ハーバル・カナビスの将来

Source: IACM Cannabinoids 2007;2(3):20-21
Pub date: 2 September 2007
Subj: Letter: The herbal way - a response to Ethan Russo
Author: Arno Hazekamp, Department of Pharmacognosy, Leiden University
Web: http://www.cannabis-med.org/english/journal/en_2007_03_1.pdf


先頃の国際カナビス医薬品学会(IACM)のカナビノイド・ジャーナルで、カナビノイド医薬品の開発に当たっては科学的方法が必要だとするエサン・ルッソ氏のレターが掲載されたが、その理由として、彼は、「世界中の患者は、政府機関やサードパーティによって保証を受け安全かつ効果的で標準化された信頼のおける認証医薬品による症状の緩和を求めている」 と書いている[1]。

彼によれば、現在のところそれを満たすことのできるのはサティベックスだけであり、従って、サティベックスがカナビス治療における新しいゴールド・スタンダードになっていると結論付けている。しかし、その帰結として、カナビス医薬品のさらなる開発に際して、天然のハーバル・カナビスを果たす役割を故意に過小評価してしまっている。ここでは、ハーバル・カナビスを擁護する立場から、レターで取り上げられたいくつかの問題点についてその間違いを指摘する。


現在患者が利用できるハーバル・カナビスは、薬理成分の構成に非常に大きなバラツキがある。

カナビス医薬品が、「標準化され、無作為臨床試験と近代的な科学的方法でその効果と安全性が統計的に著しいことが示されなければならない」 のは当然のことだが、ハーバル・カナビスの成分構成に非常に大きなバラツキがあるのはカナビスの品種の違いによるものであって、単一品種に限れば成分構成は高度に標準化することができる。

結局のところ、GW製薬自身も、サティベックスの原料になっているカナビス抽出液を標準化した植物を栽培することで得ている。植物は、「クローン化した品種を、適正栽培製造基準に従って環境制御した場所で有機栽培」 したもので、植物の収穫までの過程では、サティベックスもハーバル・カナビスも何ら違いはない。

違いは、植物を患者さんが利用できるようにする実際の過程にある。オランダでは、医療カナビス事務所が過去4年間にわたって同一成分構成のハーバル・カナビスを患者さんに提供してきたが、その経験からすれば、ハーバル・カナビスでも高度に標準化された品質のものを製造できることが示されている。

さらに、オランダのハーバル・カナビスは、「アメリカの植物化学物質(植物医薬品)の規制認可である青書[2]に従った処方用植物製品の標準化手順に完全に適合」 している。


バポライザーは依然として性能が悪く、喫煙によるTHC搬送と同様に摂取量が予測できない。

ハーバル・カナビスはその多くが喫煙で摂取されており、その点では確かに 「喫煙によるカナビスの効果をいくら主張しても、規制認可の適応の対象になる可能性は殆んどない」 が、それ以前の問題として、実際のカナビスの医療ユーザー(大半が喫煙者)の経験スコアの大きさが、政治や製薬行政にカナビスの見直しを迫っている。他の医薬品では普通でないとはいえ、現在では、カナビノイドの吸引による摂取法が非常に優れた方法であることは広く受け入れられている。

現在必要とされているのは、単に喫煙によらない吸引搬送システムだが[3]、その点では、一部の高精度バポライザーを使えばすでに目標は手のとどくところまで来ている。ボルケーノ・バポライザー[4]を使った筆者自身の研究では、喫煙によって得られる迅速な搬送、摂取量調整の容易さ、発現の早さなどのメリットのすべてを享受しながら、発癌性物質にほとんど晒されることなくカナビスを吸引摂取できることが示されている。

続いて行った臨床試験[5]でも、血中のTHC濃度レベルが極めて確実に再現されることが示されている。確かに、蒸気の中には問題のありそうな2、3の成分も残されているが、喫煙によらないバポライズが可能になったことは大きな前進であり、懐疑的になって後ろを見るよりも前を注目すべきだ。


オランダやカナダ政府の認証を受けて栽培されているハーバル・カナビスは、ガンマ線照射が義務付けられていることにも問題がある。

当然、カナビス原料は病原性の微生物に汚染されてはならない。このことは、栽培期間だけでなく、最終製品のパッケージに至るまで保証されなければならない。

カナダの製品は地下400メートルで栽培されているが、実際に菌類による汚染問題に見舞われたことがある。しかし、オランダの医療カナビスはこの問題に悩まされたことは一度もない。ガンマ線照射は単なる予防的措置であり、ハーブや植物化学物質を含んだ多くの医薬品では標準的な手順になっているために行われている。

カナビスの化合物は安定度が低いために、エチレンオキシドや熱処理で消毒するのは適していない。微生物の汚染はごく普通に見られる問題ではあるが、ハーバル・カナビスの栽培に本来的に関係しているわけでもない。オランダでは、栽培技術と衛生管理を組み合わせることで、すでにガンマ線照射を行わなくても汚染のないカナビスを生産できるようになっている。


