グローバル・カナビス委員会報告
カナビス政策の手詰まりを越えて
結論と勧告
The Global Cannabis Commision, Beckley Foundation
Date: Sep 2008
Cannabis Policy: Moving Beyoud Stalemate Conclusions and Recommandatitons
http://www.beckleyfoundation.org/pdf/Conclusions_and_Recommendations.pdf
理事 Commissioners
ロビン・ルーム ROBIN ROOM オーストラリア・メルボルン大学
ベネディクト・フィッシャー BENEDIKT FISCHER カナダ・バンクーバー、サイモン・フレーザー大学
ウェイン・ホール WAYNE HALL オーストラリア・クイーンズランド大学
サイモン・レントン SIMON LENTON オーストラリア・カーティン技術大学国立ドラッグ研究所
ピーター・ロイター PETER REUTER アメリカ・メリーランド大学
議長 Convenor
アマンダ・フィールディング AMANDA FEILDING ベックレー・ファンデーション
結論 カナビスの使用とその害について
- この過去50年間にカナビスのリクレーショナル使用は、先進国のみならず一部の発展途上国の広い範囲でティーンエイジャーや若年成人に広く行われるようになった。カナビスが古くから行われてきた先進諸国においては、全体とすれば少数派とはいえ中年以降もずっと使い続けている人も少なくない。
- カナビスの喫煙にはさまざまな健康被害を引き起こす。また、正確な仕事を遂行する能力を損ない、運転前の使えば衝突事故のリスクが増える可能性もある。カナビスを使ったおよそ10%の人が依存性を示すようになり、呼吸器系の疾患、短期的認知機能の損傷(長期的には未確定)、精神症的な症状や精神障害に発展するなどのリスクが高くなる。未成年者の早期ヘビーなカナビス使用は、青年期の学業や心理社会的な成績を低下させるリスクが高くなる。
- ヘビーなカナビス・ユーザーの害の可能性と大きさは、アルコール、タバコ、アンフェタミン、コカイン、ヘロインなど合法または違法の多くの精神活性物質の場合に比較すれば、穏やかで問題は少ない。
- 最近のカナビスは以前のものよりも効力が強くなっているという懸念がある。確かに、多くの国では平均THC含有量が増えていると思われるが、少なくともその原因の一つはカナビスの生産が違法であることからきている。効力の増加による健康への影響については、それぞれのユーザーがTHCの摂取量を調整するテクニックを持っているかどうかに大きく依存している。
- カナビスの使用率は、長期的に見ると、同じ国でもあるいは他国同士の間でもかなり変化する。しかし、そうした変化は、逮捕されることや使用や売買の刑罰の厳しさにはあまり影響を受けないように思われる。カナビス使用の一般的なパターンとすれば、多くの人が、楽しみ、治療効果、クリエティビティなどの恩恵のために使っている。
- カナビスに酔っている時の運転は、他人を傷つける可能性がある。現在では、カナビスの影響下で運転していたかどうかを測定する機材が利用できるようになっているので、酔っ払い運転をやめさせるためにこうした機材を広く導入して規制と法執行を強化すべきだ。運転以外でカナビスが他人を傷つけるケースについては十分定説化したものはないが、おそらく、カナビス依存症になって職場や家族の役割をきちんと果たせなくなることが次に重要な問題だと思われる。
結論 現在の政策の有効性について
- 禁止法と警察活動でカナビスの使用を止めさせようとする努力は昔からずっと続いて行われてきたが、ほとんどの国では、カナビス使用者を逮捕することに法執行の重点が置かれてきた。多数のカナビス使用者を抱える先進諸国では、カナビスの所持と使用が刑事罰の対象になっているが、通常は、法律上の刑量規程に比較すると実際に科せられる罰は軽いものになっている。さらに、カナビス使用が絡んた何らかの事件が起こっても、逮捕にまで至るのは1000件に1件以下のオーダーだとされている。法執行によってカナビスの使用を阻止しようとする努力はあまり成功しているとは言えない。
- カナビス所持に対して厳しい罰則を科すことについては、規範的な面でも実際的な面でもその論理的な根拠は薄い。多くの先進国でここ半世紀に生まれた成人の大多数はカナビスを使った経験を持っている。使用者を犯罪人として扱ってコントロールしようとする体制は、個人のプライバシーを侵害し、社会を分裂させ、その上に多額の費用がかかる。したがって、別の方法を考える必然と価値がある。
