科学を装う反カナビス研究と報道

新聞には書かれない不都合な根拠



ブルース・ミルケン
マリファナ・ポリシー・プロジェクト

Source: AlterNet
Pub date: 9 Feb 2008
Subj: Anti-Pot Quack Science
Author: Bruce Mirken
http://www.alternet.org/story/76496/


ここ数週間は、「カナビスの肺癌リスクはタバコ以上」、「カナビス喫煙は歯茎を腐らせる」、「カナビスの禁断症状はタバコと同程度」、といった恐ろしげなヘッドラインのカナビス研究が次々と紹介されてマスメディアを賑わしている。しかし、こうした類の報道については、ほとんどが次のような極めて単純な公式が当てはまる。

欠陥科学研究 + 無批判報道 = 誤報


肺癌、ジョイント1本 = タバコ20本?

今回の一連の報道の中でも最も恐ろし気なのが肺癌研究だ。タバコには肺癌のリスクがあることは今では常識になっているので、研究そのものやマスメディの報道を見ていない人であっても、当然のことのように、カナビスの喫煙でも肺癌になると思っているのが普通になっているからだ。だが実際には、大多数の研究で、カナビスには肺癌のリスクはないという反対の結論が示されている。

ニュージランドで行われた今回の研究は、「ケース・コントロール」 調査と呼ばれる手法を使って、肺癌患者のグループ(ケース)と、年齢などの特性がマッチした癌を患っていないグループ(コントロール、対照群)の全員に対して、タバコやカナビスの喫煙状況を含めて、肺癌のリスクを引き上げると考えられているさまざまな要因について聞き取り調査して比較している。

ケース群79人とコントロール群324人から聞き取ったデータは、コンピュータで膨大な数式を使って数学的に分析され、その結果として研究者たちは、ジョイント1本の肺癌リスクがおよそタバコ20本と同等という結論を引き出している。

そして、これがマスコミのヘッドラインに踊ることになったが、ヨーロッパ呼吸器ジャーナルに掲載された原論文を見ると、肝心な点がいくつも抜けており、そのことについてはマスコミも全く指摘していない。だが、肝心な点に触れずに警告的な結論を出しているこの類の論文については、欠陥を持っていることが強く疑われる。

まず、この論文の結論は、過去に行われた大規模研究の多くとは対立している。例えば、1997年に発表されたカイザー・ペーマネンテの研究では、6万5000人の患者について10年間追跡調査した結果、カナビスの使用が肺癌など喫煙に関係している癌のリスクを増加させる兆候は見られないと結論づけている。

また、今回のニュージランドの研究と同じような方法で行われた、2006年に発表されたカリフォルニア大学ロスアンゼルス校の研究では、むしろカナビス・スモーカーの肺癌被患率が下がる傾向が見出されている。調査対象になった患者数は、ニュージランドの研究がたった79人なのに対して、カリフォルニア大学の研究では1212人で15倍以上の規模になっている。

被患率が下がるという意外な結果に驚いた研究者たちは、「カナビスには抗癌作用があるためかもしれない」 と書いている。実際、カナビスの活性成分であるTHCなどのカナビノイドが癌を抑制することは、1970年代中頃から数多くの研究で示されている。こうしたカナビノイドの抗癌作用については、肺癌を始めとする多くの種類の悪性細胞で確認されており、たとえカナビスの煙にタールや発癌物質が含まれていても、カナビノイドがそうした悪影響を抑えていたとしても何ら不思議ではない。

しかし、こうした事実を脇に置いたにしたとしても、ニュージランドの研究のデータを細かく見ていくと疑問点がいくつも出てくる。例えば、この研究で調査対象になったケースおよびコントロール全体のカナビス・スモーカーの大半では、実際には癌のリスクが増えることは何ら示されていない。

リスクが増えることが示されているのは、10.5ジョイント・年、つまり毎日ジョイント2本を5年間あるいは1本を10年間以上吸っているヘビーユーザー・グループに関してだけで、この研究ではたった14人だけがそれに該当しているに過ぎない。しかも、79人のうちタバコの非喫煙者は9人しかおらず、このグループのカナビス・ユーザーの全員または大半がタバコを併用していたと考えられるが、なぜかこの点については触れていない。

こうした14例から複雑な数学モデル分析を使って 「最大で20倍のリスク (relative risk 5.7 (95% CI 1.5窶21.6))」 という数字を引き出したからといっても、統計的にはあまりにもサンプル数が少なく、他の大規模研究の結果に対抗するにはどう見ても貧弱過ぎるが、そのことを指摘したマスコミはない。


カナビスが歯茎を腐らせる?

