合成カナビノイド・ブロック製剤

リモナバントに販売中止命令


Source: Counter Punch
Pub date: 3 Nov 2008
Adieu, Rimonabant
Author: Fred Gardner
http://www.counterpunch.org/gardner11032008.html


ヨーロッパ医薬品審査庁(EMEA)は、サノフィ・アベンティス製薬に対して、リモナバントの販売を中止する命令を出した。リモナバントは、脳内のカナビノイド・レセプターをブロックすることで食欲を抑制する薬で、アコンプリアという商品名でイギリスをはじめとする各国で約70万人に販売されている。


相次ぐ副作用の報告

現在いくつかの臨床試験が進められているが、リモナバントを使っている人たちはプラセボ対照群の人に比較して2倍の率で、鬱、不安、不眠、攻撃衝動などに苦しんでいる。そのうちの一つの研究では、リモナバント使用者の5人が自殺している。これに対して、プラセボは1人だけだった。10月23日、ついにEMEAは12か国語で 「もうたくさんだ」 という声明を発表した。

10月の初めには、メルク製薬が突然、トラナバントと呼ばれるカナビノイド・ブロッカーについて行っていた5件の臨床試験をキャンセルしている。精神に悪影響を与える隠されたパターンが、アメリカとヨーロッパ規制当局によって次々に明らかにされたからだった。

現在のところではまだ公にされていないが、そうした副作用は、カナビノイド・システムが抑制のために重要な役割を演じている癌、発作などの疾患に対しても現れる。この8月にはメリーランド州アンダーソン癌センターの研究チームが、マウスにリモナバントを投与すると、対照群に比べて癌性のポリープになりやすいと報告している。


無視された危険性の懸念

カナビノイド・レセプターをブロックする薬の危険性については、カリフォルニア州のジェフリー・ヘルゲンレーター医師によって予測されていた。彼はそれまで多数の患者の医療カナビス使用を観察してきたが、カナビノイド・レセプターをブロックすることに懸念を抱き、2004年に開催された国際カナビノイド研究学会(ICRS)のカンファレンスで初めてこの問題を取り上げた。

このカンファレンスには、サノフィ製薬の研究者たちも参加しており、リモナバントの安全性と有効性については1万3000人におよぶ臨床試験で証明されていると報告していた。この年のICRS功績賞には3人のサノフィの研究者が選ばれて、カナビノイド研究の大御所であるイスラエルのラルフ・マッカラム博士から賞が授与された。

カンファレンスに参加した多くの研究者たちは、サノフィ製薬とアメリカ国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)から研究用にリモナバントやその他のカナビノイド・ブロッカーを使うことが認められたが、このアプローチに根本的な懸念を表明する人は少なく、公式記録としても残されることはなかった。


カナビス専門医たちとFDAの決定

実際、「健常者の生理機能に対して、カナビノイド・レセプター・システムを妨害すると何が起こるのかについては評価が行われていない」 として、サノフィ製薬が市場投入を急ぐ正当性に疑問を投げかけたのは、ヘルゲンレーター医師とジョン・マックポートランド医師の2人だけしかいなかった。

ヘルゲンレーター医師は、私が編集するカナビス臨床医協会(SCC)の雑誌オショーネシーの中で、すでにサノフィ製薬がリモナバントを市場に出す以前に、「カナビノイド・システムを妨害した結果を評価するために長期的な研究を実施するように計画しなければ、倫理に適わない」 と指摘し、警告を混えた本格的な記事が、2004年7月24日のカウンターパンチに初めて掲載された。

ヘルゲンレーター医師をはじめとするカナビス専門医師たちは、カナビノイドの活動を促進するレセプターをブロックして治療効果を得るには、医師と患者が相談しながらカナビスの摂取(喫煙や食べる)によってカナビノイド・レベルを慎重に調整することがもっとも適切だと考えている。そのために、リモナバントに懸念を抱くのは共通している。

医療カナビスの第一人者であった故トッド・ミクリヤ医師も、食品医薬品局(FDA)に書簡を送ってリモナバントを承認しないように進言している。それに応えるように、2007年にFDAの医師委員会は、FDAの威信をかけて全会一致でサノフィ製薬の申請を却下した。この決定の背景には、市場投入後にその危険性が指摘されたバイオックス(Vioxx)の影響もあった。


補償仮説

リモナバントのブロック対象になるレセプターは脳の感情をコントロールする広い部分に分布しているが、リモナバンド開発に駆り立てられたサノフィの科学者たちは、果たして、患者の気分を抑制せずに周辺のカナビノイドの活動だけを抑え込むことができると考えたのだろうか? あるいは、体内に生成するエンドカナビノイドの恩恵を失うことなしに、ブロッカーのリモナバントがうまく働いてくれるはずだと考えたのだろうか?

