From Hempire Cafe

モロッコ、ハシシ生産は衰えず

国連カナビス根絶作戦の最前線

Source: The Economist
Pub date: 15th July 2006
Subj: Making a hash of it
http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/making_a_hash_of_it


モロッコ北部は地中海にそびえるようにリフ山脈が連なっている。ひとたび舗装道路を外れて山麓にあるメクラーラ部落に行くにでさえ苦労してラバに3時間も乗らなければならない。そのラバ道もEUがモロッコの北部地域の観光開発にためにつくったもので、ラバさえ通れない普通の山道はさらに険しい。

主要道路や村が見えなくなると、荒々しく岩をむき出した山肌には、黄金色の小麦や濃いピンクのオレアンダーに混じって、パッチワークのように生い茂ったカナビス畑がひろがっている。行く先々では、鮮やかなストライプの民族衣装を身に付けて、麦わら帽子をかぶった女性たちが背の高い7枚葉のカナビスを収穫している。

リフ山系にはメクラーラのような部落が何百もある。そのどこもがこの違法植物で生き延びている。カナビスの葉から取り出したポルーンやキフと呼ばれる樹脂の粉からはハシシが作られる。国連の調査によると、この地域からは年間1000トンものハシシが密輸出され、ヨーロッパのハシシ市場の80%、全世界ではおよそ3分の1の量をまかなっている。

穏やかな顔つきをした農夫のハメドさんは、古くから行われている方法で粗タバコに乾かしたバッズを混ぜて長く細い柄のハイプで吸っていた。彼は1キロのハシシを3000ディラハム(348ドル)で売っていた。これがロンドンやパリではおそらく10倍以上の値段で売られている。彼の儲けは少ないが、もし小麦を育てていたらその何分の一にもならないだろう。

モロッコは、フランスに統治されていた時代にカナビス栽培の大半が撲滅されてしまったが、リフ地区は名目上スペインの管理下に置かれていたためにそのまま残った。1956年にモロッコが独立した当時は、大規模に売買しない限りカナビスの栽培は大目に見られていた。

しかし、後に国王になるハッサンII世は、皇太子時代の1958年にリフで起きた反乱を鎮圧してから、この地域を冷遇するようになり、在位している38年のあいだ食糧の援助を拒み続けた。リフの人々が貧困を逃れるためできることは出稼ぎとハシシの輸出だけだった。

7年前にハッサンII世の後を継いだモハンマドVI世が最初に行ったのは、リフに長期滞在して和解することだった。しかし、アメリカやEUの圧力を受けていやいやながらドラッグ戦争を始めた。2004年には全面的にカナビスの栽培を禁止し、リフの山奥も対象にされた。

同年には、リフの大西洋沿いにあるララシュ地区周辺では、警察がカナビス畑を焼きつくし、栽培しても人目につくように道路が整備され、農民にはオリーブやアーモンドなどの栽培を奨励した。しかし、そうした作物が収穫できるようになるには何年も待たねばならず、その間は収入も見込めない。結局、政府のやったことは、ただカナビスの栽培を見えなくしているだけに過ぎない。

カサブランカで発行されているフランス語のリベラル系週刊誌テル・クエルは、ハシシの合法化キャンペーンを繰り広げている。編集長のアーメッド・ベン・ケムシュによれば、モロッコにおける粗タバコとローリング・ペイパーの公式販売統計から推計して、1年間に11億本余りのジョイント、つまり成人一人当たり年間60本のジョイントが吸われていることになる。

彼は、合法化すれば、地域の財政が潤い、見捨てられた地域にも観光客が訪れ、不正が減ると言う。「こんなに多くの人が吸っているのに、どうやって取り締まれるというのでしょうか? 社会の大半を犯罪人にするなどできる道理がありません。」

モロッコはアフリカの西北部に位置し、北と西には地中海と大西洋があり、狭いジブラルタル海峡を挟んでヨーロッパの隣接している。面積や日本よりもやや広いが、南北に2〜3000メートル級の山脈が続き、周囲は世界最大の砂漠であるサハラ砂漠に囲まれている。

モロッコの人口は3300万人。その40%が原住民として古来から生きてきたベルベル人で、リフ山脈に暮らす人々も大半がベルベル人。典型的な民族衣装はストライプ柄のガンドゥーラ。

ベルベル人の多くが、後にアラブ系の人々が侵入してきて山間部に追われた。ベルベルの語源は、アラブ人が彼らを 「バルバロス(野蛮人)」 呼んだことに由来していると言われている。

近年では露骨な蔑視は少なくなったとはいえ、現在のモロッコ憲法は公用語をアラビア語のみに定め、独特のベルベル語を話すベルベル人を無視し続けている。ベルベル人の多くが暮らす地域には道路どころか電気すら余り整備されていない。

こうした差別対立がモロッコの底流に流れている。

モロッコの地図

暮らしを支えるカナビス、モロッコ、多数の農家がカナビス栽培

モロッコのリフ山脈のなかでもハシシで最も有名なのがケタマ。その写真集とレポート。
Morocco (Rif), August 2005
Tod H. Mikuriya, M.D. Kif Cultivation in the Rif Mountains (1966)
Tod H. Mikuriya, M.D. Observations on the Use of Kif

