From Hempire Cafe

オランダ・マーストリヒト
カナビス栽培をめぐる現実主義と教条主義の闘い

本格的カナビス合法化論議が始まる

Source: cafebabel.com
Pub date: 4th July 2006
Subj: Pragmatism versus dogma in Maastricht
Author: Thijs Lammers
http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/
pragmatism_versus_dogma_in_maastricht


マーストリヒトのジェラード・リーアス市長がリベラルなドラッグ政策に転じてから3年が経過した。当初は強行な禁止論者だったが、今では国境越えのドラッグ・ツーリズム問題に対処するために 「カナビス通り」 を国境地帯に作ることを提案している。市長は、また、コーヒーショップのカナビス販売にも好意的で、ショップに供給するためのカナビスを管理規制して栽培すること提案している。

オランダでは、コーヒーショップでのカナビスの販売は認められているが、ショップ供給のための栽培は明確に禁止されている。このために、供給はブラック・マーケットで行われている。特に、マーストリヒトではドラッグ・ツーリズムの増加とともにブラック・マーケットも拡大を続けており、市長は、供給栽培の規制管理を徹底して地下組織の排除をめざしている。

マーストリヒトのコーヒーショップには年間およそ150万人のドラッグ・ツーリストが訪れる。その大半は国境を隔てたドイツやベルギー、さらに車で1時間余りしかかからないフランスからやってくる。こうしたツーリストは、販売が禁止されている自国から、灯りの群がる昆虫のようにオランダに引き寄せられてくる。しかし、ツーリストの増加による需要の拡大は、市の中心部に多大な混乱を引き起こしている。なかでもドラッグに関連した犯罪の増加は極めて深刻な問題になっている。


現実主義の成功

1976年以来、オランダ政府は、コーヒーショップでのカナビスの販売と使用を非犯罪化扱いしてきた。ショップでは18才以上の成人に5グラムまでのカナビスを販売することが認められている。

こうした政策に背景には、ソフトドラッグとハードドラッグを分離したほうが好ましいという現実主義的な考え方がもとになっていた。つまり、カナビスを使いたい人が安全で合法的なきちんとした店でカナビスを買えるようにすれは、街頭の密売人のような犯罪者と接触してハードドラッグに近づけてしまうよりもずっとよいと考えられていた。

統計はこの政策が正しかったことを物語っている。オランダは西側諸国ではカナビスを「合法的」に販売している唯一の国だが、カナビスを使ったことのある若者は13%しかいない。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の調査によれは、所持や使用が禁止されている国の若者の使用率のほうが大きい。例えばベルギーやアイルランドやアメリカでは17%、イギリス20%、フランス22%などとなっている。

さらに、オランダでは15才から64才までの人でハードドラッグを使っている人は1000人中3人しかいないが、ルクセングルグ、イギリス、イタリア、ポルトガル、デンマークでは7〜10人になっている。また、ドラッグが原因で死亡する人の数は、年間10万人あたり、オランダが1人だけなのに対して、デンマークでは5人、ノールウエイでは8人になっている。


顕在化する現実主義の欠陥

マストリヒトでは、毎日4000人のドラッグ・ツーリストが押し寄せてくるために、地元の人の需要に加えて、数百キロのカナビスが販売されている。当然、この需要を満たすためにはそれだけのカナビスを栽培しなければならない。しかし、この需要の増大がこれまで通用してきたダッチ・モデルの欠陥が浮き彫りにすることになった。

つまり、コーヒーショップではカナビスの販売が許されているのに対して、それを合法的に仕入れる方法がないという奇妙な仕組みが顕在化してきた。コーヒーショップの 「フロントドア」 は規制で管理されているのに、「バックドア」 は無防備のまま残されている。リーアス市長はこのことを 「パン屋にパンの販売を認めておきながら、原料の小麦を買ってはならないと言っているのに等しい」 と語っている。

現在では、高度に組織化されたギャングがカナビスの栽培と供給をコントロールしている。ギャングは栽培器具を用意し、普通の低所得者たちを狙って多額の現金を見せつけ、自宅の地下室やガレージや屋根裏などでカナビスを栽培させている。このために、子供も含めて何千もの家族が重大な犯罪行為に引き込まれてしまっている。ギャングの誘惑がコミュニティに亀裂を起こし、社会を崩壊させるまでになっているといっても決して過言ではない。


国会の栽培合法化支持

リーアス市長の提案の中には、こうした事態に対して、善良で誠実な栽培者や流通業者によるカナビスの生産・流通を合法化して、家庭内での違法栽培を一掃することも含まれている。さらに市長は、ドラッグ・ツーリストの市内への流入を防ぐために、国境地帯にカナビスを買うことのできる 「カナビス通り」 を作り、警察資源を集中して最大限に活かせるようにすることも支持している。

リーアス市長の新しいアクション・プランは国会でも広い支持を獲得している。先日まで行政改革と国内の都市問題を担当していたアレキサンザー・ペチトールド大臣(D66)もこの政策への支持を表明していた。これには、オランダの30大都市の20の市長がリーアス市長の考えを支持していることも背景になっている。

オランダ議会も審議を通じて、EUのレベルで政府がEU諸国にカナビス合法化政策に対するオランダの立場を説明すること、さらに、政府がコーヒーショップに供給するためのカナビス栽培管理の実験を開始すること、を求めた2つの案を提出していた。


