医療カナビスと国連単一条約の制約


医療カナビスの供給源としては、国が管理するものからブラック・マーケットに至までいろいろな形態があるが、どれもがマーケットに合わせて出現したものではなく、さまざまな法律によってカナビスが規制・禁止されていることから派生している。

従って、法的な面からすれば、いかに制限をかけるかという視点が優先され、どのようにしたらカナビスの医療効果を最大限に引き出せるかという点は全くと言ってよいほど考慮されていない。実際、医療カナビスに関する法律があっても、それは患者に最良の医療を提供することが目的になっているわけではないので、医療カナビスの供給面についてはほとんど何も配慮されていない。

また、1961年に制定された 国連の単一条約 の28条では、医療目的のすべてのカナビスは政府機関がコントロールすることを強制しているが、これはモルヒネのケースがモデルになっていて、カナビスの医療特性などは何も考慮されていない。

当時の国連のカナビスに関する認識は、「カナビスの影響下では衝動的な殺人が起こる危険が非常に高く、冷血で、明確な理由や動機もなく、事前に争いもなく、たとえ全く見知らぬ他人でも快楽だけで殺してしまう」(WHOの1955年の報告書) とういもので、カナビスにはモルヒネと違って多様な品種があってさまざまな医療効果があるという認識はなかった。

さすがに国連も、1995年のカナビス報告書で 「カナビスは、アルコールに見られるような暴力による被害を引き起こすことはほどんどない」 と認めざるを得なくなっているが、カナビスの医療効果については積極的に認めて病気に苦しむ患者を支援しようとするまでにはなっていない。亡霊のような単一条約28条によって、医療カナビスは現在も迷走を続けている。


現在の医療カナビスの供給ルート

現在の医療カナビスの供給ルートとしては次のような形態があるが、それぞれに長所と短所を抱えている。

法律で規制することを第1にすることではなく、カナビスの治療効果を最大限に引き出すという面から考えらると、おそらくカナビス専門のディスペンサリーが最も適していると思われるが、法的には黒に近いグレーで、アメリカでもカリフォルニア州を除けばほとんど容認されていない。

現在の国際法および国内法の枠の中で考えれば、最も可能性を秘めているのがカナビス・ソーシャル・クラブで、カナビスの個人の少量使用と栽培が非犯罪化されている地域であれば、閉鎖的な組合を組織して集団でカナビスを栽培することを主張できる。実際、スペインではカナビス組合の合法性が確定している例もある。

  プラス面 マイナス面
国が栽培と供給を管理
  • 単一条約に完全に合致
  • オランダ、カナダなどが採用
  • 品質と供給が安定している
  • 衛生的
  • 医師や医療機関が関与しやすい
  • 政府の補助がある
  • 薬局はカナビスの知識は乏しい
  • カナビス専門薬局はほとんどない
  • 製品の種類が限定されている
  • 対応病気や病状の制限が厳しい
  • 衛生状態や安定供給を過度優先
  • 患者のコミュニティが形成されない
  • 個人対応が乏しく、説明も一般的
  • 患者に人気がない
  • 官僚主導で運営が硬直的
  • 財政的理由で中断される可能性も
  • 患者自身が栽培
  • 医療カナビス法で保護されている
  • 単一条約では容認されている
  • 出費がすくなくて済む
  • 栽培そのものが治療になる
  • 肥料や農薬の確実な使用制限
  • 適合品種を見つけるのが難しい
  • 栽培に失敗することもある
  • 供給にムラがある
  • 不足による代替品の入手が困難
  • 強盗の目標になりやすい
  • 栽培場所の確保が難しい
  • ケアギバーが代わりに栽培
  • 医療カナビス法で保護されている
  • 単一条約ではグレー?
  • 営利目的不可
  • 完全ボランティア
  • 確実に指名できるとは限らない
  • 成果物の所有権が曖昧
  • 供給にムラがある
  • 欲しい品種が手に入らない
  • ディスペンサリー
  • 多様な品種や製品を提供
  • 医療情報が豊富
  • 研究開発に熱心
  • 新たな雇用が生まれる
  • 個人宅配システムを整備できる
  • 不特定多数に人を相手にできる
  • 法的根拠が乏しい
  • 単一条約では認められていない
  • 製品転用の疑惑が排除できない
  • カナビス・ソーシャル・クラブ

    (カナビス組合、コレクティブ)
  • 単一条約とは衝突しない
  • スペインでは合法性が確定している
  • 安全性が高い
  • 嗜好ユーザーと患者のコミュニティ
  • 貧乏な患者の助けになる
  • 患者合わせた品種が入手しやすい
  • 組織が閉鎖的
  • 組合員しか利用できない
  • 人数が多くなると運営が難しくなる
  • コーヒショップ + ディスペンサリー
  • オランダのメディポット・システム
  • 嗜好ユーザーと患者のコミュニティ
  • コリン・デビスの試み
  • 患者はカナビスを安く購入できる
  • 中途半端で経営的・法的に難しい
  • 医療用のカナビスとは限らない
  • ブラック・マーケット
  • 場合によっては入手が容易
  • 配達システムもある
  • 完全に違法
  • 供給が不安定
  • 犯罪に巻き込まれやすい
  • 自分に合った品種が選べない
  • 医師が関与したがらない


