提に寄りかかって、自分の思い込みと他の記事からのパクリをつなげてストリーを展開している。実際、客観的な観察に乏しく、露骨な誇張ばかりではなく明らかな嘘も平然と書いている。しかも、論理的意味が不明で気分的な表現もあちこちに見られる。

どうせ読者はオランダのコーヒーショップについては何も知らないだろうと高をくくって書いている印象も受けるが、確かに、何も知らない人たちがこの記事を読めば、記者や新聞社が意図している 「社会正義」 が伝わるに違いない。

その意味ではプロと言えるが、しかし、ジャーナリズムには全く値しない行為だ。この偽装記事の根底には暗黙のうちに、カナビスを禁止しておくという目的が正しいのだから誇張も嘘も許されるという意識が横たわっている。しかし、こうした誇張と嘘にもとずいた世論操作は結局、法の尊厳そのものを傷つけ、法を軽視する社会を生み出し社会を害し破壊する。


神話

カナビス天国のジレンマ…オランダ「寛容政策」転換 周辺国は反発  [1]

Date: 2007/07/19
Author: オランダ東部エンシェデ 黒沢潤
Web: http://www.sankei.co.jp/kokusai/europe/070719/erp070719002.htm


エンシェデのコーヒーショップに無造作に置かれたカナビス入りの袋と水たばこの器具(右) [2] 。
カウンターでは、男性客がカナビスを吸っていた(左)

一定限度のカナビス使用が認められているオランダで、カナビスを販売する通称「コーヒーショップ」の数が激減している[3]。防犯上の懸念から保守政権が締め付けを厳しくしているためだ[4]。ところが、他の欧州連合(EU)加盟国は、これがカナビス吸引者の越境やカナビスの流入を増やさないかと懸念している。カナビスは適切に管理しうるという寛容政策を取ってきた同国だが、“手綱”を締めるのも容易ではないというジレンマを抱えることになった[5]
(オランダ東部エンシェデ 黒沢潤)


吸引者の越境を懸念 [6]

「『コブラ』なら0.6グラムで5ユーロ(約840円)、『スカンク』ならもう少し安い」。ドイツとの国境沿いに建つエンシェデのコーヒーショップ「デ・モレン」で、女性従業員はカナビスの銘柄を悪びれもせず説明した [7]

仏陀像やアメリカ先住民の彫り物などが置かれた薄暗い店内では、罪悪感もなく煙をくゆらせる中年男性の姿が妙に目立つ。若者たちがアイスクリームでも買うように、簡単にカナビスを買う。同店を訪れる客は平日約50人、週末はその倍。客の半分は一時の多幸感を目当てにドイツから訪れる「ドラッグ・ツーリスト」だという [8]

ただ最近は、オランダ国内で店舗激減が目立つ。「寛容政策」を見直している政府が店舗を強制閉鎖しているためで、約740軒の店舗数は1997年時の約4割減だ [9]

背景にあるのは治安悪化への懸念。独国境添いの街フェンローの主婦は「ゾンビみたいなドイツ人が真夜中の3時ごろ、店舗の場所を教えてほしくて自宅の呼び鈴を激しく鳴らした」と、6年前の“恐怖”を振り返る [10]

ロッテルダムでは子供への悪影響を懸念し、来年末までに、市内にある約60店舗のうち学校から約100メートル以内にある店舗の閉鎖を決めた [11]

相次ぐ閉鎖は密売人にも打撃を与えている。かつて、モロッコの砂漠に密売組織が埋めたカナビスを掘り起こして車のすき間に隠し、アフリカ各地を経由してオランダに運んだというドイツ人密売人(38)が嘆く。「同業者が途中で捕まり懲役刑を受ける中、おれは計16トンも運んだ。ドイツ人だから怪しまれなかったが、今はご覧の通り、ブラブラする毎日だ」 [12]

問題は、オランダの厳しい姿勢が、隣国では必ずしも歓迎されていないということだ [13]

