ドラッグ戦争に勝利はない

ドラッグ合法化を主張する警察官たち


Source: Herald, The (UK)
Pub date: November 29, 2006
Subj: HOW DO WE WIN THE WAR ON DRUGS?
Author: Jennifer Cunningham
http://mapinc.org/newsleap/v06/n1627/a02.html


先週、フィレンツェの美術館を訪れていた時のジャック・コール氏はただの中年の旅行者だった。だが、昨日はカメラ・クルーに囲まれて、スコートランド・グラスゴーにあるストラスクライド警察署に姿を現した。上着を脱ぐと、Tシャツには人目を引く大きな文字で 「ドラッグ合法化を求める警察官。応質問」(Cops say legalise drugs. Ask me why.) というスローガンが書かれていた。

コール氏は、これまでずっと特別任務の活動をしてきた。警察官としての26年間のうち12年間は、ニュージャージー州警察の覆面麻薬捜査官として、国際的なドラッグ密売組織や地元のディーラー、末端のユーザーたちを相手に戦ってきたが、今では、ドラッグ合法化を求めるキャンペーンを繰り広げている団体のスピーカーとして活躍している。

彼は、この30年間、ドラッグ戦争を標榜する政治家たちは膨大な税金を費してきたにもかかわらず、何ら勝利していないと主張する。警察での最後の2年間は、殺人で逃亡中のドラッグ・ディーラーを装い、銀行を襲うテロ組織のメンバーを追跡してきた。テロ組織は、銀行の本部や裁判所、警察署、飛行機などに爆弾を仕掛けたり、最後は警察官まで殺害した。

「もし、私の素性がバレていたら、間違いなく殺されていますよ。でも、私が逮捕した多くの人たちは単純なユーザーでした。全体ではこの36年間に、暴力を伴わないドラッグ事犯で3700万人もの人びとが逮捕されましたが、それにもかかわらず、今は、私が私服警官になった1970年代初頭に比べて、ドラッグは安く強力で入手も簡単になってしまっています。その一方で、人びとがストリート・ドラッグで命を落としているのに、ドラッグの元締めやテロリストたちはますます大金持になっているのです。」

彼は、元警察官の仲間や退任した裁判官、刑務官たちとLEAP(Law Enforcement Against Prohibition、禁止法に反対する法執行官)を組織し、ドラッグに関連する大半の問題がドラッグを違法にしている結果引き起こされていると訴えている。それは、アメリカのかつての禁酒法が、合法の時より犯罪ばかりを生んだのと同じだと言う。

「1933年に禁酒法が廃止されたとき、アルカポネの密売仲間たちのビジネスは成り立たなくなりました。もはや、市場をコントロールするために、お互いを殺し合いこともなくなりましたし、警官を殺すこともなくなりました。巻き添えで子供たちが殺されることもなくなりました。しかし、今また、こうしたすべてが再び起こっているのです。」

「もしドラッグを合法化すれば、同じような恩恵を受けるだけにとどまりません。アメリカ疾病対策センターによれば、新しく肝炎になるケースの50%が注射針を共用した結果起こっているのです。ドラッグが合法なら、注射針の共用など必要なくなります。禁酒法の時も、メチル入りの密造酒で盲目になったり死んだりする人が大勢いましたが、何かを禁止すれば、製造を規制管理したり、流通をコントロールすることができなくなってしまうのです。」

「現在、ドラッグのオーバードーズで人が死んでいるのも同じ理由です。より強い効果を求めて、何回も注射するぐらいでは誰も死んだりしません。死んでしまう理由は、いわゆるホット・ショットといわれている得体の知れない混入物のせいなのです。混ぜものが10〜15%ならまだしも、90%になってしまったら死んでしまいます。」

コール氏が今回スコットランドを訪れたのは、イギリス最大の警察連盟の一つであるストラスクライド警察連盟の代表ジム・ダフィー監察官の招き応えたもので、今年の始めに、7700人いるメンバーの一部からヘロインやコカインなどA分類のハードドラッグの合法化を求める議論が湧き起こったことがきっかけになっている。

ダフィー代表は、ストラスクライト警察署やスコットランド警察連盟が合法化を求めているわけではないと断わりながらも、現在のドラッグ政策が有効に機能していないことに不満を抱き、代替政策を真剣に考えることを望むメンバーが増えてきていると指摘している。

「メンバーたちは、ドラッグディーラーを捕まえても、警察署に連行する間もなく、すぐに別のディーラーが登場してくるような状況に不満を述べています。現在は、ドラッグに対するコントロールができないわけですが、合法化すれば75〜80%はコントロールできるようになります。そうすれば、多くの資金を別の警察活動や教育やリハビリに回すことができるようにもなります。」

彼は、現在のアプローチを変えるには大転換が必要になることは分かっていると述べながらも、現在でも「ドラッグ・フリーといえるような通りや町や村はどこにもないのです」 と語っている。

ロシアン州とボーダー州で警察副所長を務めた経歴を持つスコットランド・アルコール&ドラッグ・アクションチームのトム・ウッド代表は、今回の議論には理解を示しているものの、合法化については支持できないと主張している。

「確かに、ドラッグ戦争という政策はあまりよい発想だったと思いませんが,1970年代初頭の状況を考えると仕方がなかったとも言えます。現在はその不完全さの付けが回ってきているだけで、効果のある執行モデルを考えなおすべき時期にきているのです。ですが、ドラッグの合法化は、スコットランドの将来を考えれば実際的だとは思えません。警察の活動はディーラーたちに明確なメッセージを伝えるために重要なので、現在のレベルを保つ必要があります。」

「もちろん、警察の活動には限界があります。期待が大き過ぎても、われわれだけでできることは限られています。警察の活動ばかりではなく、治療や教育活動も加えて3本柱が必要です。中でも最も重要なのが教育です。ドラッグの取引は、供給よりまず需要が先にあるからです。」

「こうした点に関しては、全く成功していません。現状を全面的に改善するには、長期的視点に立って需要を減らすような冷静な計画が必要です。大きな問題は、無法地帯のヘロイン・ユーザーだけにあるのではなく、アルコールも含めて、コカインなどの精神性ドラッグを使うリクレーショナルなユーザーたちなのです。われわれは、この国のすべての若者と話し合って勝利をおさめなければならないのです。」

彼は、いろいろな疑問があるにしても、ドラッグ使用から犯罪をなくすための答えは単純だと主張しつつも、「この問題に対するバランスのとれた深く広い議論が行われていないので、議論することには賛成です。議論を刺激する必要がありますから、警察連盟がメンバーに合法化といったラジカルな意見を投げかけることは、とてつもなく果敢なことだと言えます」 と語っている。

しかし、コール氏たちについては、「ユートピアを夢想しているだけです。われわれは、ここにある世界に生きていかねばならないのですから」 と非難している。これに対して、コール氏やジム・ダフィー氏側は、現在の政策こそ現実の世界で機能していないのだと反論する。

コール氏は、「イギリスやスコットランドの人たちと話をする時に、私の方から、どのようにすべきだなどと押し付けることはできません。しかし、アメリカが辿ってきた破壊や大災難を繰り返さないように警告することはできます。アメリカは、この36年間にわたって1兆ドルもの資金をドラッグ戦争に注ぎ込んできましたが、今でも毎年690億ドルもの税金を無駄に捨て続けているのです。中毒は克服して止めることはできますが、過去に失ったものは永遠に取り戻せません。」