その仕組みについては、カナビノイド・レセプターをブロックするとエンドカナビノイドが目標を別に移すので、「補償機構」(compensatory mechanisms)が作動するようになるからだといった仮説も語られているが、この説には希望的な側面も強い。

SCCのカナビス・ドクターの一人であるフィル・デニー医師も、一時、リモナバントの市場進出活動には希望も持てると語っていた。彼によれば、カナビノイド・レセプター・システムが本格的に明らかになってきたのは1990年代の後半からなので、まだ大半の医学学校のカリキュラムには含まれていないが、リモナバントの出現でアメリカの医師たちもカナビノイド・システムについて勉強するようになるに違いないと言う。

デニー医師はSCCの仲間の医師に対して、アメリカ医師会の雑誌JAMAに掲載された2ページのサノフィの広告に注目するように熱心に薦めた。広告には、「新しく発見された生理学システムで… エンドカナビノイド・システム(ECS)はメタボリック症候群と戦う薬のターゲットです」 と書かれている。メタボリック症候群は糖尿病の一連のリスク・ファクターを指す言葉で、サノフィのマーケッターは自身の薬を宣伝するために盛んに使うようになった。


急速に萎えた啓蒙機運

JAMAの広告は、サノフィ製薬がリモナバントの働きのメカニズムを説明するために多くの医学誌に掲載したものの一つで、それらの中では、「エンドカナビノイド・システムは、信号伝達分子とレセプターで構成されたシステムで、カナビノイド・レセプターのCB1やCB2も含まれています。CB1レセプターは、脳の中枢部、肝臓の周辺部、筋肉や脂肪組織などに見られ、脂質やグルコースの代謝などの生理プロセスを調整するのを支援していると考えられています」 などと書かれている。

しかし、デニー医師の啓蒙機運の拡大への期待は急速に萎んでしまった。サノフィ製薬の「メタボリック疾患」という定義付けは、イライリリー社の「臨床うつ病」 になるという現実的な疾患を前にして意味を失ってしまったからだった。

アメリカでは、セロトニン再取り込みプロセスについての教育は行われているが、カナビノイド・レセプター・システムについてはそれほどの指導は実施されていない。

情報がいくつかの医学雑誌の広告に掲載された程度のものであれば、マスメディアも決して関心を示すことはない。リモナバントの盛衰を扱った記事があっても、その大半は 「カナビノイド・レセプター・システム」 という用語を全く避けて使っていない。


読者が学ぶことを妨害するマスコミ

例えば、10月24日のウォールストリート・ジャーナルでEMEAの承認取り下げをあつかったジーン・ウォーレン記者の記事では、リモナバントのことを 「脳内にある食物摂取コントロールのためのレセプターをブロックする新しい種類の薬」 と表現している。

カナビス禁止法を支持する出版社の記者たちは、読者がカナビノイド・レセプター・システムなどについて学ぶのを防ぐように意図して記事を書くのが当たり前になっているが、そうしたやり方に染まりついてしまっている記者たちが実際に果たしている役割についても過小評価できない。

2007年3月にFDAがリモナバントの審査をしていることを扱ったウォーレン記者の一面記事では、「マリファナの活性成分であるカナビスは、同じレセプターに作用する」 というような不正確で首を傾げてしまうようなフレーズに満ちている。

さっそく私は親切心を出して、「カナビス」と「マリファナ」 は同義語で、植物にはさまざまな活性成分が含まれているという説明を編集デスクに送ってみたところ、ウォーレン記者からは次のようなEメールが返ってきた。

「ご意見ありがとうございます。読者の皆様の声が聞けることは常にありがたいことだと思っています。私は、ご指摘の部分を専門的な意味で書いたわけではありません。マリファナがカナビスから作られることを言いたかっただけです。しかし、ご指摘には感謝しています。敬具 ジーン・ウォーレン」

ますますトンチンカンになってきた。だが、この女性が、ウォールストリート・ジャーナルでヨーロッパの製薬産業をカバーしているのが現実でもある。


they are "potdocs.

リモナバンとには深刻な副作用の可能性があると警告を発してきたヘルゲンレーター医師やSCCの医者たちは、そのことで何らかの栄誉を受けたのだろうか? もちろん何もない。彼らは 「カナビス・ドクター」 だからだ。

ヘルゲンレーター医師は、この週末の時間を使って患者のために裁判所に手紙を書いていた。裁判官は、ヘルゲンレーター医師の他にも整形外科医からも第2の医療カナビスの推薦状をもらわない限りは患者のカナビスの使用を認めないとする意向を示していた。

患者は、背中に痛みを抱える中年の建設労働者で、病歴についてはよく整った資料もあった。入院して、カイロプラクターや鍼灸師、整骨医、理学療法士から治療を受けて、セレブレックス、フレクセリル、ソーマ、バリウム、バイコディン、ペルコダン、パーコセット、ダーボセット、ウルトラム、イブプロフェン、ナポロキセン、などの処方を受けていた。

裁判官は、自分が医師だと勘違いしているばかりではなく、痛みの治療に関しては整形外科医は何の専門知識を持っていないことすら理解していない。ヘルゲンレーター医師は、2004年の夏にリモナバントに警告を発して外交力を発揮したのと同じように、裁判官にも外交交渉するように手紙を仕上げていた。