カナビスはゲートウエイ・ドラッグ



神話

カナビスはゲートウエイ・ドラッグであり、長期間を使っていると徐々にコカインやヘロインなどのハードドラッグを使うようになる。

さらに、環境的な要素ばかりではなく、生理学的にもそうなることが証明されている。実際、ラットを使った実験で、青少年期にTHCを与えると大人になってからヘロインをより使うようになることが示されている。


事実

●まず重要なのは、カナビスがヘロインなどのゲートウエイ(踏石)になるという理論では、「カナビスそのものはドラッグとしては危険ではない」 ことが前提になっている点を押さえておかねばならない。

そもそも、アメリカでカナビスが禁止された1937年当時は、カナビスが人を殺人鬼にしたり強姦魔にしたりするという圧倒的な危険が理由とされていたので、ゲートウエイ理論など持ち出す必要がなかった。

しかし、その後1944年にラガルディア調査報告書などでカナビスでは暴力的にならないことが明らかになってくると、カナビスが危険だという主張を維持するためにゲートウエイ理論がささやかれ始めた。このことは、禁止法の中心人物である麻薬局のハリー・アンスリンガー局長の議会での証言の変遷を辿ればわかる。

彼は、1937年のマリファナ税法に関する公聴会の時、『マリファナ中毒者がヘロインやコカインやアヘンの使用者へと進むかどうか怪しい気がしますが?』 というジョン・ディンガル議員の質問に対して、『ええ、私もそのような例は聞いたことがありません。それらは全く別のものだと思います。マリファナ中毒者はそういう方向には進みません』 と答えている。

しかし1956年に行われた 「麻酔薬取締法」 の公聴会では、『マリファナについてあなたと話していたとき、マリファナ使用の真の危険性は、多くの人が徐々にヘロインなどの本当の耽溺性薬物を使うようになってくることだと伺いましたが、本当でしょうか?』 というプライス・ダニエル上院議員の質問に対して、彼は、『それが最大の問題です。マリファナの使用に関してわれわれが持っている最大の関心は、長い間マリファナを使っていると、徐々にヘロインの使用に陥るということです』 と18年前と全く逆の答弁をしている。

このように、ゲートウエイ理論は、害の少ないカナビスを危険にしておく必要性ために、後からこじつけられた理論であることがわかる。


●ゲートウエイ理論についてはこれまでもさまざまな調査や研究が行われてきたが、明確にそれを支持するようなデータは実質的にはないと言っても過言ではない。しかし、反カナビス側は反対キャンペーンの柱にしてきたゲートウエイ理論を守るために、疫学的な研究ばかりではなく、普遍性の高い生理的関連性を証明しようと長年さまざまな研究を後押しして助成してきた。

最近の研究としては、2006年7月に、ニューヨークのシナイ山医学大学のヤスミン・ハード教授に率いられたスエーデン・ストックフォルムのカロリンスカ研究所のチームが、マウスを使ってカナビスのゲートウエイ理論を生理学的に証明したと発表して注目を集めた。
Rats taking cannabis get taste for heroin: Ellgren M., Spano S. M.& Hurd Y. L. Neuropsychopharmacology, doi: 10.1038/ sj.npp. 1301127, 2006.

未成年期にカナビスを経験させたマウスでは、そうでないマウスに比較して、将来ヘロインを欲しがる傾向が見られたという研究だが、実験内容の詳細を読むと、むしろカナビス・マウスのほうが賢く振る舞い中毒的な行動が少ないことが示されている。しかし、そのことには触れずにゲートウエイの正統性を主張しており、最初から結論ありきの研究だったことがわかる。

研究者たちは、マウスを2つのグループに分け、一方のグループにだけ生後28日間(未成年初期)に3日ごとにTHCを与え、その後58日間(未成年中期)は双方のグループにヘロインを与えた。

各々のケージには、有効バーと無効バーが設置され、白ランプが点灯しているときに有効バーを押すとヘロインが出てくる仕掛けになっており、有効バーを多く押せばより中毒になったことが分かるようになっている。

その結果、どちらのグループも最初に15セッションでは、無効バーよりも2倍以上有効バーを操作し、消費したヘロインの量に違いがみられず同じ程度の中毒症状を示した。しかし、中毒状態が定着した後では、対照群のラットの消費が減ったのに対して、カナビス・ラットでは対照群より25%多くなった。これが、ゲートウエイの証拠として取り上げられた。

