カリフォルニア医療カナビス条例10年

ミクリヤ医師が経験したこと

Source: CounterPunch.org
Pub date: November 04, 2006
Subj: Dr. Mikuriya's Observations,
10 Years of Legalized Medical Marijuana in California
Author: Fred Gardner, the editor of O'Shaughnessy's Journal
http://www.hempevolution.org/media/counterpunch/c061104.htm


トッド・ミクリヤ医師(カリフォルニア州バークレー)は、カナビスを系統的に患者に処方してその効果を観察することを始めた最初の人物として知られている。彼は、1990年代初頭、サンフランシスコ・カナビス・バイヤーズクラブの多数の患者メンバーたちを問診している。その結果は、オーナーのデニス・ペロンがまとめた文書の中で報告されているが、それを見ると、患者たちは非常に広い範囲の病状に対して自からすすんでカナビスを投与していた様子がうかがえる。

ミクリヤ医師は、35年程前に、カナビス禁止法が制定(1937年)される以前の医学文献を調査し、昔は広範な範囲でカナビスが医療に利用されていたことを再発見して知っていた。1996年に実施されたカリフォルニアの医療カナビス住民投票条例(215条例)の草稿作成に協力した彼は、適応する病気の範囲を限定すべきではなく、「カナビスが苦痛を和らげるあらゆる疾患」 を対象にすべきだと説いてそれを実現させた。


チーチ&チョン・ショー

215条例が通過すると、直ちにカリフォルニアの法執行当局は、クリントン政権の役人や民間セクターの禁止論者と、条例を無効化するための画策を開始した。1996年12月30日に、ホワイトハウス麻薬撲滅事務局の バリー・マカフェリー 局長、ジャネット・リノ法務長官、健康福祉省長官のドナ・シャレーラ、薬物乱用研究所のアラン・レシュナー所長がプレス・カンファレンスに出席して、患者にカナビスを処方した医者に対してはライセンスを剥奪して廃業させると脅した。

マカフェリー局長は、「トッド・ミクリヤ医師のカナビス医療利用」という2段にわたって26の疾患を列挙した大きなチャート (偏頭痛 Migraine を移民 Migranes と書いてあった) の横に立ち、「これは医薬品ではない。チーチ&チョン・ショーだ」 と決めつけた。またレノ長官も、患者にカナビスをすすめるなどという「言語道断」な医者に対しては検察が重点的に取り組むようにすると述べた。

これに対して,カンファレンスの模様をバークレイヒルの自宅のテレビで見ていたミクリヤ医師は、「明らかに、医者が脅えれば脅えるほど、私のところには、カナビスを使っていたり使うことを考えている患者さんたちが押し寄せて来るようになる。あなたには、こうした現実が本当に言語道断なことに見えますか?」 と感想を語った。

司法省のサクラメント事務所からはジョン・ゴーデニア法務次官名で、州内58郡の地方検事宛に、ミクリヤ医師が関与したすべての件を調査するように要請するメモが送付された。やがて、保安官や警察官、地方検事などから集まった情報をもとに、ミクリヤ医師はカリフォルニナ州政府の医師管理委員会の調査を受け、「標準的な診療から極めて逸脱」 しているとして、裁判で保護観察処分と法定費用の75万ドルの支払いを命じられた。


医療カナビス患者の全体像

それにもかかわらず、215条例の制定以後、ゆっくりではあったが着実にカナビスを専門にする医師も増えてきた。2000年に、ミクリヤ医師は研究目的でデータを共有するために、20人の医師グループを結成し、現在ではSCC(Society of Cannabis Clinicians)として知られている。これまでにカリフォルニアの医師たちがカナビス利用を認証した患者数は全体で35万人に達すると推計されている。

215条例が10周年をむかえるに当たって、筆者はSCCの医師たちを訪ねて、グループで扱った医療カナビス患者の全体像を調査した。その結果をもとに、ミクリヤ医師に感想をうかがい、以下のような非常に示唆に富んだご指摘をいただいた。

現在までにSCCが認証した患者総数は8684人で、そのうち99%が診察以前にすでに自らカナビス利用していた。また、治療を行った症状や状態から判断した利用目的は、鎮痛・免疫調整が41%、抗けいれん29%、抗うつ・抗不安27%、害削減代替4%の割合になっている。

