カリフォルニア州法務長官

画期的な医療カナビス・ガイドライン提案


Source: Los Angeles Times
Pub date: 26 Aug 2008
California attorney general issues medical marijuana guidelines
Author: Eric Bailey, Los Angeles Times Staff Writer
http://www.latimes.com/news/local/la-me-medpot26-2008aug26,0,2300587.story


カリフォルニア州のジェリー・ブラウン法務長官は、医療カナビス患者とディスペンサリーを法的に守りながら、警察がどのようなケースに関与すべきかを明確にしたガイドラインの素案を明らかにした。

カリフォルニア州では1996年に医療カナビス215住民条例が成立して以来、さまざまな混乱が続いて来たが、今回の新しいガイドライン案は、カリフォルニア州の法執行当局の最高責任者がこの問題にはじめて本格的に取り組んだもので、医療カナビスに関して連邦と州に間にある軋轢を和らげることが目標の一つになっている。

11ページから成るブラウン法務長官のガイドラインでは、認定された医療カナビス患者が逮捕されないようにしながら、警察には、合法的な医療カナビス活動と違法栽培や中間業者とを区別するための明確な基準を提供している。

また長官は、連邦政府が州の医療カナビス法をめぐって強制捜査といくつもの訴訟を通じて戦争を仕掛けて来ることに対して、ガイドラインの策定にあたっては保護策にもなるようにも配慮したとしている。

長官は電話インタビューに答えて、「このガイドラインに誠実に従っている人の場合には、願わくば、連邦政府も鉾を収てくれるのではないかと考えています」 と話している。

ガイドラインでは、州の医療カナビス・ディスペンサリーの多くについてもその法的地位を認める内容になっているが、その条件として、利益を求めるビジネスではなく、組合やコレクティブのような非営利の組織であることが必要だとしている。

「ビジネスで運営されているディスペンサリーでは、明らかにカナビスが乱用されていますし、違法ドラッグ取引の大きな窓口にもなっていますが、非営利団体に限定することで、医療カナビスが犯罪の温床にならないようにできます。」

医療カナビス条例の制定以来、警察と医療カナビス活動家は何かにつけて反目を繰り返してきたが、今回のガイドラインについては意外にも双方が歓迎する意向を示している。

サンフランシスコでグルーン・クロスというコレクティブを運営するケビン・リード氏は、「少なくとも私に関しては、今回のガイドラインは二重丸です。儲けのために医療カナビス・ビジネスはダメだと明確に線引きしているのですから」 と言う。

医療カナビス運動グループとして有名なアメリカン・フォー・セーフアクセス(ASA)のクリス・ヘルメス氏も、「これは大進歩です。これによって、カリフォルニア州には、連邦政府の方針を妨害するつもりはないということが先方にも伝わると良いのですが」 と話している。

だが、連邦政府は、現在でも医療目的にカナビスについても厳しく禁ずる方針を維持している。特に、カナビスを使っている患者が20万人いるとされているカリフォリニア州は、ここ10年以上にわたって医療カナビス戦争の主戦場になってきた。

今回のガイドラインに関して、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)と連邦麻薬取締局(DEA)にコメントを求めたが返事はなかった。

一方警察は、ブラウン長官のガイドラインについて、しばしは影になって見えなくなっていたいた世界に光を当ててくれたと言って歓迎している。

カリフォルニア警察所長協会の会長でフレズノ警察の署長でもあるジェリー・ダイヤー氏は、「警察は、何年にもわたって暗闇で仕事をしてきたのです。医療カナビス患者さんやディスペンサリーを相手にする時には、動き回る標的を狙うようなものでしたが、今回のガイドラインで、何を標的にすべきかがはっきりしました」 と語っている。

ガイドラインでは、患者には州が認めた医療カナビス患者であることを示すIDカードを作成することを義務付け、警察には、医療の必要性の証明としてIDカードでの認証を受け入れるように要請している。

また患者に対しては、学校やリクレーション・センターの近く、あるいは、たとえ雇用主がOKでも職場で医療カナビスを使うことを禁じている。一方、警察に対しては、カナビスを押収した後でも、患者が合法であることを証明できれば返却しなければならないと定めている。

しばしば、実質的にカナビスの総合店舗として堂々と店を構えるディスペンサリーも多くなってきているが、かねてよりブラウン長官がこうした営利目的のディスペンサリーに対して厳しい見方をしていたことはよく知られている。

