アメリカ・インディアナ州

処方医薬品の過剰摂取死亡が激増

Source; Indianapolis Star
Pub date: 30 June 2008
Overdose deaths jump 147% in Indiana
Author: Tim Evans
http://www.indystar.com/apps/pbcs.dll/article?
AID=/20080630/LOCAL/806300350


最近発表された報告書によると、アメリカ・インディアナ州ではドラッグの過剰摂取によって死亡した人の数が、2004年には1999年の2.47倍(147%増)にまで急増していることが明かになった。増加は、処方医薬品の乱用が増えたことが主な原因になっている。

この問題は終息する様子はなく、状況はさらに悪化する気配を見せている。今回の調査研究にも加わった一人で、インディアナ大学健康政策センターの代表でもあるエリック・ライト教授は、「処方医薬品の乱用は今まで大きな問題になったことはありませんが、この蔓延によって次の世代の中心的な問題として急浮上してきました」 と指摘している。

最も深刻なのは若年成人や未成年の間で行われている 「ファーマ・パーティ」 で、持ち寄った処方医薬品のピルをボウルにまとめてから無差別に掴んでそのまま飲んでしまうようなことが流行っているようだと言う。


今回発表された 『インディアナ州で懸念が増すドラッグの過剰摂取死亡』 (Fatal Drug Overdoses: A Growing Concern in Indiana)によると、1999年には1日1件にも満たなかった過剰摂取事故が、2004年には147%増で1日で2件近く発生するようになっている。この増加率は、同期間の全国平均の57%の2.5倍を越えている。

全国調査では、違法ドラッグの使用やアルコールの無茶飲みは同期間に目立っては増えていないが、インディアナ州の場合も同様であることは今回の調査でも確かめられている。

インディアナ州では、これまでドラッグの乱用問題としてはアルコール、タバコ、カナビスに次いで、処方医薬品の乱用は4番目に深刻とされてきたが、今後5年でカナビスを抜いて、アルコール・タバコ・処方医薬品が3大問題になりそうだと教授は言う。

今回の報告書でも、一般の人たちや医療関係者に対して、違法ドラッグと同様に合法ドラッグの危険性についてもっと教育することに力を注ぐことを求めている。



危険だという認識がない

昨年の12月、州都インディアナポリスの西に位置するパットナム郡グリーンキャッスルで17才の高校生ディートリッヒ・ジャクソン君が、バスケットの試合の後のホームパーティで何種類かの処方医薬品を飲んで死亡する事故があった。

この事故について、パットナム郡のティム・ブックウォルター検事は、当局側では全く不意を突かれた状態だったと言う。「死亡事故はアンフェタミンやクラックなどでは大問題になっていましたが、処方医薬品に対してはそのような認識は持っていませんでした。処方医薬品の乱用が、特に若者の間では急激に浮上してきたのです。」

「処方医薬品が魅力的なのはどの家にもあるので簡単に手に入るからです。外へ出かけてディーラーを探したり、高いお金を払う必要もありません。しかも、そうした処方医薬品がコカインやヘロインやアンフェタミンにように危険なものだとは思っていないので、違法ドラッグとは別物と考えているのです。そもそも危険だという認識がないのです。」

孫のジャクソン君を育てたチャリティ・パンクラッツさんは、彼がアルコールやカナビスの誘惑に負けることを心配していたが、まさか処方医薬品でこんかことが起こるとは考えてもみなかったと言う。また、ジャクソン君がドラッグ・フリーの人生を送ることを誓ったリストバンドをしていたので、何となく安心して油断していたとも話している。

裁判所の記録によると、ジャクソン君は死亡した日の夜に、ビールを飲みながら、抗不安剤のザナックスと強力な鎮痛剤として知られるオキシモルホンを粉にして鼻から吸っていた。

「ディートリッヒには間に合いませんでしたが、孫の死がみんなの注意を呼び覚まして、子供たちがそのようなことをやらないようになれば少しは気が楽になるのですが。」


身近になった処方医薬品

インディアナ州の1999年頃のドラッグの過剰摂取による死亡は、全国平均に比べてもかなり低かったが、発表されている最も新しい全国データの2004年にはほぼ追いつくまでに増えている。2005年にはさらに増えて完全に追いつき、初めて死亡率が住民1万人に一人の割合にまでなった。

1999年から2005年までの過剰摂取死亡者数は2958人で、州都インディアナポリスのあるマリオン郡では572人、周辺の8郡を含めると924人にまで達している。しかし、都市部にだけ偏っているわけでもなく、ヘンリーやスコット、シュタルケなどの田舎の郡でも最悪の水準になっている。

ライト教授は、インディアナの田舎の孤立した地域が他よりも事態が悪くなる理由について、違法ドラッグの入手が難しく一部のユーザーが代替として処方医薬品を試すことや、地域特性としてコミュニティの中で流行しやすいという特徴があるためだと説明している。

最も乱用されている処方医薬品はオピエートと興奮誘発剤で、多くの人にとって家族や友人から入手しやすい薬であることが大きな理由になっている。

例えば、インディアナ州でのオキシコドンの処方は、2002年には2900万錠だったものが2007年には5400万錠へと倍近くも増えている。どの家庭の薬箱にも入っているような状態で、誰でもが簡単に使えるようになってしまっている。


難しい解決策

処方医薬品の乱用問題は複雑で明確な答えを出すことが難しい。ライト教授は、「社会がピル指向な上に、宣伝やマーケッテイングも非常に盛んで、安全のイメージが絶え間なく流されているような状態ですから」 と言う。

ドラッグ乱用問題にはついては、何年も前から対応プログラムがあることはあったがで不十分だったことは明らかで、報告書では、医師と薬剤師にも加わってもらって解決策を探ることを提案している。ライト教授は、「どのようにしたら、必要な医薬品を不必要なほど多く供給せずに提供できるか考えなければなりません」 と言う。

しかし、内科医で退任間近のインディアナ州医師会のビジャ・コーラ会長は、医師にとって患者さんの痛みに対処することは最も困難な問題の一つだと語っている。

「基本的に痛みは主観的なもので、その大きさを客観的に計る方法はありません。当然のことながら、不十分な治療では痛みに対処できませんし、かといって過剰な治療にも問題があります。バランスが非常にデリケートなのです。」

州医学会は、昨年、医師たちに規制薬物の処方についてのセミナーを実施しているが、セッションでは、患者の評価の仕方や、文書作成の方法、調剤の基準をどう遵守するかなどについて取り上げている。

コーラ医師は、また、州の薬剤委員会が中心になってプログラムを拡充して、病院を渡り歩いて何重にも処方箋を取得するドクター・ショッパー患者の数を減らすようにすべきだとも指摘している。

医薬品の処方をデータベース化したチェック・プログラムは1994年には開始されてはいたが、2007年までは法執行関係者しか利用することはできなかった。しかし、現在では改められて、医師や薬剤師も処方医薬品の乱用が疑われる患者をチェックできるようになっている。

処方医薬品の乱用問題は、最近、州政府のドラッグ・フリー委員会の主要な課題としても扱われるようになっている。委員会では、昨年、550万ドルを費やして郡の教育・治療・法執行プロジェクトに取り組んでいる。

しかし、処方医薬品の中毒に立ち向かうことはそんなに簡単ではないという批判もある。

インディアナポリスに住むデビッド・スタンレーさん(55)は、1980年代に背中の手術を受けてから与えられた医薬品が習慣化してしまい、薬の必要性がなくなってからも精神的依存性が亢進して中毒になってしまったと言う。

現在では、中毒を克服して薬を飲まなくなってから33か月になるが、「これは、アルコールかそれともコカインかヘロインか、あるいは医薬品かというような問題ではないのです。本当に知らなけれはならないことは、どれもが同じところへ連れていかれるということです。牢屋か施設か、それでもなければ死です。」

今回の報告書: Fatal Drug Overdoses: A Growing Concern in Indiana

処方医薬品の過剰摂取による死亡事故が急増しているのはアメリカ全体の共通する問題だが、この記事で注目されるのは、今後5年で処方医薬品がカナビスを抜いて、アルコール・タバコ・処方医薬品が3大ドラッグ問題になるという認識を示している点にある。

医療カナビスに対する認知が広がっていることもあるが、処方医薬品の乱用問題が大きくクロズアップされるようになるに従って、社会のカナビスに対する見方が決定的に変化しはじめている。

もともとカナビスでは死亡することもないし、それほど危険性が高いわけでもない。そのために、禁止論者たちは実に些細なことまで列挙して悪害を誇張して言い立ててきた。

ドラッグ・フリーを目指すという彼らにとっては、カナビスを徹底的に押さえつけることが正義になってしまっているので、当初から合法的なアルコールやタバコ、カフェイン、医薬品などは眼中にはない。

ドラッグ・フリーの人生を送ることを誓ったリストバンドをした少年が、処方医薬品の乱用で死んだことはそれをよく象徴している。

彼らは、理屈が通らなくなると 「Just Say No!」 と叫んで恐怖感を煽ることだけに熱心になる。しかし、今回の記事のように、最近では、医薬品も含めて合法ドラッグのことを考えないこと人たちに対しては、「Just Say Nonsense!」 と言うべき時代になってきた。

また、自分たちは正しいのだから、カナビスを根絶するためには誇張や嘘も許されるという暗黙の了解が、結局は重大な問題を引き起こしている。

カナビスについて嘘を教育された子供たちはやがでそれに気づいて、大人の言っているドラッグ情報は信用しなくなり、真の危険に無頓着になってしまう。

これから必要なのは、アンチ・ドラッグ政策ではなく、ウイズ・ドラッグ政策なのだ。医薬品やカフェインも含めて、合法ドラッグと違法ドラッグを区分けしてみたところで問題の解決には何も結びつかない。

人間はドラッグを必要とする以上、ウイズ・ドラッグ政策でどのようにしたらそれらを上手に使えるのかを考えるべきなのだ。ソフト・アプローチは絶対に認められないという人もいるが、ウイズ・ドラッグ政策は、ソフトではなくスマートなアプローチなのだ。

カナビスは、安全で、さまざまな病気や症状の治療に利用できる。その特徴の一つは、他の医薬品に比べて深刻な副作用が少ない点にある。副作用を抑えるためにさらに別の医薬品を必要としたりはしない。

確かに、品種や摂取法が多様であることもあって、それぞれの人に最適なものを確定することが難しいという側面もあるが、供給をきちんと整備すれば上手に利用する知恵が蓄積することができる。カナビスを上手に使えるようにすることで、危険な処方医薬品もうまく組み合わせてより上手に使えるようになる。

処方医薬品乱用による死亡率、違法ドラッグ全体の3倍以上、フロリダ州  (2008.6.14)

リクレーショナル・ドラッグよりもはるかに多い処方医薬品の死亡事故  (2008.1)
Doctors Are The Third Leading Cause of Death, in the US, Causing 250,000 Deaths Every Year  Barbara Starfield, JAMA Vol 284, July 26, 2000

カナビスの死亡率、他のドラッグよりも危険なのか?