レスター・グリンスプーン博士

医療カナビスを語る


Source: Cannabis Health Journal
Pub date: July/August 2005, issue-3-5
Subj: A Candid Talk with Dr.Lester Grinspoon
Author: Cannabis Health
Web: http://www.cannabishealth.com/issue%203-5/Issue-3-5.pdf


レスター・グリンスプーン博士(1928年生)は、ハーバード大学医学部精神医学部の名誉教授で、1967年以来カナビスの研究を続けている。カナビスの2大記念碑といわれる著作、『マリファナ再考』(1971)と『マリファナ、禁断の薬』(1993、共著)の著者としても知られている。また、現在では、ユーザーの体験談を収集した、『医療マリファナ』 と 『マリファナ・ユーズ』 という2つのウエブサイトを運営している。

グリンスプーン博士は、世界で最も尊敬をあつめているカナビス擁護者で、現在でも、カナビス改革運動に活発に加わり、深い思いやりとともに真実に鋭く迫った記事も多数発表して、多大な貢献を続けている。このインタビューは、博士と関係の深いカナダの カナビス・ヘルス・ジャーナル によって行われたもので、医療カナビスとサティベックスを対比しながら、医療カナビスの優位点と必要性を繰り返し語っている。


●JM・マックパートランド博士やエサン・ルッソ博士は、「カナビスを素材にした医療用抽出液の中には、THCやCBDやエッセンシャル・オイルなどが含まれているので、成分単体の効果を合計したよりも治療効果が大きい医薬品ができる」 と述べていますが、その意味をどう解釈したらよいのでしょうか?

確かに、医療的に有用成分のすべてで構成されているハーブとしてのカナビスという意味では良い表現だと思いますよ。成分同士のシナジー効果もあるでしょうし、まだ効果の分かっていない成分もあるでしょうから。

二人が言っているのはそうした成分をすべて含んだ抽出液のことですが、そうした抽出液なら、カナビスそのものを喫煙したりバポライズしたりしたのと同じ医療的な効果が期待できます。ですが、彼らは、医療カナビスのような肺による吸入システムを採用するつもりはありませんから、医療カナビスとの競争という面では、彼らのスプレーによる抽出液の投与法は最初からハンデを抱えていると思います。


●GW製薬の最近のプレス・リリースでは、「サティベックスは液体カナビスではなく、成分構成が標準化された医薬製剤で、摂取法については、正しく管理された動物による臨床前研究および人間での臨床研究で繰り返し試験された適正な方法を採用しています。天然のカナビスは、それが液体であれ他の形状であれ、サティベックスとは全く違うものです」 と発表していますがどう思われますか?

私は38年以上もカナビスの研究をしていますが、カナビスには殆んど毒性がないことと、医薬品としての適応範囲に広さには心底驚かされます。その点からすれば、GW製薬はサティベックスを「液体カナビス」と言われることを嫌がるのではなく、むしろ褒められていると感じるべきだと思いますよ。

ですが、会社の人たちは、医療カナビス患者からの証言データを操って医薬製剤をつくり、オレンジジュースのほうがオレンジまるごとよりも安全で摂取しやすく健康的だと説得することに多大な努力を傾けています。当然、そのような余分なコストを費すことに価値があると考えているのです。

まったく馬鹿げた主張ですが、GW製薬にとっては、将来医療カナビス患者になりそうな人に対して、サティベックスがカナビスの抽出液や生のカナビスとは医療効果がまったく違うものだと思い込ませる必要があるのです。

私は、結局、無理にでもこのように違いを強調しない限りは、サティベックスの販売はたいして成功しないと見ています。確かに、禁止法がより厳格になれば、マリノールの場合と同じようにサティベックスの利益も増えるでしょうが、それは、医薬品としてカナビスよりも安全で効果が高いからではなく、単に違法でないという理由からです。

つまり、もし禁止法がなくなれば、サティベックスは医療カナビスと同じ土俵で競争しなければならなくなり、マリノールと同じ運命に翻弄されることになるでしょう。一部の人はそれを使い続け、あるいは好む人もいるかもしれませんが、医療的にカナビスを使う方法としては主流になることはないと思います。

カナビスが普通の医薬品のように普通に研究できるようになっていたのなら、もうずっと前に 「正しく管理された動物による臨床前研究および人間での臨床研究」 が行われていたはずです。GW製薬は、サティベックスが世界で初めて認可を受けたカナビス派生医薬品だと言っていますが、これも少々不正確です。

GW製薬は、マリノール(ナビロン)がカナビス派生医薬品だとは考えていないのでしょうか? 確かに文字面からすれば、サティベックスは化学合成ではなく天然のカナビスから作ったものですが、人工的に合成したものでもカナビス派生医薬品に何ら変わりはないのです。

現在の各国政府は医療カナビスを医薬品として認めようとはしていませんが、世界では過去何世紀にもわたって多くの患者が医薬品としてカナビスを利用してきたわけですし、今後もそれは変わらないと思います。


●カナビス抽出液の歴史はどのようなものなのでしょうか?

19世紀の中頃までには、カナビスの抽出液を製造する会社がいくつか出現しています。当時は、抽出液のことを、ジェネリック名でカナビス・インディーカと呼んでいましたが、よく使われていた一つにはチルデン社のテルデン・エクストラクトがあります。フィツ・ヒュー・ラドロウはこのブランドを使っています。

彼は、フランスのロマン派文学運動に心酔していたアメリカの作家ですが、フランスのロマン派の人たちはハシシ・クラブをつくって多量のハシシを吸い、湧き出してくるイマジネーションを語り合っていたのです。これが、突飛で、ときには誤解に満ちたカナビス体験として伝えられていったわけです。

実際、彼らの書いたものがカナビスをめぐる神話のようになって今でも語り継がれていると私は考えています。アメリカのカナビス禁止法をつくったハリー・アンスリンガーが直接文学を読んだかどうかは疑わしいですが、それでも、誇張された記述は彼の頭の中に浸透していたのです。チルデンのような抽出液は、ほとんどが不眠症や痛みの治療に使われていたのですが、1937年にマリファナ税法が施行される以前は近くの薬局で買うことができました。

1898年になると、バイエル社 (現在、GW製薬のサティベックスの販売で事業提携している) が、初めてアセチルサルチル酸を化学合成してアスピリンを販売し、医者たちも、軽微から中程度までの痛みにこの白い小さな錠剤を処方するようになりました、1900年には、バルビツール酸も初めて合成されています。それ以後、さまざまな薬が急速に開発され、睡眠薬としても処方されるようになったのです。

マリファナ税法そのものは医薬品としてのカナビスを禁止していたわけではありませんが、法律に規定された各種の事務手続きが面倒で医者たちも処方しなくなっていったのです。結果的には、カナビス・インディーカが処方されていた主な症状である不眠と痛みに新しく開発された薬が使われるようになって、カナビス医薬品の使用が減り、1941年には薬局方からも削除されてしまいました。


●最近、医者も再びカナビスに関心を示すようになってきたのは何故なのでしょうか?

19世紀の医者たちは、呼吸器からカナビスを摂取すれば著しい恩恵があることには全然気づくことはありませんでした。当時の医者は、自分の処方しているカナビス・インディーカの効力すら知らなかったわけですから、そもそも正確に投与量を設定することなどできなかったのです。

しかし、それを取り立てて気にすることもなかったのです。何故なら、患者が多量に使ったとしても、しばらく不快な状態が続く程度で深刻な問題にはならなかったからです。むしろ、気にしていたのは、接収量が少な過ぎる場合のことや、薬の効果が出てくるのに1時間以上もかかってしまうことだったのです。


Dr. Lester Grinspoon with his youngest grandchild Isabel


●舌下への投与では発現にどれくらいの時間がかかるのでしょうか?

喫煙のように迅速ではありませんが、経口投与ほど遅くはありません。舌下への投与の場合は、効果が発現するには最低でも20分かかります。GW製薬は、当初から、サティベックスがすべて舌の粘膜から吸収されると主張していますが、実際には、スプレーの味がひどくて、一部の人たちは非常に不快なために舌下に十分な時間留めておくことができず、食道に流れ込んでしまうのです。

私は、舌下サティベックスを使った場合のほとんどが、舌から吸収される部分と経口投与のように胃や腸で吸収される部分の割合が分からないのではないかと疑っています。とすれば、効果の発現時間は、舌下の20〜40分と経口の1〜2時間の2種類あることになります。

従って、もし、薬の投与量をより正確にコントロールできる方法が他にあれば、舌からの投与法は医薬品の摂取法としてはあまり適切ではないと言えます。呼吸器系を使った場合は、より正確に投与量コントロールできるだけではなく、医師は、必要な摂取量を患者自身の判断に委ねることができます。最終的に症状が緩和されたかどうかを知ることができるのは、医者や薬剤師ではなく、患者なのです。

アメリカでは、薬局で一般に売られている薬で年間1万6000人が死亡しています。例えば、非ステロイド系の坑炎症剤は特発性の胃出血などの副作用を引き起こすますし、イブプロフェンやアスピリンなどでも死亡事故が起こりますが、それでも、摂取量の決定は使う人にまかされているのです。カナビスの場合も、自分の適正量を自由に決める責任を患者に委ねることを禁止しなければならない理由など全くありません。


●サティベックスにも精神効果があるのでしょうか?

