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神経伝達システム
予備知識
http://www.kubby.com/Guzman-Cancer-nrc1188.pdf を参照して作成
人間は電子回路のように電気で動いている。電流を通す電線が神経に相当し、微弱な電流が流れることによって情報が伝達される。
だが、神経は連続したものではなく、ところどころに数万分の１ｍｍほどのシナプス（神経節）と呼ばれる切れ間がある。
シナプスでは、神経から送られてきた電気信号をいったん神経伝達物質と呼ばれる化学物質に変換してから分泌する。通常、神経伝達物質は水溶性で水泡のなかに蓄えられており、刺激を受けて破裂し、シナプスに放出される。
シナプス後の神経の末端には伝達物質を受け取る レセプター（受容体）が待ち構えている。レセプターは一定の化学物質（リガンド）しか受け付けないという性質を持っている。
リガンドとしては、興奮を刺激するアゴニストとレセプターに目づまりを起こして情報の伝達を遮断するアンタゴニスト（ブロッカー）がある。
レセプターに捉えられたアゴニストは、再び電気信号に変換されて情報が伝えらていく。シナプス間隙の伝達にかかる時間は、0.1〜0.2ミリ秒ほどといわれている。
IOM Report: Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base を参照して作成
通常の神経伝達経路はシナプス前細胞から後細胞に向いているが、カナビノイド・システムでは後細胞から前細胞へ信号を逆向きにフィードバックする経路が存在する。
普通のレセプターは後細胞にあるが、カナビノイドのレセプターは前細胞にもある。
カナビノイドのレセプターとしてはＣＢ１とＣＢ２と呼ばれる２種類が知られているが、それぞれはリカンドに対する感度が異なり、分布する臓器や器官も違う。
エンドカナビノイドは、体内で生成される内因性（endogenous）リガンドで、カナビスの成分であるＴＨＣなどのカナビノイドとＣＢ１・ＣＢ２レセプターに対する反応が似ている物質を総称して名付けられた。エンドカナビノイドとしてはアナンダミドや２-ＡＧなどが知られている。
エンドカナビノイドは、後細胞のカルシュウム・レベルなどが上昇したときにオンデマンドで前駆体で生成されて、前細胞に向かって放出される。
エンドカナビノイドは油脂性で、水溶性の伝達物質にようには拡散しにくく、局所的に集中して移動する。レセプターと結合すると直ちに代謝する。
エンドカナビノイドを受け取ったカナビノイド・レセプターは、自分の細胞内にある神経伝達物質の水泡を油脂で覆って破裂しにくくし、情報の流れを抑制する。
カナビスの成分であるカナビノイドは、カナビノイド・レセプターに対してエンドカナビノイドと同じような作用をするために、外部から投与すると信号の流れを制御することができる。これが、医薬品としてカナビスが期待される理由となっている。
カナサット製薬：
「カナビノイドとエンドカナビノイド・システム」 より
アメリカをはじめとする多くの国では、カナビスに対する政治や社会の偏見が根強く、カナビノイドの研究は時代後れの規制や考え方で妨害を受けてきた。それに加え、リクレーショナルなカナビス使用の是非についての論争が問題をさらに複雑なものにしてきた。その結果、カナビスに治療効果のあることを示す多数の科学的証拠があるにもかかわらず、医療カナビスやカナビノイドについては余り知られることもなく誤解されてきた。
しかし、最近の２０年間で科学的な発見が加速し、治療の困難な疾病に対して、カナビスやカナビノイドの医療的に応用しようとする試みに再び関心が集まるようになってきた。この分野における重要な医学的発見には次のようなものがある。
- １９６４年: ＴＨＣの発見。およそ１世紀に及ぶ多数の科学者たちの研究を経て、イスラエルのヘブライ大学でΔ９テトラヒドロカナビノール（ＴＨＣ）が、カナビスの精神活性のほとんどを引き起こす物質であることが明らかにされた。
- １９６４-２００３年： 他の天然カナビノイドの発見が相継いだ。ここ数十年の間にカナビスの植物のなかに４００以上の化学物質が発見されたが、そのうちの約６０種類がユニークなカナビノイドで、治療効果を持っている可能性がある。
- １９８０年代後半： 人体の中に２種類の異なるカナビノイド・レセプターが発見された。ＣＢ１レセプターは主に神経やその周辺で見つかり、ＣＢ２レセプターは免疫システムの中に見つかった。
- １９９０年代初頭： 内因性のカナビノイドの発見。内因性のカナビノイド（エンドカナビノイド）は人体内で刺激に反応して自然に生成されるカナビノイドで、ＣＢ１及びＣＢ２レセプターと結び付いて、痛みの調整、記憶機能、免疫システムに作用する。アナンダミドと２-ＡＧの２種類のエンドカナビノイドの作用については多くの研究が行われている。
- ２００１年中頃： カナビノイド逆向き信号伝達経路の発見。逆向き信号伝達経路はそれまで知られていなかった神経伝達経路で、シナプス前細胞にあるＣＢ１レセプターが自身の存在する細胞を抑制して、シナプスに放出されるセロトニンやドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンなどの神経伝達物質の量を減少させたり調整したりする。これを応用すれば、異常興奮して痛みを引き起こしている神経細胞に対して、カナビノイドを使うことでその刺激を調整したり、遮断することができる。
新発見が続いた結果、現在では、エンドカナビノイドには痛みや不安、食欲、嘔吐や吐き気を調整する役割があることが広く知られるようになった。こうした様々な効果の存在は、歴史的にカナビスが何故幅広い症状の治療に使われてきたかを説明してくれる。現在では、体内のこのカナビノイド・レセプター・システムに介在する新薬の研究開発にますます拍車がかかっている。
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