医療カナビス・バポライザー

ボルケーノの仕組みと使い方


バポライズと喫煙の違い

ここ何年かで、カナビス・ユーザーの間には、カナビスの活性成分を蒸気にバポライズして吸うことも可能なことがますます知られるようになってきた。とりわけカナビスの医療利用分野では、カナビノイドをバポライズするほうが喫煙よりもはるかに優れていることが明らかになってきた。

よく知られているように、カナビスのバッズやハシシを燃やして喫煙すると、燃焼温度はおよそ500〜700℃に達する。これに対して、カナビスをバポライズするには、185〜200℃程度に加熱するだけで、カナビスの主要な活性成分のTHCがバッズなどから蒸気になって切り離され、空気に混じって吸引可能な気体になる。

原理的には、喫煙でもバポライズは起こっている。煙の中の高温に熱せられたガスがバッズなどを通過する際に活性成分をバポライズして煙に混ざる。しかし、カナビスを燃焼させるためには高熱が必要で、この過程では同時に深刻なマイナス面も出てくる。

喫煙では、求める成分の他にも、燃焼によって生じた燃焼毒を同時に吸入せざるを得ない。燃焼毒は、発がん性であったり、呼吸器系の炎症を引き起こしたり、不快な臭いを発生させたりする。さらに、高温で制御できない燃焼温度では、活性成分の多くを不必要に破壊してしまうので、経済的にも無駄を生じる。

このように、喫煙は健康に害になるだけではなく効果の面でも問題があるが、優れたバポライザーを使えば、喫煙1回分で3〜4回も活性成分を取り出すことができるだけではなく、同時に有害物質の吸引を著しく減らすことができる。


バポライズの効果と特徴

バポライザーについての初めての本格的な検証研究は、カリフォルニアNORMLとサイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)に行われ、2004年のカナビス治療学ジャーナルに掲載された。その結果、カナビスの主要な活性成分THCは、185℃で気化し、一方では、喫煙のよって生成されるベンゼン・トルエン・ナフタリンに関係した3大毒素が完全に除去されていることが確認された。

一酸化炭素やタールについてもほとんどなく、さらに、喫煙に比較して、非喫煙者でも受け入れられるほどの好ましい芳香だけで、臭気の発生はほとんどなかった。また、周囲に迷惑な煙もなく、部屋を共同で使っている人にも悪い影響はなく、苦情を言う人もいない。

バポライザーを使った人は、同じバッズを喫煙した人に比較して、「ストーン」するよりも「ハイ」になる傾向が見られたが、基本的には、使ったカナビスの成分の組成 (2大成分である酔いを引き起こすTHCと鎮静効果のあるカナビジオールCBDの比率) によって変化する。

喫煙に比較すると、活性成分を多く摂取したからといって効果が大きくなるような傾向はみられず、効果の強さは、もっぱら使ったカナビスの品質で決まる。このことは、1度に全部を使い切るのではなく、何回も繰り返して使う方が効率的であることを示している。

喫煙では、もとのバッズが燃えてしまって灰が残るだけだが、バポライザーでは熱せられた空気が通過するだけなので、活性成分が気化される以外の変化は起こらない。

つまり、十分な活性成分が気化した時点で装置の電源を切ってしまうことができる。残ったバッズは蒸気が出なくなるまで、そのまま繰り返し使える。新しいバッズに変えるのは、もはや効果が感じられなくなるか、繰り返しで蒸気が出なくなるまで必要はない。


バポライズ素材の扱い方

ボルケーノ・バポライザーでバルーンに蒸気を充填した後の空気と活性成分の比率は、基本的には、使ったバッズやハシシの品質と量によって変わる。また、その他の重要な要素として、素材の表面積の大きさと、気化させる温度設定がある。


ボルケーノ・バポライザーの仕組み (クリックで拡大)

当然のことながら、気化させる素材の品質と同様に使う量が重要で、多く使えばより多くの蒸気が発生するが、十分な蒸気を最低量の素材で達成しようとすれば、素材の表面積が問題になる。

例えば、ハシシ0.5gをそのままの塊で使えば、バポライザーでは実質的に蒸気はほとんど発生せず、期待通りの結果は得られない。しかし、同じハシシを砕いて小さな粉にすれば、表面積が一気に増えて濃い蒸気が発生し、結果的に蒸気の効力も強くなる。


素材を細かくして表面積を増やすためのグリンダー 電動式もある

気化することのできる活性成分は、カナビスの表面に隣接した部分に限られている。従って、素材を両指でほぐりたり、グリンダーを利用して細かくして、素材の内部を露出させることがバポライザーでは特に有効に作用する。

植物の花と葉でできたバッズでは、もともと大きな表面積を持っているので、軽くグリンドしただけで特に細かくし過ぎる必要はないが、チャンバーに装填する際には、押し込んだりせずに、熱せられた空気が自由に循環するように十分にルーズに入れる必要がある。


温度設定の基本

バポライザーでは、温度設定が重要であることは言うまでもない。温度を高くすれば、その分だけ活性成分の放出も多くなるが、必要以上に高くすると、有害物質の発生も多くなり、風味にも悪い影響が出てくる。