しかしながら、カナビス・ラットはそれ以上消費が増えることはなく、ケージの隅にうずくまって、欲しいときにだけランプが点灯に合わせて着実に有効バーを押すようになったのに対して、対照群のラットはケージ内を動き回り、ランプが点灯していない時でも有効バーを繰り返し押し続けた。

このように、実際には、対照群のラットのほうが消費量が減ったのは上手にバーを押すことができなかった結果で、外見的にも目立った中毒・依存行動を示している。一方では、カナビス・ラットは、ランプが点灯していても欲しくなければ無視して動かず、一定以上の中毒にはならず依存性も増えていない。

全体の結果からすれば、カナビス・ラットのほうが中毒・依存度が高くなることが証明されたとは言えず、ゲートウエイ理論通りにはなっていない。

この実験については、イギリス下院科学技術委員会の 報告書 でも、「論文を検証したが、ゲートウエイ理論を立証するような確定的な証拠は見出せなかった」 と書いている。

しかし、研究者たちは25%増えたことだけを強調し、新聞報道 などでもそのことだけしか取り上げていない。もっとも、こうしたバイアスのかかった報道操作は、ヤスミン・ハード教授が頑強な反カナビス論者であることや、カロリンスカ研究所がスエーデンのドラッグ乱用研究所(NIDA)に相当することを考えれば、あまり驚くほどのことでもないかもしれない。

●また、最近の疫学研究とすれば、2件の大規模研究が発表されている。一つはピッツバーグ大学の研究で、もう一つはオーストラリアの研究は4000人の双子を対象に行われた。いずれもゲートウエイ理論に否定的な結果になっている。

2006年12月に発表されたピッツバーグ大学の研究では、224人の少年を対象に10才または12才から22才になるまでの10年間あまりを追跡調査をしている。

結果は、当初から予想を裏切るものだった。一部の少年たちはゲートウエイ理論通りにタバコまたはアルコールから始まってカナビスをやるようになったが、別の少年たちは逆にカナビスが最初だった。また、最初のドラッグから次のものへは全く移行しない少年もいた。

データを詳細に調べた研究者たちは、ゲートウエイ理論を適応することは無理で、どのドラッグを最初に始めたかよりも、隣人や周囲の状況などの環境的要素が大きな役割を演じていることを見出している。結論として、「ドラッグ乱用の順序が、特定のドラッグが起点になっていることも、また決まったドラッグの次になっていることもない」 と書いている。

このピッツバーグ大学の研究は、カナビスの悪害を見つけることを使命としている連邦ドラッグ乱用研究所(NIDA)から資金提供を受けて実施されたもので、当初の目論見とは全く反対の結果が出た点でも注目される。

また、2006年11月に発表されたオーストラリアの研究は、さらに大規模で複雑なものだが、まったく同じような結論に達している。調査は、カナビスや他のドラッグを使っている4000人を越えるオーストラリアの双子を対象にしたもので、青年期から大人になるまで詳細な追跡を行っている。

調査データの解析にあたっては、双子から得られた実データを13の異なる数学的モデルを使って、カナビスの使用と他の違法ドラッグがどのように関連しているかを分析している。

その結果、カナビスが他のドラッグの使用を引き起こすような順序関係はなく、カナビスをやってみようとさせる要素群と、他のドラッグをやってみようとさせる要素群に違いがないと結論を出している。

さらに、研究者たちは、何らかのゲートウエイ効果があったとしても、それは 「薬理学的なものではなく社会的なものであり、カナビスを通じてユーザーをブラック・マーケットのディラーと結びつけ、そのディラーが次第に他の違法ドラッグの供給源になる」 ためだと書いている。

●つまり、実際には、カナビス禁止法そのものが、カナビス・ユーザーをヘロインなどの犯罪地下マーケットに追いやるゲートウエイの役割を果たしている。このことは、ソフトドラッグとハードドラッグを明確に区別して、コーヒーショップでのカナビスの販売を認めたオランダの成果を見ればわかる。実際、オランダでは若者のヘロイン使用が少なくなって、ヘロイン・ユーザーが高齢化してきている。また、ヘロイン中毒者を保護しているユーザー・ルームも収容者が減少して閉鎖されたりしている。


The Report on the Drug Situation in the Netherlands 2006


●また、同じことは、サンフランシスコとアムステルダムでのカナビス使用を比較した 2004年の研究 でも示されている。


Polak's question - Round 3  (YouTube)


アムステルダムとサンフランシスコは、人口、経済状態、都市の形態などの環境が非常によく似ているが、カナビスについては、アムステルダムが事実上合法化されているのに対して、サンフランシスコはもっと厳しい政策を取っているという違いがある。その違いの特徴には、住人のカナビス使用率と、ヘロインなどの他の違法ドラッグをすすめられる割合の違いによく表れている。

