カナビスの医薬品としての将来


レスター・グリンスプーン M.D.

Source: IACM, Cannabinoids
Date: 13 May 2007
Author: Lester Grinspoon
On the future of cannabis as medicine
http://www.cannabis-med.org/english/journal/en_2007_02_2.pdf


ハーバル・カナビスの医薬品としての利用は完全に定着し、その安全性と効果については、数多くの事例研究や臨床経験によって明確に示されている。製薬会社によるカナビノイド製品も開発されつつあり、その一部は、デファクトのゴールド・スタンダードである合法ハーバル・カナビスと競争するまでになってきている。


ハーバル・カナビスを使った対照研究

最近カリフォルニア・サンフランシスコのドナルド・アブラム博士のチームが、エイズに関連した神経障害性疼痛の治療にハーバル・カナビスを使った対照研究を行ったが、通常この種の痛みは治療が難しいとされていることもあり、喫煙カナビスに治療効果のあることを示して画期的なランドマーク研究として賞賛された。[1]

しかしながら、この研究は、カナビスに鎮痛効果があることを対照研究であらためて示したことに価値があるというよりも、ハーバル・カナビスの研究を妨害しようとするアメリカ政府と途方もない程の根気を発揮して交渉してきたことこそ賞賛に値すると言える。政府は、ハーバル・カナビスの研究には自らが栽培した低品質のカナビスしか使わせないように強制するばかりではなく、ありとあらゆる妨害行為を繰り広げてきたからだ。

治療の困難な神経障害性疼痛に対しては、エイズ患者や他の疾患に苦しむ人々、さらに偏見がなく観察力に優れた臨床医たちは自らの臨床体験を通じて、ハーバル・カナビスが間違いなく非常に有効なだけではなく、全くと言ってもよいほど毒性がないことを10年以上前から知っていた。

だが、そうした神経障害性疼痛にしても、ハーバル・カナビスが安全で効果的医療品であると繰り返し確かめられて言い伝えられて山のような症状や疾患の一つに過ぎない。

ある人は、もしそれが本当ならばカナビス関連の研究への関心がもっと飛躍的に多くなるはずではないか、と反論するかもしれない。確かに、アブラム博士のチームのような対照臨床研究がもっとたくさん行われていてもよいはずだ。では、そうなっていないのはなぜなのか? その理由は、結局のところ十中八九がお金の問題に帰する。


安全性と効果を確認する認証試験

今日では、薬を医薬品として市場で販売するためには、当該の認証当局(アメリカでは食品医薬品局FDA)から許可を勝ち取るために、厳格で高額の費用と長い時間のかかる認証試験をパスしなければならない。

認証試験の目的は、安全性と効果を確認してユーザーを守るために行われる。いかなる薬であっても、完全に安全で常に効果を持っていることはあり得ないので、当局の医薬品としての認証は、最終的には推定上のリスクとメリットの比較分析で判定されることになる。

まず行われるのが安全性、あるいは毒性が十分低いことを示す動物実験で、それがクリアできれば人間に対する試験でも確認しなければならない。次に行われるのが薬に効果があるかを調べる試験で、二重盲検法臨床試験でプラセボよりも効果があり、現行の医薬品よりも役に立つことを示さなければならない。

もし、プラセボとの違いが小さい場合は、統計的有意差をさらに明確にするために、しばしばより多くの被験者を対象にした大規模試験を行うことが必要になる。


カナビスの医療効果証明には二重盲検試験が不可欠なわけではない

医学や政府の権威者たちの一部には、ハーバル・カナビスを合法的に利用できるようにするためには、それぞれの症状または疾患について同様の認証試験を行わなければならないと強調する人たちもいる。

だが、こうした規制ルールをハーバル・カナビスに適応すべきかどうかについては疑問がある。まず第一に、ハーバル・カナビスの安全性については疑う余地がないことが上げられる。何千年もの間に無数とも言えるの人々が使ってきたが、それによって死亡したという記録はなく、目立った毒性エビデンスも全くと言ってよいほど示されていない。

同様に、カナビスの医療効果を証明するには二重盲検試験が不可欠というわけではない。カナビスを医療使用した経験を持っている世界中の無数の医師や患者が、通常の処方医薬品に比較して深刻な副作用が少なく、しばしば症状をより良く緩和することを確認しているという事実があるからだ。

もし、ハーバル・カナビスに現在の規制プロトコルを適応するのであれば、二重盲検試験法が出現する60年以上も前に医薬品として受け入れられたアスピリンについても同じことが要求されなければならないはずだ。

アスピリンは長年にわたって多くの人に使われ、その経験から毒性が限られたものであることが示されている。しかし、現在のFDAの認証プロセスを前提に、新しい承認証を求めて多大なコストを負担しようとする人などは誰もいないだろう。パテントはとっくの昔に切れているので、取得するインセンシティブが起こらないからだ。


