Municipality Maastricht

マーストリヒト市のコーヒーショップ政策

カナビスとコーヒーショップに関する13の誤解と1つの結論

Source: オランダ・マーストリヒト市のホームページ
Subj: 13 misconceptions (and 1 conclusion) about cannabis
Web: http://www.maastricht.nl/maastricht/show/id=160045%20

このQ&Aは、2007年8月現在、オランダのマーストリヒト市のホームページに掲載されているもので、同市のカナビスとコーヒーショップ政策の基本的取組を説明している。

オランダ南端、ベルギーとドイツに国境を接するマーストリヒトは古くから交通の要衝にあり、過去何度となく統治国が入れ替わった歴史を持っている。そんな背景から1992年にECがEUになるときの条約の締結の舞台になっ た。「マーストリヒト条約」はこの街の存在を世界に知らしめ、いまでは国境めぐりの大変な観光地になっている。

しかし、現在最も注目を集めているのは、カナビスを求めて市の中心部にある14軒あまりのコーヒーショップを訪れるドラッグ・ツーリストで、その数は年間に150万人に達すると言われている。そのためにさまざまな問題が出てきて、ベルギーやドイツからも激しい非難を受けている。

市の基本的な方針は、単にコーヒーショップを閉鎖して地下の犯罪組織に追いやるのではなく、現実的な解決策として、コーヒーショップやカナビス栽培を社会の一部として組み入れてコントロールできる状態にすることを目指している。

マーストリヒトがカナビス栽培のコントロールを求めている点などで、必ずしもオランダ政府の政策とは一致しているわけではないが、害削減の観点からコーヒーショップを維持してドラッグの使用を減らそうとしている点では認識は共有されている。

誤解されることの多いオランダのコーヒーショップだが、このQ&Aから、コーヒーショップが何故必要なのか、カナビスとコーヒーショップの周辺には現在どのような問題があるかなどをよく知ることができる。


1.コーヒーショップの数を減らせば、カナビスの使用も減るはず

違います。オランダは、西洋諸国では唯一コーヒーショップで合法的にカナビスを販売している国ですが、カナビスを使っている若者は13%しかいません。これに対して、カナビスに厳しい罰則で対処しているコーヒーショップのない国の%はもっと高く、ベルギー、アイルランド、アメリカが17%、イギリスでは20%、フランスが22%になっています。


2.カナビスはハードドラッグのゲートウエイになる

ある意味ではその通りです。一般的に言って、ウイスキーを飲む人はビールから始まっています。ソフトドリンクから直接強い酒を飲むようになる人はいません。したがって、最初の第1歩を踏み出させないようにすることが重要なのです。

その意味では、カナビスを使った経験のある人が全人口の13%しかいないオランダは成功していると言えます。これに対してアメリカでは28%、オーストラリアでは40%にもなっています。その結果、オランダでハードドラッグに手を出す人は比較的に少なく、ドラッグの過剰摂取で死亡する人の割合も低くなっています。


3.コーヒーショップはハードドラッグ売買の温床になっている

そのようなことはありません。実際には、コーヒショップはハードドラッグを厳格に分離して、ソフトドラッグだけしか扱えないようになっています。カナビス・ユーザーは、安全で合法的な親しみやすいコーヒーショップを求めています。ハードドラッグのような陰湿な犯罪の世界に進んで入ろうとする人は全くいません。

カナビスがコカインやハシシやヘロインなどと同じように違法になっている国では、カナビス・ユーザーは、はじめから犯罪組織のディーラーと接触することを余儀なくされます。その時点ですでに悪の世界に足を踏み入れているわけですから、簡単にハードドラッグに手を出すようになってしまいます。

それは統計を見れば明らかです。オランダでは、15才から64才までの人でハードドラッグ中毒になるのは住民1000人あたり3人ですが、ルクセンブルグ、イギリス、イタリア、ポルトガル、デンマークでは7人から10人です。ドラッグの過剰摂取で死亡する人の率は、オランダでは10万人あたり1人ですが、ドイツ、スエーデン、フィンランドでは1人から2人、デンマークで5人、ノールウエイでは8人になっています。


