医療カナビスと出産
妊婦にとってのメリットとリスク
出産におけるカナビス利用の歴史
The Codex Vindobonensis (Women and Cannabis Haworth Herbal Press 2002)
カナビスにはつわりを緩和する働きがある
上の表では、主に、出産期の医薬品として医師が処方したカナビスの効能がリストされているが、カナビスは妊娠期間の日常生活での安全な民間薬としても利用されてきた。妊娠中には誰でも、むかつき、はき気、不眠、食欲不振、イライラ、無気力などを経験する。深刻な場合は医者から薬剤を処方してもらうことになるが、たいていの処方薬には危険が伴う。
カナビスは、特に、処方薬ではあまり対処できない食欲不振に有効であることが知られている。そのことだけでも体調不良のリスク軽減につながる。当然、気分転換や睡眠の誘導にも役立つ。気分転換に アルコール や タバコ を利用する人もいるがリスクはカナビスよりも大きい。
臨床治療ジャーナル誌(Complementary Therapies in Clinical Practice)の2006年1月号に掲載された調査データよると、つわりに悩む女性たちはカナビスによって症状を和らげていると語っている。
調査は匿名で行われたが、医療カナビスを利用している84人の女性のうち79人が妊娠を経験し、そのうち36人(46%)は、つわりに伴う吐き気や嘔吐、食欲不審などの症状に対処するためにカナビスを使ったと述べている。
「妊娠に限ってみれは、つわりの吐き気や嘔吐の治療に使っていた妊婦の92%は、カナビスが「極めて有効」あるいは「有効」だったと答えている。われわれの研究は、激しい吐き気や嘔吐に悩む妊婦に対するカナビス治療についてさらに大規模な調査を実施する価値のあることを示唆している」 と研究者たちは結論を書いている。
さらに、カナビスは妊娠・出産という自然の神秘体験をよりいっそう深め、精神の成長を促すというメリットもある。妊娠中に胎児とゆっくとコミニュケーションしたり、授乳でもスキンシップに集中して絆を深めることができる。
この分野では最も署名な研究者の一人であるメラニー・ドレハー博士の25年にもおよぶジャマイカのフィールド研究によれば、カナビスを使った妊婦と使っていない妊婦を長期間比較した結果、カナビスによる子供への害は認められず、反対に、母子の健康を増進し、母親は独立心が育ち、子供は適応力が高く育っていると報告している。
博士によれば、カナビスを利用している家庭に対して強いネガティブな見方をしている学校の先生もいたが、彼らがカナビス・ユーザーの家庭の子供だと指適したケースはたいていが当たっていなかった、と述べている。先生たちは、貧しく粗暴で、しばしば欠席するような子供がカナビス家庭で育っているとしていたが、実際には、多くの場合、裕福な家庭はカナビスのヘビー・ユーザーで、その子供たちは、カナビスを購入する余裕もない貧しい家庭の子供たちよりも成績がよかった。
リスク伝説の実態 -- 白血病のリスクは10倍?
反カナビス・キャンペーンでは、妊娠中にカナビスを吸うと子供に出産時低体重や奇形や発育不良など取り返しのつかない害があると盛んに叫ばれている。だが、カナビスが出産に悪影響を及ぼすという確たる証拠は見付かっていない。
悪影響を主張している研究もたくさんあるが、アルコールやタバコなどカナビス以外の要因が考慮されていなかったり、対照群の設定がいいかげんで、統計的に全く意味のない場合が多く、別の研究では逆の結果が出ていたりする。
よく引き合いに出される例として、カナビスを吸っている妊婦から生まれた子供は10倍も白血病になりやすい、という主張がある。そのもとになった研究によると、白血病の子供を生んだ母親に聞き取り調査をして、5%が妊娠前か妊娠期間中にカナビスを吸っていたが、正常分娩をした対照群ではカナビス使用者は0.5%だった。このことから、カナビス使用者の白血病出産リスクは10倍と結論している。
だが、対照群の調査は、実際には電話で行われていたもので、電話でいきなり、ドラッグを使っていましたかと質問されてもほとんどの人が本当のことを答えることは期待できない。さらに、当時の社会全体では過去1年以内にカナビス吸った経験者は少なくとも10%以上だったことを考慮すると、0.5%という対照群の数字は全然あてにならない。
実際、2006年に発表された過去最大規模の小児性急性骨髄白血病(AML)の疫学研究では、この主張を覆すものとなっている。ノースカロライナ大学の研究者たちは、「全体的に見て,親のカナビス使用と小児性白血病の間にはそれを肯定するような関係は見られない」 として 「妊娠前あるいは妊娠中に母親がカナビスを使っていると小児性AMLになりやすいという以前の報告は、この研究では確認できなかった。親のカナビス使用が小児性白血病の強いリスク・ファクターになるということは考えられない」 と結論を下している。
リスクが10倍という1989年の研究が発表された当初は、反カナビス・キャンペーンの根拠として大いにもてはやされてアメリカ政府も盛んに宣伝していたが、あまりにもずさんな研究だったためにやがて使われなくなった。しかし、真相を知らず、今だにこの嘘を繰り返しているUS (uninformed stereotype 情報をコントロールされたステレオタイプ) な人たちも少なくない。
出産とエンドカナビノイド・システム
カナビスを使った調合薬は、てんかん、偏頭痛、出産、月経痛などの治療に何千年にもわたって使われてきたが、その作用のメカニズムの解明については、最近始まったばかりに過ぎない。
カナビスの活性成分であるTHCが特定されたのは1967年で、人間の脳内にTHCと結合するカナビノイド・レセプターが発見されたのは1980年代後半、さらに、1992年には体内で自然に生成される内因性のカナビノイド(エンドカナビノイド)のアナンダミドが初めて見付かった。THCとアナンダミドは分子の化学構造が全く異なるが、カナビノイド・レセプターに結合することで同じような作用をすることが知られている。(カナビノイドの研究の歴史)
エンドカナビノイドはレセプターと結合した後、分解されて細胞内に取り込まれる。このシステムはエンドカナビノイド・システムと呼ばれ、このシステムが生物体内に形成され始めたのは多細胞器官が初めて出現する6億年前にまで遡ると言われている。動物の進化が進むにしたがって、カナビノイド・システムがその生命の維持に果たす役割はますます大きくなっていった。
現在では、このシステムが、あらゆる動物内の器官とその連係を司る恒常性(ホメオスタシス)の維持に深く関わっていることが知られるようになった。細胞内においては、エンドカナビノイドが、グルコース代謝のような基本的な代謝システムをコントロールし、免疫システムと神経システムにおいては細胞間の通信を制御する役割を担っている。
エンドカナビノイド・システムは、心臓血管、消化器、内分泌、排泄器官、免疫、筋骨格、神経、生殖器官、呼吸器官、などの細胞組織・器官・身体が協調して機能するように全体を調整している。したがって、エンドカナビノイド・システムが適正に機能することは、健康な妊娠と子供の双方にとって基本的な要件になっている。
胎児への影響
エンドカナビノイドやカナビスの胎児への悪影響については、量が少な過ぎる場合と多過ぎる場合が問題となっている。
- 少な過ぎる場合は、例えばアナンダミドの生成レベルが低いと、幼児の発達に異常が現れて適正に成長が進まず体重も増えないような 「発育不全症候群」 を起こすと言われている。マウスを使った実験では、幼児にカナビノイド・ブロッカーを与えるとレセプターが機能しなくなり、母親の母乳を飲まなくなる ことが報告されている。