今回のガイドラインでは、ディスペンサリーは非営利のコレクティブか組合として運営しなければならないとされている。また、違法な栽培者や栽培業者からカナビスを仕入れることも禁じられている。カナビスは患者やケアギバーだけで栽培し、販売料金は、栽培の器具や電気代などの経費と運営費をカバーする金額だけに制限される。

非営利でなければならないことに対しては、「医薬品販売チェーン大手のウァルグリーンがチャリティで運営されていなど聞いたこともありません。非営利でなければならない理由は何なのでしょうか?」 とマリファナ・ポリシー・プロジェクトのブルース・ミリケン氏は疑問を呈しているが、ガイドラインでは、営利目的かどうかが警察が強制捜査できる線引きになっている。

また、ガイドラインでは、患者がディスペンサリーに登録する際には、オーナーにケアギバーになってもらうというような単純なやり方では、複数のディスペンサリーに登録していると疑われて違法と見なされることもあると注意している。

このことは、カナビス生産量の誤魔化しや、外部への違法販売、犯罪行為を疑わせるような多額の現金や武器などについて、検査当局が常に目を光らせていることを意味している。

フレズノ警察のダイヤー署長は、「犯罪カルテルが、利益のために多くの医療カナビス・ディスペンサリーをコントロールしていることは衆知のことです。州は、地元警察や連邦とも協力してカルテルをつぶすことが望まれています」 と話している。

今回のブラウン長官のガイドライン:
Attorney General Brown's Medical Marijuana Guidelines

今回のガイドラインで特に注目されるのは、医療カナビスの供給源として非営利のコレクティブや組合に限定していることで、これは閉鎖的・会員のみ・非営利組織で、栽培したカナビスは外部には販売せずに自分たちだけで使う カナビス・ソーシャル・クラブと全く同じ形態 になっている。

カナビス・ソーシャル・クラブ は、スペインでは合法性が確定しているが、現在に国際法や国内法を総合すると、栽培も含めてカナビスを合法的に利用しようとすれば、結局は同じような形態に行き着くことを示唆しているのかもしれない。

ただ、カリフォルニア州の場合は国ではないので、連邦法との関係においても非営利組織であることが考慮されている可能性がある。州法で認められた医療カナビスであっても連邦政府が取り締まることができることが確定したのは 2005年の連邦最高裁判決 で、それ以来カリフォルニア州のディスペンサリーに対する強制捜査が盛んに行われるようなった。

この裁判では、医療カナビス患者のエンジェル・ライヒらが訴えたもので、ケアギバーにカナビス栽培をしてもらってもそれは州の範囲内で行っていることなので、州をまたがる商取引について扱う連邦法の対象にはならないはずだと主張した。

しかし、判決では、カナビスは州にまたがって取引されることが多い危険なドラッグなので、商取引ではなくとも商取引に悪影響を与えるとして却下された。だが、興味深いことに、判決は6対3で、何よりも州の権利が優先すると考えている共和党でも超右派の3人が反対したことだった。

つまり、ディスペンサリーを会員のみの閉鎖的非営利の組織にして、カナビスの栽培と使用をその組織内に限定し、外部との取引を無くせば、確実に州内取引になって連邦法の対象にはならないと強く説得できることになる。それに同調する裁判官が2名増えれば連邦最高裁でも勝機が出てくる…

また、新しい大統領と議会になって、ディスペンサリーの強制捜査を止めるべきかどうかという議論になったときに、このガイドラインの閉鎖非営利という線引き提案が大きくクローズアップされる可能性もある。犯罪組織と明確に区別できれば、医療カナビスを認めてもよいと考える議員も出てくるに違いない。

現在カリフォルニア州には300軒以上のカナビス・ディスペンサリーがあると言われているが、実際に露骨に営利目的で運営されているディスペンサリーは全体の10%以下でしかないだろうとも言われているので、議論は意外と簡単にまとまるかもしれない。

しかし、連邦麻薬取締局などは、今回のガイドラインも素直に受け入れようとしない可能性もある。

それは、カナビス・ソーシャル・クラブの場合、会員が医療カナビス患者に限定されているわけではなく、普通の嗜好ユーザーも対象になっているからだ。もし今回のディスペンサリーを受け入れてしまうと、住民投票によってカナビスが非犯罪化された地域で、嗜好ユーザーがカナビス。クラブを作る動きが出てくることも考えられる。

いずれにしても、今回の動きは、カナビス・ソーシャル・クラブと対比させながら行方を見守る必要がある。