医療カナビスに対応を迫られる雇用主

医療カナビス法で倫理・法的問題が顕在化


Source: USA TODAY
Pub date: April 17, 2007
Subj: Employers grapple with medical marijuana use
Author: Stephanie Armour
http://www.mapinc.org/norml/v07/n484/a03.htm?134


証券会社に勤めるアービン店ローゼンフェルトさんは、平日はカナビスを一服してから仕事に出かける。仕事場のビルに着くと喫煙所に寄ってさらに一服してからオフィスに向かう。仕事では顧客の何百万ドルもの証券を扱い、仕事が終わるまでにはいつも5本以上のジョイントを吸っている。


Irvin Rosenfeld By Andrew Itkoff for USA TODAY

フロリダ州フォート・ローダデールに住むローゼンフェルトさん(54才)は、良性だが体の長骨に微小な腫瘍が多数あり、痛みを抱えて暮らしている。彼がカナビスを吸うことは完全に合法で、連邦政府が認めたものだ。以前には麻酔系のジラウリル(ヒドロモルホン)を試したこともあったが、アメリカ政府が特定の病気を持つ患者向けにカナビスを配布していた実験新薬プログラム(IND)の適応を申請して1982年に認められた。支給されたカナビスで、彼の痛みはコントロール可能になった。
INDプログラムは1976年に始まったが1992年に打ち切られている。その関に適応を受けた人で現存しているのは5人だけで、ローゼンフェルトさんは最も古い。政府からは毎月300本のカナビス・シガレットの支給を受けている。25年間に吸ったカナビスは約100kgになるという。
Irvin Rosenfeld, The longest surviving federal marijuana smoker
「この25年間、毎日10から12本のカナビス・シガレットを吸ってきました。でも、いわゆる多幸感のためではありません。自分のクライアントは、誰でも私がカナビスを使っていることを知っています。カナビスなしでは働いていることはできません。」 会社のニューブリッジ・セキュリティ社でも彼のカナビス使用を認めていて、仕事の能力の妨げになるようなことはないと言う。

現在、フロリダ州では医療カナビスは認められておらず、いかなるカナビスの使用も禁止されている。しかし、今日では、カナビスの医療使用をみとめる州は拡大を続けており、今月ニューメキシコ州が12番目の州に加わった。こうした状況に伴い、全国の雇用主の間では、倫理・法的な適応範囲をめぐってどう対処すべきかという課題が顕在化してきた。

今でも、一部の会社では、カナビスが仕事の能力に影響を与えるとして、たとえ州の認めた医療目的での使用であってもドラッグ・テストで陽性になれば解雇を続けている。

医療カナビスが合法化されているオレゴン州にある製材会社コロンビア・フォレスト・プロダクツ社がそうした会社のひとつで、会社はドラッグ使用に対してゼロ・トレランス政策を堅持しているが、州の医療カナビス法に抵触しているとして訴訟を起こされている。

だが、ニューブリッジ・セキュリティ社のように、仕事中に医療カナビスを使いたいという従業員を受け入れている会社はまだ数えるほどしかない。

一方では、従業員が医療カナビスの影響で他人に損害を与えたり、仕事上のミスを犯した場合には、医療カナビス法は雇用主に何らかの保証をするのかという問題もある。実際には、そのような事故が起こるかどうかもはっきりしていない。

タンパで労働・雇用問題専門の弁護士をしているマーク・レビット氏は、「仕事の生産性や機械回りの安全性を求める雇用主の権利が優先されるべきです。カナビスの使用は従業員の仕事の能力に影響を与えるわけですから、この問題は雇用主にとって非常に大きな関心事になっています」 と語っている。


議論が分かれるカナビスの医療効果

カナビスの医療・鎮痛効果についてはさまざまな議論が展開されている。連邦食品医薬品局(FDA)は、カナビスを医療に使用することを認可していないが、実際には、カナビスはいろいろな病気の患者に利用されている。カナビス禁止法の撤廃を求めているマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MMP)によれば、そうした病気には、ガン、緑内障、エイズ/HIV、クローン病、C型肝炎、多発性硬化症などがある。

食品医薬品局では、カナビスが非常に乱用の危険のある規制薬物と考えており、安全に使えるのがどうか医学的な研究データがなく医療目的での使用は受け入れられないという立場をとっている。また、アメリカ医師会でも、もっと効果についての研究が必要だとしながらも、カナビスの医療使用については支持していない。

しかしながら、カナビスが治療に役立つと考えている医師や研究者もいる。

サンフランシスコ総合病院の血液・腫瘍部長のドナルド・アブラム医師は、「ガンの専門医として、化学療法で吐き気に襲われたり、食欲がなくなったり、痛みやうつに苦しむ患者さんを毎日みていますが、私は医療カナビスが認められたカリフォルニア医師ですから、そうした症状の緩和にカナビスを試してみるように忠告することもあります」 と語っている。