- さらに、多くの国の政府の財源が禁止体制の執行のために浪費されるだけではなく、それがまた非常に大きな2次的コストを派生させ、個人レベルではさまざまな苦しみを生み出している。例えば、カナビス所持で有罪判決を受けると仕事や社会活動から排除されることもある。また、逮捕だけでもその個人や家族に屈辱を与える。データが利用できる国の統計を調べると、多くのマイノリティと社会的に恵まれないグループに対する逮捕率が飛び抜けて高くなっている。
- 司法の場では、カナビスに対する刑罰を引き下げたり、所持や使用を非犯罪化しようとする試みも数多く行われてきた。しかし、非犯罪化の結果としてカナビスの使用が急増するような事態は起きてはいない。そればかりか、そうした改革政策は、禁止法のもたらす副作用を改善するのにもある程度成功している。しかしながら、非犯罪化の恩恵は、より多くのユーザーを処罰しようとする警察の活動や法の差別的運用で効果が損なわれる結果も招いている。
国際条約の制約を越えて
- 現在の国際条約はカナビスに対する非罰則化(depenalization)を妨げ、それぞれの国がカナビス体制を改革してよりその国に合ったものにしていくことを拒んでいる。非罰則化や非犯罪化を越える体制を取ろうとすれば、矛盾やパラドックスに陥ることになる。例えば、オランダのコーヒーショップは、フロントドアではカナビスを販売できることになっているが、バックドアで販売用のカナビスを仕入れることについては何も考慮されていない。
- カナビスを禁止しているために、規制・管理によるコントロールができなくなっている。だが、政府にとっては、厳格なコントロール下で合法的にカナビスを規制・管理できる体制へ移行することのほうがアドバンテージがある。市場が合法であれば、課税、利用しやすさの制限、使用や売買の年齢制限、効力の制限、商品ラベルの添付などさまざまな規制・管理手法を駆使してカナビスをコントロールすることができる。また、カナビス使用によるリスクを最小化する他の方法としては、自分の使う分だけの小規模栽培を認め、売買を禁止する代わりにカジュアルなギフトとしてやり取りを認めるやり方もある。
- 国際条約という文脈のなかで、カナビスを規制・管理市場で利用できるようにしようとすれば、政府が取りうる主な選択として次の4種類がある。
(1)いくつかの国では、事実上は合法アクセスを認めながら、便宜的には国際条約に書いてある文に合致するように体裁を整えている。オランダ・モデルがその例。
- もし、このような便宜主義を取らなければ、最も実現可能性のある道としては次の3種類がある。
(2)あからさまに条約を無視して規制・管理体制を取る。ただ、この方法を採用する政府は、国際的に多大な圧力を受ける覚悟が必要になる。
(3)1961年と1988年の条約のカナビスの内容が事実と違うことを非難して、カナビスについては条件付きで規制・管理できるように改訂する。
(4)同じ考えの国と力を合わせて、超国家ベースで新しいカナビス条約について話し合う。
- 他の精神活性の管理体制の経験からすれば、厳格な規制・管理の下でカナビスの使用と売買を合法化したときに長期的にはカナビス使用による害が増加するかどうかについては、両方のケースがあり得る。手緩い体制を取った場合は大規模な販売促進活動を招き、使用のレベルが高くなって害も大きくなるが、厳格なコントロール体制を敷いた場合は、使用のレベルも害のレベルも低く保つことができる。
- 規制・管理された市場でカナビスの使用と売買を合法化しようと望む国は、他の精神活性物質の管理体制の経験を十二分に考慮する必要がある。そうした体制の手法としては、薬局の処方医薬品の扱い、アルコール販売の専売制、ラベルによるライセンス表示、利用コントロール、課税などがある。また、営利のための販促活動に対してはその影響力を制限することに特別の注意を払う必要もある。さらに、タバコやアルコールで行われているようなネガティブ・キャンペーンを行い、市場のコントロールを最小限に抑えながらも好ましい結果を引き出すことに配慮しなければならない。
政策立案のための原則
- 次に節でわれわれの政策勧告を扱うが、勧告の作成に当たっては、公衆衛生活動における一般的倫理原則を指針としている。害を削減する方法は、防ごうとしている害に調和したものでなければならず、可能な限りポジティブな結果を引き出し、ネガティブな結果を出さないようにしなければならない。また、自立した個人への影響は最小限に抑え、特に恵まれない弱い人たちや社会の辺境に置かれているグループに対しては、適正に対処するように十分に配慮しなければならない。