隣国との摩擦

一方、こうした議論は隣国のベルギーやドイツの反発を呼んでいる。ドイツのオットー・シリー元内務大臣はダッチ・モデルに強く反対し、これまでもオランダのドナー法務大臣とたびたび衝突を繰り返してきた。

シリー氏は、ベルギーの反対者と同様に、いかなるドラッグの販売であれその使用を促し、ヨーロッパでも違法ドラッグの蔓延を招くと考えている。ベルギーのトングレン市のアイボ・デルブローク公訴局長も語気を荒げて 「自分の国の窮状や堕落は自分で始末すべきで、こちらに押し付けるのは筋違いだ」 と語っている。

これに対してリーアス市長は、、「こちらの問題をベルギーやドイツの町に輸出しているという議論は正当なものではありません。マーストリヒトには16軒のコーヒーショップがありますが、地元住民のためだけなら6〜7軒で足りるのです」と述べ、ベルギーの言い分は偽善であると指摘し、「問題はコーヒーショップではありません。問題は、ベルギーでは3グラムのカナビスの所持を認めておきながら、販売を禁止していることにあります。こちらに買いに来るのはそのことが原因なのです。」


タブーへの挑戦

この問題は一部の地域の問題ではなく全体にも共通している。すべてのコーヒーショップを閉鎖することは簡単にできるかもしれないが、その結果、カナビス産業を地下に押しやり、規制管理することができなくなってしまう。「ソフトドラッグの需要を消し去ることはできません。現に、カナビスに抑圧的な政策を取っている国を見れば、ドラッグの使用率はとても高くなっています」 とリーアス市長は語っている。

4月21日には、ヨーロッパ議会でEUのドラッグ・アクションプラン2005-2008の関する公聴会が開催された。その中には、国境地帯のドラッグ問題の実体験を聞くためにリーアス市長も招かれていた。「EU議会は、これまでのような厳格一本槍の対応を断じてやめて、カナビスを嗜好目的のアルコールと同じように受け入れるべきです。カナビスを規制管理して害削減を行えば犯罪を減らすことにつながります。われわれはタブーを打ち破らなければなりません。」

マーストリヒトの地図

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オランダのコーヒーショップの バックドア問題

6月30日、オランダ内閣が総辞職し、11月22日に総選挙が実施されることになった。総辞職の直接の引き金になったのは、移民担当大臣の硬直的な姿勢と対応のまずさによるもので、連立与党内のD66(民主66党)からの辞任要求が出ていた。しかし、受け入れられず、D66が連立を解消して、内閣が過半数を割り込んで総辞職に追い込まれた。

D66はもともとカナビス政策にも好意的で、最も勢力があった紫連合の時代には カナビス栽培の合法化にも取り組んだ。今回の連立解消には、移民問題ばかりではなく、ペチトールド自治大臣のカナビス栽培計画賛成姿勢 に対する ドナー司法大臣の拒否 への不満もあったと思われる。

総選挙までは、D66を除いたCDA(キリスト教民主連盟)とVVD(自由民主党)だけで暫定少数内閣を構成することになっているが、もともとD66の議席が6(全議席150)と少ないので、余り大きな影響はないとの見方もある。総選挙についても、景気が持ち直していることもあって与党側に有利だと見るむきもあり、結果は予断を許さない。

カナビス・コミュニティでは、このところの政府の規制強化の動きに対して危機感を強めていたこともあって、敵対的な内閣が倒れたことを歓迎している。最近では、任期切れにともなう来年の5月の総選挙に向けて、コミュニティでは 政治キャンペーン をくりひろげることも計画していたが、総選挙の日程が早まったことで、この動きも加速されることになるだろう。コミュニティは新しい時代を前にして正念場をむかえている。


移民問題については、1年ほど前より不法滞在者を含めて2万人あまりの外国人難民を強制送還することが計画されていたが、法の規則だけを額面通りに実行するファードンク移民担当大臣(もと看守)の余りに強行な姿勢に非難が出ていた。

ソマリアから移民してきた同僚で友人の国会議員ヒルシ・アリの亡命申請に嘘のあることが発覚すると、ファードンク大臣は即座に国籍を剥奪したが、その独断的なやり方に批判が起こった。さらに、後日それを撤回した際に、パスポートの発行を条件にアリからの告発を抑え込む圧力をかけたことわかり、ますます大きな非難の的となった。

その他にも、コソボからの難民の子供で18歳の女子高校生を卒業試験直前に強制送還するという事件もあった。両親が提出した滞在許可申請に不正があったというのが理由だったが、両親が送還されたあと、卒業試験まで数週間身を隠していた少女を試験当日に教室で手錠をかけて連行するという、無慈悲であまりに手荒い扱いにオランダ国民も眉をしかめた。

不正申請をした移民を強制送還させるという政策自体は支持されていたが、ファードンク大臣の規則だけを強行に振りかざすやり方は、人を最後まで追い詰めることを好まない伝統的なオランダの寛容的な資質とは馴染まなかったと言える。

このことは、ファードンク大臣ばかりではなく、ヒルシ・アリ自身の妥協を許さぬ挑発的な言動やドナー法務大臣のカナビスに対する頑固な姿勢に通じるものがある。今回の内閣総辞職の背景には、柔軟性を失っていく社会に対するオランダ国民の危機感があると思われる。

アヤーン・ヒルシ・アリの国籍問題とフェルドンク移民・国民統合相の対応