刑罰よりも教育や治療に重点を置く

ヨーロッパのドラッグ政策


トラベル・ライター、TVホスト、NORML諮問委員、リック・スティーブス

Source: Los Angeles Times
Pub date: September 12, 2007
Title: Europe: Curing, Not Punishing, Addicts
Auther: Rick Steves
http://www.mapinc.org/norml/v07/n1033/a02.htm?134


当然のことながら、ヨーロッパもドラッグ問題を抱えている。しかし、ヨーロッパ諸国の対処法はアメリカの 「ドラッグ戦争」 とはきわめて異なっている。

私はトラベル・ライターとして毎年のように120日あまりをヨーロッパで過ごしているので、いろいろな機会を使って自分自身でヨーロッパの対処法がどのように機能しているのは確かめてきた。地元の人の意見を聞き、ドラッグ政策について調べ、カナビスの煙が漂うアムステルダムのコーヒーショップも訪れてみた。おかげで、ドラッグ戦争とは違うヨーロッパ流のやり方を身近に知ることができた。

ヨーロッパの人たちは、アメリカの違法ドラッグの対処法とその実績についてよく知っている。1971年にニクソン大統領がはじめてドラッグ戦争を宣言してから、アメリカは何百万人という人を逮捕して何百億ドルもの税金を費やしてきた。刑務所の費用まで計算に入れれば1兆億ドルに達するという専門家も少なくない。しかし、こうした努力を費したにもかかわらず、アメリカの違法ドラッグの使用率は依然高いままにとどまっている。

これに対して、2007年の国連ドラッグ・レポートによると、違法ドラッグを使っているヨーロッパ人のパーセントはおよそアメリカの半分になっている。また、ドラッグのオーバードーズのよる死亡者数も半分以下に収まっている。大抵のアメリカ人の感覚からすれは、未成年の飲酒やカナビスに対する寛容姿勢、さらにはヘロイン・フレンドリーな 「注射パーク」 まであるヨーロッパがどうしてドラッグ使用率が低いのか信じられないに違いない。

最近、スイスのチューリッヒを訪れ、公衆トイレに入ったら照明は青色のライトだけだった。理由は、ヘロイン・ジャンキーに血管を見えないようにするためなのだ。すぐそばにはヘロイン管理クリニックがあり、ジャンキーたちの相談にのりながら清潔な注射針と代替ドラッグを提供してストリートにものは使わなくても済むようになっている。注射器にしても、政府の助成でタバコの自動販売機を改良してクリーンなものを販売している。

ヨーロッパでは、どの国も独自のドラッグ法と政策を持っているが、プラグマティクなアプローチを取っているところが共通している。彼らは、ドラッグの乱用を犯罪としてではなく病気として扱っている。そして、ドラッグ政策の実効性を逮捕者数ではなく、害の削減度合によって評価している。

一般的にヨーロッパでは、警察、教育者、医者の三者が一体となった政策を採用している。警察は、ドラッグの供給に歯止めをかけるためにユーザーではなくディーラーの撲滅に焦点を当てている。ユーザーは捕まっても警告だけか、さもなければ治療施設に送られるようになっている。

反ドラッグ教育に関しては、アメリカのように、実際のドラッグ中毒者や危機に直面しているティーンには虚ろにした聞こえない 「ゼロ・トレランス」 や 「スリーストライク法」 といった選挙民にだけ受けのよい脅し文句による教育ではなく、若者たちを中心にドラッグの危険性について注意を促すことに重点が置かれている。また、医療コミュニティも、ドラッグ使用に伴うHIVやC型肝炎などの健康問題に取り組み、中毒者たちを普通の生活に戻す手助けをしている。

これとは対照的なアプローチを取っているのがアメリカのドラッグ戦争で、ディーラーばかりかユーザーを捕まえるために警察と刑務所に資金を費している。ドラッグ教育では、薬物乱用予防教育(DARE)プログラムに見られるように、プロパガンダとしか思われないような知識の押しつけで信頼も獲得できない有様になっている。

