サティベックス、再び臨床試験に失敗

プラセボと十分な統計的有意差を示せず

Source: The Guardian
Pub date: 8 April 2008
UK: Maker of cannabis-based medicines hit by disappointing trial
Author: Katie Allen
http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=13353


天然のカナビス抽出液をベースにした舌下スプレーであるサティベックスを製造しているイギリスのGW製薬は、認証に求められていた臨床試験の結果を発表したが、期待した成果が得られず株価が30%以上も暴落して対応に躍起となっている。

臨床試験は多発性硬化症患者を対象に行われたものだが、会社側は、サティベックスに効果があることには疑う余地がない結果がでているが、プラセボの結果との差が不十分だったとしている。このことは、臨床試験で 「著しい統計的有意差のある結果」 が得られなかったことを意味している。

このニュースが株式市場に流れると、GW製薬のこのフラグシップ製品が商業的成功をおさめることはないのではないかという疑問もささやかれるようになった。

これに対して、GW製薬側では、「今回の試験でも、サティベックス郡とプラセボ郡では明らかにサティベックのほうが効果の高いことが示されているわけですが、プラセボの効果が予想以上で、統計的有意差を示すのには狭すぎた」 とジャスティン・ゴーバー常務は説明している。

その理由の一つとして、サティベックの必要摂取量を決める際の事情が絡んでいることを上げている。

サティベックスは1回のスプレーで正確に100μLが噴射するように調整されているが、患者によって必要量が大きく変化するので、医師と相談しながら1週間ほどかけて自分に合った回数を探りながら決めるようになっている。しかし試験では、プラセボでも同じようなやり方を採用したために、「異常に高いプラセボ反応を促進する結果になった」 と言う。

ゴーバー常務は、今回の結果が、以前の臨床試験で示されている多発性硬化症などの痛みに対するポジティブが結果の価値を損なうものではないとして、今回の結果については破棄して、新しい試験に取り組むと語っている。

「今回の件は、臨床試験や痛みの研究の中で、特にプラセボ反応に弱い部分が出てきた事故とも言えます。実際に今回の試験で見られた患者の反応はサティベックスが非常に大きな恩恵をもたらしているということで、そのことには疑いの余地はありません。」

「しかし、プラセボ反応の予想外の大きさが、疑いようのないサティベックスの恩恵の解釈に混乱を招いてしまったのです。このことは、以前に得られた試験結果に何ら影響するわけではありませんが、かと言って新しい何かが示されてわけでもありません。ですので、今回の結果は脇に置いて、別の試験を行うことにしたのです。」

会社は、今回の結果が、他の症状について行われている別の臨床試験の影響するわけではないとしているが、株式市場は動揺したままで、株価が最安値から持ち直したいっても下落直前から20%ほど低い水準で取引されている。

証券アナリストの一人は、「今回の結果は、サティベックスの効果が不十分なことを示しており、この製品が商業的成功をおさめるかどうかについて市場は疑いを持て見ています」 と語っている。

GW製薬は、政府の後ろだてを受けて安全なカナビス・ベースの鎮痛剤を開発しているが、サティベックスの開発には10年前から取り組んでいる。秘密の場所に何千本ものカナビスを栽培してサティベックスを製造しているが、多発性硬化症の痛みの他にも、筋肉の膠着、けいれん、癌の痛み、帯状疱疹や糖尿病などにともなう神経性の痛みなどの緩和薬にすることを目的にしている。

サティベックスは、天然のカナビス・ベースの医薬品としては、2005年にカナダで世界で初めて認証を勝ち取っている。適応は、多発性硬化症の神経疼痛の緩和で、現在はイギリスでも特別の処方箋で利用できるようになっている。

今回の臨床結果に対するGW製薬のプレス・リリース: Phase III MS Neuropathic Pain Trial Preliminary Results
GW製薬

今回の臨床試験は、ヨーロッッパで求めていた医薬品承認で臨床データの不足を指摘され、2007年7月にいったん申請を取り下げて、新たなデータを追加して再提出するために行っていたもので、いわば絶対に逃してはならない仕上げの試験に失敗したことになる。

サティベックス、ヨーロッパでの認可申請を取り下げ  (2007.7.20)

プラセボの効果が予想以上だったと盛んに強調しているが、プラセボの効果が大きくて失敗したのは、実際には今回が初めてというわけでもなく以前から何度か繰り返している。

サティベックス、期待裏切るGW製薬の臨床結果  (2006.3.18)
UK: Mixed Results from Cannabis Study of MS Patients  (2003.11.5)

サティベックスについては当初より、効果が分かり難いのではという懸念がささやかれていたが、これは、天然のカナビスの喫煙が直ちに効果を感じられるのに対して、サティベックスのような経口投与では効果が表れてくるのに摂取後15〜40分程度かかるためだ。そのために、効き始めを自覚しにくい上に、効き方や効果の持続時間に個人差が大きく、しばしば全く効かないと感じることもあるためだ。

さらに、多発性硬化症のような神経障害性の痛みは、細胞の損傷を伴って引き起こされる痛みに比べると、心理状態の影響が大きく、僅かな痛みでも大きなストレスを感じる傾向があるので、精神状態を改善することで症状が緩和することも多い。だが、わざわざカナビスの精神効果が出ないように意図して作られたサティベックスは、逆にこの点が弱点になっている。

サティベックスの効き始めや効き方を実感しにくいことは、認証にあたっているイギリス医薬品庁(MHRA)が、認証できない理由を示した 報告書 でも指摘されている。


Public Information Report on Sativex Oromucosal Spray  イギリス医薬品庁(MHRA)

また、臨床試験の二重盲検法では、サティベックスのように発現が遅いと効果を確実に自覚できず、本当に痛みが軽減したかどうか確信が持てないことがあるのに対して、逆にプラセボを投与された人でも一部は薬が効いていると思い込みやすいので、効果の差が狭まって分かりにくくなってしまう可能性がある。

これに対して、天然のカナビスを喫煙する場合は、発現が早く効果のピークが鋭いので確実で痛みの軽減が自覚しやすく、しかも、THCがゼロのプラセポ・カナビスを吸っても効果のないことがすぐに分かるのでプラセボ効果が出にくい。このために、二重盲検法実験でもカナビスの場合は、医療効果がはっきり表れやすいと言える。

思惑渦巻くカナビス・スプレー・サティベックス

サティベックスは2005年からカナダで処方箋で利用できるようになってから、条件付きながらイギリスとスペインでも認められていたが、スペインでは2008年4月に発表されたカタルニア地方での 研究結果 が良好で、全国的に温情利用ができるようになっている。

また、近い将来にオーストラリアと ニュージーランド でも処方利用ができるようになると見込まれている。