このために、温度を上げるテクニックを使うのは、何回か蒸気にした後で蒸気の出が目立って少なくなったときに、素材に最後まで残された活性成分を取り出す場合に限ったほうがよい。それでも、喫煙した場合に比較すれば、呼吸器系に対する刺激ははるかに少ない。

バポライザーの効果は、使う素材、器具の優劣の他にも、ユーザーの吸入の仕方などにも影響を受ける。蒸気を吸入する際には、一服ごとに数秒間息をホールドしてから吐き出すことが重要で、吸入時に、おしゃべりしたり、笑ったりするのは避けたほうがよい。また、経験の浅いユーザーでは、咳の原因になったりする。このために、バポライザーの吸入は、一人になってからの方が容易にできる。

バポライザーには温度表示されるものもあるが、温度が正確だとは限らない。デジタルで温度をいかに正確に設定しても、それがチャンバー内の本当の温度に連動していない限りは、きちんと設定できたことにはならない。この点に関しては、実際の状態を良く観察しながら設定温度を決めるほうがよい。

設定温度が適切な場合は、細かい乳白色の蒸気が立ち上がる。蒸気の状態を観察していれば、温度が低過ぎないか、あるいは素材に蒸気になる成分が残っていないかを判断することができる。

気体が濃く、または黄色っぽくなっだ状態は、チャンバー内が高温過ぎて素材が茶色や黒く変色し、蒸気ではなく煙が出てきていることを示している。安価なバポライザーの中にはきちんとした温度設定ができないものもあり、しばしばこのような状態がみられるが、優秀なバポライザーでは、素材が燃焼しないように開始前に温度設定ができるようになっている。


素材充填チャンバー    各種メッシュのフィルター    オイル充填用フィルター


バルブとマウスピース
バルブの先にバルーンを取り付けて、チャンバーに重ねて本体に設置する。
蒸気が溜ったら、バルブにマウスピースに装着する。詳しくは マニュアル を参照。


風味(フレイバー)

カナビノイドに比較すれば圧倒的に少ないものの、風味をつくり出す揮発性の高いエッセンシャル・オイルにも治療効果がある。エッセンシャル・オイルは、カナビノイドよりもずっと早く気化し、最初の風味は、数回のバポライズでカナビノイドより前に消失してしまうが、効果自体は減少しない。風味は、まず何よりも使うバポライザーによって影響を受けるが、優秀なバポライザーほど本来の風味を損なわない。

残念なことに、オランダで開発されたカナビスの品種の大半は、生産量と活性成分を最大化することに関心がむけられており、クリーンな風味を持ったカナビスをつくり出そうと努力している栽培者は品評会を目指す人などごく一部しかいない。これは、喫煙時には、煙の味に圧倒されて風味はほとんど分からなくなってしまうからだ。

しかしながら、カナビスをバポライズしたときには、風味の違いはよりいっそう鮮明に感じられる。エコロジーを意識した栽培者の作ったハシシの中には、バポライズしてもしっかりとした風味を満喫できるものもある。この手の風味はマイルドで心地よく、呼吸器を刺激することはない。医療的にも嗜好的にも、今後はこのようなバポライズを意識したカナビスが増えていくことが望まれる。


素材の違いによる扱い方の基本

バポライザーで使う素材としては、バッズやハシシが最も適している。ハシシは粉にする必要なあるが、ポールンと呼ばれるハシシを固める前のパウダーならば、そのまま簡単に使うことができる。

ハシシの中には、熱するとオイル状になってねばねばになる種類もあるが、こうしたハシシをそのまま使うとチャンバーのメッシュ・フィルターを詰まらせてしまう。この場合は、いったんハシシを温めてから、粉にしたバッズやセージやペパーミントのようなハーブをまぶして使うとよい。

こうすれば、フィルターを詰まらせずに、素材の表面積を大きくして蒸発効率を上げ、独特の風味を楽しむことができる。ハシシ・オイルの場合も同様なテクニックを使うことができる。

また、オイルを少量のアルコールに溶いてからオイル充填用フィルターに染み込ませた後で、アルコールを揮発させてから、チャンバーにセットするいう方法もある(詳しくは マニュアル の31pを参照)。この方法は、処方医薬品になっている合成THCのドロナビノールやサティベックスなどの油性医薬品にも応用できる。

また、当然のことながら、カナビス以外にもラベンダー、セージ、タイム、カモミールなどのハーブをバポライズして摂取することもできる。


バルーンは、食品を高温で長時間オーブンで焼く時に利用するオーブンホースを適当な長さに切って作る。
ビニール袋やビニールフォイルは高温で溶ける可能性があるので使用できない。


医療用バポライザーの必須条件

バポライザーの仕組みは、基本的に2種類のタイプの分けることができる。一つは「フライパン」方式で、ホットプレートの上に素材を置いて加熱して蒸気を発生させる。しかし、このタイプのバポライザーは、構造的な制約から素材を均一に加熱できないという欠点があり、プレートに接触した部分は高熱でコークス化して弱い煙が発生する場合もある。利点は価格が安いことだが、全体的な性能は低く、医療用には向いていない。