フェンロー市は最近、街中の吸引者を減らそうと、街外れの国境近くに「ドライブスルー方式」の新店舗建設を計画した。ところが、独側のネッテタル町は、麻薬吸引者の越境が増えることを警戒し、これに猛反発している [14]

ディトマー・ザゲル同町総務部長(55)は「わが町にはこれまでも、民家の庭に小便をし、注射器を捨てる連中が越境して町民を怖がらせてきた」と語る [15]

欧州の「麻薬の首都」と米誌が揶揄するオランダからは、人だけでなくカナビスも隣国に流出している [16]

オランダ〜ドイツ間の高速道路では、独警察が目を光らせるが、全車を止めての検査は物理的に無理だ。実際のところ、記者の車も停車を命じられなかった [17]

野放しにも近いオランダの政策にはドイツ以外のEU加盟国も反発 [18]。ベルギーは「自国の不浄物は自分たちで処理せよ。他国にまで“感染”させるな」と非難し、首相が4月に抗議文を送った。スウェーデンはオランダ製品のボイコットを警告、フランスやアイルランド、イタリアも批判する [19]

品種改良にたけた「チューリップ大国」のオランダは、「カナビス栽培のエキスパート」(国連薬物犯罪事務所=UNODC=のトーマス・ピーチマン研究員)でもある。多幸感を引き起こす同国産のカナビスの化学成分THCは近年、10%から25%へと急激に高められ吸引者にとっては危険な状況となっている [20]

世界最大級のロッテルダム港を抱えるオランダには、コカインなどマフィア絡みのハード・ドラッグも入り込み、近隣国への国境越えも進む [21]

オランダでは、「カナビスを管理する(寛容)政策が結局は『マフィアのゲーム』を封じ込めることになる」=ドラッグ対策協会のフルア・ウドストラ代表(50)=との主張が依然、支配的だ。ただ周辺国を納得させるのは、容易ではない [22]

【用語解説】オランダの麻薬政策 [23]

カナビス購入は原則として違法だが、購入しても「訴追されない」という寛容政策が1976年に導入された。現在はコーヒーショップで、1人5グラム未満のカナビスを購入できる。カナビス(ソフト・ドラッグ)の使用を認めることで、コカインやヘロインなどのハード・ドラッグ使用を防ぐ狙いがある。歴史的に宗教迫害者を受け入れるなどの寛容精神を持ち合わせてきたことに加え、麻薬の根絶は不可能と考える「現実主義」も反映している。



事実

[1] この題は、オランダが寛容政策を転換して厳しい政策をとることに対して周辺国が反発しているということか? よくわからない題だ。この記事は多くのところで Many Dutch coffee shops close as liberal policies change (2007.4.26)、Dutch Coffee Shops Close as Authorities Weed out Drug Tourists (2007.4.29) をパクっている。ただ孫引きしたり、論旨を借りてきていると疑わせるところが多い。

[2] 水たばこの器具? この記者は ボング も知らない? つまり、カナビス専用の喫煙器具であるボングを知らないということはカナビスのことも何も知らないということになる。この記者は、カナビスやコーヒーショップについての事前の情報収集や勉強は何もやっていないのではないか? 自分はプロのジャーナリストで、素人が体験記を書くのとは違うという自覚はあるのだろうか?

[3] この記事では、最近の保守化でコーヒーショップの数が激減しているという認識を前提としてストリーを展開しているが、激減は誇張でその前提自体が間違っている。このことはオランダの研究報告書を見ればわかる。確かに減りつづけてはいるが、2000年以降の減りかたは年間1〜4%程度に過ぎない。(記者が保守化したとするバルケネンデ政権が誕生したのは2002年5月)

