リチウムによるカナビスの禁断症状治療

Source: ABC Net Austraria
Pub date: 07 Mar 2008
Subj: Lithium could treat cannabis withdrawal: study
http://cannazine.co.uk/cannabis-news/australia/
lithium-could-treat-cannabis-withdrawal-study.html


小規模で予備的な研究ながら、カナビスによる鬱や不安などの禁断症状が、短期間のリチウム治療で著しく軽減することが示された。

この研究はオーストラリアの国立ドラッグ・アルコール研究センターのアダム・ウインストック博士に率いる研究チームが行ったもので、今回の結果については大規模な臨床実験で追認する必要があるものの、予備研究としては非常に有望だとしている。

ウインストック博士は、「ヘビーなカナビス・ユーザーでは禁断症状を経験する人が相当数います。今回の予備実験は非常に小規模で非盲検研究ではありますが、リチウムには禁断にともなう不快な症状を和らげる可能性があることがはっきりしました。このことは、実際にカナビスをやめようしている人にとってはとても重要な意味を持っています」 と語っている。

炭酸リチウムがカナビスの禁断症状の治療に役立つことは、これまでにもラットやリス猿を使った動物実験で示されていたが、今回の臨床実験で人間でも有効なことが示されたことになる。ウインストック博士は、この結果が大規模な追認実験で確認されれば、カナビスの禁断症状に関する薬物治療研究としては最初ものになるのではないかと話している。

「この予備研究をもとに、来年には複数箇所でプラセボを使った大規模研究が実施できるのではないかと期待しています。ご存じのように、カナビスは違法ドラッグとしては最も広く使われていますが、およそ10%の人が依存症になると言われています。それを考えると、禁断症状を効果的に治療できる可能性が見つかったことはとてもエキサイティングです。」

今回の実験は、カナビスを毎日9年以上使っている成人で治療を希望している20人を対象に炭酸リチウム500mgを1日2回7日間投与して、禁断症状の身体・精神スコアをモニターしている。14、28、90日後にもスコアを集めるとともに、尿検査を実施してカナビスの使用状況を調べている。その結果、88%の人がカナビスを使う頻度が減り、全体の29%の人がカナビスを全くやめることができたとしている。

今回の研究のアブストラクト: A pilot trial investigating the efficacy of lithium carbonate in the management of cannabis withdrawal  National Drug and Alcohol Research Centre

今回の結果については、カナビスをやめることを本人が強く希望していることや、精神病の問題がないこと、他のドラッグを使用していないこと、病院で実験が行われたことなどが背景にあり、現在のところでは、この結果だけではリチウムの効果が必ずしも十分に証明されたとまでは言えないことにも注意しなければならない。Bipolar medication helps addicts quit cannabis

また、今回の研究では、カナビスを毎日9年以上使っているヘビー・ユーザーが短期間だけリチウムを使っていることも見逃してはならない。リチウムは、効能域と中毒域が比較的近いとされており、長期的に使っていると中毒になりやすいことが知られている。リチウムの副作用には、頻尿、喉の渇き、吐き気、手の震え、発疹、胃の膨張感や圧迫感、下痢、眠気、食欲不振、不整脈、手足の冷え、頭痛、筋肉のピクピク、言葉のもつれ、眼のかすみ、めまい、眠気、意識もうろうなどがある。

リチウムを常用している精神病患者の中には、吐き気、手の震え、食欲不振、頭痛などを抑えるために医療カナビスを使っている人もいると言われてほどで、平均的なカナビス・ユーザーにとってはリチウムは害の可能性のほうが大きいと思われる。

リチウムは双極性障害や気分障害に有効なことはよく知られているが、これをカナビスの禁断治療に応用できないかと最初に考えたのはカナダの研究者たちで、ラットを使って実験をしている。

当初は、禁断症状の一部に有効かもしれないと期待していたが、驚くべきことに、禁断症状のすべてに有効なことが分かったと言う。また、気分障害などにリチウムを使った場合には効果が出てくるのに数日かかるが、カナビスの禁断症状ではすぐに効果が現れるという特徴が見られたとしている。だが、他の気分障害の治療薬ではカナビスの禁断症状に全く効果が見られなかった。

Prevention of Cannabinoid Withdrawal Syndrome by Lithium: Involvement of Oxytocinergic Neuronal Activation   Shu-Sen Cui, et al.,. Neurosci., Dec 2001; 21: 9867 - 9876
Study shows lithium may ease cannabis withdrawal  (2001.11.2)

この記事では、カナビス・ユーザーのおよそ10%の人が依存症になると書いてあるが、このデータはアメリカ科学アカデミー 医学研究所(IOM)の報告 がもとになっている。

一般に依存性と禁断症状は密接な関係があるが、カナビスの場合は依存症と診断されても、多くの場合はそれほど深刻な禁断症状が出るまでには発展しない。今回の研究でも、カナビスを毎日9年以上使っている人が対象になっていることからもわかるように、月に数回程度の平均的なカナビス・ユーザーでは深刻な禁断症状を経験することはまずない。

また、IOM報告では、たとえ禁断症状が現れてたとしても、アルコールやヘロインなど身体的に顕著な禁断症状を伴う薬物に比べて「穏やかで期間も短く」、一旦止めたユーザーが再び始めようとする誘惑もあまり起こらないとしている。

カナビスの依存性に関しては、アルコールと併用している場合にリスクが高くなることも知られている。特に、アルコールを飲みながらタバコを吸うような調子でカナビスを使っていると依存症になりやすいので注意したほうがよい。

カナビスの中毒性と依存性
アルコールとの多量併用はカナビス依存性のリスクを高める