  • 人気のない国のプログラム

    単一条約28条では、医療目的でカナビスを流通させる場合には、すべてを政府機関がコントロールすることを強制している。

    このことは、政府機関がすべての生産物を物理的に所管して流通させることを要求していることになるが、少なくともカナビスに関しては経済的にも品質的にも適切な方法だとは言えない。この方法では、価格競争が起こらず、不必要な官僚主義を招き、民間による多様なイノベーションを阻むことにもなる。

    また、カナビスには各種のカナビノイドを始めとしてテレピノイドやフラボノイドなど医療効果を持つ多様な成分が含まれているが、その含有割合は品種によってさまざまに変化する。つまり、患者の病状によって最適な品種が異なるのに、政府機関による独占ではこうした多数の品種に対応することはとても望むことはできない。

    実際、オランダは、2004年に医療カナビスの販売を開始するのにあたって国連の条約の遵守を第1に掲げてすべての医療カナビスを政府がコントロールしようとしたが、患者には評判は悪く、コーヒーショップに勝てずに 事業は中止寸前まで追い込まれている。同時期に始まった カナダの場合はさらに悲惨 で、当初は120万人の利用を予想していたが、現在実際に政府の医療カナビスを利用している人は500人もいない。


    廃止が必要な28条

    一方、カリフォルニア州などで医療カナビスの主要な供給ルートになっているカナビス・ディスペンサリーは、市場による民間の業者の競争がベースになっている。その数は、カリフォルニア州だけでも300軒に達すると言われており、正式なライセンスを与えて規制管理する自治体も増えてきている。

    ディスペンサリーのもっとも大きな特徴は、患者と直接対話することで医療カナビスに関する情報を最も多く持っていることで、民間業者として生き残るために、患者個人の要望を積極的に取り入れて製品開発にも熱心に取り組んでいる。おそらく、カナビスの多様な医療効果を引き出して利用する形態としては最も可能性が高い。

    また、普通のビジネスと同様に、地代や家賃を払い、従業員を雇用し、失業や医療保険を提供し、州や自治体の規則に従って税金とライセンス料を支払って、地域も経済への貢献もしている。カリフォルニア州の医療カナビス市場の経済的価値全体は、年間で8億7000万ドルから20億ドル、税収の可能性も1億ドルを越えると見積られている。

    従って、カナビスの医療可能性を最大限に引き出すためには、単一条約28条の政府によるコントロール条項の廃止して、医療カナビスをどう扱うかについては、産業用ヘンプと同じようにそれぞれの国の決定に委ねるようにしなければならない。(解決策はカナビスの違法状態の解消、国連NGO北米フォラーム、NORMLの提言)


    カナビス・ソーシャル・クラブの可能性

    スペインでは、カナビスを共同で育てるカナビス・クラブが各地に結成されその合法性が問われていたが、2006年8月にバルセロナのあるカタロニア地方と北部のバスク地方の裁判の合法判決に対して、検察側が期限までに控訴せずに、カナビス・クラブの合法性 が確定している。

    判決に当たっては、カナビス・クラブが合法的に設立された市民組合で、会員以外は利用出来ない閉鎖的組織で、ドラッグの密売組織のような秘密性もなく、営利目的でもないことが理由として認められた。

    この問題 に関してはEU委員会でも取り上げられている。(Questions on Pannagh to European Commission 23 April 2007)

    スペインのように、カナビスの個人使用が非犯罪化され、消費者組合の結成も認められている国において、個人使用を目的に結成された消費者組合に対して警察が介入できるのは矛盾しているばかりか、EU法で認められている人権にも抵触するのではないか、という質問が委員会に提出された。

    これに対してEU委員会の回答はきわめて明確で、EUにはカナビスの消費と所持に関連する活動を規制する権限はなく、また、違法ドラッグの営利売買に関わる活動については、EU加盟国は国連条約やEU法に基づいて訴追する義務を負うものの、個人使用の場合はその義務は発生しないとしている。

    したがって、個人使用目的による栽培について規制する権限は各加盟国に委ねられており、スペインのカナビス・クラブには法的な問題はないことになる。

    カナビス・ソーシャル・クラブの試みは、国際条約の遵守義務を理由にカナビスの栽培や使用は認められないという単純な主張は必ずしも成り立たないことを示しているばかりではなく、国際法を変更しなくても、国内法の整備だけでも自分たちの医療カナビスを用意できる方法があることを示唆している。

    カナビス・ソーシャル・クラブは2008年6月現在、レベルはさまざまだが、スペインで12か所、ベルギーで1か所運営されている。その他、カリフォリニア州の 非営利のカナビス組合やコレクティブ なども、将来、カナビス・ソーシャル・クラブの一種として 正式に運営される可能性 がある。