急激に減った時期もあるが、それは最近のことではなく1997年からの2年間で、ロッテルダムでアルコールとカナビスを同時販売している店舗でどちらか1つだけを選択させ、半分がアルコールを選んで店舗数が激減したのと、アムステルダムなどで認定シールを発行 して課税することになり、税金を払えない多数の弱小店舗や兼業店舗が自主的に脱落したことが最大の原因になっている。コーヒーショップ数の変遷


(アイントホーヘンは2000年以前は住民数が20万以下)  The Netherlands Drug Situation 2006


[4] 「防犯上の懸念」 は嘘。犯罪行為があればコーヒショップは直ちに閉鎖されるので、実際には防犯上の懸念をしているわけではなく、対外的な問題が起きて批判されること、移民問題での寛容政策の見直しによる保守化、売春や同性愛などとともにモラル的に認めたがらない勢力がいることから締め付け政策がとられている。

オランダは圧倒的に強い政党はなく、常に連立政権で、日本で言うところの 「保守政権」 というイメージとは全く違う。現在の内閣は、キリスト教民主党のバルケネンデをリーダーとする、キリスト教民主党、労働党、自由民主党の3党による左派中道連立政権。2006年までは、キリスト教民主党、自由民主党,D66の中道右派連立政権でむしろ今よりも右寄りだったが、最後は中道D66の離脱で解散に追い込まれた。オランダの政党の種類

[5] 寛容政策と何がジレンマを起こしているというのだろうか? 寛容政策は全面禁止政策を取らないということで、寛容の中身を明確にきめて厳しく運用しようとしているのであって、国会でも大多数が賛成している。寛容政策をやめて禁止すべきかどうかをめぐってジレンマがあるわけではない。

[6] 吸引者の越境を懸念? 吸引者とはオランダ人のことなのか、それともドイツ人(などの他国人)のことなのか? 懸念している当事国はオランダなのかドイツなのか? このサブタイトルも意味不明。

ドイツ人だとすれば、オランダ側がドイツのドラッグ・ツーリストを懸念していることになが、オランダ側とすれば、観光のお客さんでもあり、またEU間の通行の自由を認めるシェンゲン協定もあるので必ずしも積極的に締め出す動きはない。

実際、2003年には、ドナー法務大臣(当時)が、コーヒーショップをオランダ人のみの会員制店舗にして外国人を全面的に締め出す計画を発表したが、地元のみならず国会でも支持されず、いつのまにか立ち消えている。マーストリヒトの混迷、オランダ・コーヒーショップに過去最大の試練  (2005.12.26)

オランダが、ドラッグや売春目的のツーリストであっても基本的には観光客を歓迎しているのはアムステルダムを見れば分かる。確かに、アムステルダムでは IAmsterdam キャンペーンで市のイメージをセックスとドラッグからクリエイティブな産業都市へと変えたいと運動したりもしているが、コーハン市長は、コーヒーショップを閉鎖し過ぎて路上での取引が増えるまでにはしないと明言している。アムステルダム最新報告、NORML・センシブル・アムステルダム・ツアー2008  (2008.1.28)

[7] 店名やボングの名称にコブラという名前はあるが、「コブラ」 というバッズはないのではないか? あまり見かけないが、「コーラ(Khola)」というブランドならば古くから知られているが。また、たまに5ユーロ単位で売っていることろもあるが、普通はグラム単位で売っているところがほとんど。

モレンではなく、モーレン(風車)と書くのが普通だが。この記者はmolenというオランダ語を知らない? また、Enschede をエンシェデとするのも記者の文字読みで、実際にはエンスヘーデまたはエンスヘデと呼ばれている。

エンスヘーデ(人口15万5000人)は、オランダ東部の中都市だがガイドブックに載るような観光地ではない。7軒のコーヒーショップがあるが(1999年は17軒)、国境のショップだけあってパスポートの提示を厳しく求められる。

モーレンは駅のそばにあり国境からは必ずしも近くはない。国境のごく間近には、広いラウンジのある グラスショッパー という有名な大型店がある。記者がそこを取材しないでモーレンを選んだのは、おそらく[1]で指摘した記事でこの店のことを読んだからなのだろう。



