医療カナビスとカナビノイド製剤

Pub date: March 15, 2008
Author: Dau, Cannabis Study House

カナビスの医療利用には大別すると、(1)天然のカナビスを使ったものと、(2)化学合成によって人工的に合成したもの、の2つに分けることができる。

(1)では、天然のハーバル・カナビスをそのまま利用したものが 「医療カナビス」 で、天然のカナビスから成分を抽出して製剤化したものが 「カナビス製剤」 と呼ばれる。しばしばこの2つは混同されているが、例えば、カナダやアメリカの州の医療カナビス法ではカナビス製剤は対象になっていない。また、医薬品認証に対象になるかどうかという違いもある。(参考:ハーバル・カナビスの将来

(2)では、カナビノイド・レセプターに対する反応の仕方で 「アゴニスト」 と 「ブロッカー」 (アンタゴニスト) に分けることができるが、天然のカナビノイドと化学構造が同じ化合物と、全く構造の異なる化合物に分けることもできる。

また全体とすれば、製薬会社が関与しているものと、そうでないものに分けることもできる。この点に関しては、「医療カナビス」 以外は全て製薬会社の製品になっている。

















多様な品種
  • シード・バンクが発売しているカナビスの品種は数百種類以上ある。カナビスの効果は、THC,CBD,CBC,CBGなどカナビノイドやフラボノイドなどの含有割合の違いで大きく変化する。医療カナビスとしては、患者ごとに適する品種が異なるために、ディスペンサリー などではさまざまな品種の製品を提供している。特に、THCとCBDの割り合いが重要だが、現在ではTHCとCBDがそれぞれ 98%以上の品種 も開発されている。
多様な形態の製品


オランダ   SIMM による土耕栽培
  • ベドローカン(THC18%)
  • ベドノビノール(THC11%)
  • ベディオール(THC6%、CBD7.5%) 多発性硬化症患者向けでハイになりにくい
カナダ   プレイリー・プラント・システム による単一水耕栽培
  • THC12%、バッズではなく グラインド してある






  • サティベックス
  •   イギリスのGW製薬 が開発した舌下型のスプレー製剤。天然のカナビスの特定品種をクローン化して栽培・収穫・乾燥した植物から、液化炭酸ガズを使って成分を抽出し、エタノールと医薬品添加物として知られるプロピレングリコール、さらに味の改善のためにペパーミントを加えて、小型スプレーに封入したもので、1回のスプレーで正確に100μLが噴射するように調整されている。1回分には、THC2.7mgとCBD 2.5mgが含まれ、1本にはスプレー51回分が入っている。(参考:サティベックス、カナビス栽培から臨床応用まで、GW製薬ゲオフェリー・ガイ社長インタビュー

    2005年に多発性硬化症用の鎮痛剤としてカナダで認証されたが、十分な効果が見られないとしてイギリスでは不許可になっている。その後もデータを追加して再申請したが、2008年現在も認可を得るまでには至っていない。(参考:思惑渦巻くカナビス・スプレー・サティベックス

  • カナドール
  •   カナドール(Cannador) は、ドイツ・ベルリンの非営利団体である臨床調査研究所(Institut fur Klinische Forschung)が天然のカナビス抽出液を使って開発したもので、かなり長い歴史を持っている。2003年11月にはすでに657人で臨床研究の 結果 を発表しているが、この時は、患者からは役に立ったという声も多かったものの、規定された統計処理では有意差を示すことができずに失敗している。

    当時はTHCが主体となった錠剤だったが、その後改良され、現在では、1カプセル中にTHC2.5mgの他にもCBD1.25mgが含まれている。CBDには精神活性はないが、最近では治療効果が高いことが知られるようになって注目を集めている。臨床試験 では、1日に2回1カプセルづつから開始して3日ごとに1回1カプセルづつ増量し、最高1日10カプセルまでに制限した上で最適服用量を決めている。

  • ナミソール
  •   オランダの エコー製薬 が開発しているカナビス錠剤。THCが99%以上の植物から成分を抽出してドライパウダー化したものを錠剤にしたもので、舌下で溶かして摂取する。発現はハーバル・カナビスをバポライザーで摂取するより若干遅いが、吸収効率は1.5倍優れているおり、血中濃度は33分でピークに達し、下がってからも効果が長時間持続する。1錠中のTHCは1.5mgで、20錠でパッケージされている。非常に有望な製剤だが、まだ臨床試験が行われる前の段階にある。(参考:オランダの製薬会社、5年以内のカナビス・ピル販売に照準

  • THCファーム製剤
  •   ドイツの THCファーム のカナビス製剤。繊維用のヘンプから抽出したCBDを化学的に異性化してTHCにしたもので、経口用のオイル溶液とバポライザー吸引用のアルコール溶液がある。














  • ドロノビノール
  •   ドロナビノールは、天然のカナビスが医療用に使われるのを防ぐ目的でアメリカ政府が主導して開発した合成THC。化学的には天然のカナビスのTHCと同じものであるが、ドロナビノールと命名することで法的には別のものとして扱われている。1986年には 規制薬物法 の第2分類に加えられ、1996年以降に多くの州で医療カナビス法が成立するようになると、それに危機感を抱いた当局は、2000年に第3分類に格下げして利用拡大をはかっている。

    ドロナビノールという名前はしばしばマリノールの別名として使われているが、厳密には、マリノールはドロナビノールを原料にした製剤の商品名で、全くの同義語ではない。

  • マリノール
  •   マリノールは、アメリカ政府の多大な財政支援を受けてユニメッド製薬が開発した合成THC製剤で、ドロノビノールをゴマ油に溶解してカプセル化したもので、現在ではソルベイ製薬 が、2.5mg、5mg、10mgの3種類を販売している。アメリカでは最もよく使われている合成カナビノイド製剤だが、値段が高いことや精神活性が高いことなどから、好ましい評価をしている患者はあまりいない。(マリノール 対 天然のカナビス、両派の意見と患者の選択

  • セサメット
  •   セサメット (ナビロン) はイーライリリーが開発したドロノビノール1mg入りの錠剤で、1985年にFDAから認可を受けた。その後、業務上の理由により市場から姿を消していたが、2004年にバレント製薬が権利を買い取り、現在カナダとイギリスで制吐剤として販売している。

  • WIN55,212-2
  •   天然のカナビノイドとは化学構造が全く異なる人工的な合成カナビノイドで、THCよりも効果は若干劣るが、レセプターとの親和性が強く少量で効果が発現することが知られている。動物実験でよく使われているが、効果がマイルドで長時間持続することから医薬品としても期待されている。似た合成カナビノイドには、デクサナビノール(HU-211)、HU-210、JWH-133などがある。






  • アコンプリア
  •   この薬は、フランスのサノフィ・アドベンティス製薬がカナビノイド・ブロッカーSR141716Aとして開発したもので、ヨーロッパでは、抗肥満処方医薬品として認可されている。20mgの錠剤で経口投与する。アメリカでは認可されていない。