歯肉疾患の研究はさらに根拠が薄弱だが、これについても肺癌研究と同様に、マスメディアの報道からはそのことを知ることは全くできない。

この研究もニュージーランドの研究チームによるもので、1972〜1973年に誕生した人を追跡調査しているコホート研究のデータをもとに、18・21・26・32才時点でのカナビス使用状況と、26才と32才時に行われた歯科検査結果とを突き合わせて、生存コホート群の89%にあたる903人について歯肉疾患の状態を分析している。

その結果、タバコの使用や過去の歯科治療などのリスクに関係している可能性のあるいくつかの交錯因子を除去にた後でも、上位20%のヘビーなカナビス・ユーザー群 (年40回以上) では、非喫煙者に比較して歯肉疾患のリスクが60%増加すると結論づけている。

確かに、論文では、関連性が認められると書いてあるだけで因果関係が立証されたわけではないと用心深く断ってはいるが、マスコミはそのようななただし書きには見向きもせずに、 「カナビスが歯肉組織を破壊する」 とか 「カナビスで歯が抜ける」 といったヘッドラインを掲げてセンセーショナルに報道している。

大半の報道レポーターは何も疑問に思わないようだが、実際に原論文を読んでみると、メディアの報道記事からは思い浮かばないような疑問が湧いてくる。

この研究では、タバコのリスクについては触れているが、歯の病気に関連のあることが知られているアルコールや他のドラッグについて被験者に尋ねたかどうか書かれていないが、どうしてなのか? 歯磨きや歯間フロスの習慣についてなぜ質問していないのか? どうしてカナビスだけしか使っていないヘビーユーザーを分けて分析していないのか? カナビスそのものではなく、マンチーになって甘い物を食べ過ぎることが原因ではないのか?

また、この研究では、リスク1.61に対する95%信頼区間が1.16-2.24になっているが、この区間の下限になっている16%については、アルコールと他のドラッグ使用あるいは歯の不衛生といった因子だけでも簡単に説明がついてしまう。このことだけでも、この研究は、現実には何も見出していないと言うこともできる。

この論文の報道については、特にヒステリカルで中身のない記事を出していた新聞社の編集者に、なぜこうした疑問点について触れないのか問い合わせてみたが、「そのような疑問については、われわれは専門家のピア・レビューを扱っているので、彼らが言っている以上のことに言及するつもりは全くないし、われわれの役目だとも思わない」 という刺々しい返事が返ってきた。

だが、ピア・レビューをしている専門家とは言っても人間であることには変わりなく、間違いを犯すこともある。それを問い質すことが報道者の役目ではないとしたら、いったい誰がそれをするというのだろうか?


カナビスの中毒性はタバコと同等?

もし歯が抜け落ちたり、肺癌で死ななくても、カナビス中毒性はタバコと変わらないという恐ろしげなヘッドラインが待ち受けている。しかし、この報道も、研究の結果を大げさに誇張してしており、ほとんど間違っている。

この研究はアメリカで行われたもので、カナビスとタバコを常用している12人を対象にして、いろいろな順序でカナビスまたはタバコの一方、あるいは両方同時に中断させて、生理検査とイライラや睡眠の困難さなどの聞き取り調査で禁断時の症状を調べている。その結果、カナビスの禁断症状はタバコと同程度だったと報告している。

しかし、この研究の結論が限定されたものであることは論文を読まなくても明白だが、念のためにドラッグ&アルコール依存症ジャーナルの掲載されている論文を見ればさらにはっきりわかる。

この研究の問題の一つは、カナビスとタバコを併用している常用者だけについてしか取り上げておらず、おそらく相当数いるこ思われるタバコを吸わないカナビス・ユーザーについては何も調べていないことが上げられる。また、この論文では、個々の被験者の結果について何も書かれていないが、12人の内で1人か2人が極端な反応を示していれば、平均値が歪められて意味のない結果が出てきている可能性もある。

また、禁断症状に簡単に影響を与えるカフェインやアルコールの使用状況の変化ついては何も触れていない。一応、それらの使用状況については変えなかったかどうか聞き取り調査しているものの、被験者たちがその指示を本当に守ったかどうかについては誰も知ことはできない。

この研究では、禁断症状全体のスコアは同程度になっているが、怒りや切望感についてはカナビスよりもタバコのほうがスコアが高くなっている。このことは、統計的スコアが似ているといっても、タバコを中断したときの禁断症状のほうが強い傾向があることを示している。もしこの研究がもっと大規模なものであったならば、その傾向差が僅かなものではなく統計的にも著しい差が出ていた可能性もある。