考えるまでもないことです。当然あります。THCを含んでいるわけですからハイになることもできるはずです。サティベックスを使う人の中には、その精神効果に興味を抱く人も出てくると思いますよ。

さらに、一部の患者は、初めてサティベックスを使ったときにたまたま精神効果を体験してしまうことも考えられます。何故なら、カナビスを吸ったときよりも摂取量を正確にコントロールできませんし、治療効果が得られる量が精神効果の現れる量より少ないにしても、その差はあまり大きくはなく、オーバーラップしている場合もあるからです。


●マリノールのウェブサイットを見ると、マリノールの場合は効果が序々に現れるので、ドラッグのような乱用を引き起こすことはないと書かれていますが、このことは、カナビスを迅速に発現させる方法では乱用につながると言っているのでしょうか?

そもそもドラッグの乱用がどういうものか表現すること自体が難しいのです。大半の人は、カナビスを使うことが必ずしも乱用を意味しないことを理解しています。

カナビスの乱用は、カナビスそのものが持っている性質ではなく、乱用者の持っている性格の問題なのです。誰でも何かを乱用することがあるわけですが、カナビスの場合は、その精神薬理学的特性が乱用の原因になることはまずありません。


●伝統的な喫煙によるカナビスの摂取は危険なのでしょうか?

煙を吸わなくてもよいので深刻な呼吸器系の損傷を引き起こさないというのが、サティベックスのセールス・ポイントの一つになっていますが、そもそも、カナビスの煙が害になるという証拠自体がほとんどないのです。

私は、1960年代にこの事実を書いたことがありますが、「確かに肺ガンになったという話はないが、この国では、カナビスが吸われるようになってからそんなに時間が経っていないから当然のことだ」 と言う人もいました。

でも、21世紀になった現在では、世界のいたる国で数十年もカナビスが吸い続けられてきているのです。それにもかかわらず、カナビスに喫煙だけで肺ガンや気腫になった人は見かけないのです。確かに、ヨーロッパでは、そのような例が見付かるかもしれませんが、ヨーロッパではカナビスはタバコを混ぜて吸うのが普通ですから、別に驚くほどのことではありません。

アンチ・スモーキングが叫ばれている昨今ですから、多くの人が、何を吸っても呼吸器に有害だと思うのはしかたがありません。でも、私の個人的な意見とすれば、カナビスの煙よりも、都会で汚染された空気の中で暮らすほうがリスクが高いのではないかと思います。

また、喫煙がどうしても不快な人ならバポライザーを利用して煙を出さずに同じ効果を得ることもできます。バポライザーは、カナビノイドが気化する温度の範囲でしか加熱しませんから、燃焼による煙は発生しません。それは、バポライザーで吸った後の残りかすが灰になっていないことからも分かります。


●ということは、肺による摂取法も医療の選択肢に入るということですね?

喫煙法は極めて正確な摂取量を自身でえ決めることができます。カナビスがすばらしい医薬品であるとの印象は、そのことも理由の一つです。実際、煙による喫煙であれバポライザーであれ肺による摂取法では、患者は摂取量を迅速にコントロールすることができますので、いったん症状の緩和に必要な量に達すれば、もうそれ以上吸わないで済みます。

私は、このコントロール性によって、正しい摂取量が得られるだけでなく、患者自身が最適な必要量を決めることができるという点がカナビスの大きな恩恵だと考えています。


●カナビスの燃焼温度は何度くらいなのでしょうか?

カナビスの発火温度は300℃以上だと言われていますが、性能の良いバポライザーはその温度より低く、カナビノイドが気化する180〜200℃近辺の温度を保持できるようになっています。市場には、バポライザーと称しながらもこの温度を保持できない粗悪なものもありますが。


●バポライザーや喫煙が良いとすれば、何故GW製薬はそれに否定的なのでしょうか?

GW製薬の人たちは、サティベックスの販売を成功させるために、カナビスの喫煙が非常に危険であると世間を思い込ませなければならないのです。そのためには、禁止論者の仲間に加わる必要があるのです。

つまり、タバコの喫煙は明らかに非常に危険である。現在、やっとタバコの消費量が減り始めてタバコ問題も山を越えたところなのに、何故、同じような健康の大災害を引き起こす別の喫煙ドラッグを認めなければならないのだ? といった論理が展開がされます。

ですが、この論理の問題点は、カナビスの喫煙がタバコの喫煙と同等に危険であるということを示した経験データが実際にはほとんどない点にあります。


●患者さんは、カナビスを使って、ハイを感じることなく医療効果を得ることができるのでしょうか?