また、全体構成では、男性患者72%、女性患者28%になっている。精神治療目的では、女性が32%なのに対して男性は18%で、女性のほうが多くなっている。これに対して害削減治療では、男性(4%)のほうが女性(1%)よりも多い。患者の年令別分布状態は吊鐘型で、0〜18才が1%、19〜30才が19%、31〜45才が36%、45〜60才が37%、61才以上が7%、となっている。


医療カナビスの特徴とメリット

カナビスを治療に利用することの第一のメリットは、致死性の毒性なしに慢性的な痛みや幅広い慢性疾患に対処してコントロールできることがあげられる。コントロールとは、病気の恐怖感や気だるさなどから開放されることを意味しているが、コントロール可能かどうかは患者の自尊心に大きく影響する。
  • 工夫してコントロールできるようになると、病気で自分が何もできなくなるという恐怖感が薄まり、患者の生活の質が改善する。
  • 偏頭痛、喘息、不安、うつなどの耐えがたい攻撃を抑え込むことができれば、患者は自信を回復する。
  • 医療カナビスの合法化は、患者の犯罪を犯しているという気持ちの重荷を開放し、自己認識をポジティブにする。
  • 痛みや筋肉の痙縮に対する知覚や反応を変えることができる。これは他には見られないカナビス治療のユニークな特徴になっている。

また、患者たちの報告に共通しているのが、カナビスが安全で効果的だということで、誰もが例外なく認めている。このことは、経過診断や認定証の更新に訪れる度に確認されている。

カナビスには、体内のさまざまな器官でホメオスタシス(恒常性)を促進する働きがあるらしく、その際立った効果は複合的で同時に起こる。そうした効果とすれば、次のようなものが含まれる。
  • 胃腸などの消化管の機能を修復して蠕動運動を正常化し、食欲を回復させる。
  • 不眠症を改善し、日々の生活のリズムを正常化する。睡眠はそのものが治療であり、相乗的に痛みのコントロールに役立つ
  • 痛み、うつ、不安をやわらげる。カナビスには、抗不安・抗うつ効果があり、感情の反応性を調整する。特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に役立つ。

今まで、カナビスで治療を受けたADHD(注意欠陥・多動性障害)患者は92人、アルコール中毒治療にカナビスを使っている患者は683人になっている。カナビスには、身体や精神に病気を引き起こすアルコールによる毒性症状を抑える働きがある。

また、こうしたカナビスの働きによって、患者を抱える家族の苦悩も開放される。


他の医薬品との関係

カナビスを使えば他の医薬品は必要なくなるのだろうか? オピオイド、鎮痛剤、NSAIDS(非ステロイド系抗炎症剤),SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、抗うつ剤など深刻な副作用のある医薬品は、一般に、少量にするか又は使わないで済ませることができる。

オピオイドや鎮痛剤は、うつ症状や意欲喪失を起こし、体の可動力を損なう。また、体重を増加させたり、機能性を損なうという点も共通している。認知障害、感情障害、うつ症状に関しては合併してあらわれる。オピオイドは、便秘、消化不良、胃の不快感といった植物性機能に逆作用を持っている。かゆみに悩まされる人もいる。日周性リズムは睡眠障害によって乱されほか、慢性的な鎮静状態が生じる。鎮痛系の医薬品では、依存性や禁断症状といったより深刻な状態に陥りやすい。

オピオイドは、急性の痛みの鎮痛治療としては間違いなく役に立つ。しかしながら、慢性的な痛みに対しては、1859年にオハイオ医師会でフロミュラーという医師が提案してフロミュラー2と命名された対処法が好ましいようだ。この方法では、普段はカナビスをベースに使い、症状が悪化した場合にオピオイドの助けを借りる。こうすれば、オピオイドの耐性や副作用を最小限に抑えて最大の効果を得ることができる。治療法は古いが、カナビスも人間の生理機能は昔も今も変わっていない。

NSAIDSは、特に、胃腸の不快感に速やかに反応しにくい体質の人には、いつのまにか悪影響を及ぼして薬を続けられなくしてしまう。出血を伴った慢性の過敏症は致死制の深刻な状態に発展することもある。たいていの場合は、消化不良状態は胃酸の中和剤などで抑えられる。多くの患者は長期使用せず、急な一時使用にとどめている。SSRIを使う場合は、カナビスとの相互副作用なしに共存できる。一部のSSRIユーザーは、カナビスには、神経過敏や胃腸の不快感などの副作用を抑える相乗効果があると報告している。


多重投薬問題

多くの患者たちは、復員軍人援護局やカイザー保険のような健康維持法人、労働災害補償プログラム請負会社などから、指定の医薬品を使うように圧力を受けていると報告している。そうした患者の大半が、処方された医薬品は効かなかったり、好ましくない副作用を持っていると訴えている。

「主流」の医者たちは多くの場合、副作用の訴えに対してはさらに別の薬を処方する。そのために、しばしば、問題が解決するよりも、さらに複雑化してしまうことがある。一般に行われているこうした標準的なやり方では、薬物乱用を促す結果となり、5種類以上の多重医薬品使用が当たり前になってしまっている。


自己免疫障害

余りみられない疾患としては、非外傷性自己免疫障害があげられる。通常、痛みは外傷によって引き起こされた局部的な免疫活動の結果としてでてくるが、外傷を伴わない痛みとしては、クローン病、白色萎縮症、骨増殖による硬化性骨異形成症、ポルフィリン症、サラセミア、鎌状赤血球性貧血、アムロイド肥満細胞症、ループス、強皮症、好酸球増多筋痛症候群などがあげられる。

これらの疾患は、どれも明らかに自己免疫の障害が原因で治療が難しい。アミロイド症やある種の貧血に見られるような特別な代謝異常についてはさらなる研究が必要だが、根本的な疾患のメカニズムとカナビスの治療効果の関係が解明されることが期待されている。多発性硬化症についてはその程度に応じてカナビスの治療効果は変化する。


その他の経験
  • 医療カナビス関係者は率先構造主義で仕事を進める。何かを創り出して、先例を作っていくしかない。
  • 典型的な医療カナビス・ユーザーは、慢性疾患の治療が対象で、急激に衰弱していくような疾患の患者ではない。
  • 現金主義の経済は、官僚的なやり方よりうまく機能する。
  • 口に出して意見を言うことが、医療カナビス運動を発展させる。
  • 政府が率先して係わらないので、民間セクターがカナビスの生産や配布を担しかない。
  • かつては、カナビスも市場できちんと流通していた。しかし禁止法が施行されたことによって、市場から追い出されて、その後ほとんど忘れ去られてしまった。
  • 実は、この10年でわれわれが学んだことは、すべて過去にあったことで、新しいことは何もない。

誇りは患者さんからの感謝

1996年に、カリフォルニア・コンパショネート法が州の法律になった。当然、人々は、公僕たちがその法律を遵守し、健康と安全に関する規則に組み入れてくれるものだと信じていた。だが実際は逆だった・・・患者にカナビスの使用を認証したカリフォルニアの医師20人が、そのことを咎められて医師会から調査を受けたのだった。

告発から守られるべき医師の正当な行為が無視され、医師会や法務省による法を掻い潜った作為によって、不正を行ったと宣告された。彼らは偽りを隠して、カナビス認証を問題にしているのではないと言いながら、決められた標準的な診療法を逸脱しているとして調査に及んだのだった。組合保険制度に加わっている医者でさえ標準を絶えず違反しているというのに、彼らは、カナビス処方医師たちに「標準」という言いがかりを振りかざした。

八百長が行われた。州の刑事裁判関係者たちは連邦麻薬局と情報を共有し、患者のカナビス治療オプションについて医者が話してもライセンス剥奪の理由にはならないとする最高裁のコナント判決を巧みに回避しながら作戦が遂行された。マスメディアは無関心を決め込み、権威に色塗られた組織犯罪を見逃し、10年前のカリフォルニア州民の意志を公然と無視する行為に加担した。

こうした仕打ちに対して、カナビス処方医師たちは、いわゆる正統的医薬品を使って深刻で慢性的な副作用に陥った患者を助け出しているという誇りに支えられている。

著者のフレッド・ガードナー は、 カリフォリニア・カナビス・リサーチ・グループが発行するオシャンネッシー・ジャーナルの編集長をつとめている。

トッド・ミクリヤ・MD
カリフォリニア・カナビス・リサーチ・グループ
オシャンネッシー・ジャーナル
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Dr Tod by Pete Brady (25 Jun, 2001)
Right to Smile, サンフランシスコ・カナビス・バイヤーズクラブ 1996-1997
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