アブラム氏によれば、カナビス治療の要の成分となっているTHCについては服用形態のカプセルやピルも利用できるようになっているが、カナビスを喫煙したほうが体内に効果成分がより集中して効力が強いと言う。また、ローゼンフェルトさんの場合は、使っているのが効力の弱い政府のカナビスなので多量に使わなければならないが、普通では彼のように頻繁に吸う人はいないと指摘している。さらに、カナビスの喫煙による肺ガンのリスクはあまりないとも言っている。

オークランドを拠点に医療カナビスの啓発運動に取り組んでいる非営利団体、アメリカン・フォー・セーフアクセス(ASA)によれば、カナビスのコストは8分の1オンス(3.5g)で35ドルから75ドルになっているが、それが医療カナビスが広く受け入れられている理由になっていると言う。だが、現状では医療保険でのカバーがないので大半の患者が自己負担しているが、保険が適応されるようになれば、さらに使う人が増えると見込まれる。


明確な答を求める雇用主

ASAがまとめた医療カナビス登録済ユーザーのデータをもとに推計すると、現在、アメリカでは30万人が医療カナビスを使っている。

医療カナビスを認める州が増加するにともない、雇用主たちはこの問題にどのように対処すべきか対応を迫られることになった。現在までのところ、医療カナビスの職場への影響について裁判にまで発展した論争はほとんどないが、多くの雇用主は、いずれ従業員がカナビスの治療を必要になる事態が出てくると考えている。

オレゴン州は医療カナビスを認めた州のひとつだが、ポートランドにあるビルの空調設備などを扱うハンター・ダビッソン社はドラッグ・フリー・ポリシーを堅持し、従業員が痛みの緩和にカナビスを使うことを認めない方針でドラッグ・テストを実施している。

「カナビスに影響を受けた人に仕事をさせれば、誰かが責任を負わなければなりませんが、わが社ではそのような人にトラックを運転させるわけにはいきません」 と安全管理を担当するデイブ・マコッター氏は説明している。

一方、ニューヨークなど医療カナビスを認めていない州であっても、会社ではこの問題が議論されるようになってきている。

ニューヨーク市にある検索エンジンの新興企業ハイカ社のメレク・プラトコナック代表兼運営部長は、「われわれの関心事は、医療カナビスを使う従業員が本当に仕事に集中できるのかという点にあります。われわれとすれば、頭が明晰であることを求めているのです」 と語っている。プラトコナック氏は、会社にフレックスタイム制を導入して、従業員の医療カナビス使用に対応することも考えていると言う。

また、マリファナ・ポリシー・プロジェクトの広報を担当するブルース・ミルケン氏によると、従業員が医療カナビスを使う施設の設置を雇用主に義務づけている州法はどこにもない。この点を、ポートランドの雇用問題専門弁護士リチヤード・メネゲーロ氏は、会社にとっては法的グレーゾーンになっていると指摘している。

彼は、多くの雇用主が、医療カナビスを使っている従業員を解雇したり、使わないように命令したりすることができるのか、あるいは、自宅でのみ使用を認めるのか、職場でも使えるようにすべきなの決めかねている、と言う。

「ほとんど手がつけられない状況なのです。雇用主は必死で回答を求めています。われわれの側でも、明快な答を出せればいいのですが、現在のところ不確なことが多過ぎて正しい答をひとつ出すというわけにはいかないのです。雇用主は危険な水域に置かれていると言えます。」


連邦法と州法の対立

医療目的でカナビスを使えるようにしようとする機運が出てきたのは、1980年代にエイズが広がり、食欲の喪失症状を改善するためにカナビスの使用を認めるように関連団体が政府に迫ったことが発端になっている。

1996年には、カリフォルニア州で医療目的でのカナビス使用を求めた住民条例が通過し、その後、アラスカ、コロラド、ハワイ、メイン、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントンの各州で同様の州法が成立している。

医療カナビスの栽培や使用が州から許可された住民には、多くの場合、それを示す認証IDカードが支給されている。この6月から発効することになっているニューメキシコの州法では、州保健省が医療カナビスを用意し、ガンやエイズ/HIVなどの病気の住民に提供することになっている。

また、1978年には連邦政府が実験的にカナビス配付プログラムを開始し、さまざまな疾病をもつ患者13人以上が適用を受けた。だが、このプログラムは1992年に打ち切られ、現存している人は5人しかいない。ロゼンフェルトさんは、1982年に適応を受けて以来、現在では、職場での医療カナビス使用を最も熱心呼びかける支持者になっている。

医療カナビス法を持ついくつかの州では、特別なディスペンサリーでカナビスが供給されているが、その他の州では、認定を受けた介護人が決められた本数だけを栽培している。しかし、マリファナ・ポリシー・プロジェクトによれば、ブラックマーケットからカナビスを調達している患者もいると言う。

連邦法では、いかなる理由であれカナビスを使うことを禁止し続けている。医療カナビス患者が逮捕されたり起訴されることは滅多にないが、州法で栽培や使用のライセンスを持っていても連邦当局に逮捕される恐れは依然として残ったままになっている。こうした矛盾が法的論争や混乱を引き起こす原因になっている。

患者がこうした論争に巻き込まれることはあまりないが、この3月には、脳腫瘍などの回復不能の疾患で医療カナビスを使っているカリフォルニア・オークランドのエンジェル・ライヒさんが、前もって連邦政府から逮捕される可能性を排除するように求めた裁判で、連邦控訴審の3人の裁判官が訴えを棄却する裁定を下している。


会社の汚点?