[8] コーヒーショップでは、普通の商品と同じように実際上合法なのだから、罪悪感を持って売ったり買ったり使ったりするほうが奇妙だ。実際、普通のカフェと何ら違いはなく、記者が、ありもしない情景を「期待」していたに過ぎない。この記者は、自分自身が奇妙な存在であることに気付いていないらしい。

中年男性が目立つと書いてあるが、地元民がほとんどのコーヒーショップでは、実際には若者が圧倒的に多く、時間によっては若い女性のグループが多かったりもする。そもそも、記事の写真では、ほとんどお客さんがいないのに中年が目立つという表現自体が奇妙だ。

多幸感目当てと言うのはあまりにステレオタイプ。多幸感はカナビスの効果のほんの一面に過ぎず、実際に、多幸感を期待してカナビスを吸う人などあまりいない。

ただ多幸感目当てで吸うのであれば必ずしもオランダに来なくてもできる。例えば、オランダ以上にカナビスが溢れているアメリカからはわざわざ高い旅費を負担してまでも訪れる人たちが非常に多いが、彼らはカナビスそのものよりもカナビスを吸う自由と開放感を求めてやってくる。

[9] [3]でも指摘したように、2000年以降のコーヒーショップ数の減り方は年数%に過ぎず激減しているわけではない。また、コーヒーショップの過半数(52%)は人口20万人以上の大都市に集中しているが、減少はこれらの地域を中心としたもので、人口20万以下の自治体では2000年以降ほとんど変化していない。さらに、自治体の約80%にはもともとコーヒーショップがない。

オランダ政府もしばしば自分の努力を外国にアピールするために4割減という数字を強調して使ったりしているが、実際には店舗を強制閉鎖したりなどしていない。閉鎖するのは地方自治体の権限で行われる。それも強制ではなく、規則違反が繰り返されたケース、あるいは移転させることを条件に閉鎖したり、オーナーが死亡してもライセンスの継続を認めないケースで、理由もなく一方的に閉鎖するようなことはない。

オランダは歴史的に中央政府に対して都市の権限が強い。また、市長は選挙ではなく任命制で、地方議会議員が選出した2名の候補者の中から政府が指名し、州知事が任命するようになっている。従って、選挙目当てのパフォーマンスは必要なく、全体のバランスを考えた実務的で政治や行政経験の多い人が選ばれる。

任期は6年間で、中央政府の任期最大4年よりも長いので、政府の意向を必ずしも反映しているわけでもなく独立性は強い。また、多くの市長は警察署長を兼任しているので警察が暴走することもない。従って、オランダの自治体は日本よりはるかに独自性が強い。日本の中央政府と自治体のような上下関係をイメージするのは間違いで、役割の階層分担がもっと明確。

[10] 確かに、ドラッグ・ツーリストが押しかける国境の都市では、ツーリスト目当ての違法ドラッグのストーリト販売も増えるが、フェンロー(人口3万5000)の最大の問題は狭い街中にドイツ人の車が押しかけて大渋滞してしまうことで、特にドラッグ関連の暴力などの凶悪犯罪が多発したとは伝えられていない。

記者は、「ゾンビみたいなドイツ人」 といったような主観的で疑わしく確かめようもない証言をなぜ強調して書くのか? これではまるでUFOの目撃情報だ。この主婦の話には、第2次大戦で突然ドイツの侵攻を受けたオランダ東部の人たちの記憶が背景にあるのではないか? オランダは何ら抵抗できずにわずか5日で降伏している。オランダ人は基本的にドイツ人を嫌っているので、ドイツの話になると嫌味ぽくなる。

[11] 今回の措置のについては、アムステルダムを別にすれば、ロッテルダムのコーヒーショップ密度が他の都市よりもずっと高いことや、反イスラム・移民排斥を声高に主張する極右翼のピム・フォルテウン(2002年に暗殺)の本拠地で、市議会でも彼のレーフバール・ロッテルダム党が第2の勢力を占めていることも背景にあると思われる。

今回の計画についてのもう少し詳しい報道によれば、中高等学校の200メートル以内の27軒を閉鎖する計画になっている。こうした措置は中小都市ではむしろ普通で、ハーグなどの大都市でも対応済みになっているが、ロッテルダムでは1997年からの2年間にアルコールとカナビスを同時販売している店舗でどちらか1つだけを選択させる政策を実行しているので、学校対策については時間を置く必要があったのではないか?