さらに、この研究では中断期間を5日間に設定しているが、タバコの長期間常用者では中断後の切望感が数年も続くこともあり、このような短期間では禁断による影響を十分に反映していない可能性もある。

また、現実の調査では、タバコを試した人の約32%がタバコに依存するようになるのに対して、カナビスの場合は9%であることがよく知られた事実になっている。実世界においても、カナビスとタバコの中毒性がかけ離れていることは明白な事実だが、報道ではこうしたことには何も触れていない。

いずれの研究にしても、マスコミの報道だけに頼っていると事実に迫ることはできない。

この記事で取り上げられている論文については、それぞれ次のサイトから入手できる。

・肺癌
Cannabis use and risk of lung cancer: a case窶田ontrol study  S. Aldington et al, Eur Respir J 2008; 31: 280窶286



・歯肉疾患
Cannabis Smoking and Periodontal Disease Among Young Adults  W. Murray Thomson, et al., JAMA, February 6, 2008窶之ol 299, No. 5 525

・禁断症状
A within-subject comparison of withdrawal symptoms during abstinence from cannabis, tobacco, and both substances  Vandrey, R. Drug and Alcohol Dependence, January 2008; vol 92: pp 48-54.

この記事では、「欠陥」科学研究という表現を使っているが、もちろん調査データをごまかしていたり、統計計算やその解釈をめぐっていいかげんだと言っているわけではない。科学研究である以上、設定した方法と条件下でそのような結果が出たのは間違いないと考えてもよい。

しかし、どの研究も、ヘビーなユーザーで観察された現象で、こうしたユーザーの場合はアルコールやタバコなどのドラッグの使用など他の要因が強く絡んでいる可能性がある。

例えば、肺癌では統計的に除去が難しいタバコとの相乗効果が残っている可能性、歯肉疾患ではマンチーになってスナックを食べ過ぎた可能性、禁断症状では、アルコールとカナビスの併用による依存性、などが強く疑われる。

また、いずれの研究も純粋のカナビスだけのヘビー・ユーザーについて調べておらず、これらの意味から、研究デザインや調査が不十分な 「欠陥」 科学研究ということができる。

さらに大きな問題は、特にマスコミや反対派が、これらの研究のように限られた条件で得られた結果をさも因果関係が立証されたかのように扱って、そのまま全てのカナビス・ユーザーに通用するかのように主張することで、境界条件を無視した誇張になってしまっている。もちろん、こうした見方は科学的にも正しくない。

また、これらの結果が、他のドラッグや食べ物に比較してカナビス禁止法を正当化できるほど深刻な問題なのかという視点も忘れてはならない。全体的からすればさほど深刻ではなくとも、反対派はこうした小さな部分に議論を集中させて、全体的な争点をはぐらかすことが常套手段になっているからだ。

実際問題として最も必要かつ重要な科学的視点は、「発見された」 カナビスの害をどのようにしたら削減できるのかということで、例えば、バポライザーを使ったり、アルコールとの併用を控えたり、マンチー対策を考えたりすることにある。科学には、起こり得るネガティブな結果を予想してそれを防ぐ方法を提示することにも大きな役割がある。

カナビスの悪害を言い立てる人たちの大半は、政府の情報やマスメデアの報道記事を根拠にしているが、その大きな特徴の一つとして、倍率や%だけしか取り上げていないことが上げられる。

上の研究の報道でも、被験者グループの定義や結果の実数についてはほとんど触れずにリスク倍率だけが強調されている。それでも1次情報では研究者の名前などについて多少は書かれているので、それをもとに原論文を探すこともできるが、2次情報以下になると誇張がさらに膨らんだ上に、実数どころか何と何との倍率なのかさえわからない場合も少なくない。

倍率や%だけしか出てこない議論はたいていはマスコミを鵜呑みにした受け売りだが、そのソースになっているマスコミの報道も、この記事で指摘しているように余り信用ができない。

特にこの傾向は、カナビスと精神病の問題に顕著で、現在のイギリスでカナビスの分類を厳しくすることを求めている人たちを見ていると、多量のマスコミ報道にさらされてリファー・マッドネッスになっているように感じられる。カナビスで精神病になるのではなく、マスコミの誇張報道に洗脳されてマッドネスになってしまっているのは悲劇というほかはない。

常に原論文に当たる精神を持たないと、こうした悲劇を防ぐことはできない。

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その 答え は…… その時から サムの旅 は始まった。