ヨーロッパとアメリカのドラッグ政策の最も大きな違いは、カナビスの扱い方に見られると言ってよいだろう。それは、カナビスをオープンに売っているアムステルダムのコーヒーショップに座って観察してみれば分かる。

お客さんたちはおしゃべりを楽しみ、カウンターでは女性のお客さんが風変わりな貸しボングをあれこれ選んでいる。店の雰囲気に馴染めない年寄りのカップルは外に自転車をとめでバッズだけ買って帰っていった。未成年は犬のように追い返されてる。警察官もやってきたが、最近ストリートでケミカル・ドラッグを売っているから注意するようにと言いに来ただけだった。オランダでは、酒に酔うよりも安くハイになれるし、ドラッグに関連した犯罪もあまりない。

オランダのドラッグ乱用防止専門家たちも、何十年かの嗜好カナビスの容認政策で若者のカナビス喫煙率が著しく増加したという事実はなく、カナビス使用全体が若干増えただけだと口を揃えている。一方、アメリカではオランダと違って、15才の若者がカナビスを買うことがタバコやアルコールよりも簡単になってしまっている。ストリートでは誰もIDカードの提示など求めたりしないからだ。

ヨーロッパではオランダの政策が最もリベラルだが、他の国でもジョイント1本吸ったからといって留置されるようなところはない。ヘロインやコカインなどのハードドラッグの乱用削減が優先されているからだ。EUのドラッグ政策について書かれた文書を調べてみたが、カナビスについては、「問題のあるカナビス使用」 にカンセリングで対処すると書いてあるだけだった。

一方、アメリカの連邦捜査局(FBI)の統計資料によると、ここ何年かは毎年およそ80万人がドラッグ事犯で逮捕されているが、その約40%がカナビス事犯で、大多数の80%が所持が理由になっている。

簡単に言えば、ヨーロッパでは、治療のほうに費用をかけて問題も起こさないようにしていると言える。つまり、アメリカでは、警察や裁判、刑務所に税金を注ぎ込んでいるが、ヨーロッパでは、医者やカウンセラー、クリニックに税金を使っている。EUの政策立案者たちは、医療経費としてドラッグ教育とカウンセリングに1ユーロづつ投資すれば、警察のコストを15ユーロ節約することができると見積もっている。

ヨーロッパの指導者たちは、社会が、いろいろなライフスタイルを容認するか、それとも刑務所を増設するかを選択可能であることを理解している。彼らは容認政策を選択したが、われわれはいまだ刑務所を増やし続けている。

リック・スティーブス( ricksteves.com )は、ヨーロッパを中心にしたトラベル・ガイドブックを書くかたわら、テレビやラジオでトラベル・ホストとして活躍している。また、カナビス合法化を求める運動家としても知られ、NORMLの諮問委員にも名前を連ねている。

カナビスやドラッグについて毎日おびただしいニュースが流れているが、ほとんどが事件やスキャンダル、政争のディテールを扱ったもので、場所的にも時間的にも極めて狭い範囲ことしか書かれておらず、瞬間的な動きに白黒をつけるのに夢中 になっている。

しかし、長期間のトレンドを全体的見ると全然ちがった世界が見える。ただ、中には、ドラッグのことあまりも知らずに統計資料の数字や政府の政策や新聞記事だけを見て株価チャートでも 論評 しているように解説する人も少なくないが、その点では、リック・スティーブスのように、ヨーロッパのこともアメリカのことも、さらにドラッグのことも実体験を通じてよく知っている人が書いたこの記事は、より本質を捉えている。

UNODC 2007 World Drug Report  (国連薬物犯罪事務所)
EMCDDA Annual Report 2006  (ヨーロッパ・ドラッグ監視センター)

オランダのドラッグ問題対処法  (2007.8.15)
オランダ、ヘロイン・ジャンキーが高齢化  (2007.6.20)