カナビスの煙とガン
そのリスクは?
Source: NORML & NORML Foundation
Pub date: 7 May 2006
Subj: Cannabis Smoke and Cancer: Assessing the Risk
Author: Paul Armentano, Senior Policy Analyst
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=6891
カナビスの使用が特に肺ガンなどある種のガンに発展するリスク・ファクターになるという説が語られているが、この主張には耳を傾けて検証してみる価値がある。確かに、過去数十年にわたる疫学研究では、飲酒とガンには因果関係のあることが立証され、アルコールが、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、直腸などさまざまなガンの原因になることが指摘されている。また、タバコに関しても、とくにシガレットの場合、アルコールと同様に上気道(UAT)、さらに膵臓、腎臓、膀胱のガンを引き起こし、腹部や肝臓などのガンにも関係していることが明らかにされている。
現在までのところ、カナビスの使用とガンの関係についての疫学・臨床研究は少なく最終的な結論が出るにはいたっていない。しかしながら、政策決定者やマスコミは、そうした曖昧さには注意してかかる必要があり、現時点では、単にカナビスが安全だとか、あるいは健康の害になるとかいった二分法で解釈すべきではない。
カナビスの煙とタバコの煙
カナビスの煙にはタバコの煙と同じような発ガン性物質がたくさん含まれている。中でもベンゾピレンなどのある種の芳香性炭化水素はタバコ以上の濃度があり、長期的にカナビスを吸っているとタバコに関係しているようなガンのリスク・ファクターになる恐れが懸念されている。しかしながら、カナビスの煙にはTHC(テトラヒドロカナビノール)やCBD(カナビジオール)などのカナビノイドも含まれており、それらは非発ガン性であるばかりではなく、生体内・試験管内の実験で抗ガン作用があることが明らかにされている。
また、カナビノイドには、抗ガン作用の以外にも、生物の活性や反応を刺激し煙の発ガン作用を抑制し、ガンの発生を誘発する不安定なフリー・ラジカルの生成に関連する免疫システムの暴走が起こらないようにする働きがある。これに対して、タバコの煙に含まれるニコチンはガン細胞の成長を促進し、細胞に血液を供給する働きが知られている。
カナビスの煙は、タバコの煙とは違って、人間にガンを直接引き起こすわけではない。しかしながら、長期的なカナビス・スモーカーでは非喫煙者に比較してある種の細胞に異常が多く見付かっている.また、長期間カナビスの煙に晒されていると、タバコの煙と同程度に気管支や上皮細胞が前ガン状態になりやすい。
細胞異常は、タバコとカナビスの双方を吸う人に最も多く見られ、カナビスとタバコの煙が相乗的に気道細胞に悪影響を与える可能性を示している。こうした結果は、特にタバコの煙といっしょに長期間カナビスの煙に晒されていると気管支組織にダメージを与える恐れがあり、いずれ呼吸器系のガンを引き起こすことも考えられる。しかしながら、現在までのところ、カナビス単独で吸っていた場合にも同じようになるという疫学研究はなく、今後、適切な対照群を使った大規模が研究が待たれている。
カナビスは吸引によって迅速に効果が発現するが、害になる毒性の煙を避けたい人の場合は、喫煙ではなく蒸気にして(バポライズ)吸引すれば発ガン性物質を吸い込む危険を劇的に減らすことができる。カナビスは180〜190度に加熱すると気化して蒸気になるが、この温度は燃焼によって有毒な発ガン性炭化水素が発生し始める230度よりも下で、蒸気には呼吸毒が含まれていない。
カナビスの蒸気は発ガン性の煙を吸い込むことなくカナビノイドを取り込むことができるので、カナビスの摂取法としては、カナビスをシガレットや水パイプで吸うよりも安全で好ましい方法と言うことができる。最近、オランダのライデン大学生物学研究所で行われた臨床実験では、ボルケーノとよばれる気化装置(バポライザー)が呼吸毒の吸入を避けながら毎回確実に必要なTHCを搬送してくれることを確認している
研究者たちは、「われわれの結果からは、ボルケーノが医療患者でも利用可能な安全で効果的なカナビノイド搬送システムであることがわかった。肺からTHCを摂取する方法としては、呼吸器への喫煙の害を避けながら、最終的にはカナビスを喫煙したときと同等の効果が得られる」 と結論づけている。
頭、首、肺のガン
カナビス使用で頭や首や肺のガンになりやすいという研究としては、ごく僅かの事例報告と小規模の若年成人の対照研究があるが、これまでに大規模な研究でそうした結果が追認されたことはない。
バルチモアのジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちは、口腔ガン患者164人と526人を対照群とする大規模な研究を病院ベースで行っているが、カナビスが若年成人で頭や首や肺のガンに関連しているようなことは、「ライフタイム・ユーザー」の場合も「かってのユーザー」の場合もなかった、と報告している。結論には、「この研究はカナビスの使用とガンとの関連について調べた過去最大の対照研究で・・・エビデンスを総合的に見ると、一般社会で使われているカナビスが若年成人の頭や首や肺のガンの主要な原因因子になっているという見方を支持していない」 と書かれている。
もっと最近の2004年の一般住民を対象とした対照研究では、口腔扁平上皮ガンと診断された407人と615人の健康な対照群を比較し、カナビス使用と口腔ガンの起こりやすさとの間には、たとえどんなに長期に頻繁に使っていたにしても 「何の関連もない」 ことを見出している。また、同年の別の対照研究では、45才までの成人でカナビスを使っていると自己申告した116人 (ヘビー・ユーザーと認めたのは10%だけだったが) の口腔ガン患者と年齢などのマッチした207人の対照群を比較しているが、やはり関連性を証明することはできなかった。
1997年にカリフォルニアで実施された後ろ向きコホート研究では、15才から49才の男女6万5171人のガン事例とカナビスの使用との関連を検証しているが、カナビスの使用でタバコのような肺や上気道のガンに発展するリスクを高めることはないことを見出している。実際、タバコを吸わずカナビスだけを使っていた男女で肺ガンになったケースは一件も報告されていない。
この研究に対しては、典型的なタバコのガン場合は少なくとも20年以上たってから60才以上で起こるが、対象者が比較的若くフォローしている期間も短く、「タバコの場合と比較するには期間が短か過ぎ、カナビスと肺ガンの関連を見出すことは期待できない」 とする批判もある。これに応えて、研究者は、「大半のカナビスユーザーは、タバコやアルコールのユーザーと違い比較的若い時期にカナビスを使わないようになるのが一般的で、・・・従って、仮りにカナビスの長期使用と肺ガンの間に関連があるとしても、カナビス試す大半の人が長期使用者になるわけではなく、公衆衛生上大きな問題になることはない」 と書いている。
カナビスの使用と肺ガンの関連の可能性を調べた政府の検証調査もあるが、やはり明確な因果関係を示すことはできていない。イギリス上院科学技術委員会は、カナビス・スモーカーの気道の細胞が前ガン状態になる可能性を示す研究もあるとしながらも 「肺ガンのリスクが増加するという疫学的な証拠は今までのところない」 と結論を書いている。
アメリカ科学アカデミー医学研究所(IOM)の18ヶ月にわたる検証でも、カナビスの煙が上気道や肺ガンの「深刻なリスク・ファクター」であるとしている細胞レベルの研究や対照群の設定が貧弱な事例研究も若干あるが、「タバコに関連して起こる各種のガンも含めて、カナビスが人間においてガンを引き起こすという決定的な証拠はない」 と報告している。
また、2002年のカナダ上院のレビューでは、さらに踏み込んで、現在までに発表された関連があるとする少数のケース・スタディは、「どれの対照群よりも明らかにガンが多いことを示しているわけでもなく、カナビス使用の評価に標準的な統計手法を使っていなかったり、解釈にあたっても、患者がタバコやアルコールも使っているという事実も考慮されていない」 と指摘している。
最近2005年に発行されたアルコール・ジャーナルとランセット腫瘍学誌でも同様の結論が出ている。ハシュビーらは、カナビスとガンのリスクの関連を調べた2つのコホート研究と14の対照研究を検証し、「コホート研究の結果からは、カナビス・スモーカーの間ではタバコのガンに関連するようなリスクの増加は明らかにされていない」 と述べている。また、カナビスの使用が肺ガンのリスク・ファクターを押し上げる可能性があるとした2組のアフリカの対照研究について焦点を当てて取り上げ、カナビス使用期間や使うときに混ぜていたタバコの量を評価していない、と加えている。
ホールらが行ったもう一つのレビューでも、「カナビス喫煙と肺ガンの間に関連を示す証拠は明白には示されていない」 として、さらなる研究を求めている。
現在、アメリカ国立衛生研究所が資金を拠出して、ロスアンジェルス郡在住の60才以下2400人を対象に、カナビス喫煙の肺ガンと上気道ガンのリスクを調査する大規模対照研究が行われているが、2005年の国際カナビノイド研究学会(ICRS)のカンファレンスで発表された予備データでは、カナビスを適度に使っていると自己申告した人が肺ガンや上気道ガンになるオッズ比は対照群よりも大きくはないと報告されている。
小児ガン
急性骨髄白血病(AML)は15才以下で白血病と診断された子供のおよそ16%を占めているが、1989年に行われた研究では、誕生前にカナビスに晒されると小児性白血病のリスクが増加するとされていた。しかし、つい最近2006年にアメリカで発表された過去最大規模の小児性AML疫学研究では、この主張を覆すものとなっている。
