第51回国連麻薬委員会
黙らされたNGO代表の発言
真実から逃げまくる国連ドラッグ戦争司令官
Source: Hungarian Civil Liberties Union (HCLU)
Pub date: 14 Mar 2008
Subj: Silenced NGO Partner
Author: Peter Sarosi
http://www.drogriporter.hu/en/node/929
意外な幕開け
今回の第51回国連麻薬委員会の開催にあたってちょっと意外だったのは、国連薬物犯罪事務所のアントニオ・コスタ事務局長がオープニング・スピーチで、各国の政府の代表たちを差し置いて、NGOを意識した批判を展開したことだった。
彼はそこで、自分たちが誇る国連のドラッグ・コントロール・システムが顕著な成果を上げていることには 「確固たる事実」 があるのにもかかわらず、多くの人たちが 「故意に認とめようとしていない」 と挑発的な主張を展開した。
それを聞いていた私は、コスタ局長から 「口うるさい少数派」 で 「がさつなドラッグ擁護派」の集まりと決めつけられたNGOメンバーの一人として、少々入り組んだ気持ちになった。
だが何よりもうれしく思ったのは、われわれの声が 「明瞭に」 国連のドラッグ・コントロール・システムの最高責任者に届いていることがわかったことだった。これで、彼が、この世界最大のドラッグ政策意志決定フォーラムのオープニングに当たって、断固たる構えでわれわれの批判を受けて立つつもりになっているのがはっきりした。
もう一つのポジティブな驚きは、彼が、ドラッグ政策においては人権が重要だと強調していたことだった。これは、間接的ながらドラッグ犯罪に対する死刑を廃止することを求めたもので、厳罰国からは異議が出てくることは間違いない。
時代は変わる
麻薬委員会にNGOの参加が認められたのは今回が初めてのことになる。私は、この委員会のテーマ別の会合で、ヨーロッパ・ハームリダクション・ネットワーク と ハンガリー市民の自由ユニオン の代表として発言する機会が与えられたことをとても光栄に思った。
数年前ならば、このようなことは考えられなかった。また、これまでは多くの人たちが期待するのが無駄だと思っていたが、ドラッグ・ユーザーに対する刑事制裁の緩和についても最近の国際麻薬統制委員会(INCB)年次報告書で取り上げられ、エイズ問題への指摘やハームリダクションにも前向きな議論が見られるようになってきた。
明らかに、時代は変わってきた。ドラッグ政策の分野で市民グループの果たす役割が重要であることがますます認められるようになってきた。
しかしながら、コスタ局長のNGO批判派に対する態度は総じて尊大で、特に、「黙っているだけに人は不要」 というスローガンの下で開かれたNGOフォーラムでは顕著だった。
単純で核心を突いた質問
それが最も強く表れたのは、オランダの精神分析医であるフレデリック・ポーラーク氏が問いかけた非常に単純な質問にまともに答えられずに彼の理性が退いた時だった。
ポーラック氏の質問は、「禁止法がドラッグ問題に対処できる唯一の方法だとすれば、オランダのカナビスの使用率が近隣諸国の多くよりも低いか同じ程度である事実について、どう説明するのですか?」 というものだった。
この質問単純ながら、まさに国連の政策の欺瞞性の核心を突いたものだった。なぜなら、国連のドラッグ禁止政策では、ドラッグの供給源を断てば自動的に需要も無くなるという仮説の上に成り立っているからだ。この理論が正しければ、社会や経済や文化的な背景が同じような2つの国で、片方が店でカナビスを買うことができ、もう片方が売買で刑務所行きになる場合には、カナビスの使用率に大きな違いが出てこなければならない。
だが、実際にはそのようになっていない。オランダではコーヒーショップでカナビスを買うことができるようになっているが、統計では、オランダのカナビス使用率はアメリカやヨーロッパの多くの国に比べて低い水準で比較的安定している。
オランダとアメリカのカナビス使用状況の比較
レッド・ハーリング
