カナビスと精神病の問題
法規制によるコントロールの必要性
Source: NORML & NORML Foundation
Pub date: Updated May 2, 2007
Subj: Cannabis, Mental Health and Context: The Case For Regulation
Author: Paul Armentano, Senior Policy Analyst
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=6798
最近イギリス政府とアメリカ政府は相次いで、カナビスの主要な精神活性成分であるTHCが精神障害や統合失調症のような精神病のトリガーになるとして、厳正に対応すべきだと警告を発表している。
AP通信などのニュースによると、ロンドン・キングス・カレッジの研究チームは、合成THCの投与すると、パラノイアに関連している脳の下前頭皮質の活動を一時的に妨害することを見出したと報告している。また、一方では、精神活性のない成分であるカナビジオール(CBD)には、逆に精神のリラックスを促す効果のあることも分かったとしている。
また、報告書では続けて、カナビスの使用で統合失調症の症状を悪化させることを示したとする別の未発表研究を引き合いに出して、カナビスを長期間使っているとさまざまなタイプの精神病を引き起こす可能性があると指摘している。
だが、このような臨床発見や指摘は特に新しいわけでもない。THCには精神活性作用があることは何十年も前から分かっており、喫煙直後に血中濃度がピークに達するとさらに活性の強い11-ハイドロキシーTHCへと代謝して、特にカナビス初心者ではたまに、情動不安やパラノイア、最悪の場合はパニックすら引き起こすことも知られている。
また、CBDに抗不安効果や抗精神病効果があることについても、科学者の間ではずっと以前から言われてきた。実際、合成THCの マリノール では、精神活性がより促進されることが知られているが、これはCBDが含まれていないために起こるのではないかと考えられている。これに対して、天然のカナビスではCBDも同時に生成されるので、その抗精神病効果によってTHCの精神効果が抑えられてマリノールのようにはならないと言われている。
カナビスの長期使用が、特に統合失調症をはじめとするさまざまな精神病に確実に関連しているという恐怖話しは古くから語られてきたが、最近発表されたメタ分析の研究では、たとえ長期であってもカナビスを適度に使っているならば、「持続するような身体および精神的な害に苦しむようなことはなく、…総合的に見ると、余暇用途で使われている他の主なドラッグに比らべれば、カナビスは比較的安全なドラッグと見なすことができる」 と報告している。[1]
カナビス研究の現状と政府の課題
もちろんカナビスは無害ではない。無害なものはないという意味で、「比較的安全」という言いまわしはカナビスと精神病におけるあらゆる議論で妥当な表現と言ってもよい。多くの場合、ドラッグの危険は、それを使う環境(セッティング)とユーザーの状態(セット)によって増えたり減ったりする。カナビスもその例外ではない。
現在までのところ、データは限られてはいるが [2-3]、若い時期にカナビスを使い始めると、うつ病や精神障害さらに統合失調症のような病気を引き起こしやすいことを認めた長期的研究もいくつか発表されている。 [4-6]
しかし、データの解釈においては困難が伴ってよくわからない場合が多い [7-9]。貧困や家族の精神病歴や他のドラッグとの併用といった錯綜とした要因も考慮に入れて判定することは難しく、もし不可能でないとしても、研究者にとって、カナビス使用と精神病の相関関係だけではなく、いわゆる因果関係があるかどうかを誰でも認める方法で決定できるかどうかという問題もある。
また、多くの専門家が指摘しているように、うつ病や精神病の症状を持つと診断された者の調査データやケーススタディでは、患者が症状緩和のためにカナビスを自己治療で使っていることが多く [10] 、医学関係者たちの間では、それが相関関係に表れているという見方が一般的になっている。このために、精神病の特定の症状に効果のあるカナビノイドを使った臨床研究を行うことも提言されている程なのだ。 [11]
ロンドン精神医学研究所の研究チームが発表した最新の大規模研究では、以前にカナビスを使っていた人で統合失調症と診断されたグループとカナビスを使ったことのない同年齢の対象群を比較したところ、病気の症状がより悪化しているような違いは見られなかったと報告している。「このことは、カナビスが統合失調症のような明確な精神病の原因になるという議論が成立しないことを示している」 と結論付けている。 [12]
この研究では、カナビスを使った人のほうが、使った経験がない人よりも統合失調症になる率が大きくなるかどうかについてまでは触れていないが、2006年に発表されたイギリス薬物乱用問題諮問委員会(ACMD)の報告書では、「現在のエビデンスからは、最悪の場合でも、カナビスの使用が統合失調症に発展するリスクは1%までと言える」 と結論を書いている。 [13]
とは言っても、この関連がもっと明確になるまでは、未成年(とくにティーン前半)や精神障害の兆候のある成人に対して、カナビスなどの精神に影響するドラッグを多量に使わないように政府がさまざまな警告を繰り返すことには意味がある。しかしながら、こうした政府の言動が刑罰によるカナビス禁止を是認するものならば、節度を持ってカナビスを使っていれば比較的安全であると考えている大人には受け入れられることはない。実際にすべきことは禁止とは反対のことなのだ。
健康へのリスクは、禁止法ではなく、法規制によるコントロールを求めている
ドラッグ使用による健康リスクが科学的に明らかになったとしても、それは必ずしも自明のごとく刑罰による禁止を正当化するわけではなく、むしろ法による規制を導入してコントロールしたほうが良いという根拠になる。
時にカナビスの場合は、もし研究で、「12才以前にカナビスを使った人は、18才以上になってから始めた人に比較して、成人になってから深刻な精神病になる率が2倍になる」 [14] ことが示されたとしても、それは、禁止することよりも、カナビスをアルコールと同じように法で規制・管理して未成年の使用や売買を制限する予防措置を設けるという方法のほうが好ましいことを意味している。 [15]
アルコールと同様に規制・管理することは、大人によるカナビスの責任ある使用を犯罪として禁止扱いしないということで、そうでなければ、一部のティーンエイジャーたちのアルコール乱用が大人の飲酒を全面的に禁止するというとんでもないことになってしまう。
また、「カナビスがトリガーになって精神障害を引き起こす特定の遺伝子が4人に一人の割合で存在し、遺伝子のない人に比較すると発症率が5倍に増える」 [16] という研究もあるが、これもまた法によるコントロールが好ましい理由となる。仮に、カナビスで精神障害を受けやすい遺伝特性を持った人たちが少数存在するとすれば、法のコントロールによりそのような人たちを対象にカナビスのリスクについて教育して使わないように促すことができる。
実際的な例をとしてはイブプロフェンを上げることができる。何百万人ものアメリカ人はイブプロフェンを効果的な鎮痛剤として安全に使っているが、肝臓や腎臓に問題を抱える一部の人たちには明らかに多大な健康リスクのあることも知られている。しかしながら、このことは大人のイブプロフェンの使用を犯罪化するように求める動きにはなっていない。これと同様に、最新のカナビス研究がもし正しいとしても、現在のカナビス禁止法を正当化する理由とはならない。
さらに重要なことは、カナビスの禁止法の存在が、市民、とくに若者に何時どのようなかたちでカナビスのリスクが出てくるのか教育する能力を政府自身から限りなく奪い続けてきたという事実だ。
失われた信頼を回復するには、禁止法を終わらせ、カナビスのマーケットを法で規制しコントロールする必要がある。このことは、ティーンエイジャーたちに対する科学をベースにしたタバコの健康リスクや飲酒運転の危険性を訴えたキャンペーンが功を奏し、タバコの喫煙や酒を飲んでの運転が減った実績を思い出してみればわかる。これに対して、誇張と脅しをベースにしたティーン向けの反カナビス・キャンペーンは、参加したティーンの違法ドラッグ使用を増加させる結果となってしまっている。 [17-18]
数年前、オランダのドラッグ政策機構は次のように提言している。「カナビスの健康リスクは非常に限定されたものだが、完全に無害というわけでもない。もし完全に無害ならば、お茶などと同じルールを適用することができるが、明らかに健康リスクを伴うので、カナビスには特別な法的規制システムを用意する必要がある。カナビスを自由に利用できるようにすべきではないが、規制を設けることでごく普通のものとして寛大に扱うことができる。」
以上のことから、禁止法をさらに強化して、法の撤廃要求を押さえ込むための武器を整えようと目論んでいる最近の政府の反カナビス・キャンペーンには、何ら将来の展望はないと言える。
参考文献
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