Weekly News


カリフォルニア州報告書

カナビスを合法化して課税すれば

14億ドルの税収が見込まれる

Source: NORML Weekly News
Date: July 16, 2009
California: Tax Board Says Regulating Commercial Pot Sales Would Yield $1.4
Billion Annually Also Predicts Decline In Use Of Booze And Tobacco
http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=7930


2009年7月16日 - アメリカ・カリフォルニア州サクラメント発

カリフォルニア州平衡局 (BOE、California State Board of Equalization)は、カナビスの小売販売に課税して規制管理した場合、新しい税収が年間およそ14億ドル得られるという試算を発表した。以前からドラフト段階の報告書も見ることはできたが、今回が正式発表となった。

この試算は、州下院に提出されている 390号法案(The Marijuana Control, Regulation and Education Act)で、カナビスの小売販売に1オンスあたり50ドルを課税すると提案されている数字をもとに計算したもので、その他に州が商品販売に課している売上税や特別税なども加算されている。

この法案 は、2月にトム・アミアーノ議員(サンフランシスコ、民主)が提出したもので、21才以上の成人に対するカナビスの小売販売を合法化して認めて、ライセンスを取得し店が販売するカナビス製品やパッケージに課税することを求めている。

またこの法案では、成熟植物10本以内の個人使用目的の非商用栽培および非営利での配布については、課税やライセンス取得は求めていない。さらに、医療カナビスの使用や栽培については現行法のままで、今回の課税や制裁処置の対象にはなっていない。

平衡局の計算によれば、下院390号法案の実施してカナビス小売販売に1オンス当たり50ドル課税することで年間9億9000万ドルの税収が見込まれ、さらに販売に伴う売上税が年間3億9200万ドルになるとしている。したがって、歳入の合計は13億8200万ドルということになる。

平衡局の計算では、合法化にともなう警察や裁判の費用の削減効果については考慮していないが、 カリフォルニアNORML の試算では年間の平均削減額は2億ドル程度が見込まれるとしている。カリフォルニアでは、1976年以来個人的な少量のカナビスの所持が非犯罪化されているものの、2007年には 7万4000人 あまりの州民がカナビス事犯に科せられて過去最高を記録している。

また平衡局の報告書では、カナビスの成人使用を合法化すればカナビスを使う人が増え、その代替効果でタバコとアルコールの消費が減ると予想している。

4月末に行われたカリフォルニア州有権者に対する 世論調査 では、56%の人が、議会は 「リクレーショナル用途のカナビスを合法化して課税するようにすべき」 だと回答している。カリフォルニア州は現在、最大260億ドルもの赤字に陥ることが懸念されている。

下院390号法案を提出したアミアーノ議員は、「州が歴史的ともいえる経済危機に見舞われている状況で、カナビスを合法化して規制管理し課税することは単純な常識問題です」 と 語っている

「この法案では州に新たな歳入をもたらすだけではなく、カナビスの使用を21才以上の成人に制限することで未成年の使用を抑制し、公共地域での違法栽培による環境破壊を終わらせます。また、警察がもっと深刻な犯罪に取り組めるようになることで公共の安全が向上します。カリフォルニア州には、カナビスを規制管理してスマートで責任ある公共政策を実施したアメリカで最初の栄誉ある州になる可能性があるのです。」

現在、下院390号法案は、議会の 公共安全委員会 と 保健委員会 での審議を待っているが、来年早々になると見られている。

5月には、アーノード・シュワルツェネッガー知事(共和)も、カナビス合法化について 「議論すべき時がきた」 と表明している。

今回の平衡局の報告書について、カリフォルニアNORMLのデール・ゲーリンガー代表は、「カナビスを合法化すれば、市場を規制管理して歳入を得られるというのに、納税者の納めた税金をカナビス事犯の逮捕・起訴・投獄に使うなどまったくナンセンスです」 と語っている。

カリフォルニアNORMLが2009年2月に発表した 経済効果レビュー では、合法化の結果として新たに出現するカナビス関連産業の規模は120億〜180億ドルにも達すると試算している。これらも州に新たな税収をもたらすことになる。

For more information, please contact Dale Gieringer, California NORML Coordinator, at: (415) 563-5858 or Allen St. Pierre, NORML Executive Director, at: (202) 483-5500.
Additional information regarding AB 390 is available from NORML's Take Action Center at: http://capwiz.com/norml2/issues/alert/?alertid=12758896.

