From Hempire Cafe

カナビスの効力が飛躍的に上昇?

効力の強いカナビスは危険か?

Source: The Ottawa Citizen
Pub date: 20 March 2005
Subj: Is pot far more potent than in the past?
Author: Dan Gardner
http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/
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ドラッグ戦争の支持者たちは、今日のカナビスの効力が昔のものよりはるかに強力で危険になってきていると繰り返し主張しているが、果してカナビスは効力が強いほど危険も増えるというのは本当だろうか?

1980年のニュースウイーク誌には、「今日のカナビスは、4年前に使われていたグラスよりも7倍も強力になっている」 という警告記事が掲載されているが、このテーマはすでにそのころからずっと使い回されてきたものだ。

最近も、カナダではコミュニティ・アクティビストでライターとして著名なマルグレット・コパラが、「現在のカナビスの効力は、60年代のヒッピーたちが夢中になって騒いでいた弱いものに比べれば飛躍的に上昇している」 と書いて、カナダの地元ではここ2週間に新聞で何度も取り上げられてメディアの定番になってしまった。

こうした主張は、これまでもさまざまなメディアで繰り返されてきたために、ジャーナリストや政治家たちは 「誰でも知っている」 常識として信じ込んでしまっている。


効力評価基準のあいまいさ

しかし、広く受け入れられているといっても、この主張の正確性については、実際には非常にあいまいだ。

EUの機関であるヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)は、2004年に、ヨーロッパおよびアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドのデータを総合的に検証したレビューを発表しているが、そこでは 「有名メディアは、ここ数十年間にカナビスの効力が10倍以上増加しているとする記事を掲載しているが、アメリカやヨーロッパの利用可能なデータを見た限りでは、それを支持するデータはない」 と結論づけている。

さらに、ニュージーランドについては、1976年から1996年の間に効力の増加は見出されておらず、オーストラリアでは「やや」増えただけだった、と報告している。

また、EMCDDAの報告では、カナビスの効力の増加については次のような点も考慮にいれる必要があると注意を促している。「カナビスやカナビス樹脂のサンプルの効力については入手場所や日時による変化が非常に大きく,その幅はアメリカやヨーロッパでここ数十年間に増したとされる幅をはるかに上まっている。また、地球のどの地域で生産された製品なのかによって効力の幅はさらに大きくなる。」

カナビスの効力神話が噴出してきた原因の一つは、1980年代以前に測定された効力が非常に低かったことと関係している。当時は検査のやり方も確立しておらず、例えば、押収したカナビスはビニールに入れて警察の証拠保管室に置かれていたが、不適切な状態で保管すればTHCは数週間で急激に減少してしまう。

そのために、70年代にテストされたサンプルは1%以下などという全くおかしな結果も多い。そもそも、1%以下では精神活性効果もなくカナビスとして吸う対象にはならないので、当時の効力を適正に表しているとは言い難い。

ホワイトハウス麻薬撲滅局長ジョン・ウォルターズらは、現在のカナビスがヒッピー時代のものとは全く違うと再三主張しているが、そもそも効力の評価基準がおかしな数字をベースにしており、話を誇張している。


効力の時代変化

1970年代の実際の効力がどの程度だったかについては、南カリフォルニア大学のミッチ・アーリーワイン心理学教授が信頼できる証拠を集めて注意深く検証し、著書の「マリファナを理解する」(Understanding Marijuana, Oxford University Press 2002)の中で、その結果をとりあげている。それによると、1970年代初頭の効力はTHCが1.5%、1990年代終わりには4.5%という値になっている。

また、アメリカ政府のマリファナ効力監視プロジェクトの2001年の平均効力は5.2%になっている。一方、カナダ連邦警察の報告書によれば、1990年代後半の平均THCは、アメリカの平均より若干高く5.5から6%の間になっている。しかし検査した全体の3分の1は3%以下となっている。

2003年にカナダ保健省がテストした押収サンプルの平均値は9.7%と高くなっているが、実際には、効力の高いサンプルが若干含まれていたために平均値が押し上げられている。2003年のサンプルの4分の1のTHCは0〜5%で、3分の1は6〜10%の範囲内、別の3分の1は11〜15%だったのに対して、効力が15%以上は全体の7%に過ぎなかった。


