反カナビス科学報道の嘘と脅し戦術



ポール・アルメンターノ
NORML副事務局長

Source: AlterNet
Pub date: March 10, 2008
Subj: Outrageous Anti-Pot Lies: Media Uses Disgraceful Cancer Scare Tactics
Author: Paul Armentano
http://www.alternet.org/drugreporter/78886/


カナビスと癌について調べたニュージーランドの研究が掲載された専門誌が発表される3日前の1月29日、ロイター通信社は、「カナビスの癌のリスクはタバコより大きい」 というヘッドラインを掲げた記事を配信した。世界の大手マスコミ各社は直ちにそれに追随して、フォックス・ニュースは 「ジョイント1本のリスクはタバコ20本相当」 と報道し、オーストラリアのABCニュースに至っては 「専門家、カナビスによる癌の蔓延に警告」 とまでスキャンダラスなヘッドラインで続いた。

ヘッドラインがこれほどまでに刺激的でなかったならば、これほどの報道が加熱することもなかったに違いないが、どうしてこのような扇動的なヘッドラインが出来上がったのだろうか? 実は、これらのヘッドラインのソースになっているのは論文そのものではなく、研究を率いたリーダーが論文の正式発表の前に出したプレス声明文で、マスコミ各社はそこから都合のいい語句を拾い出して煽りを加えて作っている。

主任研究者のリチアード・ビアズレー教授は声明文で、「今回のわれわれの研究は比較的小規模なものだが、明らかにカナビスの長期喫煙が肺癌のリスクを増加させることを示している。……ニュージーランドではすでに、肺癌患者の20人に1人はカナビスが原因になって引き起こされており、……近い将来、この新しい発癌物質に関係した肺癌が蔓延するのを目撃することになるだろう」 と警告している。

大手マスコミでは、カナビスの驚くべき面を見出したポジティブな研究は無視するのが当たり前になっているが、今回のような声明文には条件反射的に飛びつく。彼らは、明らかに、正式発表を待って論文を検証する必要性を感じずに世界にニュースを流しているが、論文には本当にヘッドラインのようなことが書かれているのだろうか?

書かれていない。

マスコミによる報道が一段落した後にヨーロッパ呼吸器ジャーナルに姿を現した 本物の論文 を実際に読んで見ると、次のようなことがわかる。


Cannabis use and risk of lung cancer: a case窶田ontrol study
S. Aldington, et al., Eur Respir J 2008; 31: 280窶286


この研究では、癌患者79人のうち70人がタバコを吸っているが、この時点で、タバコを使ったことのない肺癌患者に比較して約7倍のリスクになっている。これは特に驚くことでもない。次に、カナビスを使ったことがあると認めた人の平均リスクについて見ると1.2倍になっているが、信頼区間が0.5から2.6で対照群に比べて統計的に著しい有意差は出ていないことがわかる。

では、どうしてマスコミはこのような事実を無視した記事を書くのだろうか? まず第1に、先にも触れたように、担当記者が論文そのものではなくプレス・リリースにもとづいていることが上げられる。不幸なことだが、大手マスコミがカナビスに関連した科学記事を書くときには、これが当たり前になってしまっている。

これは、メディアが研究の発表前に記事を配信することを競っているからで、記者たちは、論文を見ないで記事を書くことを強要されている。私も、カナビスの法改革を主張している立場から始終コメントを求められるが、未発表の論文にはコメントできないと断っている。しかし、彼らにはそうした選択肢が与えられていない。

第2の理由としては、メディアは、カナビスの安全性を示すデータを無視して、危険な部分に焦点を当てて取り上げることに熱心なことが上げられる。今回の場合では、ジョイントを毎日10年以上使っているヘビーなユーザーのサブグループから出てきたデータだけを強調して、カナビス・ユーザー全体でのデータは全く無視している。

確かに、このサブグループではカナビスを使っていない対照群に比べて肺癌のリスクが高くなっているが、それでもタバコの経験者全体のリスクを上回ってはいない。また、データでは、カナビスを軽度あるいは中度に使っていたサブグループに関しては、むしろ対照群より癌のリスクが少なくなる傾向すら見られる。