- 多過ぎる場合は、胎児の脳内の神経細胞の軸索の成長と誘導を狂わせて 、脳神経細胞同士の正常なネットワーク形成が阻害され、学習、記憶、注意力など中枢神経系の障害が起こるとされている。
- また、胎児の着床期には一時的に周辺のアナンダミドが減少する と言われており、妊娠したばかりのマウスにアナンダミドやTHCを多く与えると、胎児の着床予定が遅れて脆弱な子供が生まれたり流産するという 報告 もある。
しかし、いずれにしてもマウスなどの動物実験によるもので、そのまま人間に当てはまるかどうかという問題がある。少な過ぎる場合は、エンドカナビノイド・システムそのものが機能しなくなるので重大な結果を招くことは間違いないだろうが、多過ぎる場合は、実験そのものが初期的なこともあり、必ずしも結果についてコンセンサスが形成されているとまでは言い難い。
実際、妊婦がカナビスを吸うと胎児の脳神経細胞の軸索を狂わすという上の主張のもとになっている 原論文 を見ると、直接的にそれを示す実験証拠が見出されたというわけではなく、これまでのいろいろな現象を総合的に考えると、エンドカナビノイドが軸索誘導の合図として機能していることを示していると指摘しているだけのことに過ぎない。(同じ指摘 はすでに4年前の2003年に行われている。)
この論文で特徴的なのは、スエーデンの反カナビス研究所として名高いカロリンスカ研究所が中心になって世界中の研究者17人もが名を連ねていることで、普通の論文とは様子が全く違っている。結局、論文はカナビスの悪害を述べたてる脇役になっているだけで、研究を主導した研究者がその権威を背景に、記者会見で妊婦のカナビス使用の危険性に言及する目的で作成したのではないかとすら思われる。いずれにしても、現在のところ十分な証拠はなく可能性の指摘にとどまっている。
脳細胞のネットワーク形成については、インターネットのネットワークのように動的に変化するとも考えられ、必ずも最初から最適な形が決まっているわけではなく、THCが軸索を狂わすというイメージは必ずしも適切ではないようにも思われる。また、胎児ではエンドカナビノイド・システムが未発達でカナビノイドの影響が少ないので、胎児に直接THCを多量注射するといった極端な方法でない限り、影響が出てこない可能性のほうが高いのではないか。
もし本当に悪影響が顕著なのであれば、カナビスの使用が増えた現在のほうが昔しよりも脳に問題のある子供が多く生まれることになるが、そのような疫学報告はない。
また、2003年に発表された イタリアの実験 では、妊娠中のラットに長期にわたってカナビノイドを与えると胎児の発達中の脳に影響して、生後の学習能力の低下や多動性障害が見られたとしている。この研究については、カナビス反対派が妊婦への悪影響が証明されたとして頻繁に引用しているが、 原論文 を読むと、この実験結果がそのまま人間の妊婦に当てはまるかどうかははなはだ疑わしい。
この実験で使われたのはTHCではなく、医薬品としては未認可の合成WIN55,212-2で、しかも1日1回体重1kg当たり0.5mgを注射している(人間の標準経口服用量は1〜3mg)。この量は母子の体重や身長などの生殖パラメーターに明確な影響が出る量の半分に設定したとしているが、このように多量な臨界的な条件設定は単に臨床前試験の一環として行われたと思われ、そもそも人間の妊婦のカナビス使用をシュミレートしようとしたものかどうかは非常に疑わしい。
また、WIN55,212-2は THCよりもレセプターとの親和性が強く少量で効果が発現することが知られているほか、脳の神経栄養素のレベルを著しく低下させる作用 や反復刺激で効果が増強されることも示されている。THCとは長期的な影響が相当違うことも考えられるが、何故かこの研究ではTHCで同じ実験を行っていない。また、2006年に発表された 別の実験 では、びっくりする動作もなく、外部刺激に対する感覚運動ゲーティングにも影響しないといった結論も出ており、認知機能に一貫した悪影響が示されているわけでもない。
一方、医薬品としてすでに認証されている合成THC100%のマリノールの場合、製造元の 患者向け説明書 には「妊娠している人は、医師の相談なしには使わないこと」 という注意しか書かれていない。また、医師用の説明書 には、ラットとマウスの実験で、通常使用量の20〜30倍(人間使用量相当)では死産の率は増えるものの奇形発生は見られず、通常使用量程度であれば生存率低下や早産もまず見られないと書いている。つまり、妊婦はTHCを通常以上に避けなければならないとする説明はない。
