カナビスの

ヘビーユーザーの肺癌リスクは5.7倍



神話
ニュージーランドの医学研究所で行われた研究で、肺癌患者102人と無作為に抽出した対照群493人を比較調査した結果、カナビスを1日・1本・10年間、または1日・2本・5年間使っている人では肺癌のリスクが5.7倍となった。このことから、研究者たちは、ニュージーランドの肺癌患者20人中一人(5%)はカナビスが原因になっていると見積もっている。Cannabis bigger cancer risk than cigarettes: study  Reuters, Jan 29, 2008)


事実
この研究は、肺癌の79人の喫煙者を対象に行われた小規模なもので、しかもそのうちカナビスを吸っていた人は21人しかいないが、マスコミでこのことを問題にしたところはなく、報道が加熱するに従ってこのニュージランドの研究がカナビスと肺癌の関係を示す確定的な研究とみなされるようになった。

しかし、この論文の結論は、過去に行われた大規模研究の多くとは対立している。例えば、1997年に発表されたカイザー・ペーマネンテの研究では、6万5000人の患者について10年間追跡調査した結果、カナビスの使用が肺癌など喫煙に関係している癌のリスクを増加させる兆候は見られないと結論づけている。

また、今回のニュージランドの研究と同じような方法で行われた、2006年に発表されたカリフォルニア大学ロスアンゼルス校の研究では、むしろカナビス・スモーカーの肺癌被患率が下がる傾向が見出されている。調査対象になった患者数は、ニュージランドの研究がたった79人なのに対して、カリフォルニア大学の研究では1212人で15倍以上の規模になっている。


いくつもの疑問点

しかし、こうした事実を脇に置いたにしたとしても、ニュージランドの研究の実際の論文 を読んでみると疑問点がいくつも出てくる。

例えば、カナビス・ケース群が14人なのに対して対照群はたった4人でしかないことがわかる。どう考えてもこのような小さなサンプルの比較から引き出した結果を、全体に当てはめて一般化することは妥当ではない。

また、この研究でリスクが増えることが示されているのはヘビーユーザー・グループに関してだけで、カナビス・スモーカー全体として見ればリスクが増えることは何ら示されていない。実際、タバコ喫煙者全体のリスクは6.7になっているのに対して、カナビスを吸った経験のある人 「全体」 のリスクは1.2にしかなっていない。しかも、信頼区間は(0.5-2.6)で、ノンユーザーの対照群に比較して統計的有意差のあるリスクにはなっていない。


また、肺癌患者79人の中にタバコを吸っていない人がわずか9人しかおらず、大半のカナビス・ケース群の人がタバコを併用していることになるが、いくらタバコを交錯因子として処理したと言っても、実際には、この研究を指導したビアズレー教授自身が加わった 別の研究 でも示されているように、カナビスとタバコの併用による悪影響は相乗的であることも考えられ、交錯因子処理で完全にタバコの影響を除去できるとは思われない。

さらに、対照群ではカナビスのヘビー・ユーザーの割合が非常に少ないのに対して、カナビス・ケース群では逆にライト・ユーザーが極端に少なくなっている。つまり、肺癌患者の中でも特にタバコを併用しているヘビー・ユーザーだけに注目して比較することは、カナビス・ケース群の最も大きい部分を対照群の最も小さな部分で倍率を計算していることになり、最初から数字を大きくする恣意的な意図があったのではないかとさえ感じさせる。


「ニュージーランド研究はインチキの匂いがする!」

この点については、カナビスと肺癌の関係を30年以上研究していることで有名なカリフォルニア大学ロスアンゼルス校のロナルド・タシュキン教授も、ニュージランド研究の方法論について 批判を展開 している。

「データの解釈にあたって認知的不協和が見られます。これは、研究者たちの間にあらかじめ出来上がったモデルがあったためだと思われます。研究者としての尊厳を守りたいのならば、ここに来て自分を弁護してほしい。実際には、彼らは、私たちが肺癌との関係を求めて使った研究デザインを真似した別の論文も発表しているのです。彼らのタバコに関する発見は、服用量が増えるに従ってリスクも高くなり、誰にでも納得できるものです。」

「最もタバコの喫煙量の多い人のリスク倍率は24倍になっています…… では、カナビスではどうなっているか? 少量または中程度の喫煙者ではリスクが増えることはなく、逆に基準よりも少し下がっている。だが、カナビス・グループの上位3分の1に限定してみるとリスクが6倍になると言うのです。…… さらに驚くべきことは、その数字のベースになったケース群と対照群の人数がそれぞれ14人と4人と圧倒的に少ないのです。」

タシュキン教授は、ニュージーランドの研究チームは 「統計的なごまかし」 を使っていると言う。「カナビスを365本吸ったスモーカーの肺癌のリスクが、タバコ7000本の人と同等だなどとは全く信じがたい。サンプル数が少ないことで巨大なインフレ見積りになっているのです。」

「彼らは、ニュジーランドではカナビス喫煙が蔓延しているので、ヘビー・ユーザーのリスクを示したこの研究は理にかなっていると述べていますが、彼らの対照群の88%はカナビスを吸ったことさえないのです。これに対して、われわれのロサンゼルスの研究では、カナビスを吸ったことのない対照群は36%に過ぎません。なぜ彼らの対照群ではカナビス経験者が少ないのでしょうか? 何かインチキの匂いがする!」

実際、WHOの調査では、ニュージランド人のカナビス生涯体験率は42%になっている。また、もしこの研究の結果が正しいのなら、カナビスの喫煙者が増加し始めてから10年経った1980年頃からカナビスによる肺癌患者が激増しているはずだが、そのような報告は見られない。この研究は、規模が小さいことの他にも根本的な問題があり、結論を一般化するには無理がある。