さまざまなカナビス栽培

●カナビスの栽培は数千年の歴史があることが知られている。ほとんどの場合、布や紙などを作るための繊維の栽培が目的で、インドなど一部の地域を除けば吸引目的の栽培は行われていなかった。

繊維目的のカナビスは茎が長くまっすぐに伸びているほうが好ましく、側枝や葉の成長はむしろ抑制するように栽培されるのに対して、吸引用のカナビスは茎や枝よりも葉の生育を促すように栽培する必要があり、両者の栽培技術は全く異なっている。繊維栽培の技術には長い歴史があるが、吸引目的の栽培技術が確立したのはここ半世紀のことに過ぎない。

 

●吸引目的栽培の最大の成果はシンセミラだが、この技術改良に果たしたオランダの役割は非常に大きい。チューリップの栽培で知られるオランダの伝統的な園芸技術は世界でも屈指の水準にある。17世紀以前の農業は食料の生産が唯一の目的で農業技術は収量を増やすことが課題だったが、花の栽培という食料のための農業ではなく、換金のための農業を興したのがオランダだった。

このためにオランダの品種改良の技術は収量増ではなく高価な希少品種を作る手段として発達し、このことが吸引目的のカナビスの栽培に大きく貢献することになった。オランダに初めてコーヒーショップができた1970年代当時はハシシや大半のマリファナを輸入に頼っていたが、後にシンセミラがもたらされると伝統の高度な園芸技術を駆使して改良が加えられ効力の強いネダーウイードが生み出された。

 

園芸好きのオランダ人たちは実益をかねて小さな庭やベランダで盛んにカナビスを栽培している。現在では自国のカナビス需要を賄なえるだけでなく輸出さえされるまでになっている。法律的にはカナビスの栽培は個人用に数本が認められているだけなので多量栽培は違法であり、そのために大半が屋内の秘密の場所で栽培されている。

●オランドの栽培がどちらかと言えば人工的なのに対して、スペインでの栽培はもっと自然でワイルドだ。明るい太陽と暖かい気候に恵まれたスペインは、地中海の対岸にヨーロッパのハシシの供給拠点であるモロッコのケタマの山系を望み、マラガにも近いジブラルタル海峡のアルヘシラスはその流入経路の起点になっている。

さらにスペインは8世紀から15世紀まではイスラムが支配する国だったこともあってカナビスとは昔から馴染みがふかい。現在はカナビス禁止状態になっているが、実質的には売買が禁止されているだけで、国中にカナビスが行き渡っている。カナビスが容認されているオランダさえ普通のレストランでは御法度なのに対して、スペインでは解放的な店も少なくない。

 

ノル・ファン・シャイクのレポートによると、スペインのカナビス栽培は、最近では室内で行われることも多くなってきているが、野外での栽培は一般に規模が大きく、育てられている品種も多様で、特に大地に直に蒔かれた植物は巨大で圧倒的だ。献身的な栽培者に応えてくれる自然はオランダとは全く違い素晴らしい。だが、栽培者の最大の敵は警察ではなく、自らもカナビスを吸う一部の泥棒だという点はなんとも悲しい。