私の臨床経験からすれば、カナビスを医薬品として使うさまざまな方法の中から一つだけしか認めなかったり、あるいは治療の完全な成功はいかなる精神効果も取り除くことだといった考えに固執すべきではないと思います。また、仮りに精神効果を完全に除去できたとしても、それが好ましいとも思えません。

例えば、多発性硬化症で苦しんでいる人で、痛みやけいれんの軽減にもっぱらカナビスを使っている人たちからは、しばしば、「カナビスは気持ちも楽にしてくれるんです」 という声を聞きます。これには2つの側面が考えられます。一つは、症状が緩和されて気持ちが改善したということですが、明らかにそれ以上の何かも示唆しています。私は、ある種の精神効果、たぶん坑うつ効果のようなものが働いているのだと思います。

最近では、患者が気持ち良くなるものほど良い医薬品であるという認識がますます重要になってきています。病気や障害に前向きに取り組んでいる患者のほうが改善も大きい傾向があるのです。もし仮りに、カナビスが症状を緩和する摂取量と精神効果の出てくる摂取量とに違いがあるのであれば、精神効果を避けたい人にとっては、お粗末な投与量調整しかできないサティベックスよりも、もっと繊細にコントロールできるカナビスのほうがより適していると言えます。

摂取量の繊細な調整という意味では、マリノールやサティベックスと同じように、カナビスをクッキーなどにして経口投与した場合もできません。でも、強直性脊椎炎のような深刻な関節炎などで慢性的な痛みを抱えている人なら、経口型の調剤は効果が持続するので好ましく思う場合もあります。

ですが、激しい吐き気や嘔吐で何も食べられない人や、クローン病の有痛性けいれん、神経傷害性の痛みのある場合は一刻も早い緩和が望まれますので、喫煙による方法が良いわけです。もし、片頭痛の発作やてんかんの痙攣などの前兆がわかる人ならば、喫煙法でその芽を摘んでしまうことができる場合もあります。


●患者さんは、どの調剤をどれだけ摂取すればよいか自分で決めるのがベストと言うことですか?

多くの状況において、ベストな判断を下せるのは患者自身なのです。実際、いったんカナビスの適切な使いかたを理解してしまえば、どの位の量を使えばよいのか患者が判断できるようにするのが、安全で臨床的にも好ましいのです。

最初は、慣れていなかったり、ハイが好きになれず少し不快に思うこともあるかもしれませんが、それが学習になって次回からはもっと慎重に対処するようになります。不快な経験が害になったり、取り返しのつかないような事態に発展することはまずありません。


●サティベックスの「ハイ」は何をもたらすでしょうか?

ハイを不快だと感じる人もいますが、非常にポジティブな体験としてとらえる人もいます。サティベックスが市場に出回るようになれば、カナビスの経験が全くない人も使い始めるわけですから、そうした人たちは、カナビノイドを治療剤として受け止めているはずです。

大半の症状で、治療に必要な摂取量と精神効果の出る量の間にはさほど大きな差があるとは思えませんが、その差が大きくない限りは、大半とは言えないまでも多くの患者が何らかのカナビスのハイを経験することになると思います。

一部には、「これは例の精神効果に違いない。でも、そんなに悪いものではないな。実際、この僅かな意識変容効果はとても興味深いぞ。気分が良くなるし、食欲も増すし。」 と考える人も出てくるでしょう。こうした効果に興味をそそられた人が、天然のカナビスを吸ってみようと思うようになることも考えられます。

また、サティベックスで始めた人でも、やがて自分特有の症状治療にはどの方法が最適なのか自分で判断しようとする人も出てくるはずです。もっと発現が早いものは? 摂取量のコントロールがもっと簡単な方法は? もっと費用のかからないものはないのか? そして、一部の人はサティベックスを止めて、カナビスの方を好むようになるでしょう。

反対に、今までカナビスを吸っていた人が、効果が長く持続するサティベックスのような経口調剤を試してみて、扱いも簡単で自分の症状に合うと考えるようになるかもしれません。さらに合法だという理由も後押しするかもしれません。


●GW製薬は、サティベックと医療カナビスが全く違うものだと何度も強調していますが、何が違うのでしょうか?

両者が同じ土俵で競争できれば良いのですが、最も重要な点は、サティベックスにあって医療カナビスにないこととして、サティベックスを使っても違法ではないということがあげられます。このことは、一部の人たちが、医療目的ではなく、ハイを求めてサティベックス使う理由にもなり得ます。

私が最も問題だと思うのは、GW製薬が、サティベックの医療価値と使い方のアプローチは、医療カナビスとは全く別の世界だと強調していることにあります。もし、両者が、ベストな商品が勝つという通常の資本の論理で真正面から競争していたなら、私ならGW製薬に投資する気になれません。

何故なら、サティベックスをまともに評価すれば、医薬品としては医療カナビスよりも効かないという点と、禁止法をてこに仕事を進めようとしている点で、ネガティブにならざるを得ないからです。