コスタ局長はスピーチの中で、黙っているNGOは不要だと強調して、自分の見解に挑んでくるように大見得を切ったが、それに応じて挑んだポーラック氏の質問に返ってきた答えは誠実さも明解さもないレッド・ハーリングだった。
レッド・ハーリングとは、赤い燻製ニシンの強い臭いが猟犬の鼻を狂わせることから出てきた言葉で、本来の問題とは全く無関係なもっともらしいことを言って注意を別の方向にそらす詭弁論法だが、まともな返答をできない政治家や官僚の常套手段になっている。
コスタ局長は、コーヒーショップ数が最近では減ってきているというデータを持ち出してきて話をそらそうとした。局長の言っているデータは不正確ではあるが、確かに、オランダ政府は、他の国ばかりではなく国連からさえも強いプレッシャーを受けてコーヒーショップ数を減らしてきてはいる。しかし、このことは何の説明にもなっていない。
実際には、最近の減り方と言っても年間せいぜい数%で、コーヒーショップ・システム機能は1976年以来実質的にずっと変わっていない。そして、何よりも重要なのは、若者のカナビス使用率が、厳格な刑事政策を採っている国よりもオランダのほうが低くなっているという厳然たる事実があることだ。だが、コスタ局長は、このことには全く触れようとはしていない。
当然のことながら、政治家は証拠にもとずいて決定を下さなければならないが、だからといって、政治家の意思決定が問題の証明になるわけではない。だが残念なことに、国連のドラッグ政策は、科学ばかりではなく人権をも下に置いて政治の意志決定を優先させたドグマの上に成り立っている。
ポーラック氏がこのことを指摘すると、コスタ局長はいきり立って、これ以上の議論は不要だとして 「ピリオド、ピリオド」 と叫んで次の発言者に話を振り向けようとした。すかさずポーラック氏の後ろにはセキュリティ・ガードが……
手飼グループの演出
このとき、一部の人たちは、コスタ局長の反コーヒーショップ発言に喝采を送っている。彼らは、会合が終わって局長が退席するときも立ち上がって拍手喝采を送っていた。
もちろん、彼らは演出のために送り込まれてきた反ドラッグ政府の手飼で、スエーデン政府が自国のドラッグ政策を売り込むために資金を出している国際機関の反ドラッグ・ヨーロッパ・シティー同盟や、「治療」と称してドラッグ・ユーザーをチェーンで縛って卑しめることで悪名高いロシアのSUNDIAL (Supporting United Nations Drug Initiatives And
Legislation) のメンバーたちだ。
また、アメリカ政府のドラッグ戦争司令官のスピーチライターだった人物に率いられたNGOグループやドラッグ・フリー・アメリカ・パートナーシップの代表の顔もあった。ドラッグ・フリー・アメリカは、学校でのドラッグテストはドラッグ防止しは何の役にも立っていないという証拠がたくさん出てきているのにもかかわらず、相も変わらず子供たちの小便を強制的に集めればドラッグ問題は解決できると主張しているグループだ。
許しがたい侮辱
今回の会合では、国連の高官ともあろう人物が、現在のドラッグ・コントロール体制に理路整然と反論する専門家を侮辱的に扱うという到底受け入れることはできない態度を示した。
コスタ局長は、オープニング・スピーチで議論を挑んでくるように言ったが、片方で、強力な質問を投げかけてくる誠実で前向きな反対派を 「イカれている」 (lunatics) とか 「プロ・ドラッグ」 などと呼んでアドホミネム攻撃している。そもそも、このような偏見を持った人物とオープンでまともな議論ができるはずもなかった。
加盟国の納税者の税金から無税のサラリーを得ている国連の高官として、また、過去10年の世界のドラッグ政策と統括している責任者として、彼には誠実に説明責任を果たす義務があるはずだ。
そして、まず第一に、限られた資源と安いサラリーにもめげず、汚名と差別の壁をのり越えてドラッグ乱用問題に取り組み、害を削減しようと奮闘している人たちに尊敬の念を払うべきなのだ。
たとえ、ドラッグを合法化すべきだと信じている人であっても、あるいは、たとえ自身がドラッグ・ユーザーであったとしても、国連の憲章にも誇らしく掲げられているように、奪うことのできない人権と尊厳を持つ人間であることには何ら変わりはないのだ。
ピリオド.