いずれにしても最も重要なことは、天然にはない合成カナビノイドを多量に注射するような動物実験 (カナビノイドは非常に致死性が低いので、通常使用量の何十〜何百倍だったりする。普通の医薬品なら死んでいる) ではなく、実際の人間の出産後の疫学調査では、妊婦のカナビス使用による出生後の重大な影響は全くといってよいほど見出されていないという事実だ。あっても 出生体重が90グラム少ない といった程度で死産が増えるなどという報告はなく、少なくともアルコールのように外見からでも分かるような重度の症例は報告されていない。
例えば、1999年い発表された全米科学アカデミー医学研究所の報告(IOM報告)には次のように書かかれている。
- いくつかの研究によれば、妊娠時にカナビスを常用していた女性から生まれた乳児の体重が少ない傾向が示されている。以前からタバコを常用している妊婦についても同じ傾向が認められているが、それらの研究では、タバコとカナビスの程度の違いについては報告されていない。
- 妊娠期間のカナビス使用で異常児が生まれる率には統計的に明確な差は見出されていない。
- ジャマイカで行われた調査によると、妊婦のカナビス摂取は喫煙ではなく、もっぱらお茶にして飲んでいるという違いはあるものの、妊娠期にカナビスを摂取していた母親とそうでない母親から生まれた乳児では、生後3日目でも1ヶ月目でも何ら違いは見つかっていない。
一方、妊婦の飲酒による胎児への影響は、胎児性アルコール症候群(FAS)として知られているが、生まれた子供の目が小さいことや唇が薄いなど顔つき、発育の遅れ、中枢神経の障害などの典型的な特徴を持っている。発生率についても、1000人中0.5から3人で、神経発達障害や内臓の先天異常なども含めた胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)は10人に達すると言われている。(胎児性アルコール症候群の無知と悲惨な現実)
確かに、妊婦のカナビス使用についてはまだ不明な点が多いとはいえ、取り立てて外見でも分かるようなカナビス特有の疾患はない。一部の 報告 では、身震いやびっくりする振舞、睡眠パターンの乱れ、ストレス、多動性、非行・衝動的な行動、物事の遂行能力の欠如といった症状が見られるとしているが、指摘されている症状については、アルコールとの併用によるFASDの影響が出ている可能性も考えられる。
実際、新生児ラットの実験 で、THC単独を投与した場合には脳神経の神経変性は起こらなかったが、アルコールを同時投与すると、それがわずかな量であっても細胞死を引き起こすことが示されている。
だが、ドレハー博士の研究では、ジャマイカの地域的な特徴でアルコールやタバコはほとんど使われていないために先進国での調査のように交錯因子としての影響はなく、データの純度が高くなっているが、カナビスを使っている妊婦とそうでない妊婦の間には全くと言えるほど違いはなかったと報告している。また、多量のカナビスにさらされた胎児でも、誕生3年後にはネガティブな神経行動学的な影響はほとんど見られないとする検証研究 もある。
発達への影響
母親がカナビスを使っていると母乳のなかにはTHCが蓄積され、それを飲んだ乳児からもTHCは検出されている。その量はヘビー・ユーザーで、一日の母乳あたり0.1〜0.07mgになると見積もられている。
THC自体を悪いものと決めつけている反カナビス・キャンペーンは、わずかでも母乳のなかにTHCがあること自体を問題にしているが、実際の研究では母乳のTHCによる発達障害などはほとんど認められていない。
モントリオール大学のピーター・フライド博士は、長年にわたり、妊娠中にカナビスだけを使っていた母親のグループとドラッグは何も使わなかった母親のグループの子供を調査している。最初の5年間は何の違いも見出せなかったが、やがて、カナビス・グループの子供たちの知能が少し高いことを見出している。、アルファベットを逆に書くといった実技面ではやや劣ていたが、それでもアルコールやタバコを使っていた母親のグループの低さに比べればわずかなものだった。
また、ヘブライ大学のエスター・フライド博士のマウスを使った研究では、カナビスが食欲と成育に影響していることが示されている。体内で生成されるエンドカナビノイドのアナンダミドを阻害する薬物を与えたマウスでは発育障害が起こり、死亡したり成育が遅くなったが、THCを添加した阻害薬物を与えたマウスは普通に育った。このことは、カナビス・ユーザーの母乳で育てると、健康で食欲旺盛な子供が育つ可能性を示唆している。
無視される誠実な研究
最近、ホイジンクとムルダーという研究者が過去の妊婦とカナビスに関する論文を検証し、ピーター・フライド博士らが、カナビスを使っていた母親の子供(6才)は身震いやびっくりする振舞、睡眠パターンの乱れ、ストレスの兆候、多動性がみられ、非行・衝動的な行動が多く、物事の遂行能力が欠けることを見出していると発表し、新聞などの記事に引用されるようになっている。(Jamaica: Is it really not ok to smoke ganja during pregnancy? 2006.7.3)