今回の措置で興味深いのは小学校が対象外になっていることだ。理由は、小学生がカナビスを使っていないからと書かれている。このあたりについては、「子供への悪影響を懸念」 して闇雲に観念的な 「キッズ・カード」 を持ち出してきて反対するアメリカやイギリスなどとは違って、実証的なオランダらしさがよく表れていると言えるかもしれない。Rotterdam bans cannabis-selling cafes near schools

しかし、今回の決定は、閉鎖に対して金銭補償や移転ライセンスの発行も認めないという強行なもので、コーヒーショップ側が裁判を起こすのは必至だと考えられており、市の目論見通り2009年までに決着するかどうか疑問もある。

また、もともと未成年はコーヒーショップに入れないので、あまり多く閉鎖し過ぎると秘密店舗や路上での密売、宅配などが増えて、かえって未成年が入手しやすくなるという弊害が出てくる可能性もあり、問題はそれほど単純ではない。


[12] 記者はコーヒーショップの急激な閉鎖で運び屋の仕事がなくなったと言いたいようだが、それは単なる憶測に過ぎない。通常、リスクの大きい国境越えのハシシの密輸入にコーヒーショップが直接関与することはなく、卸売業者から買っている。ダッチ・エクスペリエンス 第5章 コーヒーショップのバックドア

モロッコのハシシ生産地は、地中海に面した北部の嶮しいリフ山岳地帯にあり、南部のサハラ砂漠とは全然逆方向で、わざわざアフリカ 「各地」 を経由して運ぶことなどまず考えられない。モロッコ、ハシシ生産は衰えず、国連カナビス根絶作戦の最前線  (2006.7.15)

車のすき間に16トンも詰め込むのは不可能。ノル・ファン・シャイクがバンを改造してモロッコからハシシを運んだときは4トン。 また、普通は、ある程度回数を重ねた運び屋はリスクが多くなって使われなくなる。ましては仲間が捕まったのであれば即座に敬遠される。彼に仕事がなくなったとすればそのためだろう。コーヒーショップとは関係ない。

[13] 「オランダの厳しい姿勢が隣国では必ずしも歓迎されていない」 というこの文章の意味は、オランダが甘い姿勢を取って外国人ツーリストをどんどん受けいれたほうが隣国に歓迎されるということか? 

[14] フェンローの移転計画が 「最近」 というのは全く嘘。2001年ころから議論が始まり、2004年には街の中心部にあった同一オーナー2軒の店が合併して国境付近に移転して決着している。その際に猛反発したのは外野の禁止論者たちで、当のネッテタル市議会は猛反発などしておらず、中心部のドラッグ・ツーリストの迷惑を減らそうとしているフェンロー市側の願いは理解できると表明している。ドイツ隣接のオランダ・フェンロー市、国境にメガ・コーヒーショップをオープン  (2004.3.15)


OaseとRoots が合併して Oase-Roots になった。店の前には200台の駐車場もある。

確かに、ドイツとの国境地帯に関しては2000年以前にエンスヘーデで大問題になっている。この時は、スエーデンまでもが介入する騒ぎとなり、最後はドイツ側が押し切ってコーヒーショップの出店計画は中止された。しかし、それ以降は、アーネムやナイメーヘンを始めとする他の国境地帯の都市ではあまり大きな反発は起きていない。エンスヘーデでもその後、国境にごく近くに 大型のコーヒーショップ ができている。

また、2005年以降では、マーストリヒトの移転計画が問題になっているが、相手はベルギーでドイツ側はあまり問題にしていない。ベルギーはコーヒーショップを開くべき  (2007.12.4)

[15] この記者は、カナビスでも注射することがあると思っている? ヘロインとカナビスの区別もついていないのだろうか? また、オランダには注射針の交換プログラムがあることを知らない? 