4.コーヒーショップは社会の迷惑になっている

必ずしもそうとは言えません。コーヒーショップは、平穏を乱したり社会の安全を脅かしたりしても何のメリットもありません。そんなことをしたら、儲かる商売のライセンスを簡単に失うだけだからです。また、カナビス・ユーザーは、社会の迷惑になるよなことを自分からしたりしません。マーストリヒトでは多くの問題が起こっていますが、それは毎年150万人という膨大なカナビス・ツーリストが訪れるからです。その多さ自体がすでに問題なのです。

善良なコーヒーショップのオーナーとは、お客さんが原因になっている迷惑問題を市当局と共同で解決することができます。市では、ショップの一部を居住地域から街の郊外に移転するように働きかけていますが、コーヒーショップのオーナーも協力を約束しています。彼らも、たえず混乱状態でビジネスをすることを望んでいないからです。しかしながら、コーヒーショップが違法であれば、そのような提携をすること自体が不可能なのです。


5.カナビスの栽培は、常に犯罪者の手に握られている

必ずしもそうとは言えません。これも前項と同様に、合法的なコーヒーショップとは、善良な栽培者や供給者からカナビスを仕入れるように調整することができるからです。

しかし残念ながら、オランダ政府は、カナビスの栽培と供給を組織犯罪者の手に残しておくことを選んでいるという現実があります。つまり、コーヒーショップはカナビスを販売し、お客さんは使うことはできますが、一方では、カナビスを栽培したり供給することは誰も許るされていないのです。しかし、実際にはどこかで生産されているわけですから、そのような仕事は犯罪者によって行われることになります。自宅で違法に栽培してコーヒーショップに売っている人たちもいます。

マーストリヒトだけでも、犯罪者たちは、毎年、カナビスで5000万ユーロも稼いでいます。寛容政策が極端にまで利用されてしまっているのです。栽培や供給が禁止されていることは、マフィアにとってはすべてに都合がいいわけですが、マースリヒトやティルブルグ、ロッテルダム、アムステルダムなどにとっては、地域社会を破壊させかねない問題なのです。


6.カナビスの栽培と供給を根絶することで犯罪者も根絶できる

この方法は決してうまく行きません。これまでも説明してきたように、コーヒーショップを完全に閉鎖してしまうよりも、フロントドアをコントロールすることのほうがよりメリットがあります。しかし、フロントドアをコントロールするならば、バックドアもコントロールしなければなりません。そうしなければ、単に犯罪者の手に委ねることになってしまうからです。

何度も言いますが、カナビスの販売を認めることは、どこかからカナビスを調達してくる必要があります。現在の状態は、パン屋にパンの販売を認めておきながら、小麦粉を仕入れてはいけないと言っていることと同じです。

パン屋を寛容に扱おうとする限りは、小麦農家や製粉業者も一緒に必要です。同様な原則は、コーヒーショップにも当てはまります。すべての栽培場を閉鎖すれば、新しい栽培場が始まるだけなのです。もし、マーストリヒトから強制的に追放しても、周辺地域に移るだけです。ウォーターベッドと同じです。

もちろん、コーヒーショップを閉鎖する決定を下すこともできます。しかし、それならば、少なくとも一貫性を持つべきです。オランダ政府がバックドアをコントロールしようと望まなければ、マーストリヒトは、厳しいスタンスで街からコーヒーショップを一掃せざるを得なくなります。

しかし、単にコーヒーショップや栽培場を閉鎖しても、市の外のどこか別の場所で違法にビジネスが再開されるだけです。いずれにしても、人々はカナビスを買いたいと望んでいるわけですから、1番目の項で説明したように、コーヒショップのなくなればカナビスを使う人が多くなってしまうのです。

このことが理由で、マーストリヒトでは、栽培する場所と販売する場所を厳格なコントロール下に置くことと同時に、コーヒーショップを平穏が乱されない場所に移すことを提案しているのです。この政策は、この2つの要素が重なり合ってはじめて機能するのです。

われわれはこのアプローチを採用したのは、それが、カナビスやハードドラッグの使用を減らし、社会の迷惑や犯罪を減らすからです。確かに、ドラッグ戦争を遂行して市からコーヒショップや栽培場を一掃するというオプションもありますが、そのようにしても、すべては市の外側で続けられるだけなのです。