もう一つのタイプは、熱した空気を素材に流すホット・エアー方式で、前もって設定した均一な温度でカナビスを加熱することができるので、医療用途に向いている。この方式で最も要になっているのは、要求される狭い変動幅の範囲内に温度保つための技術で、さらに、加熱過程で空気を汚さないようにしなければならない。

THCは温度が185℃以上になると気化し始めるが、素材のセルロース部分は235℃でコークス化し始めて煙を発生するようになる。従って、技術的には185℃から235℃までの範囲でカナビスをバポライズする必要がある。しかしながら、風味を保ち有害物質の発生を最低限に抑えて良い蒸気をつくるには、185℃から最高でも205℃の範囲でチャンバーを保たなければならない。当然、その範囲内でも、温度の変動が少ないほど良い。

「自分のバポライザーは安いけれども、ちゃんと機能するし、効果もある」 といった意見もよく聞かれるが、バポライザーとしての性能が良いことの証明にはならない。カナビスの効果という点では、ジョイントやパイプばかりではなく、加熱したフライパンの上にカナビスをのせて発生させた蒸気や煙を吸っても効果を得ることができるからだ。

きちんと制御のできるバポライザーは、最低限でも、バポライズ温度を維持する能力が欠かせない。それができなければ、最良のTHCの蒸気を作ることもできないし、風味を得ることも、有害物質の発生を最小限に抑えることもできない。

その他の重要な点としては、取り扱い上の安全性、操作の容易さ、バポライズ・プロセスと吸入プロセスが明確に分離されているか、といったことが上げられる。

こうした観点から、現在のところ医療用のバポライザーとして受け入れられるのは、リサーチ&エクスペリエンス社のアロメッド・バポライザーとストルツ・ビッケル社のボルケーノの2種に絞られる。


アロメッド・バポライザー

アロメッド・バポライザーは、熱源としてガラスで覆われた特殊電球を利用しているために空気を汚すことはない。しかし、デジタル・ディスプレイの温度は電球に加えた電圧がもとになっていて、バポライズが起こるチャンバー内の温度そのものとは必ずしも一致していない。


Aromed vaporizer

また、アロメッド・バポライザーでは、空気の流れをユーザーの肺による吸引に頼っているために、空気の流入量が変動することが避けられない。しかし、チャンバー内の温度を感知する正確なセンサーがないので、流入量の変動にあわせて温度を正確に保つような精密な技術も使えないことを意味している。

しかし、このことに関しては、ユーザーが吸入量の変動を最小限の抑えて一定に吸引するテクニックを覚えれば、ある程度満足のいく結果が得られるので決定的な問題とまでは言えない。

むしろ問題は蒸気を冷却するために水に通している点で、この方法では、活性成分のかなりの部分が水の中に残ってしまって肺まで到達しないことになる。


ボルケーノ・バポライザー

ボルケーノ・バポライザーでは、空気を正確に加熱するという問題の解決にあたっては、驚くほどシンプルな方法を採用している。熱源は、オーブンにも使われているアルミニウム・ブロックで、ポンプで送り込んだ空気を、加熱したブロックの周辺に通すことで正確な温度を実現している。ポンプを使えば空気の流れを一定に保つことができるので、流量の変動による問題は起こらない。

この仕組みは非常に効果的で、特別な電子制御をしなくて済む結果をもたらしている。また、ボルケーノ・バポライザーでは、バイメタル制御技術を使うことによって、チャンバー内の温度変動幅を最高で8℃までに抑えることができるようになっている。このことは、ボルケーノがどのバポライザーよりも正確な温度コントロールを備えていることを意味している。

しかしながら、ボルケーノ・バポライザーの最も特徴的な違いは、バルブ付きのバルーンにポンプで蒸気を送り込む点にある。バルーンに蒸気が流入する際の温度は最高で140℃になるが、バルーンの表面で急激に冷やされ、吸引する際には周囲の気温とほとんど変わらなくなっている。

バルブ・バルーンは蒸気が溜ったら、完全に本体と切り離すことができるので、ユーザーは、バポライズ中の装置の熱や電気に触れる恐れや、熱による呼吸器への影響なしに、自分のペースで安全で容易に蒸気を吸うことができる。

このように、ボルケーノは、今日では最も進んだバポライザーで、他の旧来のバポライザーに比較して、性能・機能・デザインの面で明らかに優れている。


最新のデジタル・ボルケーノ
アタッチメント類(イージー・バルブ)は簡素化されているが、従来のソリッド・バルブも使える。

ボルケーノは南ドイツのツットリンゲンで開発・製造されている。この地域は医療テクノロジー・センターとして国際的にもよく知られたところで、ボルケーノの開発にあたっては、集積された医療テクノロジーのノウハウが惜しみなく注ぎこまれている。ボルケーノは、医療用バポライザーとしては、厳しい専門家や厳格なユーザーの目にも耐えられる唯一の装置となっている。