2008年秋のアメリカの金融危機(金融機関の破綻)の影響で、カリフォルニア州では今年に入ってから州の税収の半分を支えていた富裕層からの所得税収が激減し、さらに住宅バブルの崩壊によって固定資産税の歳入も大幅に減ったために財政が苦境に陥った。

2月1日には州政府の会計責任者が、州政府の手持ち資金が底をつき、同日に支払われるはずだった州民に対する福祉手当、奨学金、税の還付金など総額37億ドルが支払えないと発表し、シュワルツェネッガー知事も財政破綻(支払い不能)を宣言するまでになった。

そのために、シュワルツェネッガー知事は最悪の事態を回避しようと増税と財政の再割当てをする案を提出することにしたが、議会でこのような案を通すには3分の2の賛成が必要で通過が見込めないことから、住民投票にかけて承認を得ることになった。

しかし、5月に実施された 特別投票 でも、州の赤字対策案の6つの法案のうち賛成を得たのは、財政赤字年度の州知事・州議員・立憲役人の昇級を停止するという案だけで、他はすべて否決された。その後アメリカ政府への救済要請も拒否され、歳出削減で対応することしかできなくなった。

カリフォルニア州政府の会計責任者(controller、John Chiang)によれば、財政赤字をこのまま放置すれば今後2年間で250億ドル(約2兆3200億円)に達することが見込まれている。

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The Letter of The State Controller
the Chief Fiscal Officer of California June 10, 2009


また下の図を見れば、非常に大胆な歳出削減を実施しない限り赤字幅は減らないことがわかる。また、税収は、金融バブルの拡大と経済の活況に支えられて過去4年間は増加していたにもかかわらず、シュワルツェネッガー知事の大判振る舞い で歳出がそれを上回り、黒字体質にならなかったこともわかる。


深刻化する米国カリフォルニア州財政  日本総研 2009年7月10日


カリフォルニア州(人口3500万人)の赤字幅は州民一人当たりでは10万円にも満たない額で日本では問題にされない程度のものだが、アメリカでは、連邦政府を除いて各自治体には財政を均衡に保つことが義務づけられているので大きな問題になる。

この苦境に対してシュワルツェネッガー知事は、州刑務所の受刑者4万人の釈放、公共教育や貧困層支援などの公共サービスの歳出削減、各郡自治体に対しては徴収した固定資産税の8%を州に上納することなどを認めるように議会に求めた。

また5月のはじめには、カナビスを合法化して課税することついて 「議論すべき時がきた」 と語ったが、これにはこうした背景とともに、2月にアミアーノ議員がカナビス合法化法案を提出したことや、4月の終わりの 財政再建をめぐる世論調査 で回答した州有権者の56%がカナビスの合法化に賛成したことなども大きく影響している。

カリフォルニア州議会にカナビス合法化法案  (2009.2.24)
シュワルツェネッガー知事 カナビス合法化議論に前向き  (2009.5.5)

今回のカリフォルニア州平衡局のカナビス合法化による税収の見込額14億ドルについては、アミアーノ議員の法案に対して試算されたもので、最大赤字幅に比較すれば6%に過ぎないが、合法化による取締・裁判・刑務所などの経費の軽減効果やカナビス関連産業の創出による事業税や給与税などの歳入見込みについては考慮されていないことに注意しなければならない。

