効力の強いカナビスほど危険


神話
現在のカナビスは、1960〜70年代のマリファナよりも20倍も強力になって危険が増している。このことが統合失調症を引き起こす一因になっている。


事実
カナビスの効力が強いほど精神病のリスクが大きくなるという話は、あちこちに必ず出てくる。こうした話しが一般受けしやすいのは確かだが、実際には、効力が高くなるに従って危険が増えることをきちんと示した研究は全く見当たらない。

「20倍」 いうよく見かける数字の根拠になっているのは、おそらく、1972年の、「マリファナ、誤解のシグナル」 というアメリカ政府の諮問委員会報告書の数字だと思われる。報告書には、アメリカで使われているメキシコ産のマリファナのTHCが1%と書かれているが、現在の高効力バッズのTHC量が20%前後であることを考えれば、確かに20倍になっている。

しかし、当時はまだやっとカナビスからTHCの単離に成功したばかりの時代で、十分な知識や情報もなく、測定機器の精度や押収されたマリファナの保管状況などにも問題が多い。例えば、報告書では、輸入されたハシシのTHCは5〜12%と書かれているが、インドのハシシは今も昔も20〜30%前後なので、押収されたものの効力は数分の1になっている。こうしたことを考慮すれば、当時のマリファナも5%ほどあったと考えてもおかしくない。もっとも、今では、THCが1%ではハイにすらならないことが知られている。

また、当時のユーザーは、マリファナの効力を増すためのさまざまなテクニックも知っていた。実際に、効力を増強することは意外と簡単にできる。種子を覆う包葉だけを集めたり、ぬるま湯にさらして不要成分を除去したり、アルコールで活性成分を抽出することも多く行われていた。当然、カナビスのヘビー・ユーザーほど「増強」したカナビスを使っていたはずで、現在のカナビスが栽培法の工夫や品種改良で効力が増えているにしても、年配のユーザーたちからは、その割合はせいぜい増強分程度で効力は余り変化していないという印象も聞かれる。

一方、ヨーロッパでは、こうしたアメリカの事情とは全く異なり、カナビスとしては19世紀からハシシが主流だった。バッズが使われ出したのはシンセミラが盛んになった1980年代以降のことになる。ハシシは現在の普通のバッズよりも強い。その意味では、昔のヨーロッパ人のほうが平均して強いカナビスを使っていたことになり、現在の平均効力のほうがむしろ低いことになる。


実際は、20年で2倍程度

ホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)が2007年4月25日に発表した プレスリリース では、カナビスの効力の上昇はこの20年間で2倍程度増えたに過ぎないことを認めている。これは、2002年にジョン・ウォルターズ長官自身が、「倍どころではなく、30倍にもなっている」と 語っていた ことが全く誇張であったことを示している。


Univ of Mississippi Marijuana Potency Monitoring Project, Report 95, Jan 9 2007   クリックで拡大


実際のところ、シ-ドバンクのカタログを見ても、ヘイズ品種やタイのサティバ品種など60〜70年代の品種が現在でも売られているが、このことは今でもそれらの品種が十分に効力の強いことを意味している。

今日の主流である品種は、当時はあまり知られていなかったインディーカ種やルデラリス種との交配で、室内の栽培に適するように小ぶりで短期間で成育できるように改良されたもので、昔の品種よりも特に効力が強くなっているわけではない。

またグラフからも明らかなように、効力の上昇している理由は、2000年以降に低品質のカナビスが淘汰されて高品質のカナビスが普及して平均値が上がったためで、これは、品種の改良で全体の効力が増したのではなく、誰でも室内で簡単に育てられる高THC品種が当たり前になってきたために、低品質のカナビスが少なくなったために起こっているに過ぎない。

こうした状況はイギリスでも同様で、ここ数年、イギリスのカナビス市場の主流が従来の20倍も強力なスーパー・スカンクになって、精神病の引き金になっているという主張が頻繁に語られるようになっているが、2007年年末に発行予定の2つの研究では、THCの平均効力は1995年の7%から2005年には2倍の14%なっているものの、効力が20倍のスーパー・スカンクがストリートに蔓延しているという話については、そのような事実はないと退けている。

これらの2つの研究は、法医学サービス・ドラッグ情報部とロンドンのキングス・カレッジの研究チームが実施したもので、いずれも有数の権威ある研究機関として知られている。

キングス・カレッジの研究では、ダービーシャー、ケント、ロンドン、サセックス、マージーサイトで警察が押収したスカンクを分析した結果、市場に溢れていると言われているような新種の30%以上のスーパースカンクなどは見られず、最大でもはるかに低い24%どまりで、20%を越えるカナビスは4%しかなかったと結論を出している。また、押収された中ではTHC濃度が3〜4%の伝統的な非スカンク系のハーバル・カナビスが多く、濃度は10年前と変化していないかったとしている。

イギリスの2研究、高効力スカンクの蔓延説を全面否定、THC20%以上のスカンクは全体の4%のみ  (2007.9.17)


高効力なほど危険?

現在、オランダで公式に生産されている医療カナビス・ベドローカン (Bedrocan)のTHCは18%、カナダ保健省のものでも10〜14% になっている。これは、特に医療用だから強いというわけではなく、もともとカナビスがきちんと効くためにはこの程度のTHCが必要なことを示している。


Evaluation of herbal cannabis characteristics by medical users: a randomized trial

実際、2003年の夏にカナダで初めて医療カナビスの提供が開始された当時のTHCは7%〜11%だったが、特に低濃度のカナビスは人気がなく、1年後にTHCの濃度を全体に3%ほど増強してから、購入者が増えている。しかしその後また頭打ちの状態が続き、さらに効力の強いベドローカンの調達をオランダに打診したりしている。

摂取量の調整は、強いカナビスのほうが効果が確実に判るので簡単だ。吸う量をユーザー自身が調整できるので、効力が強ければ自然に量を減らすようになる。むしろ、きちんと効かない低濃度のカナビスでは、だらだらと吸い続けていると依存に陥りやすく、肺への影響や混入異物の危険も高くなる。こうした点から言えば、適切に使えば高効力のカナビスのほうがむしろ危険は少ないとも言える。

高効力のカナビスほど精神病になりやすいと言う主張が成り立たないことは、19世紀末にインドで実施されたイギリスによる 大規模研究 の結果をみればわかる。インドで通常使われているカナビスは効力の強いハシシだが、最終的に調査委員会は、インドにおけるカナビスの使用はイギリスにおけるアルコールの使用は同じようなもので、カナビスが精神異常を引き起こすという証拠はない、という結論を出している。

また、デンマークの研究によると、デンマークでは、カナビスは強いハシシが通常使われているのに加えて、16〜24才のカナビス経験者が40%、最近1ヶ月以内の使用者が20%であるにもかかわらず、カナビスによって引き起こされたとする統合失調症を含む精神障害の発生は、10万人・年で2.7人しかいないほど稀だと書かれている。

さらに、世界では、ハシシ中心のヨーロッパとバッズ中心のアメリカのように、地域によって使われているカナビスの形状と効力に相当差があるが、統合失調症の発症率に影響を与えていることを示した報告は全く見られない。



UNODC World Drug Report 2006  クリックで拡大


Cannabis potency in Europe  L.A.King, C.Carpenter, P. Griffiths, Addiction, Volume 100 Issue 7 Page 884-886, July 2005
カナビスの効力が飛躍的に上昇? 効力の強いカナビスは危険か? を参照。