すでに明らかになっていますが、GW製薬はサティベックスのアメリカへの進出を進めるために、ブッシュ政権のホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)の前副長のアンドレア・バーサウエル博士をコンサルタントに雇っています。彼女は、どんなにコストがかかっても、たとえ年間75万人もの若者を逮捕してでも、カナビス喫煙を消滅させなければならないという展望を広めようとしている人物として知られています。

彼女や彼女を雇ったGW製薬の人たちは、サティベックスが、カナビスを喫煙したりバポライズしたりするよりも害が少なく、精神効果もないと言い続けるでしょうが、私は、少なくとも、私のような反対の見方を圧倒するような経験データを積み上げてから主張すべきではないかと思います。


●ということは、製薬会社が自社のカナビノイド製剤と天然のカナビスが競争することを望まないのは、市場シェアを失うことを恐れているからなのですか?

まさにその通りです。天然のカナビスのほうが効果的かどうか、あるいは安価で不快さも少ないかなど、どのような理由であれ、人々は自分に良い薬を見つけて使うようになるのです。結局は、いくら位までなら合法医薬品にお金を出しても見合うと考えるかという問題なのです。

一部の人は、仕事上の理由で医療カナビスを使うことには危機感を抱いています。マリノールを使っている多くの患者は、会社で尿テストを受けなければならなくなったときに、マリノールであれば処方箋のコピーを見せることができることを理由に上げています。

同じようなことは、多かれ少なかれサティベックスにも当てはまります。まさに、サティベックスは間接的な方法でカナビス禁止法を支えているわけで、合法システムを防御する巧妙な手段としても使われているのです。


●「カナビスはやがて21世紀のペニシリンと言われるようになろだろう」 という博士の預言がよく知られていますが、いつ頃どんな理由で言い始めたのでしょうか?

これは、1993年に出版した 『マリファナ、禁じられた医薬品』 (Marijuana: The Forbidden Medicine)の中で初めて書きました。ペニシリンがアレクサンダー・フレミングによって発見されたのは1928年のことです。空のペトリ皿を片付けるのを忘れたまま休暇旅行に出かけてしまったのです。帰ってくると、皿はブドウ球菌で覆われて、そして、そのちょうど中央のところにカビのコロニーがあるのを見つけました。

カビの周囲に阻止円があることから、カビがブドウ球菌の毒になる物質を分泌しているのではないかと考えたわけです。この物質が、後にペニシリンと呼ばれるようになったのです。彼は、この事実を1929年に論文に書いたのですが、1941年にハワード・フロリーとアーンスト・チェインの2人が見直すまで、誰も見向きもしなかったのです。

当時は、第2時大戦の最中で医薬品が求められていたことや、抗生物質への研究が熱狂していたという時代背景もあって、彼らは研究に駆り立てられていたのです。6人の患者に試してみると、感染症に著しい効果のあることが判明し、ほどなくして、万能的に広い範囲で絶大な効果がありながら驚くほど毒性がなく、しかも安価に製造できることも明らかになったのです。

すぐに、ペニシリンは、1940年代の 「驚異の薬」 として知られるようになりました。確かに、1929年に論文が発表されてから1941年までの10年あまりの間に、救われる可能性があった家族や身近な人たちのことを思い出してみれば、驚異としか言いようがなかったのです。

そしてカナビスですが、これもまた、極めて毒性がない。実際、アメリカ薬局方に掲載されている全体の中でも確実に最も無毒な部類に入ります。さらに、いったん禁止法という高い関税から解き放たれると、価格はもっとずっと安くなります。そして、ペニシリンと同様に、驚くほど多用途な万能薬であるところも同じです。

そのことは、私の中では疑問の余地がないことですが、世の中ではずっと認められず、多くの人に医学的な恩恵があることも否定され続けてきました。私が初めて確信を持ったのは、息子が急性のリンパ性白血病になって苦しんでいるときでした。

彼は、化学療法で吐き気や嘔吐に苦しみ、恐ろしいほどの切迫した不安の中にいましたが、カナビスで直ちに吐き気が消え、8時間も天国のようなすこやかな眠りに付くことができたのです。ストレッチャーから降りるときに、彼は、「ママ、いっしょにサンドイッチを買いにいって食べてもいい?」 と言ったほどだったのです。

私は、化学療法で吐き気や嘔吐に苦しむ多くの人たちや子供たちも救えるのではないかと考えるようになって身が震える思いでした。私たち家族にとっては、まさにペニシリンのようなものだったのです。カナビスは、われわれにとって驚異の薬だったのです。


Dr. Grinspoon and his grandchildren Sachary and Emma Sophia


●医療カナビスの選択の自由はどうして失われてしまったのでしょうか?