ローゼンフェルトさんの雇用主であるニューブリッジ・セキュリティー社は、彼が仕事中に医療カナビスを使うことについては確固たる態度で支持する立場をとっている。会社は、彼が医療カナビスを使っていても仕事の能力には何ら影響していないので、法的な問題については関心はないと述べている。ローゼンフェルトさんも、カナビスを使っていることを全てのクライアントに知らせている。

「彼は優秀な証券マンです。大きな仕事もこなしています」 と副社長で支部長も務めるフィリップ・セマネック氏は言う。「でも、それを会社の汚点と見る人もいます。彼がカナビスを吸っているのを見て、『仕事中にカナビスを吸っている奴がいる。一体どうなっているのだ?』 と言う人もいます。」

カナビスを使っていることで、ときには、ローゼンフェルトさんとセマネック氏は苦笑いさせられこともある。「カナビスは独特の匂いがしますから、郵便配達の人などがビルに入ってきたときに、わざわざ通告してきたりするんですよ。でも、オフィスのカナビスの匂いで会社のイメージがどうなろうが、われわれは関心はありません」 とセマネック氏は語っている。

ローゼンフェルトさんも、カナビスを車に積んでいるときに州警察に連行されて、連邦政府の書類を見せて状況を説明したりすることもあると言う。

しかしながら、従業員が医療カナビスを使うことに対して、頑なに拒否する方針を堅持している会社もある。

2001年に、オレゴン州のコロンビア・フォレスト・プロダクツ社は、度重なる尿テストの結果を理由に水車建造技術者のロバート・ウィシュボンさんを解雇した。彼は、足のけいれんに対処するために州の医療カナビス・プログラムに加わっていた。彼は解雇を不当だとして会社を訴えたが、担当するポートランドのフィリップ・レベンバウム弁護士は、「仕事に影響するようなことは全くなかった」 と弁護している。

だが、会社側は、ウィシュボンさんの医療カナビス使用が、たとえ仕事中に使っていなくても会社のドラッグ・ポリシーに違反していると反論した。オレゴン州の医療カナビス法には雇用主の義務については何も規定されていないので、弁護側は、身体障害者に対する会社の義務を定めた法律を使ったが、結局、二転三転して、州最高裁は昨年、ウィシュボンさんが身体障害者ではないので、勤務時間外にカナビスを使うことを会社が容認する必要はないという判決を下した。

会社側のスコット・セイドマン弁護士は、会社がドラッグ・フリー・ポリシーを堅持しているのは連邦政府の仕事も請け負っているからだと説明している。また、「会社は、安全上の義務として捉えている」 とも述べている。

ローゼンフェルトさんのように、雇用主から支持をとりつけている医療カナビスユーザーもいる。

コロラド州ゴーデンに住むジョゼフ・キンゼルさん(41)は、呼吸療法士で患者の状態を見たり治療にあたっているが、彼自身も背中に問題を抱え、医療カナビスを使っている。自分の仕事も持っているが、彼のカナビス使用を認めてくれた医療機関でも働いている。

キンゼルさんによると、1996年と1997年に、椎間板ヘルニアで10個の髄核を取り除く手術を4回にわたって受け、 背骨を連結するために32個のチタニウム支持部材を埋め込んだ。だが、筋肉のけいれんによる痛みが続き、モルヒネやパーコセット、バイコディンなどの強い鎮痛剤を使ってが、そのために2年間仕事ができなくなった。2000年に、ブラックマーケットからカナビスを購入して試してみると、痛みが以前より和らぐこと気づいた。

2002年に医師から医療カナビス使用の許可を受けてからは、カナビスを毎日使うようになった。以後6週間で麻酔性の鎮痛剤は使わなくなり、自転車にも乗りはじめた。さらに数ヶ月後、仕事の復帰を果たした。彼は、カナビスでハイになることはないと言う。

現在では、州から認定を受けた彼の介護人がカナビスを用意してくれる。コロラド州でも他の州と同様に、登録された医療カナビス・ユーザーは彼の含めて、それを証明するIDカードを持っている。だが、カナビスの費用は保険の対象になっていない。キンゼルさんは、費用を節約するために10日分の1オンスをまとめ買いしている。1オンスの費用は200ドルから250ドルだと言う。

既婚者で2人の息子を持つキンゼルさんは、医療カナビスの使用のおかげで、仕事の能力を損なうことなく働くことができると語っている。「1週間に60時間から65時間は働いていますが、ここ4年間で病欠したのは1日だけです。」

職場での医療カナビス喫煙権利、カナダの大学教授2人が獲得  (2006.11.13)


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