- 現在のカナビス政策は役には立っているという主張もあるが、それを支持するようなエビデンスには乏しい。明らかに、逮捕された多くの人にとっては現在の政策は害になっている。個人の主体性は狭められ、しばしば不正に扱われてもいる。また、カナビス禁止法の執行には多大な費用がかかり過ぎている。勧告作成作業に当たっては、そうしたすべてを考慮に入れてよりよい政策を工夫することに努めている。さらに、通常は禁止法を続けることを支持する意見のほうが一般的であるので、そのことから来る政策への制約の重要性についても配慮している。
- カナビス・コントロール・システムの最も重要な目的は、カナビスの使用から派生するいかなる害も最小限にすることにある。これは、われわれの考え方からすると、カナビスの使用をやむなく認めるものの、害がより少なくなるようなパターンで使うように促すことを意味している。具体的には、使用開始年齢を成人早期まで遅らせたり、毎日の使用は避けるように指導したり、運転する前にはカナビスを使わないように教育することなどがある。
政策勧告
- 政策勧告を作成するに当たっては、事柄への価値判断と不確実な状況への評価という2つの柱が備わっていなければならない。われわれは、ここでカナビスに対する良い政策要素とはどのようなものであるかを勧告しているが、当然のことながら、価値観や状況評価においては異なった考え方を持っている理性的な人たちもいることも分かっている。
現在の国際コントロール体制の枠内で政策を考える場合
- 現在の国際コントロール体制の下では、政府が採用できるオプションは、カナビス使用に対する罰則の度合いを変えることくらいしかない。禁止法の執行を最小限に抑えた状況から引き上げても、その影響で使用率が減ることはほとんどないと思われる。従って、最も重要な政策課題は、禁止法によって派生する悪影響を最小限にすることに向けなければならない。
- もし、カナビスの使用をコントロールするために刑事法を採用するとしても、本来的には個人のカナビスの所持または使用に対して投獄しなければならない正当な理由はなく、刑事有罪とする正当性もあるわけではない。カナビスの所持に対して警察の自由裁量にまかせるような簡易条項を刑事法の中に入れておくと、恵まれない人々の不利になるような差別的な裁量が横行する結果を招く。カナビス使用と所持に対する警察の法執行優先順位はできるだけ低く抑える必要がある。
- 現在の国際条約下では受け入れられるかどうかについては疑問もあるが、さらに良いオプションは、違反処理を行政的に刑事司法制度の外側で行うようにすることで、罰金を低く抑え、代替制裁措置として教育やカウンセリングを受けさせるようにする。これらの措置は、害とその対応の調和原則にもよく適合している。
国際条約から離れて政策を考える場合
- 国際ドラッグ・コントロール体制は、それぞれの国が自国内で運用するカナビス体制を選び実施し評価することを認めたものに変更しなければならない。そのためには、現在の条約を改訂するか、または新しい先駆的な条約を採用することが必要になる。
- そのような変更ができない場合は、国は、条約の不備を非難して条件付きで応じるか、または少なくとも条約の一部の条項を単純に無視して自分の体制を立てることもできる。
- カナビスを合法的に利用できるいかなる体制を取ろうとも、国は、多くの国がアルコールで採用しているように、カナビスの生産・卸売・小売を行う組織をライセンス管理するか、または国営の運用体を整える必要がある。さらに、国は、直接または規制を通じてカナビスの効力と品質をコントロールし、リーゾナブルな価格を保証し、一般ばかりではなく特に若者のアクセスと入手しやすさを難しくする必要もある。
- 国は、カナビス使用にともなう害に関する適切な情報を利用できるようにして、積極的のそれを伝えるようにしなければならない。また、宣伝や販売促進活動は、禁止するかまたは可能な限り厳しく制限しなければならない。
- 予想していなかった悪影響も含めて、何らかの変化が発生していないか常に綿密にモニターしている必要がある。迅速な注意ができるように整え、場合によっては、害の増加に対する政策を見直すことも考慮しなければならない。
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