いずれにしても、この論文では3つのサブグループとも人数が極めて少なく、誰でもが納得するような結論を引き出そうとすること自体が無理で、あれこれ言及しても意味があるとは言えない。

最後の理由としては、大手マスコミは、以前に自分自身が書いて蓄積した記事を活用していないということが上げられる。例えば、わずか18ヶ月前には、ワシントン・ポスト を始めとする世界の新聞は、「この種の調査としては最も大規模な研究だが、予想外なことに、たとえカナビスを常用またはヘビーに使っている人でさえ、カナビスの喫煙によって肺癌を引き起こしていないことがわかった」 と報道している。

この 研究 は、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校の研究チームが行ったもので、カナビスの喫煙と癌の関係を検証するために2200人以上 (ニュージランドの研究は324人) を調査している。その結果、たとえ生涯で2万2000本以上のジョイントを吸った人でさえ、肺癌や上気道癌との間にはっきりとした関連は見られなかったと結論付けている。

これ以前に行われた大規模研究でも同じような結論が出ている。例えば、アメリカのドラッグ乱用研究所(NIDA)が資金提供して以前に行われた、164人の口頭癌患者と526人を 対照研究 でも、「エビデンスを総合的に見れば……社会で広く使われているカナビスが頭や首や肺の癌の原因になるとする考え方を支持していない」 としている。

また、1997年の行われた カイザイー・ペーマネンテの後向きコホート研究 では、カリフォルニア州の男女癌患者6万5171人についてカナビス使用との関連性を調べたところ、タバコによってリスクが増加することが知られている肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、黒色腫などの癌については、カナビスの使用ではリスクが増えないことを見出している。

さらに、アメリカで最も信頼されている科学アカデミー医薬研究所(IOM)の 報告書 でもキッパリと 「通常、タバコの使用に関連しているとされている癌も含めて、カナビスが人体に癌を引き起こすことを示した決定的なエビデンスはない」 と書いている。

私は、記者たちからコメントを求められたときにはこうした事実を告げているが、決まって言われるのは、「この研究についてだけ」 書くことを担当しているのでそうした情報は無関係で必要ないというフレーズで、彼らの報道姿勢を端的に表している。

簡単に言ってしまえば、大手マスコミの記者たちは、カナビスに関する限り、自分自身の書いた以前の報道を調べるのに時間を費やすよりも、一般の読者が彼らに期待する答えを先回りして手っ取り早く聞き出して済ませようとする。つまり、ことカナビスに関してはプロフェッショナルなジャーナリズムの鉄則になっている確固とした姿勢ではなく、手抜き記事でも世間は何も言ってこないと見越して、正確性よりも政治的イデオロギーを優先する。

40年も前に、ニューヨーク州立大学の社会学者エーリヒ・グード教授は 著書 の中ですでにこの事実を見抜いている。「カナビス使用の悪害を示すことを目的とした研究や実験は、マスコミから多大な注目を集めて社会には事実として受け入れられていくが、その研究結果を詳細に再検証して間違いを指摘した研究が発表されたり、後で最初の研究とは相容れない発見が出てきたとしても、マスコミはたいていの場合、知らんぷりをするか無視してしまう。」

このことは、40年経った今でもほとんど変わっていない。

最近のニュージーランドの肺癌リスク研究、6倍の根拠はたった14症例  (2008.2.6)
科学を装う反カナビス研究と報道、新聞には書かれない不都合な根拠  (2008.2.9)

この記事では触れていないが、興味深いことに、1ヶ月程後の3月になってから、同じニュージーランドの研究チームがほぼ同じ人数を対象にして行った調査で、カナビスでは頭や首の癌にならないという研究結果を発表している。しかし、この研究についてはカナビスの安全性を示す内容なので、マスコミはほとんど取り上げていない。

実質的にはこれら2つの研究は、どちらもカナビスにはほとんど癌のリスクがないことが示されているわけだが、マスコミの扱いは全く異なっている。この事実は、特にカナビスのことになるとマスコミの報道がセンセーショナリズムに偏ることを端的に示していると言える。

カナビスの使用では頭部と頚部の癌のリスクは増加しない  (2008.3.6)
カナビスでは頭や首の癌にはならない、ニュージランドの研究  (2008.3.5)