モロッコ・ハシシの例 (ページ中に多数あり、拡大可能)
モロッコのキフ・パイプの例 (ページ中段)

先月発表された国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime)が発表した、2006年世界ドラッグ報告によると、モロッコにおけるカナビスの栽培面積は1年前よりも40%と大幅に減少し、72000ヘクタールになっている。

国連ではモロッコにおける根絶作戦の成果を強調しているが、その大半は天候不順によるものであって、カナビスの生産量が減った分だけ取引価格が上昇し、農家の手取りは逆に21%増えている。

栽培農家数は96600戸から6000戸ほど減ったとされているが、その大半は、わりと起伏のなだらかで道路も発達しているララシュ県に限られている。根絶作戦の成果といっても、2004年に始まった開始期の上げやすい成果といった側面が強く、今後とも同じように推移するとは思えない。

今年も8月から、ケタマやホセイマをターゲットにした根絶作戦が予定されている。前回の作戦では、川に沿って灌漑用具が破壊され、畑には除草剤が撒かれた。農民たちは、それに対抗するために、畑をさらに山奥に移したり、野菜などの混植でカモフラージュするようになっている。

当局側とすれば、アクセスしにくくなればなるほど除草剤の空中散布などに頼ることになるだろう。以前アメリカでは、メキシコの畑にパラコートを散布して駆除を試みたが、結果的に除草剤で汚染されたカナビスが輸入され、自国の多くのユーザーに対して呼吸器系の障害を引き起こしている。モロッコの場合もヨーロッパで同じことが起こる恐れがある。

また、オリーブなどに転作しても、隣国のスペインのアンダルシア地方の平坦で機械化されたオリーブ畑と競争できるわけでもない。ましては道路も整備されていない急峻なリフ山村では、栽培すら難しいだろう。

World Drug Report 2006 (興味深い地図などもある)

国連薬物犯罪事務所は、実質的にはアメリカの出先機関としてコントロールされているといわれている。

この機関が取りまとめている報告書は各国のドラッグ押収量を統計的にまとめたもので、健康や医学調査が対象になっているわけでもないのに、事務所長のアントニオ・マリア・コスタは、カナビスによる健康被害がコカインやヘロインに匹敵するほどになっていると警告している。

また、最近のカナビスが以前に比べて効力が格段に強くなって危険が増しているとも主張している。しかし、これはアメリカの事情とヨーロッパの事情を恣意的にまぜこぜにしたもので、いずれもアメリカ政府の意向を代弁している詭弁に過ぎない。

実際、モロッコのカナビスの栽培やハシシの製造実態は19世紀から全くといってよいほど変化していない。ヨーロッパでマリファナやバッズが吸われだしたのは1980年代以降のことだが、それ以前に使われていたのはほとんどがモロッコ産のハシシだった。ハシシは、現在の普通のバッズよりも強い。

ヨーロッパでは、アメリカのようなヘンプが野性化した効力の弱いマリファナなどが一般的に使われたいたことはない。使われていないものを基準にして、効力が増して危険になっているという主張はもとから成り立たない。

また、アメリカにしても禁止法以前のカナビス医薬品はどれもがカナビス・インディーカを原料にしており、THCが1%程度のアメリカ産のカナビスが使われることはなかった。

禁止法から60年代までは野性のヘンプも使われたが、ベテランたちはアカプルコ・ゴールドなどの強力なメキシコ産のカナビスを吸っていた。また、60〜70年代にかけては純度の高いLSDもカナビスと一緒に広く使われていた。実質的には、当時のトリップ環境の強烈さは現在に何ら劣ってはいない。

カナビス製品のリスク 高効力 = 危険、という神話
カナビスの効力が飛躍的に上昇? 効力の強いカナビスは危険か?
政府の詭弁 10 マリファナの効力が増している  (NORML)
カナビス・メディシン・アンティーク・ミュージアム

国連薬物犯罪事務所のアントニオ・マリア・コスタ事務所長は、経済アナリストとして国連の経済機関で活動してきた。前職はヨーロッパ復興開発銀行(EBRD)事務総長で、薬物関係の仕事を経験したことはない。ソーシャル・エンジニアリングの専門家としての手腕を買われて現在の職にむかえられたとも言われている。

この点に関しては、マリファナ禁止法の立役者であるアメリカ財務相のアンスリンジャー局長に似ている。薬物の専門家でもない財務省の一役人がマリファナの悪害を大々的に宣伝し社会を洗脳していった。最後は、WHO麻薬委員会のアメリカ代表にまでなり、単一条約まで作り上げて法律や条約でカナビスをがんじがらめにした。財務というより、ソーシャル・エンジニアリングの専門家といってもよい。

アントニオ・マリア・コスタについては、強烈な皮肉も語られている。

辛辣な発言をすることで知られている、王室カナダ騎馬警察(RCMP、カナダの国家警察)出身の前バンクーバー市長ラリー・キャンベル(現在はカナダ上院議員)は、コスタが、パスタにかけられたヘンプ・オイルを見て 「カナビス・オイル」 だと言っていたというエピソードを紹介して、それらの区物もつかない程度の人物だとこきおろしている。

United Nations Office on Drugs and Crime, Leadership
Cannabis as bad as heroin, warns UN drugs watchdog: