イギリスのドラッグ政策変更を迫る

レディ・オブ・ザ・マナー


アマンダ・ナイトパス (アマンダ・フィールディング)
レディ・オブ・ザ・マナー(領主夫人)


Source: The Sunday Times
Pub date: October 19, 2008
UK: The lady of the manor is out to bend the nation’s mind
Author: Rosie Millard
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article4967570.ece


最高のカントリーライフの見本のようだ。オックスフォードシャー州ベックレー・パークの由緒あるチューダー朝の家の古い壁には巨大なタペストリーが掛けられ、男爵ホールの暖炉からは薪のパチパチ燃える音が聞こえる。大きな花瓶には新鮮な花が溢れ、外は何と三重もの堀で囲まれている。

レディ・オブ・ザ・マナーであるアマンダ・ナイトパス領主夫人(65)は、ビロードとツイードの服を身につけ、顔には余計なメークアップもしていない。その姿はシャビーシックそのもので、とても人の目を引きつける。彼女の口から言葉が発せられる時だけ、この深淵な伝統シーンが少しだけ砕ける。

この日の朝、彼女の違法ドラッグに対するこだわりについて話を伺った。精神活性薬物の世界では、彼女はエキスパートとしてよく知られている。彼女のチャリタブル・トラストでシンクタンクでもあるベックレー・ファンデーションは、意識変容ドラッグの調査研究に携わり、それを通じてドラッグ政策の改革を目指している。

話を聞く前にはどうして彼女が? という謎をしきりに考えていた。だが、彼女が生涯を通じてたびたび意識変容ドラッグを試し、「常に自分自身が最高の研究室だと思ってきた」 と熱心語るのを聞いた時、それまでの謎はすべて氷解した。

今月、彼女のファンデーションに属するグローバル・カナビス委員会は、カナビスの使用や禁止法、コントロールの方法について5人の世界的に著名な科学者たちが慎重に考察した226ページの報告書を発表した。80万ポンド以上の費用を費やした委員会の報告書は、国連やEUの高官、指導的立場にある科学者や法律関係者、ドラッグ専門家を招いた貴族院(上院)のカンファレンスで華々しく披露された。

ナイトパス夫人は、この報告書がカナビス問題のあらゆるエビデンスに関して最も信頼のおけるガイドとして利用されることを望んでいる。報告書の勧告では、カナビスを合法化することまでは踏み込んでいないが、カナビスを禁止している国においては使用や所持に対する刑事懲罰を撤廃するように主張して、軽い罰金とカンセリングをオプションとして採用するように促している。

彼女は、「われわれは、カナビスとまともな関係を築くべきです」と言う。また、一部のカナビス活動家たちと違い、カナビスが無害だなどとは考えていないが、その程度はタバコやアルコールよりもずっと害が少ないと考えている。「子供がカナビスを数服しただけで精神症の泥沼にはまるなどと言うのは冗談を過ぎて悪辣な誇張で間違っています」 と語気を強めて顔をしかめた。

しかし、今日のカナビスは品種改良が進んで、従来のものよりも3倍は強力なっているとも指摘する。「ですが、どのように使えばよいか知っていれば、ダメージを受ける必然などはありません。」

「カナビスは天然の化合物ですからその内容は変化しますし、品種改良で精神活性を抑制する成分が取り除かれていることもあります。しかし、カナビスを政府がコントロールして公認すれば、タバコのタール量やアルコールの度数のように適切な内容表示ラベルの添付を義務付けることもできます。」

確かに素晴らしい。でも、彼女は現実にそうできると思っているのだろうか?

「社会は進んで困難に立ち向かうべきです。しかし、どのような選択が可能なのかを教育した上で、他の人の迷惑にならない限りはその人の選択にまかせるべきです。特に、プライバシーの尊重されるべきその人自身の家の中で自分の脳をどのように使うかといった認知や思考の自由までコントロールすべきだというのは、個人の自由への重大な侵害で行き過ぎです。」

実際、彼女は明らかに、自分の脳とどのように楽しむのかについてはよく知っている。これまでに試してきたドラッグを楽しそうに列挙しながら、「サイケデリックス、カナビス、マッシュルーム、メスカリン、LSD、こうした類のドラッグは人類誕生以来ずっと使われてきたのです」 と説明する。

極めて明解だが、彼女はドラッグのすべてについて同じように考えているわけでもない。例えば薬局で販売している医薬品については一線を画して、「私は、脳をダメにしてしまうようなものについては非常にナーバスです。鎮痛剤などはほとんど摂取しません。毎年、鎮痛剤で2500人もの人が死んでいます。違法ドラッグ全体の死亡者数よりもずっと多いのです。私は、自分が摂取するものについては非常に清教徒的です」 と言う。

ナイトパス夫人のよれば、石器時代の洞穴に残された絵からも古代人たちがドラッグのようなものを楽しんでいたことを示している。「腹穴の絵の中には、古代人の使っている道具には、特定の薬品を作る時に使うと同じものが描かれているのです。」また、古代ギリシャの偉大な思想家たちも、間違いなくドラッグを使っていただろうと考えている。

しかしながら、彼女はヘロインやオピアムのようなドラッグには興味を示さない。コカインは 「1回か2回」 試したことはあるが、全くうんざりする代物だったと言う。「貪欲になるだけのドラッグで、ヒューマニティーという側面を失わせてしまうのです。それが金融の中心であるシティーで流行った理由でもあります。その点で、サイケデリック・ドラッグは全く別物です。」

LSDをやって頭に浮かんだ何かについて書いたことがありますかと聞くと、「もちろんあります。人生の一時期、脳を刺激するために使っていました。絵を描くことに熱中していたのですが、驚くほど視覚が刺激されるのがわかりました。」

人と碁を打つ時も、ゲームの開始前に何錠が飲んでおくと頭がうまく働くようになったとも言う。「ゲームに何目も勝つ回数が増えることが分かりました。ですから相手にハンデを付けなければなりませんでした。碁は非常によい認知テストになります。」 このエピソードは、彼女が意識を転換させてゲームに興じる単なる貴族ヒッピーではなかったことを示している。

彼女の夫のナイトパス卿は、平日はグラスターシャー州スタンウエイにあるジェームス1世時代の邸宅をファミリーホームとして暮らしている。彼女の毎日はベックレー・パークのファンデーションで長時間働き、二人は夜と週末を一緒に過ごしている。

ナイトパス卿は、パススブルグ家遠い親戚でとダンビ伯爵のいとこの血をひいている。アナンダ夫人はダンビ伯爵の弟であるフィールディング家の出身でこの家で育ち、ずっとここで暮らしている。この邸宅はまた、映画ハリーポッターの第2話が撮影されたことでも知られている。

彼女には、若いころ小説家のジョーイ・メレンとの間にできたロックとコスモという二人の息子さんがいる。二人もドラッグを経験しているのか尋ねると、「そのことについては違法なことですから直接お答えできませんが、50%以上の若者が経験しているのですから、自分の息子がやっていないとしたら非常に驚きます。息子の友だちに対してもカナビスをやることに反対しません。でもタバコを混ぜて吸っていればダメだと言います。肺を傷めますから。」

また、もし息子たちがカナビスを愛好しているとしても、ほとんど害になっていないと思うと言う。オックスフォードに行ったロックの成績はファーストクラスで、コスモも古典の2科目でトップの成績を獲得し、オール・ソウル・フェローシップを志願することも薦められている。すぐ前に個人的なことは話せないと言いながらも、「でも、コスモは最終試験を前にして6ヶ月もカナビスをやめていました」 とつい漏らしていた。

彼女は因習には捕らわれないようにみえるが、実際には多くの点で本物のイギリスの自由の伝統の中で生きている。しかしながら、意識変容に対する彼女の探求心はほとんどの人の意識をはるかに越えている。彼女は、若かった頃に頭蓋骨にドリルで穴を開けたことはよく知られている。

一体なぜそのようなことをしたのか? 「頭蓋骨の穿孔手術(トレパネーション)は最も古くから世界中で行われてきた手術なのです。石器時代にも行われていますし、現在でもジャングルの伝統文化に残っています。人間の脳は、3つの強靭な膜のレイヤーで囲まれています。穿孔手術は頭蓋骨から骨の断片を除去することで、脳内の膜が心臓の鼓動に合わせて広がることができるようにするのです」 と説明する。

彼女は、メレンの助けをかりて穿孔手術を受けている。その模様はフィルムにも収められている。驚くべきことに、その経験は彼女の中でずっと続いている。「手術は30年も前になりますから、おそらくもう穴は塞がってしまっていると思われたので、再度行っています。」

彼女は、エレガントな人差し指で右側のこめかみを指差して、7ミリの穴の正確な位置を教えてくれた。その後の感覚に何か違いが出てきましたかと尋ねると、「どの感覚がそれぞれどうなったかをきちんと語るのは難しいのですが、夢のパターンがわずかに変わりました。また、浮力感が強くなったように感じます」 と言うことだった。

また、脳への血液の供給量が増えることで、穿孔手術によって認知症を防ぐことも証明されると考えていると話していた。

何が彼女にこれほどまでに精神のメカニズムについて魅了するのだろうか? 多分、リベラルな生い立ちと小さい頃からの神秘主義への興味が強力に結びついたのだろう。「60年代の始まりを最高にオープンマインドな状態で迎えましたから。」

彼女の探求心が衰える兆候は全く見られない。

ベックレー・ファンデーション
グローバル・カナビス委員会報告書 カナビス政策の手詰まりを越えて
報告書の結論と勧告の抜粋
ベックレー・ファンデーションの紹介パンフレット

このインタビュー記事では、アナンダ・フィールディングの個人的体験が非常に興味深く紹介されているが、グローバル・カナビス委員会報告書の内容についてはほとんど触れられていない。

報告書から受ける印象とは相当隔たりがあるので、報告書そのものに目を通す必要がある。