効力の強い品種は多くない

30年前に比較すれば、明らかに、カナビスの栽培者たちは伝統的な品種改良技術と新しい栽培方法を駆使して、平均効力のより高い品種を作り出すことに成功している。しかし、そうした品種はまだ珍しく、現在の大半のカナビスは70年代に比べてやや強くなった程度に過ぎず、多くの政治家や警察が主張するように、昔のものとは全く違うドラッグになったといえるような根拠はない。

また、調査データによれば、カナダ産のカナビスとアメリカ産の効力の間にはそれほど大きな違いは見られない。確かに、カナダの一部の品種は非常に効力が強いが、アメリカ司法省のドラッグ情報センターのレポートでは、「カナダとアメリカの栽培者たちはカナビスの同じ品種の種で、同じ栽培技術で育てている」 と書いている。

実際には、カナダ産のカナビスが特に強力だというような確固たる論拠はなく、政治家や警察当局、ジャーナリスト、さらには、カナダ特産を謳い文句に稼いでいる密売人とだまされやすいお客たちの間で語られている都市伝説に過ぎない。


救急患者急増?

一部には、カナビスの効力が増加していることが社会の恐怖になっているといった漠然とした風説を、何らかの証拠で証明しようとする試みも行われている。例えば、最近では、ジョン・ウォルターズ麻薬撲滅局長が、カナビスの効力増加によって救急患者が急増していると主張している。

最近彼は、「マリファナの使用が原因で緊急病棟を訪れるアメリカ人の数が、この5年間に2倍に達し年間12万人になっている」 とワシントンの新聞カンファレンスで語り、ニュースとして伝えられた。また、アメリカではカナビスの依存症の治療に訪れるテーィンエイジャーの数が非常に増加しており、他の全てのドラッグで治療に訪れる人を上回っている、とも語っている。さらに、「このことは、新しい大きな要因として、カナダから非常に効力の強いマリファナが圧倒するほど大量に持ち込まれてきていることを告げている」 と続けている。

しかしアメリカ政府自身のレポートによれば、カナダの高効力のカナビスについては、アメリカで使われている全体のほんの僅かを占めるに過ぎないと繰り返している。このことからも、カナダのカナビスのせいで緊急患者が増えているというウォルターズの主張は受け入れることはできない。また、カナダの病院にはバッドになったカナビス・スモーカーが治療のために殺到しているといった事実がないことからも、ウォルターズの指摘は見当外れであることがわかる。

しかしウォルターズは別のところで、たとえカナダのカナビスを考慮に入れなくても、緊急病棟を治療に訪れる人の数が急増していることは高効力のカナビスの害を証明している、と言い立てている。


データ収集法の問題と統計上の見せかけ

こうしたことからもわかるように、ウォルターズは統計を悪用して無責任な嘘をバラまいている。

ウォルターズが引き合いに出している救急センターのデータは、緊急センターの定型的な来院質問のデータにもとずくもので、必ずしもカナビスが原因で病院に来た人ばかりではない。センターへの来院時には、どんなケースであっても緊急事態発生時にカナビスを使っていたかどうかを聞くことになっている。

例えば,ある夫人が踏台を踏み外して足首を捻挫して来院したときにもカナビスを使っていたかを問われる。使っていたという返事があればウォルターズのデータに加えられてしまう。家の外での発砲事件による流れ玉に当たって運び込まれた場合も、その時カナビスを吸っていればカウントされる、という具合になる。

また、明らかに、緊急来院時の質問に対する答えは、患者のその時点での損得感情に強く影響される。見下されている感じがしたり、警察へ通報されそうな気がすれば正直に申告しないだろうし、逆に別の重大な理由を隠すためにカナビスのせいにするかもしれない。こうした損得感情がデータに反映されるばかりか、記録を付ける側の医師や看護師の心証によっても変化する。

ウォルターズの使っている緊急治療のデータはさらに誤解されやすさを内包している。確かに、カナビスが理由で治療を受けにくるティーンエイジャーが急増しているというのは正しい。しかし、彼は,来院者の60%が法廷の命令によるものであるや、さらに、このところ法廷の命令による来院の割合がかなり増えていることも無視している。

これは、アメリカの刑事裁判の流れの変化を反映したもので、1990年以降にドラッグ関連の裁判が爆発的に増加したために、ドラッグ事犯が厳重な観察のもとで治療を受けるという条件を選べば、懲役を免除するようになったことに関係している。

それと同時に、カナビス以外の通常の法廷でも、いわゆる「治療判決」という考え方がひろく受け入れられるようになってきたこともある。現在では、通常、アメリカのカナビス単純所持事犯は処罰か治療かを選択できるようになっている。当然のことながら、大半は治療を選ぶ。その結果、来院者数は増加することになる。


効力の強いほど危険か?

