アメリカ連邦政府は

ドラッグ戦争を放棄すべきとき


ボブ・バー
アメリカ・リバタリアン党大統領候補

Source: Huffington Post
Pub date: 18 Sep 2008
It's Time for the Federal Government to Abandon the Drug War
Author: Bob Barr
http://www.alternet.org/drugreporter/99418/
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私は、アメリカの弁護士として、また連邦議会の議員として長きにわたってドラッグの禁止法を擁護してきた。しかし、多くの経験と勉強を重ねるうちに、私の中では、政府のこれまでの戦略が機能してこなかったこと、そしてこれからも役に立ちそうもないことがますます明らかになってきた。

他の大統領候補の方々は、あえてこの問題には触れようとせず、現行の政策の失敗が思考の貧困と政治的勇気の欠如となって顕在化している事実を見つめようとしていないが、今こそ、連邦政府は、ドラッグ政策に関する決定をそれぞれの州とその市民自身の手に返すべきときなのだ。

確かに、私のこうした変化は一部の人たちにショックを与えたが、リーダーシップを発揮するためには、証拠を直視する積極性を備え、その政策が機能していなければそれを素直に認めることが求められる。

現在の失政をこれまでと同じように続けることは、あまりにも費用がかかり過ぎる。かつてアルコールの使用を根絶しようとして禁酒法が施行された時代があるが、そのときと同じで、現在のドラッグ禁止法が成功しないことはもはや明らかだ。

実際、これまでに、何千という専門家の献身的な貢献も含めて膨大な法執行努力が注がれてきたにもかかわらず、政府はドラッグの使用をやめさせることはできていないばかりか、今日の状況は、ニクソン大統領が 「ドラッグ戦争」 の開始を宣言した1972年当時よりもむしろ悪化している。

いずれにしても、何千万人ものアメリカ人がドラッグを使った経験を持ち、これからもドラッグを使い続けていくことには疑いの余地はない。2005年の連邦のドラッグ関係の執行には120億ドル以上が費やされたが、その他にも、暴力を伴わないドラッグ事犯者の投獄のために300億ドルが使われている。

刑務所に入れられた人には、生涯、刑務所を意味する緋文字のPが付いて回る。中には、若いころにドラッグをやっていた大統領や候補者もいる。だが、たまたまP烙印を押されずに幸運に恵まれただけで、本来は、行政官庁の上層部に限らず、ごく普通の仕事からさえ追放されていたとしてもおかしくない。

だが、連邦のドラッグ法は、実際には、カナビスなどを全く使ったことのない人たちにさえ影響を与えている。私が議会で活動しているときに初めて学んだことは、権力がワシントンに集中する傾向を持っていることで、その権力の集中がさらなる権力を生み出して、個人の自由を脅かしていることだった。過去に類例のない広がりをもつドラッグ戦争は、このことを最も端的に表している。

今われわれがやらねばならないことを簡単に言えば、システム全体のバランスを取り戻すことだ。第1に、連邦政府は「ドラッグ戦争」から撤退し、各々の州が自分でドラッグ政策を決めることができるようにしなければならない。

連邦の執行当局は、直接的に他人を害するような罪を犯していない人たちを逮捕・収監したりせず、重大な不正行為や被害者の特定が可能な暴力犯罪を犯した者たちに焦点を絞るべきで、しかも、それですら明確に連邦の特定の利益を損なっている場合に限る必要がある。

また、私は、大統領として、ドラッグ戦争の一部として極端に肥大化した官僚組織の解体を開始し、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室は縮小する。特に重要なことは、ドラッグ法の改革をしようとしている州の市民の決定に対して、連邦政府の巨大な権力を行使して覆すようなことはしないという点にある。

私は、大統領として、暴力を伴わない連邦のドラッグ事犯者の数を減らすために、大統領恩赦と減刑権限を可能な限り行使する。ドラッグ禁止法による最も破滅的な結果である単純なドラッグ所持については、その膨大な違反者を刑務所に収容したりせず、人的・経済的コストを負担することはしない。

カナビスの医療利用については、現在では、科学の問題というよりも政治的問題になっている。政府の規制薬物法の分類では、カナビスは医療使用が禁じられている第1類に属しているが、医療利用のために分類の変更を求めたこれまでの動きは、どれも政治的に拒絶されてきた。