7.栽培と供給をコントロールすれば、ドラッグ・ツーリズムを魅きつける

ナンセンスです。外国人がコーヒーショップへやって来るのは、逮捕されることなく最高5グラムまでカナビスを買うことができるからです。彼らは、コーヒーショップがカナビスをどのように仕入れているかなどには関心は持っていません。


8.バックドアを合法的にコントロールすることはできない

フロントドアのコントロールは、個人に対するカナビスの販売をしっかりとコントロールされ、厳格に監視された状況で行いうことを意味していますが、バックドアでも同じことです。

法的な観点からすれば、オランダのあへん法ではカナビスの所持も完全に違法とされているわけですが、司法大臣が公訴局に対して、個人使用目的の5グラム以下のカナビス所持とコーヒーショップの500グラム以下の在庫については起訴しないように指示することでフロントドアをコントロールできるようにしているのです。

司法大臣は、これと同様にことをバックドアについても行えるはずです。われわれは、合法化することまでは望んでいませんが、コントロールできるようにしたいのです。


9.EUはバックドアのコントロールに反対している

EUのドラッグ関連の委員会の代表をしているフランコ・フラティーニ委員長は、オランダの新聞のインタビューに、オランダは自分で意思決定をすべきであると答えています。バックドア問題は国内の問題で、近隣諸国がそれに悩まされるようなことではありません。

しかし皮肉なことに、現実には、近隣諸国は、オランダの現在のカナビス栽培に対する厳格な禁止アプローチのせいで、栽培場を作られたりして大いに悩まされているわけですが、当然のことのように苦情を言い立てています。

もし、われわれがカナビス栽培に対する現在の戦争をさらに徹底すれば、カナビスの生産はベルギーやドイツに移動することになります。ベルギーやドイツでも最近、相当数の栽培場を閉鎖していますが、栽培者たちはまた別のところに移動しています。結局、カナビスのマーケットは少しも小さくなっていないのです。何度も説明しているように、カナビスはどこかで生産されているが故に、マーケットに出てくるのです。


10.マーストリヒトのリールス市長はカナビスの使用を美化している

完全にナンセンスです。市長は、カナビスを使ってはいませんし、使った経験もありません。さらに、若者たちが使えないようにすることも望んでいます。そもそもマーストリヒトでは、子供がカナビスを試すことを防止したいと望んでいます。この点に関しては、オランダの政策は成功していますし、マーストリヒトでも国の政策を支持しています。

リールス市長は、カナビスに対しては現実的な政策を取るべきだとして、従来のような道徳による政策には反対しています。しかし、市長を説教してその考え方を改めさせることは誰にもできません。もしそれが可能ならば、コーヒーショップは閉鎖されるでしょうが、その結果、より多くの子供たちがカナビスを使うようになり、より多くの人がハードドラッグに手を出し、より犯罪活動が盛んになってしまうからです。


11.カナビスの栽培と供給をコントロールしてもバックドア問題は解決せず、犯罪行為はなくならない

現時点では、警察力の3分の1が、カナビス栽培という完全に取り除くことが不可能な闘いに注ぎ込まれています。どこかを根絶やしにしても、別の場所に出てくるのです。

しかし、合法なコーヒーショップに供給されるカナビスをマフィアの手から奪い取って、ライセンスされた善良な生産者に委ねれば大半の問題は解決するのです。警察官は、別の犯罪に力を集中できるようになります。このほうがずっと効果的なアプローチです。


12.カナビスの栽培をコントロールすれば価格が上昇し、違法カナビスの魅力が増す

そのようなことは、ほとんど起こりそうもありません。実際、ライセンスされた栽培ではリスクがなくなるわけですから、その分を価格に転嫁する必要がなくなります。一方では、栽培者は適正な税金を払い、従業員は社会保険負担しなければなりませんから、その分だけ価格は上昇することになります。しかし、コーヒーショップのオーナーたちの経験によれば、その2つは相殺すると考えられています。

オランダ政府の閣僚の中には、合法的に生産されている医療用カナビスとの比較を持ち出す人もいますが、生産量は非常に少なく、医療専門家の指導を受けながら植物を1本1本監視して育てているわけですから、比較することは間違っています。


13.コントロールしたカナビスではTHC含有量が減るので、強力なカナビスを好む人は違法な供給を求め続ける

カナビスが禁止されている国では効力の強いものが求められる傾向がありますが、カナビスが容認されているオランダでは、カナビスのTHC含有量は何年か前まで上昇した後で、現在では下降し始めています。ユーザーはソフトなカナビスを求めています。一時は「ハード」なカナビスが市場に溢れましたが、ユーザーは望まず背を向けています。パブでは、ウイスキーよりもビールのほうが好まれているのと同様です。市場には自己調整機能があるのです。


偽善?