ご指摘の通り、カナビスに関する選択の自由という重大な視点を見失っているのです。私が知る限りにおいて、カナビスには、いかなる目的であっても大人の使用を禁止しなければならないほどのリスクはありません。

サティベックスの開発にあたっては、当初、明らかにイギリス内務省がある種の意向をGW製薬に示していました。それに応えて、GW製薬は、「カナビスに医療効果があることはよく知られていますが、わが社では、煙と精神活性作用というカナビス使用に伴う2つの大きな副作用のリスクを患者さんに負わせることのなく利用できる方法を採用しています」 と書いています。

会社の人たちがカナビスの医療効果をハイジャックするためには、製品には深刻な2大毒害がなく、天然のカナビスよりも安全であると主張して販売しなければならないわけです。この主張は、サティベックスの宣伝キャンペーンでは、一貫して大きな位置を占めて勢力的に行われています。

実際、サティベックスのプロモーションのためにホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)の前副長のアンドレア・バーサウエル博士を広報官に起用していますが、サティベックスが、害毒のある天然のカナビスとは全く違ったものであるという主張がなければ、彼女を雇うことなど考えられません。

彼女は、カナビスには医療的な有用性などなく、医療カナビスなどはイカサマだと繰り返し発言していますが、それなのに今ではサティベックスのプロモーションに携わっています。このことは、カナビスに対するアプローチがいかに分裂的なものかをよく表しています。

この形態の医薬品はいいが、別の形態はダメ。この形態では、患者は誰でも試すことができるが、別の形態では、医薬品として使えば罰せられるぞ、というわけです。


●アンドレア・バーサウエルは、それらふたつ形態が非常に似た効力を持ったものであることを知らないのだと思いますか?

これは難しい質問ですね。彼女は医者としての専門的な訓練も受けているわけですし、過去や現在のキャリアを考えれば、膨大な患者の証言データも含めて医療カナビスの文献を注意深く科学的に検証していないなどとは思えないのですが。

彼女には、この問題全体に対してより深く考察することを期待したいところですが、彼女がGW製薬の要請を受け入れて雇われたことはシニカルとしか言いようがありません。GW製薬が、オレンジ・ジュースはOKでオレンジはダメというスタンスに深入りすることは、誠実さの欠如を浮き彫りにする結果になっています。

私は、以前に、カナビスの製剤化について論じたことがありますが、その中でまず明確に述べたのは、製薬会社がカナビスから医薬品を創り出そうとするのは非常にすばらしいということです。

そうした可能性としては、その時も例として書いたのですが、「マンチー効果」に対する逆アゴニストの開発があります。マンチー効果とはカナビスの食欲刺激作用を表す俗語ですが、これに拮抗する逆アゴニストを開発すれば、ここ何年も実現しなかった毒性のないウエイト・コントロール剤が開発される可能性があります。

一方で、カナビスの製剤化については、政府が医療カナビス問題を扱う道具として使われる裏面もあることを指摘しました。つまり、医療目的で利用できるようにしながら、同時に他の用途での使用を禁止しておく方便にされるということです。

1985年に、ユニメッド(現ソルベー製薬)という小さな製薬会社が、天然のカナビスやサティベックスの成分であるTHCを化学合成してマリノール(ドロナビノール)として知られる医薬品を開発しましたが、政府はこれで医療カナビス問題が解決したと考えていました。しかし、現在から見ればそれは誤りだったことは明らかです。


●マリノールの開発を後押したのは誰なのでしょうか?

製薬会社にとって、新薬を開発することは大変な費用が必要で膨大なコストがかかります。しかし、マリノールの場合では、アメリカ政府が開発を支援し、その見返りに、喫煙防止のためにゴマ油でカプセル化することになったのです。

そして、彼らは、このTHC(マリノール)が、医療価値のないとされる規制薬物の第1類に分類されている天然のカナビスのTHCと一卵性双生児の関係にありながらも、医薬処方が可能な第2類に組み込んで、数年後にはさらに規制の緩い第3類にまで格下げしたのです。

しかし、名前を変えてもTHCであることには何ら変わりはありませんが、政府は、「もはや、薬局で買えるマリノールと呼ばれるカナビス医療品があるので、医療カナビスなど必要ではありません」 という詭弁を通そうとしているわけです。

現在では、これがカナビスの医療使用を認めない口実になっています。連邦政府はその目的を達成するために、カリフォルニアではコンパッション・クラブやディスペンサリーを躍起になって閉鎖しようとしているのです。カナビスを製剤化したサティベックスも、いずれ、もう一つ別の理由として使われることになるでしょう。

そもそも、サティベックスがその目的のために企画されたのだと言うシニカルな人もいます。アメリカ政府も喜んで受け入れるでしょう。新しい器具を使った別の調合薬ができたことで、「新しいカナビス医薬品が登場しました。これで、患者さんの要求に応える医薬品が増えましたから、カナビスを吸いたいという患者さんに特別のライセンスを用意する必要はなくなりました」 と言い出すに違いありません。

同じ理由から、政府は、製薬会社がカナビスに対抗するような医薬品の開発を支援する立場を取ることが予想できます。製薬会社側でも、天然のカナビスの医療および一般使用を抑え込もうとするアメリカ政府の目標に同調することで、利益が確保されるという仕掛けなのです。


●話は変わりますが、禁止法は、カナビス・ユーザーにどのような心理的な影響を与えているのでしょうか? さらに、カナビスの擁護者はいまだにポットヘッドというステレオタイプで一括りにされてしまいますが、どうしてだと思われますか?