また、この文の意味は、オランダに行くドイツ人のヘロイン・ユーザーがオランダに入る前に注射針を捨てていくので迷惑しているということで、本来はドイツの問題なのをオランダのせいにしている。

[16] オランダ人がカナビスを売りにドイツへ行く? わざわざドイツに行かなくても待っていればコーヒーショップで売ることができるのになぜ行かなければならないのか? 観光では、オランダに来るドイツ人のほうが圧倒的に多い。オランダのカナビスを持って帰っているのはドイツ人。

[17] 「独警察が目を光らせる」 と書いているが、警察は多量のハードドラッグを見張っているのであって、コーヒーショップから数グラムのカナビスを持ち替えるツーリストを相手にしているわけではない。A Dutch town near Germany struggles to bring drug traffic under some control. Philadelphia Inquirer (2002.2.24)

[18] 「野放しにも近い」? まったく逆。オランダ以上にカナビスを管理できている国は他にない。実際イギリスなどでは、異物の混入した危険なソープバーやガラスビーズの入ったグリットウィードなどが出回り、保健省が警告を出したりしているが、オランダのカナビスは、コーヒーショップのプロがチェックしているために異物の混入や低品質のリスクは少ない。

また、ハードドラッグが原因で死亡する人の数は、オランダが年間10万人あたり1人だけなのに対して、デンマークでは5人、ノールウエイでは8人になっている。カナビスに厳しい政策を取っているスエーデンでも年間150人以上がドラッグで亡くなっているが、スエーデンの1.8倍の人口を持つオランダでの2005年のドラッグ関連死亡者数は122人に過ぎない。従来の見積よりはるかに多い、スエーデンのカナビス消費量 (2007.6.11)

さらに、オランダではコーヒーショップと注射針支給プログラムの組み合わせが成功して、ヘロイン中毒者が高齢化・減少してきている。オランダ、ヘロイン・ジャンキーが高齢化 (2007.6.20) また、オランダでは、ストリートドラッグの分析サービスも行われているが、このようなサービスはオランダ以外では スイス を除けば余り聞かない。


The Report on the Drug Situation in the Netherlands 2006


[19] ベルギーの首相がオランダの首相に書簡を送ったのは事実だが、常識から考えてこのような乱暴な文面であるはずがない。記者の作文でないのならソースを知りたいものだ。

ベルギーのトングレン市のアイボ・デルブローク公訴局長が 「Keep your misery and filth to yourself and don’t come spreading it in our region (自分の国の窮状や堕落は自分で始末すべきで、こちらに押し付けるのは筋違いだ)」 と語っている記事があるが、もしかしたらこれからか?。オランダ・マーストリヒト、カナビス栽培をめぐる現実主義と教条主義の闘い  (2006.7.4)

ベルギーのフェルホフスタット首相が書簡を出したのは、2007年6月の総選挙を控えて不利な情勢を打開しようとしたものと受け取られている。コーヒーショップに関するオランダとベルギーの戦い (2007.4.19)、 ベルギーもドイツもコーヒーショップをオープンすべき、オランダ・マーストリヒト市長インタビュー (2007.4.27)。だが、選挙では、フェルホフスタット首相の連立与党が大敗し、8年ぶりの政権交代となった。