オランダにおける年間平均死亡者数
肥満症 40,000
タバコ 18,000
アルコール 3,500
ハードドラッグ 60
マジックマッシュルーム 0、1
カナビス


結論

オランダのカナビス政策は、他国に比較して、カナビス・ユーザー数を低く保ち、ハードドラッグを使う人をごく僅かに抑えることに成功している点で公衆衛生によい結果をもたらしている。だが一方では、カナビスの栽培と供給を組織犯罪者の手に委ねてしまっている点では社会全体に悪い影響を与えている。

われわれは、カナビスの販売と消費だけではなく、栽培と供給についても厳格な条件のもとでコントロールできるようにすることで、カナビス問題に対処することができる。

また、特に国境に接した街の場合、多くの外国人ツーリストが訪れて社会が迷惑を被るというローカルなレベルで考慮しなければならない問題もある。解決策の一つとしては、人家が少なく、道路が整備されている場所にコーヒーショップを移転することが考えられる。

現在、マーストリヒトの場合は、コーヒーショップは街の中心部に集中しており、境界周辺にはコーヒーショップがないが、この種の政策については隣接する自治体の協力が必要になる。しかし、現実には、近くにコーヒーショップができることについては、協力的になることは全くと言ってよいほどない。

このことについては、われわれマーストリヒト市もよく理解できるが、他の代替シナリオでは状況がいっそう悪化してしまう。

  1. 隣接自治体が協力的でない場合には、マーストリヒトのような都市では自分のところの住民に必要なコーヒーショップだけを残して他を閉鎖せさるを得なくなるが、マーケット自体は縮小されないので、回りの自治体の地下マーケットに分散することになる。

  2. オランダ政府が、バックドアのコントロールに対して協力を拒否した場合には、マーストリヒト市はバランスが取れて政策の一貫性が確保できる他の方法を探らなければならなくなるが、その方法はすべてのコーヒーショップを閉鎖することしか残されていない。バックドアが閉じられたままであれば、フロントドアも序々に閉じなければならなくなる。

いずれにしても、隣接自治体は今よりも大きな問題に遭遇することになる。コーヒーショップがなくなれば、カナビスに対する要求が減るだろうなどと現実を甘く見てはならない。

こうした政策を取れば、真に犠牲者になるのは若者たちで、カナビスを買うのには、ハードドラッグを売り付けることなど躊躇しない危険な犯罪者に接触することを余儀なくされる。こうした状況は、オランダよりもより多くの人たちがカナビスやハードドラッグを使っているフランスやイギリスやアメリカなど他の西側諸国の仲間入りをすることを意味している。

結局、フロントドアとバックドアを厳格にコントロールし、思慮深い分散化政策をとることこそ、カナビスを使う人にとっても使わない人にとっても幸福を保証する最善の道だと言える。

フロントドア、バックドア、分散化、これら3つのすべてを一本の政策に集約することが求められている。さもなければ、現在のヨーロッパの標準モデルになっている2番目のシナリオに戻らざるを得ず、より多くのカナビス・ユーザーとハードドラッグ転向ユーザーを抱え、より多くの犯罪行為に巻き込まれて、社会はより大きなダメージを被ることになる。

1998年に遡れば、FBIで犯罪取締で著名なジョセフ・マクナマラとレーガン政権のジョージ・シュルツ国務長官が。国連のアナン事務総長に宛てた公開書簡の中で、彼らにしてみれば前代未見の大胆な結論を提案したことが知られている。だが、われわれははるか昔に、ドラッグ問題を道徳的な観点からではなく理性的に見つめることを強いられて同じ結論に到達していた。

書簡に共同署名をしたオランダのアンドレアス・ファン・アフト元首相は、「現在、世界で繰り広げられているドラッグ戦争は、ドラッグの乱用そのものよりさらに大きな害をもたらしている」 と述べている。