私は、大統領として、財務省の麻薬取締局(DEA)に対して、真にオープンで公正な客観的なプロセスに基づいて、カナビスの医療可能性をテストし評価するように命じる。このような命令は今回が初めてのことになるが、これまで私が関係した研究の結果から考えれば、最終的には、分類を変更するという結論に達するに違いないと思っている。

医療カナビスに対する連邦の政策については、各々の州の市民がカナビスの医療利用を認めることを選択する決定をしたならば、それを全面的に受け入れる。

私は、大統領として、州の発議や住民投票に横槍を入れるための政府の支部などを作らないことを約束する。また、財務省とDEAに対して、州法を尊重するように命じる。暴力が絡んだ犯罪については、それがドラッグに関連しているかどうかにかかわらず、これまでと同様に適切な関係当局による捜査と訴追を続ける。

ドラッグに対するこうした政策は、ドラッグが無害で未成年にも問題がないと考えたところから導き出されたものではない。その理由は、アメリカ全国の教会からスポーツ・リーグの社会的団体や個人までが一丸となってドラッグの乱用問題に取り組むことを奨励するためだ。アメリカの最も強い特質の一つは、人間の問題を解決するために政府の外側で人々が団結できる点にある。

だが、この問題を、道徳や精神、あるいは健康問題として連邦の刑事法をベースに扱っても何の解決にもならない。次の大統領に誰が選ばれるかにかかわらず、いったん政治信条を脇に置いて、連邦のドラッグ戦争の失敗について時間をかけて厳しく見直さなければならない。

われわれは、こうした問題をどのように扱うかということに対して、市民の選択と州の権利を最上位に位置づけし直す必要がある。過去の時代も、そうすることで、いつもアメリカの強さが最大限に引き出されてきた。今こそ、再びそのようにすべき時なのだ。

この表明文は、アメリカ・リバタリアン党のボブ・バー大統領候補のものであるが、リバタリアン党は、民主党、共和党に次ぐアメリカで3番目に大きな政党で、実際の内情は複雑だが、社会や経済に関して個人の自由を最大限に認めることを最も大きな柱として掲げ、州の政治に対しても治安や安全保証意外は連邦政府の干渉を認めない立場をベースとしている。

以前は反ドラッグの急先鋒だった人が、今では医療カナビスやカナビスの合法化を求めるようになることも珍しくなくなってきたが、その最もよい例が ボブ・バー だろう。

彼は、1998年11月にワシントンDCの住民投票で成立した医療カナビス法に対して連邦の予算を拠出しない法案で提出して成立させ、実質的に医療カナビス法を潰し、医療カナビス擁護グループからは最大の敵とみなされていた。だが、2000年の大統領予備選挙で敗れ、マリファナ・ポリシー・プロジェクト (MMP)からは「素晴らしいニュース」 だと言われ、2003年には議員からも退いていた。

しかし、その後、ドラッグ戦争に対する自分の考えは間違っていた と表明し、MMPのロビー活動に協力することを宣言した。今回の大統領選挙にあたっては、MMPの支援を受けてリバタリアン党の予備選挙に加わり、その抜群の知名度と行動力で大統領候補に指名された。本選挙で当選すると考えている人はいないが、共和党のマケイン候補の票をかなり奪うという見方もあり注目を集めている。

ボブ・バーへ感謝 再び、民主主義を信じる気になった  (2007.3.30)
もと反ドラック・ロビイスト 医療カナビス・ロビイストに転向  (2008.8.14)

かつてはカナビスの合法化を唱えるのは、ヒッピーみたいな連中だかりだと言われていた。しかし、現在、カナビス改革運動の中心にいるのは、むしろスクエアな経歴の人が多く、保守派と言われる人も少なくない。その代表としては、ドラッグ政策アライアンスの エサン・ネルドマン やNORMLのアレン・ピエールがあげられる。

いずれにしても、アメリカではカナビスの改革運動を担う層が厚くなり、今までのような「保守=共和=反対」といった単純な図式は成り立たなくなっている。これは、アメリカ保守派の中でも、超保守派といわれる人たちの根幹が、連邦より州優先で自由主義最優先のリバタリアン的であることを考えれば納得がいく。