しかし、ドレハー博士はこれに疑問を投げかけ、そもそもフライド博士が公表している研究論文にはそのような記述がどこにもなく、同じ研究をしている人が見たこともない資料をもとにした上の検証論文には価値はないと語っている。
実際、ドレハー博士によると、フライド博士は自身の論文で、「3歳を越えると影響は非常に小さく、それ以降はIQへの影響も見られない。カナビスの使用による流産やアプガースコア、新生児性合併症、奇形、との関連もない見られない。4歳までには認知結果への影響も見られなくなる」 と書いていると言う。
また、この検証論文では、何故かドレハー博士の研究には全く触れておらず、「最新のイギリスやデンマーク、ジャマイカ、イスラエル,オランダ、カナダなどの論文でも、アメリカ・ドラッグ乱用研究所(NIDA)がスポンサーになってフライド博士が研究監査していないものは無視される傾向が見られる」 として、出版には政治的な意向が働いていると指摘している。
こうした傾向については、1989年のランセットに掲載された 「ヌル仮説に対するバイアス」 でも詳しく分析されている。著者たちは、妊婦のコカイン使用について1980年代に小児研究学会に提出されたすべての論文のアブストラクトを調べたところ、方法論的に優れていても害が少ないという結論の論文は11%しか出版されていないのに対して、害が大きいという論文のほうは57%が出版されていることを見い出している。
ドレハー博士は、特に妊婦のドラッグ使用については、真実の追求よりも研究者としての身分の保証が優先されて、誠実な研究が無視されていると語っている。(Dreher's Jamaican Pregnancy Study)
確かに、ドレハー博士のジャマイカのフィールド研究には、先進国の大病院で多数の妊婦について調べた研究に比べれば圧倒的にサンプル数が少ないという批判もある。しかし、決定的に質が異なっているのは、ドレハー博士(女性)が妊婦に長期に密着して実際にカナビスをどのように使っているか詳細を調べているのに対して、大規模な疫学調査ではカナビス使用をインタビューによる自己申告に頼っているために、使ったカナビスの質や量が明確ではなく、また違法なカナビスを使ったことを隠そうとする人もおり、客観性のある使用実態を反映していないという点にある。
実際、1992年のNIDAの報告では、妊娠中のカナビス使用率が2.9%となっているが、他の調査では10〜16%、大都会では23〜30%としているものもある。(F.Grotenherman, Cannabis and Cannabinoids, Pregnancy 269p, Haworth Integrative Healing Press 2002) 当然のことながら、使用率を低く見積もれば、ユーザーと非ユーザーで症例を比較した倍率は極端に大きくなる可能性がある。それを端的に示した例が、上の妊婦の白血病伝説に見られる。
カナビスを使う場合の注意
カナビスについては、妊娠や母乳にとってほとんど害は認められていない。少なくとも、たまたま妊娠中にジョイントを一服したからといって、胎児に悪影響があるという反カナビス派の脅しに惑わされて罪悪感に悩む必要はない。
しかしながら、妊娠中は可能な限り薬物は使用しないようにすべきだという原則が変わるわけではない。つわりなどでカナビスを使う場合は、娯楽利用とは異なりあくまでも医療利用という前提で、素性のはっきりしたできるだけ良質のものをバポライザーなどを利用して1、2服する程度に控えるべきだろう。当然、ジョイントの場合は、ヨーロッパ流にタバコを混ぜたりしないほうがよい。
また、違法であることからくる社会的なリスクを軽く見るべきでもない。制約の多い妊娠、出産、育児という長い期間に良質のカナビスを入手するのは、よほど幸運な環境に恵まれない限り困難だ。さらに、カナビスの入手にあたっては、異物混入や農薬、化学肥料、カビ、虫食などリスクがあり、妊娠している場合には特に注意する必要がある。詳しくは カナビス製品のリスク 参照。
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より詳しくは、Women and Cannabis (The Haworth Herbal Press 2002) Ethan Russo, Cannabis Treatments in Obstetrics and Gynecology: A Historical Review を参照。
カナビス・チンキなどについては カナビス・メディシン・アンティーク・ミュージアム を参照。