かってのリーファー・マッドネス時代はマリファナ・スモーカーが淫乱で人殺しであるというのがマスコミのステレオタイプでしたが、現在では、カナビスを使っている大半の人にはそのようなタイプなどには全然当てはまらないことは誰でも知っていますから、最近のマスコミは、ステレオタイプをチーチ&チョンに変えたことも背景にあると思います。

しかし、カナビス・ユーザーを一つのステレオタイプに押し込めることはできません。私は、カナビス・ユーザーの姿を知るために、マリファナ・ユーザー・コム(www.marijuana- uses.com)というウエブサイトを運営して、ユーザー自身による小論や感想文を収集し続けています。その中にはアレン・ギンズバーグやカール・セーガンといったよく知られた人もいますが、大半は普通の人で、仮名の人もいます。

中でも特に私が注目してきたのは、カナビスを医療目的や嗜好目的ではなく別の目的で使っている人たちのエッセーなのですが、それらを読むと、カナビスがその人の人生にとって極めて重要な役割を果していることが分かります。

実際、このウエブサイトを見れば、思いもつかない目的でカナビスを使ってそれぞれの人生の仕事を成し遂げている堅実な市民がいることには、誰でも驚かされるに違いありません。今日も、このウエブサイトを見た読者からEメールをもらったのですが、次のように書かれていました。

拝啓 グリンスプーン博士

サイトを拝見して、カナビスのポジティブな影響について本気で語る必要があると感じました。そもそも、社会ではカナビスにポジティブな影響などがあるとは認知すらされていないのではないか? その意味でこのサイトはすばらしいです。

この夏に、自分は博士号を取得しましたが、その大半は、クリエイティブなツールで医薬品としてのカナビスなしには達成できなかったと考えています。そのことを、このサイトで報告したいと思います。

若い科学者である自分は、カール・セーガン博士の仕事からインスピレーションを受け、多くのことを学びました。また、セーガン博士やグリンスプーン博士を始めとする多くの方々が危険を承知でカナビスについて書いてくれたおかげで、私たちの世代にも失われることなく伝えられている知識にも大いに励まされています。

私は、現在、博士過程終了後の課題として、カナビスの影響下で実際の作業を遂行している時の独特の認知プロセスについて研究しようと思っています。その一部は非常にポジティブな結論になると予想しています。

敬具

私は、このようなメールを世界中から受け取っていますが、このウエブサイトが多くの人々の注意を引きつけていることは明らかです。

カナビスの使用を公然とカミング・アウトした勇気ある最初の著名人は、私と同年輩の、ボストン大学の精神科医リチヤード・ピラード博士で、数十年前のことになります。それからカミング・アウト運動が始まったのです。この国では、われわれのような者は、長い間、嫌悪すべき人間として扱われてきましたが、人々がカミング・アウトを始めるようになって状況が大きく前進しました。

ピラード博士やバーニー・フランク博士など多くの人たちは、人々の理解を助け、カナビス体験が恐れたり軽蔑されたりするような害毒のある精神病ではないことを教えました。同様に、カミング・アウトしている人たちが成功を収めた人であることにも、多くの人たちが気がつくことになったと思います。

このウエブサイトでは、人々に特別な思考や概念などを押しつけようとしているわけではなく、自分の話を披露すること自体が大切なのです。実際、こうしてあなたに自分のことをお話しできることそのものが、私の人生にとって非常に有益なのです。


●何故アメリカ政府は躍起になって医療カナビスの使用を抑え込もうとするのでしょうか?