カナビスの対照試験に資金を出すところはない

通常、製薬会社は、新薬認証にはFDAから徹底的な二重盲検法による臨床試験を求められるので、認証される可能性のある薬に対しては、治療効果の見込まれる患者を集めることに進んで多大な資金をつぎ込むインセンシティブが働く。

しかしながら、ハーバル・カナビスではパテントを取得できる可能性がないので、それに直接的な興味を示す製薬会社は出てこない。アダムス博士のチームの研究もカリフォルニア州から資金提供を受けることで行われた。

すでに明らかになっているさまざまなカナビスの医療効果について同じような対照研究で確認するためには、民間あるいは政府などの公的機関による資金提供を待たねばならない。

だが、アメリカ政府のカナビスに対する公式な立場は、「カナビスは医薬品ではない」 というものなので、すでにある事例報告やさまざまな証言よりも、「もっと科学的」 なエビデンスが得らてしまいかねない大規模な対照臨床試験に資金を出すことなどはほとんど有り得ない。


事例・証言エビデンスへの見方

事例研究や証言エビデンスは、当初は関心を集めることはあってもそれ以降はあまり注意を引くことはないが、一方では、カナビス植物から派生し合成医薬品の多くは、そうした事例・証言エビデンスを元にして開発されている。

ルイス・ラザニアの研究によると、豊水クロラール、バルビツール、アスピリン、クラーレ、インシュリン、ペニシリンの治療可能性が認められるには、事例・証言エビデンスだけで対照試験など要求されなかったと指摘している。[2]

また彼は、規制当局が、副作用の証拠として医師や患者の事例・証言を率先して聞きたがるのに、治療効果についてはなぜ耳を閉ざすのか、その理由についても調べている。

その結果、事例・証言は、常に決まった薬について語られるので詭弁が含まれ、好ましい状況だけが列挙されて都合の悪いことは無視されがちでバイアスがかかっていると考えられていると言う。


ハーバル・カナビスの価値

そのような傾向は確かにある。例えば、多発性硬化症で筋肉の痙攣に苦しむ人の多くがハーバル・カナビスを試して、その一部の人が通常の医薬品よりもより大きな緩和を得られれば、それが僅かでも目立って注意を引くことになる。

当然のことながら、そうした患者や医師たちはカナビスに熱狂し、それまでの考えを改めることもある。そのような人々は不誠実とまでは言えないが、公平な観察者とは言えない。

従って、ある人たちは、ハーバル・カナビスがさまざまな疾患に治療効果があるという事例・証言エビデンスをベースにあれこれ言うのは無責任だと見なすことになる。

確かに、このことは、カナビスが特に危険な薬であった場合には大きな問題になる。だが、実際はカナビスは極めて安全な薬なので、簡単に無責任だと切り捨てることは適切ではない。

ハーバル・カナビスでより良い緩和が得られる患者が全体のごく僅かであっても、注意深い医師が効果のあることを認めでいるのであれば、ハーバル・カナビスはリスクもコストも低いので、それを利用するかどうかについて話し合う価値は十分にある。


発現の遅く、最適量を調整できないマリノール

カナビスの成分を化学合成して「製剤化」しようとする努力は早くから行われており、今までにいくつかの製品が開発されたが、どれもデファクト・スタンダードのハーバル・カナビスを凌ぐものは現れてはいない。

中でも最も知られているのが、合成THCをごま油とともにカプセル化したマリノール(ドロナビノール)で、アメリカ政府の期待と支援を受けてユニメッド製薬が20年前開発した。この薬はあらゆる点でカナビスと同じような医療効果を引き出すことで、結果的に患者がハーバル・カナビスを合法利用する道を封じることを目標にしていた。

しかしながら、マリノールがカナビスに置き換わることはなかった。カナビスを喫煙したりクッキーなどにして食べたりした場合ほど効果もなく、役に立たなかったからだ。私は、カナビスもマリノールも利用できる機会に恵まれた患者を知っているが、カナビスのほうが好ましいと評価していた。

その理由の最大の一つは、19世紀にカナビス・インディーカ溶液が経口投与されていたのと同じで、効果が発現するのに時間がかかって遅いことが原因になっている。カナビスを喫煙した場合には発現が早いので医療効果は数分以内に感じることができる。また、吸いながら必要量の調整も簡単にできる。これに対して、マリノールは発現が遅いだけではなく、適量を調整することも難しい。

実際のところ、これら二つを利用できる機会に恵まれている人がマリノールを選ぶ場合は、それが合法であることが共通の理由になっている。


味が最悪で胃に漏れるサティベックス

さらに最近加わってきたものに、合法認定されることを目的として開発されているカナビス製剤のサティベックスがある。液体カナビスとも言えるもので、天然のカナビスから抽出したTHCとカナビジオールの2つのカナビノイドを液剤化している。サティベックスは、「ハイ」になることと喫煙するという2つの「危険」を患者にさらすことなく、カナビスの医療効果を引き出す方法として開発された。

