良いコーヒーショップとは


●オランダには750軒以上のコーヒーショップがあると言われている。30年の歴史のなかで一時は1500軒もが乱立したこともあったが、当局の規制強化と経営難から半数が消えていった。そのぶん規則を良く守り顧客の支持を得た経営のしっかりしたコーヒーショップが残った。

基本的に個人経営で一軒当たりの規模はそう大きくない。最大のグループはハンク・デブリが率いるアムステルダムのブルドック・チェーンでホテルやカフェなども経営しているが、コーヒーショップの数は5軒しかない。銀行が資金を提供したがらないということもあるが、もともとカナビスがオランダで容認されたのは、ヘロインやコカインなどのハード・ドラッグを締め出すためにカナビスをソフト・ドラッグと区分し、マフィアなどの介在を排除するためだった。このために大きな組織が進出しにくいという背景もあった。

さらにカナビスという植物がどこでも簡単に育てられるために供給源を独占することができないという事情もあった。オランダではカナビスの販売や栽培は、品質や嗜好を競うチーズや地ビールのような側面が強く個人経営に向いている。コーヒーショップは小規模で熱心な園芸家たちが栽培した特徴のあるカナビスをどれだけ定期的に仕入れられが経営の差別化の要になっている。

●コーヒーショップの規制の細部は各自治体の権限にまかされているために規制の内容が異なっている。

小いさな町や村では出店自体が認められていないところも多いが、アムステルダムのように以前には酒場であったコーヒーショップに限ってビールなどの同時販売を認めているところや、ハーレムのようにアルコール類の販売が一切できないところもある。入店の年齢制限は、自主的に年齢を21才以上に設定している店もあるが、国の法律では18才以上で酒場と同じになっている。営業時間に関する規制はあまりなく、午前9時から深夜2時といった長時間開店している店もあれば、例えば、ライデン市などでは、大学と博物館の街という事情もあって営業時間は午後4時以降に決められているところもある。

ハーレムでは、カナビスをどのように地域社会に受け入れたらよいのか、市議会、警察、コーヒーショップ・オーナーが三位一体で協議を繰り返し、すべての関係者が受け入れ可能なシステムを作り上げてきた。コーヒーショップ・オーナーたちは、AHOJG基準といわれるカナビスの販売制限を受け入れ、ひきかえに当局側はショップ運営の制限を緩和した。このハーレム・モデルはコーヒーショップ規制の模範ともなっている。
A:ソフトドラッグ販売の広告禁止。
H:店でのハードドラッグ(アルコールも含む)の販売も個人使用も禁止。
O:迷惑禁止。NO暴力。NO武器。NO盗品。
J:JはYの意味で、18才未満の入場禁止。
G:多量販売の禁止。1日1人5グラムまで。
●コーヒーショップのパイオニアで、オランダ中のコーヒーショップを網羅的に調査して5ランクに分類したガイド・ブックを発行しているワーナード・ブリューニングは、良いコーヒーショップとは 「自分の娘をひとりで行かせることができるところだ」 と述べている。結局、良いコーヒーショップは普通の日本人が想像する陰湿な阿片窟のようなところとは正反対だ。

ハーレムのウイリー・ウォーテルは3軒のコーヒーショップを展開しているが、マクドナルドのような均質な店ではなく、3種類の典型的なコーヒーショップになっている。どれもワーナードの本では優良店として取り上げられており、コーヒーショップの全体像を知るには最もよいサンプルといえる。

インディーカ店は、常連のローカル客が中心で、カナビス販売のディーラー・カウンタとソフト・ドリンク販売のバー・カウンタを同じ店員が切盛りしている。全国的にはこのタイプの店が一番多い。サティバ店はディーラー・カウンタが独立して専任のディーラーがいるタイプで、客の出入りが多い駅前や繁華街の中規模店の典型になっている。シンセミラ店はビリヤードやテーブル・サッカーなどを備え各種のイベントも可能な大型店になっている。

●なお 「コーヒーショップ」 という名称だが、これはアムステルダムがソフトドラッグ販売を認定する際にシールを発行したことが発端になっている。コーヒーとアップルパイだけを売っている本来のコーヒーショップ側はカナビス販売店の名称を変えることを望み、市は「カナビストロ」という代替名も検討したが、カナビストロという名前はすでに商標登録されていて使うことができず、それまで習慣的に使われてきたコーヒーショップという名前がそのまま残った。

ハーレムでは必ずしもコーヒーショップという名称が使われているわけではなく、ウイリー・ウォーテルは 「カナビスショップ」 と呼んでいる。またハーレムで最も古いコーヒーショップ店は当時使われていたティーハウスという名称をそのまま引き継いで、「ティーハウス」 という名前のコーヒーショップ店になっている。