大半の開業医は、正式にFDAの認証を受けた医薬品を処方することのほうが好ましいと思っている

これは疑いなくその通りだ。しかし、ハーバル・カナビスによるカナビノイドのパッケージのように、医薬成分を特別の形態でパッケージしたものはFDAが受け入れないという現状は、将来にわたってそれが変わらないことを意味しているわけではない。確かに、現在のFDAのルールは、カナビスが現代的な医薬品の仲間入りするには厳しすぎると言えるが、FDAの認証方法は現状の製薬ルールに縛られ過ぎている。そのために、ますます非現実的で時代遅れになっているという専門家も増えてきている。

実際、現在では、すでにアメリカでも12の州が医療カナビスを認める州法を制定している。さらに、実験用医療カナビスの栽培をめぐっては、民間の研究機関(MAPS)と連邦ドラッグ乱用研究所(NIDA)が裁判で争ったりもしている。

もし、ハーバル・カナビスが医薬品として真剣に検討できないのであれば、どうして、同じ植物からアルコールで抽出した液体が、突然、高度に標準化された医薬製品になることができるのか? 筆者の意見とすれば、これは製薬上の厳格さなどではなく、カナビスという植物に対する恐怖によるのではないか。従って、もしFDAがサティベックスを受け入れてハーバル・カナビスを受け入れないならば、それは安全上の観点からなのか、あるいはFDAの方針によるものなのかを正したい。

レスター・グリンスプーン氏は[6]、認証を受けたカナビス医薬品と違法な医療カナビスとの間には大きな断絶ができつつあると指摘している。しかしながら、このことはバイアグラからダイエット・ピルに至るまで成功した多くの薬にもあてはまる。 現在では、ハーバル・カナビスと製薬化されたカナビスの間の差が目立ってきている。

サティベックスは価値のある臨床的な裏付けを備え、カナビスが近代的な製薬調剤として開発できることを実際に証明したといえる。製薬的な観点からすれば、サティベックスは製薬開発のルールに最も適合することで、カナビスのベースにしたどの製品よりも成功を収めている。

従って、サティベックスのメリットについては議論するつもりはないが、しかし、サティベックスが「カナビス医薬品の新しいゴールド・スタンダード」ではないことは言っておかなければならない。サティベックスのように製薬化の条件に適合することだけを目指していると、薬用植物一般に関する新しい知識や、特に目覚ましく理解が進んでいるカナビス・サティバの新知識と取り入れようともしなくなる。それではとても「新しいゴールド・スタンダード」などとは言えない。

確かに、カナビスの喫煙にはリスクが伴うことを考えれば、ハーバル・カナビスを安全に使えるようにすることは最優先課題に違いない。ルッソ氏もリスクの数々を指摘しているが、いずれも解決可能になっている。だが一方では、医療カナビス・ユーザーの大多数が健康リスクがあるにもかかわらずいまだにハーバル・カナビスを喫煙し続けている。この現実はポジティブな経験がそうさせていると解釈すべきであり、権威ある専門家に対しても問題を前向きに見つめるように促している。

従って、たとえ製薬化された製品が多くの専門家の賛同を得たとしても、多くのユーザー満足しているという意味では、ハーバル・カナビスが依然としてゴールド・スタンダードだといえる。今こそ科学者グループは、世界の製薬会社の力に立ち向ってハーバル・カナビスを守るべき時なのだ。われわれを支えてくれる科学的データは十分に揃っている。IACMのカナビノイド・ジャーナルの読者諸氏はこの議論の先頭に立つことが望まれる。


●参考文献


[1] Russo EB. Letter: Cannabinoid medicines and the need for the scientific method. Cannabinoids 2007;2(2):16-19. [pdf]

[2] Food and Drug Administration. Guidance for industry: botanical drug products. Editor: US Government; 2004. p.48. [pdf]

[3] Institute of Medicine. Marijuana and medicine: assessing the scientific base. Washington DC: National Academy Press, 1999. http://books.nap.edu/html/marimed/

[4] Hazekamp A, Ruhaak R, Zuurman L, van Gerven J, Verpoorte R. Evaluation of a vaporizing device (Volcano) for the pulmonary administration of tetrahydrocannabinol. J Pharm Sci 2006;95(6):1308-1307. [abstract]

[5] Zuurman L, Roy C, Hazekamp A, Schoemaker R,den Hartigh J, Bender JCME, Pinquier JL, Cohen AF, van Gerven JMA. Effect of THC administration in humans: methodology study for further pharmacodynamic studies with cannabinoid agonist or antagonist. Br J Clin Pharmacol 2004;59(5):625. [abstract]

[6] Grinspoon L. On the future of cannabis as medicine. Cannabinoids 2007;2(2):13-15. [pdf]