チャペル・ヒルのノースカロライナ大学の研究者たちは、「全体的に見て,親のカナビス使用と小児性白血病の間にはそれを肯定するような関係は見られない」 として 「妊娠前あるいは妊娠中に母親がカナビスを使っていると小児性AMLになりやすいという以前の報告は、この研究では確認できなかった。親のカナビス使用が小児性白血病の強いリスク・ファクターになるということは考えられない」 と結論を下している。
さらに加えて、カナビス使用との間には 「逆相関」 が見られ小児性AMLのリスクを下げているという結果も指摘している。しかし、これについては、カナビスに防御作用があるというよりも、母親が妊娠中のカナビス使用を認めたがらないという 「思い出しバイアス」 が働いているせいだろうとしている。
過去には、一般住民を対象とした対照研究で、カナビス使用がガンのリスクを軽減するという逆因果関係を認めたものもある。1999年にアメリカ疫学ジャーナルに掲載された研究で著者は、カナビスの長期常用が成人の非ホジキンリンパ腫のリスクの低減に関連していると報告し、可能性のある因子群を統計的に補正した後で 「カナビスは、非ホジキンリンパ腫のリスクを軽減してくれる唯一のリクリエーショナル・ドラッグ」 と書いている。しかし非ホジキンリンパ腫とカナビスの関係を調べた別の研究では、カナビス使用と病気の発症との間には相関がないとしている。
過去の論文を検証したレビューでは、母親がカナビスを使っていると子供がある種の小児ガンになるリスクが高まるとした対照研究が2例あるが、どちらも当初より母親のカナビス使用と小児ガンの関連を示すことを意図して行われたもので、カナビスが他のいくつかの可能性のある要因の一つに過ぎず、カナビスを原因として特定することは不可能、としている。現在までのところ、それらの研究を追認したものはない。
その他のガン
先にも触れたシドニーらの1997年の6万5171人を対象とした後ろ向きコホート研究では、過去あるいは現在のカナビス使用が、タバコで見られるようなガン、つまり直腸、肺、皮膚、前立腺、胸部、頚部のガンのリスク増大には関連していないとし、「非使用者(生涯経験7回以下)と比較して、カナビスの使用は、社会人口学的要因を補正して分析したタバコの喫煙やアルコールの飲酒に見られるようなガンのリスク上昇に関与していない」 と結論を下している。
ハシュビーらが行った2005年の検証レビューでも、過去の事例研究からは、カナビス使用と肛間やペニスのガンの間には強い相関があるという証拠は見つからなかったと書いている。
ハワイ大学で実施された別のコホート研究では、悪性の神経膠腫(脳のガン)の発生リスクとタバコの喫煙などの生活習慣との関連を調べているが、性別や人種、教育程度、タバコの喫煙状態、飲酒、コーヒー摂取などの統計補正を施した後で、少なくとも月一回はカナビスを吸っている人では、発症リスクが高まると報告している。だが、一日に7杯コーヒーを飲む人の場合は神経膠腫発生のリスクが70%上昇するという結果に対して、カナビスの摂取量との関連に関してははっきりせず、他の要因とからんで起こる付随的な因子に過ぎないとも評価している。
しかしながら、この見方は、カナビノイドが投与量に比例して選択的に神経膠腫細胞の成長を抑制することを示した最近のいくつかの臨床前研究を見ると違うようにも見える。
2004年に発表された薬理学と実験治療学ジャーナルによると、非精神活性カナビノイドであるカナビジオール(CBD)を先天的に無毛で胸腺が欠損しているヌードマウスに投与したところ、皮下に埋め込んだ人間の神経膠腫細胞(U87)の成長を顕著に抑制し、「CBDには生体内・試験管内の双方において著しい制ガン作用があり、悪性細胞に対する抗腫瘍成分として応用できる可能性がある」 と研究者たちは結論を書いている。
さらに最近の研究として、カリフォルニア・パシフィック・メディカルセンター調査研究所の研究者たちは、人間の悪性の多型膠芽細胞腫にTHCを投与すると腫瘍の増殖を抑え、合成カナビノイド・レセプターの投与よりもアポトーシス(細胞の自然死)を迅速に引き起こす、と報告している。
一方、スタンフォード大学とジョージア・メディカルカレッジの研究チームは、60才以下のベトナム帰還兵を対象とする予備調査で、ガン患者の77%がタバコとカナビスを併用し、カナビスだけを使っていたと認めているのは6人(11%)に過ぎないものの、カナビスと膀胱ガンの間には相関があると報告している。また、泌尿器ジャーナルに掲載された2006年の事例研究でも、ヘビーなカナビス使用者(30年以上にわたり一日5本以上)の45才の男性において、上皮性悪性腫瘍を引き起こしているリスク・ファクターになっている可能性があると指摘している。この分野をフォローアップする大規模な疫学研究が待たれている。
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