25回以上カナビスを使ったことのある人の率は、自由なアムステルダムのほうが厳しいサンフランシスコよりもずっと少なくなっている。このことは、規則を厳格にすればするほど使用率は下がるはずだという主張が成り立たないことを示している。

また、サンフランシスコのように規制が厳しい環境では、ヘロインやコカイン、アンフェタミンなどの違法ドラッグの使用も高くなることも見出されているほか、カナビス入手にあたっては、違法ドラッグをすすめられる率がアムステルダムの3倍になることも示されている。この結果は、禁止法自体がゲートウエイの役割を果たしていることを物語っている。


●アムステルダム側でこの調査を担当したピーター・コーエン教授は、ゲートウエイ理論が成り立つかどうかについても 大規模調査 を行っている。この研究はゲートウエイ研究としてはかつて行われた中でも最も詳細なものの一つとされているが、ゲートウエイが成り立っていないことが示されている。

市民を無作為サンプルで調査したところ、12才以上のアムステルダム市民でカナビスまで使うようになる人はそれほど多くはなく、さらに他のドラッグまで進むというパターンは例外的な少数を除けば著しく目立つというようなこともなかった。また、例外的な人の場合でも、一般的には短期間のうちにそのドラッグの使用をやめてしまうだけだった。


●2006年にヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)が発表した 報告 には、ドラッグの多重使用についての分析が掲載されているが、分析では、主に使用しているドラッグでユーザーをグループ分けして、それぞれのグループについて最近1年間の他のドラッグ使用率を調べている。


EMCDDA Annual Report 2006

このグラフから明らかなように、カナビス・グループが他のドラッグを使うこと自体が少なくゲートウエイになっていないことを示している。


●一方日本では1968年から2008年までのカナビスと覚醒剤の検挙者数の推移をみると、カナビスの検挙者数は少しずつ増えているが、逆に覚醒剤の検挙者数は減っている。


カナビスと覚醒剤の検挙者数推移/1968(S43)年-2008(H20)年

このグラフは、カナビスがゲートウエイになっていないことを明確に示している。


●WHOが2008年6月に発表した17か国を対象に行った 調査 によると、それぞれの国のカナビス経験者の率とコカイン経験者の率との関係は全くバラバラで、何も連動していないことが示されている。カナビスの使用がコカインの試用を導くというゲートウエイ理論が成り立つならば、このようにはならない。


Toward a Global View of Alcohol, Tobacco, Cannabis, and Cocaine Use:
Findings from the WHO World Mental Health Surveys



●害削減ジャーナル2007年冬号に掲載された 研究 では、カリフォルニア州の4117人の医療カナビス患者を対象としてアルコールやハードドラッグの使用状況の変化を調べている。その結果、カナビスにはゲートウエイ理論とは逆の作用があり、ユーザーを他のドラッグに引き込むのではなくむしろ離れさせる効果があるという画期的な結果が示された。

この研究では、カリフォルニア州の医療カナビス・プログラムに参加している人たちについて、結婚歴や学歴、職業などについても調べているが、国の平均値ともほぼ同じで、極めてノーマルな姿が映し出されている。大部分の人たちが仕事と家庭と家族を持った生産的な市民で、カナビスについては毎週あるいは毎日吸っており、中には何十年と続けているユーザーもいる。

これらの人々の大多数は、カナビスを使っていることで最終的にはタバコやアルコール、ハードドラッグの使用が減ることが示されている。例えば、これまでアルコールを最も飲んでいた時期に比較して現在の使用量がどのくらいか尋ねた質問に対しては、10%以上の人が完全に止めていると答え、90%近くの人が半分に減ったと答えている。

●また、医療カナビスに反対する理由としてゲートウエイ理論 を持ち出す人も少なくないが、これは、医療カナビスのことに無知なばかりか、ゲートウエイ理論を単に感覚的な方便として使っていることを如実に露呈している。

実際に、非常に多くの医療カナビス患者は、医師からすでにモルヒネを始めとする強力な鎮痛剤を何十種類と処方されていて、効果のなさと深刻な副作用に悩まされたあげくにやっとカナビスにたどり着いて安寧を得ている。

こうした医療カナビス患者にとってはカナビスが最終的な薬なのであって、それを、ゲートウエイ理論でヘロインを使うようになるなどと言うのは無神経で人を見下した暴言以外の何者でもない。