理由はどうあれ、結局は、政府が同意できない目的のためにカナビスが使われることを恐れているからだと思います。医療カナビスを認めれば、それを使って回復している患者を見た人が、医療目的以外で使ってみようとする誘惑に駆られても不思議ではありません。

例えば、自分の年老た母が化学療法に伴う副作用の緩和に医療カナビスを使っているのを見たり、けいれんの友人が従来の医療品よりも医療カナビスでより回復するのを見たりすれば、それまでカナビスに抱いていたイメージが一変するでしょう。

「待てよ。一体これまで何を空騒ぎしていたんだ? 医療カナビスは非常にメリットがあるし、完全にまともな治療法じゃないか。それじゃ、他の目的の場合はどうなんだ? 患者の場合は害があるようには全然見えなかったし、やはり害は何も起こらないに違いない。」

実際に、私も、このように考え方が変わった人にお会いしたことがあります。

私がハーバード大学医学部につとめていたころのことですが、ある日、同僚の一人が、私の書いた『マリファナ、禁断の薬』(Marijuana: The Forbidden Medicine)に目を通した後で電話をかけてきて、自分の義理の母親が膵臓ガンになって、吐き気に非常に悩まされているという相談を受けました。

「本の中に書いてあった医薬品のマリノールは、67才になる彼女に安全な助けになるだろうか?」 と聞かれて、私は、極めて安全で多分役に立つだろう、だが、この経口投与よりももっと見込みが高いベターな方法もある、と答えて、カナビスを吸う方法を彼女に教えてくれる人を見つけるようにすすめた。

彼は、「母がカナビスを吸うことなど想像もできない」 と言っていました。そこで、私は、マリノールを使う際の要点を説明し、もし何か問題があったら直接私に電話をくれるように番号を教えておきました。

2週間後、この67才の老夫人から電話があって、最初は効いていたマリノールが最近ではほとんど効かなくなって、服用量を増やしてもやはりだんだん効かなくなる、「どうしたら良いのでしょうか?」 と聞かれました。

私は、カナビスの使い方を教えてくれるような人を知りませんかと彼女に尋ねたところ、「ええ、います。大学に通っている孫娘に、以前からカナビスを吸ってみればと熱心にすすめられていたんです」 と教えてくれました。

「それは好都合です。まず最初にジョイントの巻き方を教わって、最初の何回かは娘さんに付き添ってもらって吸ってみてください。一服したら少なくとも2、3分はそのまま待って、何も感じないようでしたらさらに一服してください。繰り返すうちに、何か違って感じられるようになるはずです。不快で不安な感じになるかもしれなせんし、症状が緩和していることに気付くかもしれません。いずれにしても、そこで吸うのは中断してください。」

しばらくしてから、同僚のオフィスでミィーテングがあり、彼は、終わってから少し時間をもらえないかと頼んできました。現在、彼の義理の母はボストン郊外の彼の家で一緒に暮らしていると言ってから、「私たち家族は、あなたに何と感謝したらよいのかわかりません」 とまで言ってくれました。

さらに続けて、彼の3人の息子さん(全員20代で非常に立派な仕事をしている)がおばあさんを取り囲んで、一緒にジョイントを巻いて吸って最高の時間を過ごしている。今では、吐き気は完全にコントロールできるようになって、再びものが食べられるようになったと報告してくれました。「全く信じがたいことです。」

数ヶ月後に彼女は亡くなりましたが、その年のクリスマス・パーティに招待されて、私たち夫婦が着くと、彼の奥さんがドアで出迎えてくれて、全く同じ感謝の言葉を受けました。「博士のご恩には表現する言葉が見つかりません。」

彼女は、母の最後の数ヶ月がどのように大きく変化したかを繰り返して話してくれました。吐き気から開放されてから目立って元気を回復し、とても充実した最後を生きることができたし、もちろん、家族にとっても、愛する人が不快な苦しみに悶える姿を看ないで済んだことには大変救われた、と語っていました。

また、自分の息子さんたちのことで、「大学生だった頃ですが、カナビスを吸っていることを知って、私はバンジーに縛りつけられて、踏板を外されたような気がしたのですが・・・」 と少し照れくさそうに過去の自分を振り返りながら、「でも、政府はいったい何を恐れているのでしょうかね?」 と首を傾げていました。

同じような経験を持つ人がますます増えてきていますし、これからも確実に増えるでしょう。そして、長年自分が騙されていたことに気付くのです。やがて、それが圧力に成長して、一気に禁止法までもひっくりかえすことにはならないかもしれませんが、医療カナビスを使っている人たちの逮捕をやめさせることになると思います。人々は、カナビスが実際には、政府によって長年喧伝され続けてきたような悪魔ではないことを医療カナビスを通じて学んでいくのです。



1971年に発行された記念碑的な『マリファナ再考』。この本の裏表紙に書かれているトピックを見ると、現在でも反対派は、答の明らかな同じ問題を繰り返し使っていることがわかる。(画像クリックで拡大)

下は1969年にサイエンティフィック・アメリカン誌に掲載されたグリンスプーン博士の最初の一般向け論文。日本でも1972年8月号の「サイエンス」に翻訳が掲載された。美しいカナビスの雌雄イラストは、野性のカナビスを探す若者の図鑑の役割も果たした。(画像クリックで拡大)