ベルギーではフェルホフスタット政権が2001年に3グラムまでの所持を認める決定をしたが、一方で販売は禁止したままで、当時の司法相は、カナビスを手に入れるにはオランダのコーヒーショップで買えばいいと答えている。ベルギーには根本的にこのようなご都合主義がある。 Cannabis Should Be Legal, Belgian Cabinet Decides (2001.1.22)、 第10章 ダッチ・エクスペリエンスをベルギーへ輸出、ベルギー、カナビス所持を非犯罪化

スエーデンが介入したのは2000年以前のエンスヘーデの問題。実際にボイコットしたという話は伝えられていない。スエーデンとフランスとアメリカは禁止論者の牙城なのでごく当然の反応に過ぎない。また、アイルランドやイタリアの場合は、議会内部でもカナビスに対する意見が分裂しており、自国の政争がらみの材料になっている。

[20] THCの効力が高くなって危険な状況というのは、UNODCなど禁止論者の常套句。25%というのは、おそらくオランダ産のアイスハシシのことだろう。オランダのトリンボス研究所の報告では、バッズに関しては2004年の20%をピークとして、それ以降は下がり気味になっている。オランダ、室内栽培場の摘発強化でカナビスの効力が下降、価格は上昇  (2007.10.3)

また、慣れれば、効力が変化しても吸う量を簡単に調整できるので、効力の強いからといって特に危険なわけではない。神話 効力の強いカナビスほど危険

品種改良は、もともと強い品種を室内で簡単に栽培できるようにしたもので、それが多く出回るようになって全体の平均効力を押し上げているだけ。品種改良で従来なかった特に強いものができたわけではない。シードバンクでは、現在も70〜80年代の種も売っているが、これは昔からの品種でも、新しいものと同様に十分効力が強いことを示している。


The Netherlands Drug Situation 2006  (Trinbos)


[21] エクスタシーなどはオランダを経由して世界に流れているが、製造している中心はライン川沿いのドイツからスイスにかけての地域。もともと、この地域は、ロマンチック街道の城の多さをみてもわかるように、ドイツの地域権力者が群雄割拠していたところで、独自の染料を秘密に作って自分の権勢を誇示していた。秘密工場は見付からないように移動式だった。こうした伝統がいまも残っていて、この地域の密造工場の製薬技術や開発力は高いことが知られている。

ロッテルダムはライン川の下流にあるために、昔から、ドラッグばかりではなくあらゆる製品の中継地になってきた。このために密輸は今に始まったことでもない。

[22] オランダ議会の多数も実経験から同じ見方をしている。しかし、最近は、販売を認め栽培を禁止しているバックドア問題が顕在化してきて、ギャングへの新たな封じ込め措置が求められている。オランダは素面、正面からカナビス法のあり方を議論  (2006.1.1)

カナビス栽培の合法化が必要なことについては、マーストリヒト市長もウエブサイトで詳しく説明している。マーストリヒト市のコーヒーショップ政策、カナビスとコーヒーショップに関する13の誤解と1つの結論

また、オランダ元首相や現市長や警察管区所長らがバルケネンデ首相に国際法の改革に取り組むように提言している。もっと柔軟なドラッグ政策が必要、元首相や現市長らがバルケネンデ首相に書簡  (2007.12.12)

[23] 「麻薬」 という表現には疑問もあるが、この部分はだいたい正しい。たぶん、どこかからコピペしたのだろう。だが、些細なことを指摘すれば、5グラム 「未満」 は間違いで、正しくは5グラム 「以下」。

カナビス反対派の中には、「オランダでも一日に5グラムまでしか買えないようになっている」 と盛んに強調する人もいるが、この制限は、実質的には未成年のチェックと多量仕入れ目的の密売人を遠ざける効果を狙っているだけで、個人ユーザーが不便を感じることはない。

というのは、1グラムが約7〜10ユーロで5グラム買うと5000円以上もかかってしまい普通の人は毎日そんなに買えないし必要もないからだ。また、どうしても欲しければ次々と別の店を回ればいくらでもに入手できる。オランダでは、個人は最大30グラムまでの所持が認められている。