この点についてはマスコミは全く触れていないが、NORMLカリフォルニア支部の試算 によれば、カナビス合法化による税収見込みは15億〜25億ドルでそれほど大きな違いはないものの、関連産業への経済波及効果は80〜130億ドルで、事業税収入とともに5万人の雇用と所得税の対象となる給与14億ドルが発生し、さらに産業用ヘンプの経済規模も34億ドルで、その結果、経済全体への影響は120〜180億ドルになるとしている。また、不況下での雇用創出効果にも注目しなければならない。

試算の内訳は次のようになっている。
  • カナビス1オンスあたり50ドルの消費税を課税することで年間7700万から9000万ドル
  • 合法市場での小売販売額は30億〜45億ドルで、販売税が2400万〜3600万ドル
  • 合法化によってカナビス事犯がなくなり、警察や法執行機関の逮捕、起訴,裁判、投獄などの費用1700万ドル以上が節約できる。さらに、州警察のヘリコプター監視設備も不要になる
  • タバコ税をベースに考えれば、最終的に15億〜25億ドルの税収が見込める
  • ワイン産業をベースに考えれば、合法カナビスを使った商売を通じて単純小売販売の3倍が見込まれ、80億〜130億ドルになる。オランダのコーヒショップ・スタイルにすれば雇用が生まれ、ツーリズムが盛んになる
  • カナビス産業の規模がワイン産業の3分の1だとすれば、事業税収入とともに、5万人の雇用と14億ドルの給与が発生する
  • 産業用ヘンプは、34億ドルのカリフォルニア綿産業に匹敵する主要産業になる

平衡局の計算では、年間のカナビス販売重量を500トンと推計しているが、多過ぎるという批判もある。

例えば、FOXニュース では、試算の根拠の一つとされたNORMLの数字について、 NORMLは常用ユーザーの1か月のカナビス使用平均を2オンス(56g)としているが、引用元とされる『マリファネの科学』(レズリー・アーバーセン)では1オンスとしか書かれていないとしている。

しかし、『マリファナの科学』を実際に調べればすぐわかることだが、この数字はマリファナではなくハシシの重さで、スプリッフ(粉にしたハシシをタバコに混ぜて巻いたシガレット)にしたときには1ヶ月で150〜200本相当になると書かれている。スプリッフ1本を0.5gとしても75gになり、NORMLの計算のほうが妥当性がある。さらに、毎日吸うような常用者では1か月にハシシ2オンスを使っているとも書かれている。

また、オランダのコーヒーショップでは 年間265トン のカナビスが販売されていると言われているが、人口を加味すると(カリフォルニア3500万人、オランダ1600万人)、年間500トンというカリフォルニアの数字はやや控えめともいえる。

しかし、栽培者にとっては連邦法で強制捜査される恐れがあるために、それを避けると同時に州税からも逃れようとする動機が強く働くので、平衡局の税収見込み通りにはならないという見方もある。

カナビスによる税収を考えているのは州政府だけではない。

6月には、オークランドの医療カナビス・ディスペンサリー自らも加わって、新しい営業税を導入して市財政を助けるイニシアチブ(Measure F)を郵送による特別投票にかけることを表明していたが、7月21日に 賛成80%で承認 され、来年1月から施行されることが正式に決まった。カナビスの売上げに直接課税するのはアメリカでは初めてのことになる。

この条例では、ディスペンサリーの売上1000ドルに対して18ドルの課税をすることになっている。現行の営業税は1000ドルあたり1.2ドルなので15倍になり、その差額が新たな税収となる。

オークランドのディスペンサリーはたった4軒だけなので、2010年の市の税収見込みは31万5000ドル程度(市の赤字額は8300万ドル)にしかならないが、1軒あたりの負担では8万ドル(760万円)にもなる。

また、ロサンゼルス でも、一部の市議会議員たちが医療カナビス産業に対する新たな課税を検討するように税務当局に求めているが、ロサンゼルスには現在700〜800軒(2007年には183軒)が集中しているのでオークランドとは桁違いの税収が見込めることになる。(ジャニス・ハン市議によると年間3200万ドル)