ひとまず胡散臭いウォルターズの統計は脇に置くとしても、そもそも効力の強いカナビスがより危険だということを示す証拠はあるのだろうか?

ハシシについて考えてみれば、明らかな証拠などないことがわかる。ハシシは、普通のカナビスを精製して製造した非常に強力な形態をしているが、通常でもTHC濃度は15〜20%もあり、場合によっては50%に達することもある。ハシシの利用については地域によって大きく異なり,アメリカではあまり一般的ではないが、EMCDDAの報告にもあるように一部のヨーロッパ諸国ではむしろ主流になっている。

もし、高効力が危険なのであれば、そうした国々ではより大きな害が顕在化しているはずだが、実際には、ハシシの使用者がマリファナなど普通のカナビスの使用者よりも健康を害しているというような証拠は見られず、そのような問題は起こっていない。

また、高効力=危険という見方を疑わせるものとしてマリノールがある。マリノールはアメリカ政府の肝入りで開発された医薬品で、ガン患者の制吐剤やエイズ患者の食欲増進剤として正式に認可されているが、実体は合成THC100%で、最高度の効力を持っている。

2004年のEMCDDAのレポートによれば、効力と危険性に関する問題を体系的に調査した大規模研究はないものの、「健康被害リスクが明らかに増えることを示すような直接的な証拠はない」 としている。

また、レポートではオランダ政府の研究を引用して、「個人や社会や公共の秩序あるいは犯罪行為など全体として、高効力カナビス製品が普通のカナビスよりもリスクが大きいということはない」 と結論を下している。また、報告書では、オランダの医療向けカナビスはTHCが18%という強い効力を持っているとも書いている。


高効力なほど危険は少ない

むしろ、高効力なほど危険は少なくなる、という見方もできる。確かに、高効力=危険という主張のほうが感覚的には受け入れやすいが、実際には矛盾だらけだ。これに比べると、高効力なほど危険は少ない、という理由の説明は明解だ。

まず第一に、高効力なほど危険という仮説は、カナビスが害を引き起こす原因がTHCにあるという仮説に立脚しているが、THCはカナビスの煙に含まれる数百もの化合物の一つに過ぎない。つまり、よりTHC濃度の高いカナビスのほうが危険であるという主張が成り立つためには、THC自体がそれ特有の害を引き起こすものであることが必要になる。しかし、そのような害については周知して認められているとはいい難い。

さらに基本的な説明とすれば、大半のカナビス・ユーザーが必ずしも最大限の陶酔感を得ようとはしていないことが上げられる。これは、普通のアルコール・ユーザーの場合と同じで、ミッチ・アーリーワイン心理学教授は、カナビス・ユーザーに関する自身や他の研究者の調査結果を引用しながら、「大半の人は、6段階評価とすれば、3から4段階の中程度の陶感覚を求めています。時間についても3から4時間以上続くドラッグは欲しがりません」 と語っている。

どのようなドラッグのユーザーであれ、求める陶酔感とそのドラッグの効力に応じて摂取量を調整している。例えば、40%という高効力のウォッカを飲む場合は、誰でも16%のウイスキーや5%のビールを飲む時とは違って、チビチビすすりながら飲む。これと同様で、カナビスの場合も、効力15%のものを吸うときには2%の時よりもはるかに軽く吸うようになる。

こうした単純な関係がカナビスの論争で語られることは滅多にないが、カナビス・ユーザーの間では常識になっている。このことは、ティーンエイジャーのカナビス使用者を調査したミシガン大学の研究でも裏付けられており、「THCレベルが上昇すると、吸い込む煙の量が少なくなる」 と結論を出している。

アーリーワイン教授も、ユーザーがどの程度のハイを求めるか調査したところ、1970年代よりもカナビスの効力が増したにもかかわらず求めるハイには変わりがなかったと書いている。「より大きなハイを得ようとするよりも、少なく吸うようになるだけです。」

妙に聞こえるかもしれないが、このことは、効力の強いカナビスのほうが健康的であることを示唆している。アーリーワイン教授は、「強いカナビスを吸えば、煙の量も少なく、タールや呼吸器の刺激物に晒されることも少なくなります。ですから、効力の強い最高のカナビスを吸うほうが好ましいということもできます」 と笑いを交えて語っている。