しかしながら、「ハイ」が害になるという考え方や、精神活性効果と治療効果とを確実に切り離せるのかどうかについては多くの人が疑問を投げかけている。

また、確かに、どのような物質であれ喫煙すれば慢性的な気管支炎を起こす可能性がある。だが、カナビスが呼吸器系に深刻な結果を引き起こすことは一度も示されたことはない。[3] しかも、すでに商品化されている最新のテクノロジーであるバポライザーを使えば、カナビスを燃焼させて煙を出すことなくカナビノイドを気化して吸引することが可能になっている。

サティバックスは、口の粘膜での吸収を促進するために舌下にスプレーして投与するようになっている。しかし、味が悪いこともあって、舌下に保持できずに一部は胃に漏れることになる。大部分は口の粘膜から吸収されるが、発現には20分ほどかかる。しかし漏れた一部は胃腸で吸収されるために少なくとも1時間半ほどかかってしまう。従って、薬の最適量の調整の難しさはマリノールに近く、カナビスを吸引した場合よりも簡単ではない。

さらにマルノールと同様に値段が高いという問題もある。ハーバル・カナビスには禁止法による高額なリスク税がかかっているが、それでもずっと安く入手することができる。


ハーバル・カナビスの医薬品としての利用はこれからも続いていく

私は、ハーバル・カナビスの医薬品としての利用がこれまでの何千年と同じようにこれからもずっと続いていくことに疑いを持ったことはない。また一方では、カナビスを「製剤化」しようとする現在の努力が素晴らしいカナビノイド医薬品を生み出すことも疑わない。

しかしながら、開発される多くの医薬品が、その医療効果、毒性の無さ、多芸多彩性、摂取量の調整の容易さ、費用、そして当然のことながら法的アクセス面などについて、ハーバル・カナビスと同じフェールドで競争に耐えうるかどうかについては疑問を持っている。

現在、われわれは2つの相反する力が衝突し始めているのを目撃している。医療カナビスを受け入れる世論はどんどん大きくなってきている一方で、医療・非医療であってもハーバル・カナビスの使用を禁止しようとする力も依然として勢力を保っている。

今のところは、現在の完全な禁止法から、節度と責任あるカナビス使用を認めた合法・規制・管理システムへ移行する気配はほとんど感じられない。

その結果、医療カナビスについては二つの配布システムが同時平行的に立ち上がりつつある。一つは、公式に認証された医薬品を処方医薬品として扱う従来からのモデルで、もう一つは、ハーバル・カナビスとその派生商品だけを扱うディスペンサリーや共同組合モデルで、法的には合法からグレーゾーン違法の場合までさまざまな形態がある。


●参考文献


[1] Abrams DI, Jay CA, Shade SB,Vizoso H, Reda S, Press ME, Kelly MC,Rowbotham MC, Peterson KL. Cannabis and painful HIV-associated sensory neuropathy: A randomized placebocontrolled trial. Neurology 2007;68:515-21.

[2] Lasagna L. Clinical trials in the natural environment. In: Stiechele C, Abshagen W, Koch-Weser J, editors. Drugs between research and regulation. New York: Springer-Verlag; 1985. p. 45-49.

[3] Hashibe M, Morgenstern H, Cui Y, Tashkin DP, Zang ZF, Cozen W, Mack TM, Greenland S. Marijuana use and the risk of lung and upper aerodigestive tract cancers: results of a population- based case-control study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2006;15(10):1829-34.

カナビスの安全性は、直接の死亡原因にはならないことによくあらわれている。アメリカ食品医薬品局(FDA)の発表している 資料 では、カナビス使用が2次的な原因で死亡したとする人の数は掲載されているが、直接死亡原因になった数はゼロになっている。

これに対して、医療カナビスと同目的に使われるFDA認証薬では一次原因による死亡者も多い。下の表では、1997年1月1日から2005年6月30日までの、カナビスと17種類のFDA認証薬の死亡者数を比較しているが、一次死亡者数の合計は0対10008人、2次的死亡者数の合計は279対1679人となっている。


Deaths from Marijuana v. 17 FDA-Approved Drugs (Jan. 1, 1997 to June 30, 2005)
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カナビスの喫煙でHIVの神経障害疼痛が顕著に軽減  (2007.2.15)
カナビスは驚異の薬、喫煙での医療効果が証明される  (2007.3.3)

アブラム博士の臨床試験の模様は次のビデオでも見ることができる。
Waiting To Inhale - Part 5

ハーバル・カナビスの将来
マリノール 対 天然のカナビス、両派の意見と患者の選択
サティベックス Q&A