アミアーノ法案では医療カナビスは対象になっていないので課税対象にはなっていないが、オークランドの動きはその落差を前もって緩和することになり、カナビス合法化全体の動きを加速させる可能性がある。

さらに、2010年11月の中間選挙の住民投票でカナビスの合法化を求めるイニシアチブ(Tax, Regulate, and Control Cannabis Act)の動きも始まっている。

2006年の中間選挙では、ネバダ州の住民投票 で、個人使用目的のカナビスの少量所持に関するすべての民事罰の廃止と、州公認のベンダーによるカナビスの栽培・配布・販売システムを構築して課税で規制管理することを求めた条例案が、成立はしなかったものの44%の支持を集めている。

今回の住民投票を実現させるには45万人の有権者の署名が必要でまずはそれをクリアできるかどうか分からないが、住民投票が実施されれば通過する可能性も決して小さくはない。

このように今年になってからカナビスの合法化に向けては様々な動きがでてきているが、その背景には、2010年の4月にカリフォルニア州の財政がもっとも厳しくなることが予想されていることや、11月にシュワルツェネッガー知事の任期が切れることなどが影響していると思われる。

今年中にカナビス合法化が実現すると考えている人はいないが、シュワルツェネッガー知事が今回の経済危機に何もできなかったとすれば将来の政治生命に大きなマイナス点として残るために、カナビス合法化に対して何らかの動きを強めることも考えられる。

しかし、シュワルツェネッガー知事がカナビスの合法化を積極的に支持することはほとんど期待できない。

彼は2006年に、産業用ヘンプの合法化法案を拒否権を行使 して葬り去っているほか、昨年11月の選挙では、ドラッグの非暴力違反者を刑務所ではなくリハビリ施設で治療することや現行のカナビス非犯罪化法の徹底を求めた発議(プロポジション5、NORA)が住民投票にかけられたが、シュワルツネッガー知事は自ら先頭に立って 猛烈な反対運動を展開している。

さらに、最近知事が提出した歳出削減のための 囚人の釈放案 についても、自動車泥棒、小切手偽造、盗品の受領・横流しなどは対象になっているものの、被害者のいないカナビスの売買や栽培は含まれていない。

また、当然のことながらカナビスの合法化に反対する人たちもいる。例えば、マリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)が『私に課税して(Tax Me)』というアミアーノ法案を支持するテレビ・コマーシャルを製作して放映しようとしたところ、カリフォルニア州の一部のテレビ局は放送することを拒否している。

表向きの拒否理由は、連邦法では禁止されているとか、ゲートウエイや中毒などの害になるものを広めることには協力できないというものだが、カナビスが身近にあるカリフォルニアではもはやそのような議論は通用しなくなっているので、実際には、警察・刑務所関係やドラッグテストなどの禁止法関連業界、アルコールやタバコ業界、鎮痛剤などの売上に影響する製薬業界などのスポンサーへの経済的な影響を懸念した動きではないかとも思える。

しかしこうした検閲的な動きに対しては、逆に全国放送がカナビス合法化問題に興味を示してくるようになり、今回の平衡局の報告はそれに拍車をかけることになった。

特に経済への影響が大きいことから経済チャンネルは大々的に扱っている。例えば、ウォールストリート・ジャーナル では1面に長い記事を掲載しているほか、反カナビス報道で知られるFOXテレビでさえもビジネス・ニュースでマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)のカンピア代表を招いた 番組を放送 している。

アメリカでは、現在ほとんどの州が財政赤字に喘いでいるが、保守州として知られる南部アラバマ州(人口はカリフォリニアの10分の1)でも、昨年の知事選にも立候補した活動家の ロレッタ・ネール が合法化による税収を試算して1億3000万ドルになると発表している。今後同じような試算が各州から出てくると思われるが、経済チャンネルもさらに盛んに報道するようになるだろう。

時代の流れは確実に変化してきている。